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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
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王と皇帝 中編

別作品の奴だけど、書いてたデータが吹っ飛んだ……。

一万字以上書いてたのに消えられると泣きたくなりますね。

「よろしく、とは言ったが……縁談って、なに考えてんだお前!」

「ン?別にソッチとしても悪くはネェ話だろ」


 帝国との強固なパイプが得られると言う点では確かに、皇女との婚約は悪くはない。むしろwelcomeだ。しかし、問題点が多すぎる。


 前代未聞とかいう意見は置いておくにしても、まず目に見えて一番大きい問題はが一つ。


「俺、この国の王女ともう婚約してるんですけど……」

「あ゛ぁ?知らネェ。破棄しろ」


 言いやがった。言いやがったぞコイツ!破棄しろとか、気軽に言ってくれるなぁ。こいつも王公貴族の一員。婚約破棄の重みは知ってるはずだ。


 しかもそれが王族ともなれば、なぁ?対外であれば戦争は必至。国内での婚約ならよくてシカト……、いや、ほぼ間違いなく、罪を着せられて国外追放or死刑ルートまっしぐらだろうな。


 それだけ、王族のメンツを潰すってのはタブーなんだってのに。


「そもそも国内の貴族と王族の娘をくっつかせるとか、何のメリットがあンだよ」

「まぁ、言いたいことは分からんではないが……親が仲いいしな」

「はぁ。甘いわね、王国は」

「なんじゃその何の利益も生まぬゴミのような理由は」


 皇女殿下たちからはこの批評。いや、言いたいことは分からんではないが。アレだろ?強固なパイプが逆に仇となるタイプ。


 日本で有名なのは藤原道長、まぁ藤原氏だな。摂関政治って奴だ。自分の娘を天皇と結婚させ、その子を天皇にする。


 そして親族とい縁を利用し、幼い頃は摂政、大きくなってからは関白として政治に干渉する。


『この世をば 我が世と思う 望月の 欠けたることの なしと思えば』


 何て言う短歌を残すくらい、道長親子の時代の藤原氏は超絶栄えてた。つまりだ、強固過ぎるパイプは政治に干渉されかねない。下手をすれば国が乗っ取られる。


 対外であれば、メンツ上表立っては動けない、距離がある、といった障害が防波堤になる。それに、貿易強化や集団的自衛権など、メリットも大きい。


 だが国内なら、そんなメリットは特にない。逆に、距離問題が解消され、国内なので策謀を巡らせ易いと、デメリットは強くなるばかり。


「まぁ、俺も理由は知らねぇよ。そもそも、世間体的には落ちこぼれな俺を拾い上げるって時点で、物好きもいいところだ」

「……あ!ヒグ・ベルレイズと言えば確か、忌み子の!」


 マジか。帝国にまで俺の噂は広がっていたとは。まぁ帝国のことだ。王国にスパイだの情報源だのを持っていても不思議じゃない。


 貴族のスキャンダルやら弱点を探る過程で知ったのか。いや、そもそも本来普通にあるはずの魔力器官が、障がいどころではなくそもそも機能しないと言うのは前代未聞だ。


 こちらの世界にも手足が欠けたり、逆に多かったりして産まれてくる子供は稀に存在する。不衛生な鉱山街などで特に多い。つまり、公害病だな。


 あと、たまに貴族からも産まれてくるのだが、その親は大半が側室。そして正室が第一子を産む前に身籠った者が多い。そしてその側室たちは直ぐに自殺や病気で死んでいる。


 穢らわしい妾腹の子だから、なんて言う非科学的な根拠のない意見もある。が、それを無視するなら、可能性は二つ。


 一つ、奇形の子が産まれてきたことで世を儚んで自殺って説。実際、信心深い奴等が多いこの世界ならありそうだ。かくいう俺も忌み子って言われてるくらいだからな。


 だが、大半は違うと俺は睨んでる。……毒殺だ。だが、魔術の発展目覚ましいこの世界では科学が発展していない。当然、毒や薬にも言える。


 だから、正室たちが毒を盛るが、医者の努力と毒の弱さがあって何とか子供を産んだものの、生まれつき身体に障がいのある子が産まれる。そして母親は出産で力尽きてくたばるという流れだろうな。


 というか、この世界では毒の作製はするまでもない。竜毒や殺戮植物っていう天然最強ものの毒がある時点で研究せずにそれ採ってくればよくね?ってなるからな。


 グレアの毒をシャルルの持ち込んだ機器で一応解析したところ、フグ毒として有名なテトロドキシンを超濃縮したものに青酸カリが入っているとかいう、生物の体内でどうやったら出来るのか不思議な一品だった。


 流石にグレアの毒までとはいかなくても、ワイバーンの毒でも十分人は死ぬ。しかもこれがたちが悪いことに無臭ときた。そのため、魔術薬あるなら魔術毒もあるのではと期待したのだが、存在しなかった。


 まぁ、そもそも毒なんて無いに越したことはないと思うがな。でも、毒を転じて薬となすって言葉があるように少量の毒は薬だし……悩ましい。


 無論、これは国によって厳重管理されている。なので貴族本人はともかく、婦人たちが秘密裏にゲットするのは無理があるだろうな。だから少量では死なない弱毒だったのだろう。


 しかし、政治的理由で子供たちが産まれてくる以前から犠牲にされるのを見るのは、あんまりいい気分じゃないな。


「……ヒグ様、お得意の思考はいいですが、もう少し話を弾ませるべきかと」


 おっと。たまに考えるの優先になって言葉が止まるんだよな。……出来れば何とかしたいが、前世の幼少からのクセだ。今更抜けるとは思えない。


「私たちを無視するとは、いい度胸ね」

「いや、すまん。ちょっと考え事しててな。……つい」

「そうですか。しかし、お父様もこんな者に敗北するとは、惰弱になりましたね。正直、見下げ果てました」


 ハレスペルを批難するフリして、間接的に俺がバカにされてるよな、これ。確かに、これでは嫁の貰い手が見つからない訳だ。


 というか、さっきからずっとハレスペルから怒気というか、気迫が溢れ出てるんですけど。ゴゴゴゴゴゴって感じで。


「あ゛ぁ?余が、弱い?」

「えぇ。あの戦争、勝てました」


 ブチッ。堪忍袋の緒が切れる音がした。こりゃ、ハレスペルさん相当怒ってらっしゃるな。帝国は実力主義者集団。その代表が皇帝だ。なのに実力否定されたら、そりゃキレる。


 全く、親子喧嘩はどんなに飢えた犬も喰わねえよ。やるならせめて他所でやれってのに。


「余が弱ェッてンなら、証明して見せろよ。テメェの真価ッてヤツをよォ。ソレまではどんなに吠えたッて机上の空論、戯れ言だ」

「お父様ならそう言うと思いまして。証明して見せますとも!」


 パチンッ。ルクナリエが指を鳴らす。何の合図だ?まぁ、文脈からしてまた面倒くさい事態に巻き込まれることは確定だろうがな。



※※※※※※



 ルクナリエの合図は、攻め入れという合図だった。兵士たちが領主の執務室と武器庫へ向かう。


 彼女は幼少の頃よりその頭脳の冴えを発揮し、今では父のハレスペルとともに軍議に参加し、兵を指揮する立場にある。


 その彼女の下で鍛えられた兵士、五百と少し。密入国のため、まるで中世の奴隷のように、武器とともに限界まで詰め込まれ、荷物に擬装して入ってきた。


 密入国できる範囲の兵力としては限界だ。しかしながら、それでも寡兵は寡兵。到底、一つの領地を落とすための兵力とは思えない。


 だが、それてもルクナリエは行けると判断した。それは馬鹿にしているのでも、慢心しているのでもない。確固たる自信だ。実際、彼女の指揮ならば普通の領地は陥落せしめただろう。


 が、ここは世界の常識が通用しない、科学革命の街。隠密行動、潜入、奇襲能力の高い兵士たちだったが、彼らは呆気なく補足される。彼らの知らぬ文明の利器、監視カメラによって。


 こそこそと進んでいた兵士たちに、背後から銃弾の雨が襲い掛かる。完全なる不意打ち。咄嗟に魔術砲撃を放つが、発動しない。


 領地の中央部だ。そんなところで攻撃魔術を撃たれたら人的、財的被害が嵩む。なので当然、攻撃魔術を禁止する結界はしてある。


 だがしかし……。


「血が、流れない?」


 銃弾は全て非殺傷の訓練用製品。剣も刃を潰した模造刀、槍は木製だ。嘗められたのかと憤慨し、剣を抜こうとするが、それを突如出現した天使と悪魔に止められる。


「はい、脱落者確保~。大人しく捕まってくださいね」


 問答無用で拉致、そのまま訳もわからず縛られ、牢屋に監禁される。上位の天使と悪魔が手を組んだ圧倒的な回収部隊に、対人間を想定した武器しか所持していない人間ごときが敵う道理がない。


 もし、彼らと本気で戦いたいなら最低でも数万は兵を用意し、大量の魔石を準備せねばならない。超巨大規模の国家プロジェクトだ。


「お勤め、御苦労様です」

「いえいえ。わたしたちは非戦派ですが、置いてもらってる身。戦争に加担はしませんがこれくらいならいつでもお申し付け下さい」

「我々悪魔も大恩ある身。エドワード様より天使と連携すると聞いたときは正気を疑いましたが、酒を酌み交わせば意外と気が合うものですな」


 天使側は戦争に疲れた者ばかりで、悪魔との抗争の意思はない。悪魔側はさっぱりしたもので、自分達の実利に繋がるなら先程まで戦っていても気にしないという、帝国にも似た考えを持つ。


 魔界という過酷な環境下で生きる悪魔からすれば、天使との戦争はストレス発散の場に過ぎない。戦う理由も対外的なポーズだと知っているからだ。


「では、戦闘演習、頑張ってくださいね」



※※※※※※



「な!?続々と部隊壊滅?死者ゼロ?どうなって……擬装は完璧だったはずなのにッ。……仕方ありません。老師、ヴァル、ヒグ・ベルレイズを殺しなさい!」

「任せるのじゃ、姉上!」


 おっと、マッチョハゲジジイか。確か、扇角、ティア程度なら抑えられる程の戦力を持ってるらしいが。実際どんなもんだか。一応、革のグローブをし、銃のグリップを握って臨戦態勢。


 ルクナリエの妹のヴァルヴァベートの方は……腕輪蔵から剣出して殺る気満々だな。さっき箱の上部吹っ飛ばしてたし、あの好戦的な性格。相当な身体能力を持っていると見て良さそうだ。


「え、ワシ?嫌じゃよ?」

「拒否権はないわ。貴方は今回の件でわたくしたちに借りがある筈です」


 今回……あぁ、箱に押し込んで運ばれた恨みか。それをちゃっかり借り扱いするとは、強かだな、コイツ。いや、俺も同じ立場だったらそうするけど。


「えぇ、強引じゃな。だって向こう化け物揃いじゃし。借りって言っても死地に送り込まれるのは拒否したいというかじゃな……はぁ。お手柔らかに」


 それでも拒否したそうなマッチョハゲジジイだったが、ルクナリエの眼光の前に折れたようだ。もうちょっと頑張れよ、マッチョ。負けるなハゲジジイ。


 さてさて、ハレスペルさんは……うわー、ナーシェルとシャルルと一緒に愉しそうに見てる。ハレスペル、貴様もか!これ、確かシェイクスピアだったか?


 まぁ、取り敢えずクイックドロウ!


 バババァン───。


 硝煙の香り、ただいま!出来れば二度と会いたくなかったよ。これでマッチョハゲジジイは脱落認定、エドワードが回収す……って!?おいおいマジか。今の速業を防ぐかよクソッ。


 防壁の展開速度がヤバイ。人間業じゃない。恐らく、ルクナリエを説得しきれないと知って事前に用意していたってとこだな。


 ……影?昼間だぞって。パンチラ、じゃねぇ!上空にヴァルヴァベート。体が小さいからこそ、室内でも飛び上がれるのか。


 本棚と書類だらけだから、せめて広く見えるようにって執務室の天井が高いのが仇になった。天井高いと解放感あるんだよなっ!というか、資料大量の執務室で暴れられると困るんですけど!


 身の丈よりデカイ剣を持って推定三メートル飛ぶって相当ヤベぇぞ。あの細足でどんな脚力してんだ。お前はダニか何かか!ダニが人のサイズになったら自重で潰れるんだけどな。


「っと、天井破壊お構いなしに剣振るうと危ないぜ?急造だが、蛍光灯用の配線とコンセント用の配線がそこにあるからな!」

「ッ!?電撃魔法?こやつ、魔力なしの筈では!うぬぬ、小癪な!」


 何でこいつ生きてるの、というか無傷なの。普通感電したら死ぬと思うんだけどな!まぁ、水被ってるわけでもないから死にはしないか。それでも強い静電気が走ったくらいの感覚ってのはおかしくないか!?


 ……手袋が絶縁体。成る程な電気魔術があるんだ。バカじゃなきゃ金属の武器を持つのに対策するわな。重鎧兵には雷を撃てって言うし。もっとも、雷属性持ちは希少なんだが。


『丁度よい。戦闘訓練じゃ。他の者は手出し無用、エドワード殿は脱落者の回収のみ頼む』

『まぁ、精々抗いなさいな。死ぬ一歩手前になったら、助けてあげるから』


 鬼、鬼畜、悪魔ァ!悪魔よりも悪魔だコイツら。アイリス、扇角、ティア。お前ら、助けたそうにウズウズしてるなら我慢しなくていいから俺を助けろ!


 戦闘訓練、そう称して模擬戦を合間を見てしている。というかやらされている。身を守るため、……それは分かってはいるのだが、これがまぁ、キツい。


 だってエドワードとかグレアが相手になる時もあるんだぞ?ティアぐらいまでなら相手の癖を知ってること込みで何とか善戦……のようなものを出来なくもない。が、ナーシェル以上は別格だ。


 シャルル?あれは訓練なんかじゃない。虐殺って言うんだ。


「刃、と雷撃!クッソ。というかルクナリエも地味に参加してるから実質三体一!?お前らもっと他狙えよ。ほら、俺の仲間もいるだろ」

「そちらはお父様が止めるそうなので」

「ハレスペル!お前ごときでそいつら止めれる道理がないだろ!」 

「殺さないで欲しいって交渉したら、そもそも手出ししないッて返答が返ってきたンだよ」


 それが真実とは限らないだろッ!って思ってた時期が私にもありました。アイツら幻術の類いで誤魔化してやがる。


 恨む。一生恨む。あと狭いし、ここは破壊しちゃいけないものが多すぎる。なら、窓の外に、逃亡。


 ここ、三階だけどな!


「飛び降りた!?ヒグ様!」

「逃げられると、思わないことじゃ!」


 アイリスの心配する声。俺を追って勢いよく窓から飛び出すヴァルヴァベートとマッチョハゲジジイ。


 マッチョハゲジジイからすれば、攻撃魔術を禁じられた屋内よりも屋外の方がいいのだろう。一応、魔導師団団長だからな。


 だがしかし、俺が飛び降りてると思ったら大間違い。というか、普通に飛び降るには貧弱過ぎて死ぬわ。


 実は鈎付きロープでぶら下がっとるけど、これ腕きついわ。片腕だからプルプルいっとる。落ちる。ヤバイ。待って、銃持って片腕でぶら下がるって予想よりもキツいんやけど!


 だが、これで脳筋どもには気付かれない……


 落下中に目が合う。嘘だろおいおい。マッチョハゲジジイ、気付きやがった。杖を叩き付けられ……危なっ!ギリギリ壁蹴ったお陰で助かった。


 と言うわけで、喰らえ弾丸!これでマッチョハゲジジイは脱落。今度こそエドワードが回収する。あぁ。アサルトライフルじゃなくて軽いサブマシンガンにしておいてよかった。ナイス、数秒前の俺。


 と言うわけで、精度は低いが、完全に上をとった。ヴァルヴァベートが跳んでくるまではまだ時間がある。


「終わりだ!」


 バババババババッ、バババババババッ、バババババババッ。


「うぬぬ、このような痛みぃ!」


 非殺傷、反動少なめの弾丸とはいえ、痛みはかなりある。それをこの程度などと割り切り、途中からは剣で防ぎ、飛び上がろうとするヴァルヴァベート。バーサーカーじゃねぇか。


 まぁ、無意味だがな。回収部隊、エドワードさんからは逃げられない。実力差的に逃亡は不可能。お縄に付くヴァルヴァベート。ブタ箱へlet's go!


「うにゅ!?」

「暴れるな」


 闇の鎖と十字架で固定、完全に動きを封じる。さて、あとはルクナリエだな。そろそろ腕も、……死ぬ。


 その前に、フラッシュバーン。閃光手榴弾を喰らえ。え、味方も巻き込む?俺を助けなかった奴らなんて知らねぇ!アイリスたちにはちょっと悪い気もするが。


 とはいえ、アイツらなら閃光手榴弾を見た瞬間に目を閉じて顔を覆うなり何なり、対策をとることだろう。


 なけなしの力でロープを登って、突撃、即制圧。ルクナリエは魔術防壁なんて小賢しいものを張っていたが、杭打ち機(パイルバンカー)で破壊してからナイフを突きつけた。


 ロマン武器製作、その大半が死蔵しているのだが、それが役立った珍しい例になった。防壁対策にパイルバンカー。これは売れる!



※※※※※※



「さて、今回の件、対外的には合同演習ってことで済ませておく」

「……ッ!」


 恨みがましい目で見てくるルクナリエ。眼光だけで人を殺しそうな勢いで、血が出るほどに歯を喰い縛っている。嫌われたもんだな。縁談の話を潰すのには丁度いいが。


「返事と謝罪は!」


 拳骨一発。ハレスペルから親父の一撃が容赦なくルクナリエの頭へ繰り出される。鈍い音が聞こえる。うわー、あの筋肉で殴られるとか、痛そうだな。両手用の大斧を片手で持ってた筋肉だからな。


 俺は……前世今世併せて、親父からは拳骨貰ったことはないな。軽く小突かれたくらいの経験はあるけど。親父からは、な。


 アイリスさんに腕折られましたけどもねぇ!


「……ッ。爺や、貴方手加減したでしょう!」

「いや、だってこんな重要資料たっぷりそうな場所でデカイやつなんてぶっぱなせんし?というか嬢ちゃん、謝罪せなあかんじゃろ?」


 顎髭を擦りながら言う人、リアルでいるんだ。少なくとも俺は始めてみたな。


 というか、そもそもこんなサンタクロースみたいな髭をリアルで生やした人と出会ったことがない。むっちゃ髭生やす人って、日本人にはあんまりいないよな(偏見)。


 それは兎も角、気遣いどうもありがとう。それに関しては、手加減してくれてマジで助かった。よく考えれば部屋ごと吹っ飛ばせる級の魔術撃たれたら敗北確定だった訳だし。


 というか、爺やって。さっきは老師って言ってたけど、これが素なのか?爺やってどう考えても執事とかに言うやつだろ。……それを、マッチョハゲジジイに、爺や。……プッ。ちょっ、ま、笑いが……。


「何ツボってンだ?」

「いや、ちょっとな。悪ぃ。話戻してくれ」


 いや、一人称わたくしなお嬢様が《爺や》呼びは、な?流石に仕方ないだろ。……この話題を延々と引っ張るわけにもいかないが。


「……うぅ、申し訳…ありません」


 無茶苦茶嫌々というか、渋々というか。謝罪したくなんてないですオーラが半端ない。隙あらば噛みついてきそうな、猛犬のような目をしている。


 ヴァルヴァベートの方は……大人しい。あのバーサーカー娘が?何か猛烈に嫌な予感がするんですけど。そしてこの嫌な予感という奴は往々にして……。いや、止めろ。考えるな。


「……知略と実力を兼ね備えたルク姉上のようなタイプ。自陣の中とは言え姉上の手勢に勝つ。うむ、合格じゃ!とっとと王女とやらとの婚約を破棄せよ、われの夫になれ!」


 嫌な予感が当たったぁッ!こんなことなら、遠慮せずに実弾ブッ放して全治数ヶ月の傷でも作ってやればよかったよ。


 というか、ことごとく男たちを暴力を以て捩じ伏せてきた的なこと言ってたけど、そんなに強いか?脳筋思考で考えなしっていうか……。


「目の前に落とし穴でも作っとけば勝てるだろ」


 武器が電線に引っ掛かって感電してるんだぞ?お間抜けというか、俺が勝てる相手に勝てなかった帝国の若者はどうなってるんだ。


「余の時代は泥臭くても勝てばイイッていう風潮だったンだがな。今の若造は妙な美意識で一騎討ちだの騎士の矜持だの、下ンネェモンに拘るンだよ」

「少なくとも、今の若造に、宣誓無く不意討ちで飛び道具を遠慮無く頭目掛けて撃ち放つようなやつはおらんじゃろ」


 本当に下らないな。何が騎士の矜持だ。そういうのは傲慢とか慢心って言うんだろうが。第一、帝国は戦争国家なんだぞ?汚くてこそ、卑劣でこそだ。


 王国を見習えよ。子供でさえ、誰かを蹴落とすことと自分の欲望を満たすことしか考えていないクズの巣窟だ。純真な一欠片と汚い大多数によって存続されてるんだ。


「帝国の未来は大丈夫か?」

「クハハッ。心配はもっともだがな。安心しろ。余がいる!」


 堂々と胸を張って言い張る。


「貴族がバカだろうと、民衆が愚鈍だろうと、強き皇帝があればイイ。圧倒的強者たる皇帝が道を切り開くのみ!」


 こいつはまた、大変そうな未来を選ぶな。君主が絶対だろうと、どうにも立ち居かないこともある。まぁ、ルクナリエの奴はそこら辺分かってるだろうから、問題ないか。


「まぁ、婚約の話はちょっと待て。俺もやることあって忙しいんだ」



※※※※※※



 やることがあるとか言ったら、何故か仕事をどういう風にしているかを見せろと言われ、案内することになった。


 政策、会議関連は普通に考えて他国の人にそうそう簡単に見せられる訳がない。と言うわけで久しぶりのDIY。懐かしの研究室。いや、移転したばっかりなんだけどさ。


「ティア、電池とってくれ」

「毎回思うのだが、私の浮遊魔術は荷物運搬用では……」


 と、渋々言いながらもちゃんと仕事をしてくれる辺り良心的なティアであった。……というかあれだ。使えるものは利用する。何が悪いんだか。


「来客の方、盗賊に会いまして、遅れるそうです」

「そんじょそこらの盗賊に殺られるタマじゃねぇだろ?瞬殺したら遅れるもクソもないと思うが……」

「殲滅戦をしているそうです」


 儲かるもんな、盗賊退治。と言っても、俺たちと違って金は有り余ってるというか、盗賊退治の報償金なんて端金と言えるレベルだからな。不敬罪で殲滅ってとこか。


 まぁ、遅れるのは別にいい。むしろありがたいまでである。問題点は、その間にコイツらを追い払う必要があるということだ。


「これは何作ッてンだ?」

「……電話。というか、お前初対面の時の国王と同じ反応してるぞ」


 ハレスペルが苦々しげな顔をする。アンゴラウス(国王)と一緒なのがそんなに嫌だったのだろうか。そう言えば、あのときは車だったから蒸気機関の説明したなぁ。記憶が正しければ確か、二、三年前か。


 というか、一国の王は皆こんな反応をするのか?謎の共通性、露る。急いで再現性を検証しないと!


「電話ってのはな、念話を魔術無しで再現するんだよ」

(ニワカ)には信じられネェな」


 長距離通話なら念話がある。が、あれは距離が広がれば広がるほど累乗で消費魔力量が増えていく。燃費が悪く、他国からなら、優秀な魔術師を使い潰しても、一報届けるのに精一杯というゴミ性能。


 そんなものに任せておいたら国際電話など夢のまた夢。いや、そもそも人力を頼るって行動が信じ難い。


 国際的なネットワークは、中継地点を置いたり、海底にケーブルを通したりして成り立っている。それを人力にするなら、どれだけの労力と人手と金がかかることやら。全く現実的じゃない。


「お前らは長距離だと一文言うだけで精一杯の念話なのにこっちは長時間喋れる。更には傍聴も出来ない。この軍事的価値、分かるだろ?」


 ハレスペルだけでなくルクナリエも食い付いた。……あ、ヤベぇ。さっさとお帰りいただく予定だったのについノリノリで話してしまった。


 というかそれよりも、軍事機密の機器の情報駄々漏れじゃねぇか。アイリスやナーシェル、エドワード辺りからは怒られるだろうな。


「ここからは軍事機密だ。見せられないから帰った帰った」

「設計図、幾らで売る?」


 ルクナリエが喰い気味に言う。さっきまで俺のことをあんなに嫌悪していたと言うのに、見習いたいほど切り替えが早い。


 それに、設計図を抑えようとしている辺りも優秀だ。買って売るよりも作って売る方が当然ながら儲かる。……それに比べ、一般的な貴族連中には商売感覚が無い奴らも多いのが本当に嘆かわしい。


 だがまぁ、この世界に無い概念、電池だとかマイクロフォンだとか、そもそも電話自体が俺の創作言語だ。設計図を渡したところで読めないだろう。


 それに、先々を見据えると、な。携帯電話が地球のように爆発的に普及すれば、その権益を独占しているというのは途方もない金を産むだろう。


全智を記した本(アカシックレコード)でも持ってくれば考えてやるよ」

「そんなものがあるなら、設計図なんて要らないに決まっているでしょう」

「つまりそういうことだ」


 売る気はないですよっていう意思表示だからな。無理難題吹っ掛けるのは当然だが、もしそれを達成されたとしても割りに合わないようにしている。


 全智があるなら電話の作り方も分かるからな。そう言えば、どこぞの秘境国家の大図書館禁書庫には『全魔の法典』なるあらゆる魔術とその仕組みを記した本があるとか。


 是非欲しい。それがあれば魔術がなんたるかを解明できそうだ。シャルルは何か知ってる臭いけど、……教えてくれって言って素直に教える奴じゃないからな。


「……ねぇ、私が妻になれば、貴方の知見、売り渡してくれるかしら?」

「さっきまで俺を殺そうとしていた奴の台詞とは思えねぇな」

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