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頓挫

翌日、一行は兄上の屋敷へと向かった。

直接御目見えの場へ上がるのは、大将ナンブリュウゾウと私。

しかしここでもひと悶着。


面会のアポイントメントを取っていなかったのだ。

門衛に「入ってはならぬ」と言われても仕方ない。

ならば「急ぎ、面会を申し込みたい」とその旨を伝える。


「しかし殿もお忙しい身ですので」


暗に迷惑だとでも言いたげな態度を取られた。


「軍師どの、いかがいたす?」


「ではどのくらい待てば面会できましょう?」


「さて、ニ〜三日もすれば叶うかと」


私は面会の用向きというものをしたため、近所に宿をとることをすすめた。


「なんと呑気なことか!」


シロガネ・カグヤと親衛隊は憤慨していたが、ここで大将に現状報告として男爵さまへ文をしたためることを進言しておく。

つまり、兄上はだらしがない! と告げ口しておくのだ。


告げ口とはいえ、密告や汚い手ではない。

あくまでも事実であり、それ以上の感情的な言葉は謹んでいただく。

正規の報告書を上げよというのだ。


「なにかこう、事態を速めることはできないものだろうか?」


親衛隊長は焦れていた。


「なにも心配はいりませんよ。元々が男爵さまからの依頼なのですから。私たちは面会前に山賊を捕らえたところで、誰からも避難される言われは無いのですから」


「おぉ、そうだったな! ならばとっとと山賊どもをひっ捕らえて、役人どもに突き出してしまおう!」


親衛隊ははやったが、そこはひとつ抑えておく。


「殿、かくなる次第ですので、シノビはすでに山賊どもを探るため放ちました」


「手が早いな」


そう微笑みながらも、ナンブ・リュウゾウすでに戦さの気構えを発していた。

打てば響くところまさに疾風のごとく速い男だ。


「左様、すでに合戦は始まっておりますので、シノビからの報告あり次第立ち上がっていただきます」


近くに宿をとり平服に着替えさせ、ポツリポツリと外出させた。

現場となるやもしれぬ旅籠ホテルを見ておけと親衛隊に命じたのだ。

件のポルコという旅籠だ。


しかし旅籠ポルコのある町は遠い。

馬車や馬を使うことを許した。

私は出ない。

シロガネ・カグヤもクサナギ先生も出ない。


アヤコの報告書に、建物の詳細が記されていたからだ。

それによるとホテルは二階建て。

一階にも部屋はあるが、カウンターと飲食のための設備がメインであった。


商人と山賊の密会は二階でおこなわれるそうだ。

そして一階から広い階段が二階へと続いている。


「捕物である故、ここから攻め入ろう」


大将の意見に私は賛成した。


「でしたら正面からの討ち入りは殿にカグヤさん。そしてクサナギ先生にお願いいたします」


「主力ということだな」


「しかし正面から押し込んで、賊は逃げたりはしないだろうか?」


「もちろん逃走を図るでしょう。しかし階下には精強の親衛隊が待ち受けております」


「建物伝い、屋根の上を駆けたりはしないか?」


「でしたら正面隊には一番隊をつけましょう。これで逃走経路を制圧しておくのです」


「その連中には刀を許したいな」


「そうですね。捕縛の方針に変わりはありませんが、現場の判断においては斬り捨てもやむ無しとしましょう」


「屋内の照明はどうなっているかな?」


「おそらくではありますが、この宿と同じくランプやロウソク」


「となると踏み込んだ先を闇にされるな」


賊どもに、灯りを落とされるというのである。


「でしたら照明器具を手配しましょう」


片開きの筒にランプやロウソクを仕込んで照らす道具もあるのだ。

少しくらいは目潰しにも役立つ。


「照らされた賊は逃亡に回るであろうな。そういうものだ」


本能的な行動である。

そうなると逃走経路は算出しやすい。


「窓から飛び降りるか、もしくは建物伝いに屋根を逃げるでしょう」


「飛び降りたとしても二番隊三番隊が待ち受けている。屋根伝いには一番隊だ」


「そして屋内で闘う我々としては、どのような心得があるかな?」


大将はシロガネ・カグヤを見た。


「暗く狭い場所です故、刀の使用は同士討ちを招きます」


やはり方針通りに無手。


「しかし、斬っていただきたいというのではありません。鎖を着込み、木刀くらいは使いましょう」


得物の木刀は短いものを使用。

鎖を着込み鉢金を巻いて充分な拵えが必要だと言う。

そしてその準備は荷馬車の中にあった。


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