出兵
さて、あれこれの手続きを済ませて、ナンブリュウゾウ親衛隊通称『シロガネ』は出陣の旗を立てた。
参加者にはナンブリュウゾウその人、さらには剣の師匠クサナギシロウ、さらには親衛隊長シロガネカグヤも顔を並べている。
そして私、ヒロ・ヤハラもその一人であった。
北領軍はまだまだ規模が小さい。
どうしても大将が先陣を切らなければならない少数部隊なのだ。
ゆくゆくは陣幕の内で大将の前に図面を広げ、各部隊に号令を発するという立場となりたいものだが、いまはカミカゼ将軍、カミカゼ参謀である。
自ら前線へおもむき、直接指揮を執らなくてはならない。
今回はロカタ町長を処断しにおもむいたような、真っ白な軍服姿ではない。
ナンブ領地平民のような、前で合わせる着物に袴。そして帯に二本差しという姿だ。
「軍服姿では領民たちが、なにごとかと驚いてしまうからな」
大将なりの配慮なのだが、旗や幟を押し立てている時点で、その気遣いは失敗していた。
当然、農民町民から「戦さでもしなさるのか?」と声がかかる。
大将も気が好いものだから、いちいち「南領まで山賊退治さ」と答えていた。
おかげであちこちの町や村で、力水はつけてくれる餞別は握らせてくれると、なかなかの人気となってしまった。
挙げ句の果てには「お手勢に加えてくだされ!」などと、身体の余った若い者たちが集まってきたものだからたまらない。
「御助勢かたじけない。しかれどもこの度はナンブ男爵家の問題にて、家中の者のみにて片付けるべき仕事。今後ナンブ・リュウゾウいざ立たんという折もございましょうから、そのときまで御自愛ください」
申し出を断るのは私の仕事だった。
それもできるだけ丁寧に、相手の意志を尊重しつつ、大将の人柄が良く伝わるように心掛けてのものだった。
ただ腹の中では、「本当にいざ出陣というときには、屍の山となっても大将を守ってもらうぞ」とは思っている。
勝てそうな山賊退治だからついてくるとか、褒美目当てで参戦するとか、そのような心根では困るのだ。
そのうちきっと来る。
国家存亡のときが。
そのときこそ力を貸してほしい。
私が願うのはただそれだけであった。
そのためには、オラが大将に領民が心酔してもらわなければ。
今回の山賊退治は、その足がかりとなるのだ。
一行はまず、男爵さま支配地に入る。
南領で働くとはいえ、直接の依頼は男爵さまが発したものだからだ。
槍や弓矢、携行食を積んだ荷馬車を牽いて男爵の町に入った。
「オヤジどのに挨拶してくる。ヤハラどの、ついてきてくれ」
まあ、どちらが山賊? というこの面子の中で、同行する者があれば私となるだろう。




