商人
東領の風紀が乱れたのは統治する次兄に責任がある。
という判断を下さざるを得ない状況である。
とりあえず町方捕方連中には事後の処理を申し付け、親衛隊は宿に引っ込む。
北領地ではナンブ・リュウゾウ自らが親衛隊を組織し、地域の治安秩序の維持に務めている。
先ほどの町方捕方というのが、東領における親衛隊のようなものだ。
比較してみると、比較にならないような軟弱ぶりである。
これでは風紀が乱れるのも当然と言えよう。
部屋に戻り酒が始まる。
ひと仕事終えたのだ。
当然のことである。
すると襖の向こうに人の気配が。
女将であった。
ヤクザ連中を叩きのめした礼ということで、女を用意してくれたらしい。
「遠慮なく頂戴しよう」
ナンブ・リュウゾウが言うと、女たちは先を競うようにして美形のシロガネ・カグヤに酌を始めた。
女なのにである。
これにはみんなが笑った。
そしてシロガネ・カグヤもまた、まんざらでもない様子で、女たちの肩を抱いた。
両刀いける口のようだ。
しかも扱いになれている。
そして歌や踊りを楽しんでいると、またも来客が。
商家の者たちだ。
やはり同じように、ヤクザ連中を叩きのめしたことへ謝礼を述べてくる。
今度は窓口として私が対応した。
また何かの折にはお越しくださいましょうか? と問うてきたので、「男爵さまの御指示があれば」とのみ応えた。
しかし、直接北領地のナンブ・リュウゾウに訴えてもよい。と付け加える。
私たちに訴えがあれば、それを男爵さまにご注進。
そこから沙汰をいただくのだ。
いささか手間ではあるが、次兄どのに訴えるよりは確実である。
そして金子も出てきた。
算盤方の私があずかる。
これは我々の金ではない。
出陣に路銀を包んでくださった男爵さまにお返ししなければならない金だ。
算盤方としては間違い無く届けなければならない。
そのことをナンブ・リュウゾウにも含めておく。
ナンブ・リュウゾウは「確かに、当然の筋目だな」と同意してくれた。
彼もまた、男爵さまの財布を気にかけているのだ。
もっとも、私としては納めた金子の内からどのくらい褒美がいただけるものかと、スケベ臭い計算に忙しい。
だが私は殿であるナンブ・リュウゾウの脇腹を突っつく。
う、うむ……と詰まりながら、ナンブ・リュウゾウは慣れない口を開いた。
「さて、この度はヤクザ連中の乱暴狼藉により商いが滞ったところであろうが、これより先はいかにして商いを伸ばす所存か?」
「へい、手前どもは人足を雇い荷を運ぶものです故、この東領を通過させることで安全無事。その上に道のりも短縮できますので、早速周辺に触れて回り、商いを盛んにする所存です」
「アタシはその荷で商品を運んでいただくので、いくらでも商いは栄えます」
「商いが栄えりゃあ人が集まります。そうなりゃ名物の牛肉とイモの煮込みが飛ぶように売れまさぁ」
「それだ!」
思わず声に出した。
名物、それを全面に押し出して、是が非でも食ってみたいと思わせることができたなら。
そして東領の飯屋がどの店に入っても、名物が食えるようにすれば……。
悪くない。
大きく東領が伸びる。
商いが伸びてゆくだろう。
あとは付加価値として様々な遊びを与えてやれば、さらに旅の者は金をおとしてくれるはずだ。




