ともに上役を語る
全員の出発準備を確認したら、私が先頭で出発する。
現地での宿の手配、あるいは集会所の手配を済ませなければならないからだ。
現地ではすでに大将のシノビであるイズミが待っている。
手が足りぬときは自由に使えと言われている。
私と同行するのは親衛隊長シロガネ・カグヤだ。
隊長が大将のそばを離れてもいいものかと訊くと、「クサナギ先生がいらっしゃる」と答えてくれた。
駆け足などは不得手だが、歩くだけならば隊長についていける。
並んで歩いたがやはり長身で美貌だ。
すれ違う者たちがみな振り返る。
「顔を覚えられそうで、困るな……」
シロガネ・カグヤは笠を目深にかぶり直した。
「美貌も良し悪しですな」
「そのようなイイものではない」
「いやいや、隊長は美人ですよ」
「軍師どの、口説いてらっしゃるか?」
「事実と感想を素直に述べたまでですよ。隊長ほどの美形はそうそういやしない」
「褒め言葉として受け取っておこう」
珍しく隊長が笑った。
普段はニコリともしない鉄面皮、戦闘機械のような印象しかなかったのだが、笑うと意外にも年相応の娘の顔をしていた。
「私としては美形よりも、こう……なんというか可愛らしく生まれたかったのだがな」
「そうなんですか?」
「美形というのも、これはこれでなかなか大変なのだ。冗談のひとつも言えないからな」
シロガネ・カグヤの冗談話か、確かに想像もできない。
「隊士たちの前でも常に厳格。忠臣の鑑でなくてはならない」
「それは隊長ならば、美形でなくともそうでしょう?」
「美形ともなれば、周囲の目がうるさい。それに勝手な印象をふくらませてくれるので、それに応える必要もある」
なるほど、そう考えれば美形も大変である。
「ときに軍師どの。貴殿は殿のことをいかが思われるか?」
今度は親衛隊長が会話の主導権を握った。
「私が竜とさせていただくなら、殿は雲。出世の糸口にござる。殿についてヤハラがあれば、出世は間違い無しというのがひとつ」
「ふむ?」
「そして殿を竜と例えればこのヤハラ、雲の役割を果たして天まで昇らせたい。そう思わされますなぁ」
「より具体的に言われるなら?」
「疾風迅雷、即決即断。打てば響くと、とにかく行動力があります。考えてばかりな頭でっかちの軍師には羨ましい才気の人物」
「殿は天下へ出られますかな?」
「殿が必要を感じたならば、天下への扉をこじ開けましょう。天下が殿を欲すれば、殿は引きずり出されましょう。少なくとも、面白いことを起こしてくださりそうな期待はあります」
「傑物ということか?」
「狭眼ながら、あのような人物は見たことがありませぬ」
「それは遠回しの貴族批判かな?」
なかなか鋭いところを突いてくる。
しかしここは本音で対応しよう。
「近々のうちに我が国は大乱に巻き込まれます」
「ほう」
「乱世において殿は秀逸な人物かと」
「平時においては?」
「軍師しだいかと、しかし平時において乱を忘れず。乱世において平素を忘れぬ。殿はそれを御存知かと」
「本当にそう思うか?」
「嘘をつきました。平素においても何かと騒動を起こしそうにございます」
「それは民の暮らしをおもえばこそであろう?」
「情が深すぎます」
「そうか」
そう言ったきり、会話は途絶えてしまった。
そのまま私たちは、旅籠ポルコへ到着してしまったのだ。




