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変に危惧するヤハラ

とりあえず北区画に、みちのく屋から鎖の着込みが届けられた。

南にも東にも届けられているらしい。

ちなみに男爵さまの管理区画では、大規模な徴兵は行われていないようなので、既存の装備でまかなえるそうだ。


しかしさすが男爵さま、他区画での兵員が気になった御様子でみちのく屋荷役に、どれほど兵が集まってるか? と訊いたらしい。

荷役が正直に答えたところ、男爵さまは目玉が飛び出るほど驚いたという。

それはそうだ、つい先日南区画の管理をまかせただけなのに、すでに男爵領から伯爵以上の兵士を集めているというのだから。


「もうリュウゾウ親分なんざ、戦さするだけで家が傾くぞと笑ってましたぜ」


それを聞いた男爵さま、今度はあわれと思うくらいに青ざめてしまったそうで。

そりゃそうだ。

先祖伝来の領地が、敗けた訳で無し。

一戦立ち上がるだけで傾くというのだから。


「参謀は……リュウゾウには軍師をひとりつけておったが……ヤハラはなんと言っておる?」


一瞬で十も二十も老け込んでしまわれたような男爵さまは、私ヤハラのことを覚えていてくれたらしい。

しかし荷役は荷役だ。


「さて、アッシは詳しいことは聞いておりませんが」


と当然の返事。

それで持たされたのが、目の前の書状ということになる。

開いてみると男爵さまの筆跡で、いきなり大目玉をくらってしまった。


これはイズモ・キョウカに金の無心をすることは黙っていた方が良いようだ。

書面にはツレツレと、男爵さまの怒りが綴られていた。

そして最後は「お前がついていながら家を傾けるようなマネを許すとは何事か」と締められている。


どうやら即日罷免ということは無いらしい。

それを知ったナンブ・リュウゾウは、「親父どのもヤハラがなんとかしてくれるはずと期待しておるのさ」と気楽に言った。


「おう、ヤハラどの。ここはキッチリ一戦の後に儲け話を考えておると、親父どのを安心させてやってくれ」


取らぬ狸の皮算用というやつだが、それでも無計画ではないということは知らさなければならない。

みちのく屋の立てた事業計画書を丸写しのような形で数字を入れて、それを返信とする。


「まったく、これから稼ごうぜってときに戦さなのだから、たまったものではないな」


「殿、それは民商人、みな同じ気持ちにございます」


「確かに、さすればこの一戦。なんとしても敗ける訳にはいかんな」


「ドルボンドも国債を発行してまでの戦さです故、相当に手強いとお思いくだされ」


うむ、とナンブ・リュウゾウはうなずいた。

それにしてもこの、男爵子爵には褒美が少ないという制度。

どうにかならないものだろうか?


いや、ヤハラ。

ここは良いように考えよ。

戦利品に群がる連中に生産性は無い。


最後に商いを成功させるのは、私たち下級貴族である。

奴らが獲物にたかっている隙に、私たちはより大きな利益のために歩み続けるのだ。

……ふと、先日ナンブ・リュウゾウが口にしていた言葉を思い出す。


いつまでつづくのだろうか? 貴族社会という奴は。


戦さで手柄に上級貴族が群がり、その隙に下級貴族たちが力をつける。

……なにかこう、反吐を吐きたくなるような、嫌な崩壊が目に浮かんだ。

滅びゆく貴族制度。


それを滅ぼすのがまた、貴族。

そして荒れ果てた世界に残されるのは、餓えと貧しさに苦しむ民。

世界の終わりの形としては、もっとも忌むべき図柄であった。


そうならぬためにも社会よ、世界よ。

腐ることなく踏み止まってはくれまいか。

なんとはなれば、私もナンブ・リュウゾウもまだ若い。


世界の責任を背負えるほどには、大きくも強くもないのだ。


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