ヤクザの抗争
帰路はもちろん男爵さまのもとへ。
ことの次第と顛末を報告に上がる。
私としては事務方へ、「兄上からの報酬が旅費にもならん」ということを強く報告しておく。
「それはリュウゾウさまのお言葉ですか?」
「いえ、算盤を預かる私個人の見解です」
当然ではあるが、ナンブ・リュウゾウの名前を汚すことはしない。
汚れ役は私でいいのだ。
卑しくさもしいことを口走るのは、算盤方の役割である。
その甲斐あってか、男爵さまの御出座が遅れた。
ねぎらいの言葉があり、お褒めの言葉を頂戴して、それから褒美が出た。
なるほど、ゴキゲンな金額のようだ。
しかし今回は防衛戦というか、生粋の利益は生まない仕事だったのだ。
それでもこれだけの褒美。
きっと男爵さまの懐は痛いに違いない。
もちろん山賊がいなくなったのだから、交易が盛んになりこの出費をまかなうことはできよう。
兄上が熱心に働いてくれれば、の話だが。
本来ならば交易の利益でこの出費をまかなうべきところなのだが、果たして、どのように事態は転がるだろうか。
そして男爵さまは言いにくそうにくちごもる。
なんなりと仰せをと、ナンブ・リュウゾウはいうが、私はどうも嫌な予感しかしない。
「うむ、東領地のな、そう、次男が見ているあそこの領地。あそこの治安がよろしくないということでな、リュウゾウ。少し見てやってはくれぬか?」
大将は私を見た。
だから耳打ちをする。
「あちらの情報が手に入っておりませぬ。兵の休息を理由に、しばし猶予をいただきたい」
大将は私の進言した通りに述べた。
「おぉ、引き受けてくれるか!」
「もちろんにございます。しばし休息ののち、情報を集め、しっかと拵えを固めてからご期待に添えるよう働きます」
ということでさがらせていただいた。
南が終わればすぐに東。
一体どうなっているのか、男爵さまのご子息方は。
しかし、上がボンクラならば仕事はやりやすいというものだ。
ここで実績を作って、三男坊が爵位継承にふさわしいところを思い切りアピールしなくてはならない。
アヤコやイズミといったシノビ連中には、連続の勤務となって申し訳ないが、もうひと働きしてもらわなくてはいけない。
「それでしたら、もうすでに」
私の部屋にアヤコが現れた。
屋敷内のシノビと情報交換して、すでに東領の状況は掴んでいるというのだ。
東領地の現状はならず者どもの吹き溜まり、それはヤクザ者の二大勢力が根をおろしてしまっているかららしい。
領地の次男坊三男坊を集めて、昔ながらの侠客を気取っているのが鬼神党。
高利益を効率よく、とにかくシノギがすべてという新興団体が血桜同盟。
現在は血桜同盟がずいぶんと幅を効かせているそうだ。
侠客などとホザいて大将が好きそうなのは鬼神党の方だが、男爵家でも知らないようなネットワークを所持しているのは、私としては面白くない。
簡単に言うならばヤクザなどというものはヤクザでしかない。
東領の治安を乱している勢力のひとつには違いが無い。
つまり、容赦する必要は無いということだ。
となると、両者共倒れというのが理想的な筋書きである。
たとえ片方が残っても、勢力が減退していれば御の字である。
そこへ北領軍が乗り込んで、根絶やしにしてしまえば丸くおさまる。
ならば方法は簡単だ。
「アヤコ、血桜同盟の誰かを……殺めることができるか?」
「隙だらけのヤクザ者など、造作もありません」
「可能ならば、そうだな。鬼神党の誰かの剣を盗み、それで斬ったうえで鞘を殺害現場に捨てておけ」
「なるほど、それではその者が常宿とするところの貸し下駄ものこしておきましょう」
「万事手抜かり無きよう」
「かしこまりました」
そう言い残すと、アヤコは姿を消した。
そしてクサナギ先生のもとへ。
男爵さまのお話からアヤコの報告。
さらに私の入れ知恵をすべて打ち明けた。
「なるほど、同士討ちか!」
クサナギ先生はヤクザ者どものひとからげにして、同士とまとめて笑った。
「悪くない兵法ですな。片方が滅び片方も痛手を負っている。そこへ乗り込む北領軍か!」
戦うことに関しては、頭の回る人である。
すぐに理解してくれた。
「ヤクザなんぞはいくら斬っても面白くは無いが、大掃除と思えば楽な話さ」
そう言って楽しそうに鍔を鳴らした。




