まずは男爵さまへ
お館様へ御挨拶。
その折、支度金としていくばくかの金を包んでもらった。
正直な話、今回のまかないはすべて北領の財布でどうにかしようと思っていたので大変に助かるお気づかいであった。
そして支度金ということは、褒美が別に待っているということだ。
南領での仕事とはいえ、依頼は男爵さまから出ている。
男爵さまからの褒美があるのは当然のことだ。
その辺りのことは事務方とこっそり打ち合わせておく。
親分は介さない。
金に汚い、金にうるさいのは私でいいのだ。
算盤方というのはそれが仕事なのだから。
男爵家事務方の言うところでは、報酬はゴキゲンな額を用意しているとのこと。
少しばかり北領の財政もうるおいそうである。
これで南領の兄上が報酬を渋ったところで、十分な利益になる。
そして兄上が褒美を出してくれたなら、その金は南領でできるだけ使っておこうと思う。
ナンブ・リュウゾウの名を挙げるのだ。
そのためにも、親衛隊からの死者、ケガ人は出さないでおきたい。
南領における遊びの人手が減るだけではない。
余計な出費がかさんでしまうからだ。
そのためにも物見である。
北領の拠点に、馴染みの女中へ含めておいた。
アヤコというシノビが帰ったら、北軍は出兵した、と。
男爵家から少し離れた城下町で宿をとった。
するとアヤコが現れた。
物見より帰りました、と言って片膝を着く。
どうやら山賊どもは、山の中の洞窟に隠れているらしい。
陣地らしい陣地は形成されていない。
アヤコの見立てでは、穴の入り口に番兵が二人立っているだけだ。
入り口までのけもの道に、罠や仕掛けは無かったそうである。
思ったよりも、簡単な仕事になりそうだ。
とここで、取ってつけたようなことを言わせていただくと、私の専攻は「兵学」である。
その兵学を学ぶうちに兵は数から始まると知り、算盤に力を入れるようになっただけなのだ。
兵は数。
しかしウチの大将などは「戦さってのは兵隊の数なんかじゃねぇ!
気合いの問題だ!」などと言い出しそうだが、これはこれで算盤方がもっとも恐れるべき思想なので、注意が必要である。
とりあえずアヤコには報酬を渡して、遊んで来いと命じる。
御用の際にはまたお呼びを、と言ってアヤコは消えた。
アヤコが調べてきた山賊陣営略図を手に、親分の部屋におもむいた。
我らが大将は、書類と取り組んでいた。
その処理速度は、お世辞にも早いとは言えない。
「殿、シノビのアヤコが山賊どもの陣地を略図で示して来ました。ご覧になりますか?」
「おう、見る見る!」
大将は嫌気のさしてきた書類を放り出して食いついてきた。
そして略図に目を落とした途端、「なんでぇ、詰まらねぇな」と興味を無くす。
「ひとつ穴の隠れ家なのに、見張りの番兵が二人っきりかよ? こりゃぁ童の戦さ遊びよりチョロいだろ」
「ならば、より華麗に、かつ鮮やかに賊をしとめませんとね」
「ということはヤハラどの。何か策はあるのかね?」




