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南領へ

男爵領で一泊。

北領軍の打ち合わせも済み、翌朝には南領へ旅立つ。

その折には路銀と称して少なくない金子きんすを握らされた。


算盤方としてはホクホクである。

しかし気前のいいナンブ・リュウゾウのこと。

道中の飲み食いでこれは消えるものと考えられる。


まあ、一軍の将としてはそれがただしいのではあるが。

こうした金を少しでも残しておきたいと考えるのは、算盤方の務めなのだ。

それはそれとして、一日歩いて、いよいよ南領である。


その手前の村で納屋を借りて、威容を整えることにした。

白い詰め襟の軍服に白い馬のり袴。

ピカピカに磨かれた黒い革長靴と、帯に挟んだ二本差し。


ナンブ家の家紋を染めた旗を立てて、幟には北領の長ナンブ・リュウゾウの名を入れてある。

堂々たるというよりも、少しやり過ぎな感がある行進だ。

それが矢筒を背負い槍を着き、ゾロゾロと南領に入ってきたのだ。

まずは役人が飛んできた。


「何事にございますか!」


「北領地の三男坊、ナンブ・リュウゾウが隊である。南領の兄上が手を焼いているというので、山賊討伐の助成にうかがった」


これは堂々たる返事であった。

しかし、役人の対応がいけない。


「確認をとります故、しばしお待ちを」


そう言って去っていったのだ。


「はて、ヤハラどの。手筈は万全ではなかったのか?」


「おかしいですな。南領のナンノナニガシとかいう者が窓口となるはずなのですが……」


「リュウの字、南の兄上は本当のトコ、山賊討伐する気にはなってないんじゃないのか?」


クサナギ先生が首をひねる。


「滞りのある連絡、窓口となる役人の不在。クサナギ先生の仰る通りかもしれませんな」


親衛隊長シロガネ・カグヤの眼差しも鋭い。


「しかしそうなれば好都合」


物騒にもシロガネ・カグヤは鍔を鳴らした。


「山賊退治の手柄、このシロガネ・カグヤが独り占めさせていただく!」


「すみませんクサナギ先生、ウチの者が出過ぎたことを申しまして」


大将は頭を下げた。

大将の師匠であるクサナギ先生を差し置いて、シロガネ・カグヤが一番手柄をねらうと言っているのだ。

その大将としては、頭を下げざるを得ない。


そして私としては大将に頭を下げさせたことを恥ずかしく思った。

それは本来調整方ともいえる私の仕事だからだ。

私の仕事はナンブ・リュウゾウに頭を下げさせないことにある。


しかし、誰も彼もが電光石火の早業で予想外の行動をしてくれやがったので、私としても対応が間に合わなかったのだ。

それに、役人の件もある。

こちらに気をとられて三人の話題に参加できなかったのだ。


ただ、クサナギ先生は誰も悪くないということは顔で笑ってくれた。

「いいじゃねぇか、リュウの字。カグヤさんが存分に働いてくれれば、俺は昼寝ができるからな」

自分の主が頭を下げたことを悪く思ったか、それとも主よりも上の者があるのを不服と感じたか、シロガネ・カグヤはムニュリと口を曲げた。


私ごとき、剣の素人がこのようにいうのもなんだが、勤勉実直ド根性クソ真面目のシロガネ・カグヤでは、クサナギ先生の剣を越えることができないのではないだろうか?

いや、もしかしたら天才をもってしても、達人というものは超えられないのかもしれない。

「ヤハラどの」

楽しいものを共有したいかのように、大将が私をヒジで突っついてきた。

「これが位の剣というものに御座る。ここは一本、カグヤが取られた」


「と、とられてなど御座らぬ! まだまだ!」

カグヤはムキになって反論するが、良い良いと言って大将は頭を撫でる。

背伸びしてだ。

「俺もクサナギ先生もカグヤの剣を頼りにしている。そのことには違いが無い」


ナンブ・リュウゾウがそういうと、シロガネ・カグヤも満足したか、それ以上突っかかるようなことは言わなかった。


「ずいぶんとお早いお着きでしたな」


役人然とした男が入ってきた。

窓口役のナニガシとやらだそうだ。


「領地出入りの役どもから聞いて、飛んで参りましたぞ」


微妙に嫌味ったらしい。


「今宵の宿を手配しますので、いましばらくお待ちあれ」


なんと、これから宿探しだそうだ。


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