この宿、この区画
それぞれに部屋を割り振り旅装を解いて、一服をつく暇をおかず最初の隊士が私のもとへ現れた。
「軍師どの、ちと現場を見てまいります」
「お早いですね」
「なに、兵は神速を尊ぶと申しますからな」
「山賊どもに気取られぬようお気をつけて」
そこからは続々、誰ひとりとして観光気分などではなく、戦場の下見に出かけていった。
勤勉なものとうなってしまうほどの使命感と言えた。
「ヤハラどの、ポルコの下見に出ませんかな?」
親衛隊隊長、シロガネ・カグヤが誘ってきた。
湯上がりでほんのり頬が上気していた。
そして道中をともにしたせいか、以前よりも親しく感じる。
「あのような宿では勝手に入り込んで食事が摂れます。飯でもいかがですかな?」
「そうですね、少しくらいならば酒も付き合いましょう」
ということで二人で出かける。
宿を出て左手。
十字路をこえるとすぐ、旅籠ポルコは建っていた。
二階建て、いわゆる洋風という宿だ。
押し開き、胸と腹しか隠さない扉を開いた。
独自の文化を持つ男爵領領民だけでなく、よその領地の服装……いわゆる洋装の者も多かった。
一階フロアの大半を占めるバー兼レストランの客たちは、私たちに全く関心を払わなかった。
そして職業もまちまちのようだ。
剣を腰に落とした者、二本差しに丸腰。
たったそれだけの差だけでも、様々な情報が入ってくる。
この宿は、様々な人間が出入りする宿なのだと。
異国の民、他領地の民、そして犯罪者。
より具体的に言うならば、山賊ども……。
正も邪も飲み込む、混沌と表現すべきポイント。
それがこの旅籠ポルコなのだ。
「ヤハラどの、邪気に飲まれなさるな」
シロガネ・カグヤはすでに、理屈ではなく感覚でこの宿の異様さに気づいているようであった。
人種のるつぼ。
職業の吹き溜まり。
なるほど、悪党の隠れ家としては都合がいいかもしれない。
私がこの地に関係する者ならば、必ずこの宿を押さえるだろう。
しかしナンブ・リュウゾウの兄上はいかなるや?
少なくとも番所が近くにある訳ではない。
この区画に特別な警戒感があるわけではない。
とてもではないが、兄上がこの宿を押さえているようには思えない。




