デパートメントストア構想と鬼将軍の誕生
北区画のみならず、ナンブ一家の貧乏一直線が決定はしているが、そうなるとこの戦さ、なんとしても勝たねばならぬ。
ということでシロガネ・カグヤと数名を南へ派遣。
南区画の兵を徹底的に鍛え上げることとした。
さらに東、次兄どのが管理する区画。
こちらはクサナギ先生と親衛隊数名。
これを派遣した。
これで各区画の足並みが揃うはずだ。
武装の管理はみちのく屋総裁が一手に引き受けてくれた。
不足している武具、装備品はすぐに手配することができるというので、まさに適材適所である。
不足するであろう金子に関しても、金貸しの心当たりがあるというから、なかなか頼りになる。
とりあえずどうにか格好がつくだろうか?
あれこれの確認をすればするほど、不安が生まれてくる。
「そんなときはな、ヤハラどの。この戦さを契機に新たな儲け話を考えることさ」
「新たな儲け話ですか?」
「左様、この戦さで勝ちをおさめればどうなる?」
「ドルボンドが滅びれば、あちらの土地がワイマールになりまする」
「王室侯公爵、一部伯爵連中の領地になるさな。されば物流が盛んになる」
「ほい」
ナンブ・リュウゾウらしからぬ、賢い話を始めた。
これは運送業、荷役を始めようと言い出すだろう。
「ヤハラどの、運送業というのはいかがかな? 何を生まずとも、客はあるし物を右から左で金が生まれる」
イズモ・キョウカあたりの入れ知恵だろう。
「これにはドルボンド組とワイマール組と二手に分けて、より地理に明るい縄張りを作るのが肝さ」
なるほど、それならばそれだけ荷が早く着く。
「道中山賊も現れようから、戦さが終って職にあぶれた兵士も再雇用できる」
「その者たちからも税を徴収するのですな?」
「少しはナンブの財政も潤うであろう」
「しかし殿、それは殿の思いつきではありませぬな?」
「わかるかね? キョウカどのから先日文が届いてな。ツギクルは運送運輸と申していたわ」
思わずゆるむ顔を引き締め直し、ナンブ・リュウゾウは続ける。
「そのためには勝ち戦さの折、すみやかにドルボンドの運送業を押さえなければならない」
「戦さの事後をそこまで考えている者がおりましょうか?」
「貴族連中は褒美の金勘定で忙しいからな。そして運送業の権利をいただけるよう、いまイズモ伯爵に文をしたためておるわい」
「お手のお早いことで」
「他にもあるぞ。ナンブ領地の大店の支配する店を、一ヶ所にまとめて出店するのだ」
「ほう、それは?」
「客からすれば、その区画へ行けばすべてが揃う。俺たちからすればこうだ、すべてを一ヶ所に運べばよろしい。もちろん我も彼も便利」
これまでの町造りは、呉服屋なら呉服屋が集まり呉服町を作り、鉄類を扱う店が集まれば金物町。
そこへ卸す鉄製品を鍛える職人が集まっていれば鍛冶屋町となっていた。
つまり鋤鍬と衣類を求める者は、金物町と呉服町を歩かねばならなかったのだ。
それがひとつ町で事が済むのだから便利というものだ。
商いも栄えるだろう。
「でしたら殿、まずはこの北区画にそうした町を拵えては?」
「なるほどな、してこうした儲け話。たれに持ち掛けるべきか?」
「もちろんみちのく屋。人手が必要とあらば、モミジたちのような者どももあります」
「さっそくみちのく屋総裁をこれへ」
ということでみちのく屋総裁を。
私とナンブ・リュウゾウからとっくと企画を説明する。
「なるほど、それは都にも無い特色ですな。されば早急に計画をまとめ運営に入りましょう」
ほぼふたつ返事で、みちのく屋は事業にとりかかった。
たかだか男爵領地、それも三男坊の区画で新たな事業が産声を上げた。
おそらくは遥か王都の学生寮で学ぶ一人の小娘、イズモ・キョウカの入れ知恵によって。
それが証拠に、ナンブ・リュウゾウは喜々とした様子でこの事柄を書面にしたため、文として送っているからである。
「ということで殿、みちのく屋は少々金貸しに一時無心をいたしまする」
大規模計画を発動させたみちのく屋総裁は、この頃から鬼将軍と呼ばれていた。
その鬼将軍が借金をするという。
そしてその無心の先は、やがてナンブ・リュウゾウも借金を申し込むことになると宣言した。
その先というのが、イズモ・キョウカであることは透けて見える秘密であった。




