ヤハラの戯れ言
そして北領地に帰る。
親衛隊士たちには褒美を分け与え、当番で休暇を与える。
こうした場面では大将を押し出す。
あくまでナンブ・リュウゾウが褒美を取らせる、というスタイルを貫くのだ。
そして私や大将には、留守中に溜まった書類仕事が待っている。
とはいっても、ほとんどが報告書である。
留守中の仕事は他の者、というか私の着任以前からの職員たちが滞りなくこなしてくれていた。
とはいえ、殿が直接目を通すべき書簡もあった。
隣領、イズモ伯爵からの礼状であり、お褒めの言葉である。
南領出陣前に、農産物の出荷は重量制を採用して、木箱に詰めて出荷することにしていた。
出荷量の把握、金額の均一化、運搬の簡易化という面でひと工夫したのだ。
それが隣領でたいそう評判がよろしいようだ。
私からすれば、兵士を部隊ごとの塊で戦地へ送るような感覚なので、造作もないことではあったのだが、ナンブ男爵のいち領地へ伯爵さまから直接文が届くなど、なかなか無いことであった。
早速リュウゾウ親分は親父どのに報告の文を書く。
「お待ちください、殿」
伯爵からの書状を読みながら、私は親分の筆を止めた。
「あおることか、殿へ伯爵さまから、直接褒美を取らせるとのことです」
「なにナニなにぃっ!」
これにはナンブ・リュウゾウも驚いた。
親父どのよりも上の御身分、伯爵さまから男爵家の三男坊が、トッパライで褒美を賜るというのだ。
文面を読み上げると、「なに、お前ぇの親父とは『貴様』『俺』の仲だ。親父さんにはオイラから良いように言っといてやるぜ。多少かさばるかもしれねぇが、遠慮なく受け取ってくれや」と、ずいぶん気さくな文体になっていた。
「かさばる褒美とは……ヤハラどの、心当たりはあるかね?」
「黄金のナンブ・リュウゾウ像……」
「きみ、本気で言っているのかね?」
「嫌がらせにしかなりませんね」
「きみ、本気で言っているのかね?」
本当に嫌がらせにしかならないだろ、と思いつつ議論は避ける。
そんなことより、かさばる褒美だ。
「金はいくらあってもかさばらないし、土地もかさばるかさばらないなどとは言わない……まあ、消えモノでないことは確かですな」
「もらって嬉しいかさばるもの……」
「嬉しくないものならばすぐに思い浮かびますが……」
「待てヤハラどの、それ以上申すな。俺が傷つく」
「やはり筆頭は黄金のナンブ・リュウゾウ像……しかも全裸……」
「それは俺でも嫌だぞ、ヤハラどの」
しかしいくら考えても答えの出ないものは、いくら考えても始まらない。
この話はここで終わりとした。
それよりも東領の話である。
アヤコからの情報を説明して、私がすでに仕掛けていることを話した。
すると大将は、「ほう、同士討ちを狙うか」と身を乗り出してきた。
いがみ合う者同士、狭い東領地にあるならば傷つけ合ってどちらかに倒れてもらえばいい。
それが共倒れならば、なお良しだ。
「しかし殿、中途半端で手打ちに入られては面倒です」
「ふむ、より焚きつけるか、程よいところで我々が介入するか」
状況によりけりでしょうと答えた。
「とりあえず即座にでも出撃したいところだな」
「なにか不都合でも?」
「親衛隊士たちに休暇を与えているが、これに不公平があってはならない。久しぶりに嫁子に逢う者もいるのだ。少し暇を与えてやりたい」
「英気を養うことは重要です」
私も賛成した。
いかに精鋭とはいえ、農耕の牛や馬ではないのだ。
身体も疲れれば心も疲れる。
しかし親衛隊士というのは、私たちが思っている以上に親衛隊士であった。
全員一日分の休暇を回して休んだところで、すでに屋敷の前で整列していたのだ。
「殿、次は東領ですよね!」
「とっとと行って北軍の力、見せつけてやりましょう!」
「ダニ退治はまだですか!」
「もう身体が余って余って仕方ないんですわ!」
士気にあふれて出発のときも決めていないのに、すでに大騒ぎを始めていたのだ。
嗚呼、北軍親衛隊。
諸君はなんと忠義に満ちて、勇猛で、そしておバカさんなのだろうか。
「ヤハラどの、俺の気配りなど杞憂でしかなかったな」
「早速戦さ支度に入ります」




