知恵袋
そして大将ナンブリュウゾウは親衛隊長シロガネカグヤを呼んだ。
近々のうちに南領へ山賊討伐へおもむく。
そう伝えた。
シロガネカグヤは「みなにそう伝えます」と言って去った。
親衛隊長シロガネカグヤは銀髪長身の美形である。
そして大将ナンブリュウゾウのためとあらば、伽までしてくれる。
忠臣の鑑とも言える娘であった。
故にそれだけの会話で事がすべて成立する。
人集めに報酬の額、すべて言わずとも理解しているに違いない。
配慮の一貫として、あれこれ確認しなければならないだろう。
そしてシロガネカグヤが出ていったあとで、若々しい中年男が入ってきた。
「おう、これはクサナギ先生」
「カグヤさん、急ぎで出ていったようだけど、どうしたんだい?」
大将が先生と呼ぶこの男。
クサナギシロウというそうだ。
町中に道場を開く、剣術指南の先生であり、大将にとっては剣術の師匠らしい。
「いえ、南領の兄上が山賊に苦慮していると、父上から。そこで北領の親衛隊で討伐へ赴こうと」
「親衛隊だけでかい?」
「いえ、クサナギ先生にもお願いできましたらと……」
「そう来なくっちゃな。いいぜ、俺も出る」
「ありがとうございます」
なんとこの師匠も、謝礼や褒美の話ひとつ無く、簡単に出撃を決めてしまった。
「で、いつ出るんだ?」
そう訊かれて、大将は私を見る。
答えるのは私のようだ。
南領まで、ほんの六十キロほど。
今日中に文は早馬であちらへ届けられ、なすりつけられるように責任者が決まり、渋々金庫を開き金を用意する。
どうにかこうにか宿の手配が済んで、文が戻るのは早くて明後日。
出発がそれより早くなることは無いだろう。
そのように返答すると、クサナギ先生は「あの兄上だからなぁ……」とアゴを撫でた。
おや? クサナギ先生にも情報網があるのか?
いぶかしんでいると、大将が教えてくれる。
「道場から武者修行、剣術留学に出た者がな、文を寄越してくれるのさ」
商いであちこち出歩く者が情報通だということは聞いている。
しかしいがいなところに情報網というものは存在しているものだ。
「それくらいじゃねぇと領長は務まらんさ」
「おみそれしました」
そんなトコから、領地の外。あるいは諸国の動きが見えてくるのだ。
しかし剣術使いという肉体派が、そのようなインテリジェンスを所持しているとは驚きだ。
「言わなかったかな、ヤハラくん。剣術は兵法であり、兵法は兵学である。頭が切れなくちゃ剣士は務まらんのさ」
ということはナンブリュウゾウという我らが大将。
急に利口になった訳ではなく、元々頭が良かった。ということになる。
「本当に、バカの振りをするのは大変だったよ」
「いや、大将。親分ってのは少しくらい足りない方がいいんだぜ」
クサナギ先生は笑う。
「お前さんにはもう、知恵袋があるんだからよ」
二人揃って私を見た。
もしかしたら私は、なにかとんでもない荷物を背負わされたのかもしれない。




