王と皇帝
何とか更新。
最近忙しいくて……。
総合二百ポイント、いつの間にか超えてました。
ありがとうございます。
またキャラ紹介、前回やってないキャラとシャルルの補足、閑話でもやろうかなと思います。
「さて、聖王さんや。お前さんの部下がやってくれた落とし前はどう付けるんだ?」
強気に言っているが、足は今にも震度六で震えだしそうだ。正確に言うならば、気を抜けば膝を付いて礼をしそうになる。
いや、横や後ろに仲間がいなければ、直ぐにでも膝を付いていたかもな。この異様な程の神聖さの前に、人間一人の意思力なんて本当に脆い。
ただまぁ、扇角とティアの前でそんなことは出来ねぇっていう仕様もない矜持だけで何とか立ってる。あと、シャルルに後で嗤われるのも気に入らない。
「謝罪しよう。短絡的な無礼をはたらいたようだ」
「ごめんで済むなら警察は要らねぇよ。それに、俺の身長が低いってのもあるが、そんなに上から目線で言われても誠実さに欠けるぞ」
巨人族よりも一回りほど大きい体躯が、圧迫感を醸し出す。普通なら影に成るんだろうが、聖王の身体が光輝いている影響で少し眩しい。
「では、そちらに身長を合わせるとしよう」
聖王が縮んだ。いや、マジか。……確かに普通の人間サイズだ。といっても、身長が高い部類に分類されるだろうが。筋骨隆々な肉体で、その圧迫感と神聖さは未だ健在だ。
シャルルが俺の背中に指を走らせる。白衣とカッターシャツ越しだが、それでもこそば痒い。だが、嫌がらせという訳ではなさそうだ。
文字だ。それもアルファベット。i,m,a,……imaginary.イマジナリ。虚ろとか幻想とかそういう意味だな。つまりこれは、実体じゃなくて幻術の類いってことか。
直接視覚に作用している?だが、精神攻撃防御のアミュレットに反応は無い。まぁ、このレベルだと通用しないのかもしれないが。
精神攻撃を除外すると、空気中に霧でも撒いて投影してるんだろ。さっきから舞ってた、神気とでも言うべきキラキラ。恐らく、魔力の結晶化したものだろうか。それを撒いてそこに投影してるんだ。
「謝罪で足りぬというなら、贖罪か。汝、人の仔よ。何を求む」
「要求はんな難しいって訳じゃない。今後一切、邪神の欠片の真実を知っているという理由での、俺に対する攻撃、干渉を禁ずる。これは他の神獣とその眷族にも通告すること」
また殺されかけたらたまったものじゃない。この要求は当然の権利だ。あと当然の権利と言えば、
「それから、そいつは禁固刑にでもしとけ。殺人未遂だから長めのやつな」
「妥当だな」
極刑や終身刑とまではいかないが、ギリギリまで厳しい罰を、って考えたらやっぱり長期間の懲役だろ。
曖昧に言葉を濁すのはやりたくない。が、向こうの長さの尺度が分からんからなぁ。結局向こうに合わすしかない。
「んで、賠償としてウチの領地で働く悪魔とアンデットを見逃すこと」
「なっ!?それは!」
「てめぇらも本気で殺しあってる訳じゃない。一兵卒はしらないが、上層部はちゃんと理解してる筈だ」
天使たちの方針は大きくなり過ぎた人間社会のコントロール。元来、宗教が人の心を保つための防衛装置。そのため、都合がよかった。
善悪二元論だな。人間が悪の原因をどこかに押し付けることによって自らの善性を示し、肯定する。その役を悪魔に担ってもらっている。
「ならいいだろ?」
「ならぬ。一つの見逃しによって多くの信用が失われる
ちっ。ダメか。ごもっともな意見過ぎて反論の余地がねぇよ。信用は積むは難し、失うは易し。よく言われる言葉だ。
実際、人間というのは悪い感情を覚えやすい。強烈な感情が紐付いた体験は海馬が重要だと判断して覚えるように脳内で振り分ける。
よく英単語とか用語覚える時とかに何らかしら感情を出した方が覚えれるっていうあれだ。で、悪感情の方がその傾向が顕著だ。悪感情の方が強烈な感情なことが多いからな。
でも、流石に攻撃されると困るんだが。それでも、今の体制が無くなると不味いと。下手したらレザナリアの方で暴動が起きる。何これめんどくせぇ!勝手に宗教改革でもやってろ!
宗教改革の切っ掛けはローマ正教会の腐敗だったか。西ローマ、つまり神聖ローマ帝国で国教とされていたのがローマ正教。カトリックとも呼ばれるな。
東ローマはギリシア正教でまた別なので割愛。今のロシア正教な。テストに出るから!
システム的に、教会内で金を積んだら、より上の段に上がれた。神父から司祭、大司祭、枢機卿、教皇って風に。
だから、教会の上層部は貴族のおぼんぼんな三男四男の集合体だったし、金を積みに積みまくって教皇まで上り詰めた猛者もいる。今のレザナリアもそんな雰囲気あるんだがな。
要は金が物言う社会。で、当時は神父からの言葉、福音によって天国へ行けるって信じられてたから、庶民も必死に神父に金を積んでた。
他にも、結婚禁止なのに子供がアホほどいたりと、そんな感じで腐敗してた。決定的だったのは、十字軍遠征で金欠状態に陥ったローマ教皇レオ十世が贖宥状、いわゆる免罪符を売ったあたりからだ。
まぁ、冷静に考えて金積んだら罪科が赦される制度なんておかしいわなぁ。
って感じでルターさんやらカルヴァンさんがおかしいやろ!って反対して独立分家したのがプロテスタント。
ルター派とかカルヴァン派とかイギリス国教会とかで別れるんだが、総称としてプロテスタントと言われる。抗議する者って意味だな。
元々キリスト教が、ユダヤ教の選民思想を見ておかしいやろ!ってなったユダヤ教イエス派が独立分家した宗教だからな。その再現になったわけだ。
今はゲルマン民族、イギリスやらドイツやらで信仰されてる。ヨーロッパの上の方ってざっくり覚えた方が分かりやすいな。
ここ、テストに出るよ。マジで。でもまぁ、独立分家ってのはポイントだな。
「宗教改革っていうか、……独立分家で融和派とか出ないか?」
「悪魔との融和派何て……いえ、いるにはいますが」
いるんかい!え、いるんですか。マジで?
「じゃあ、その融和派?ってのをうちで擁立するってのはどうだ?あくまで教会と敵対はしない方針にしてさ」
悪魔融和派本拠地をうちに据えてしまって悪魔とも共栄共存できますよっていうモデルケースを世界に示してしまえばいい。
フッ。我ながらいい戦略だ。元々は適当に考えていたプロテスタントからの着想だが、中々に悪くない。
「というわけでその融和派を紹介してくれないか?」
「むぅ。それくらいなら構わないか。エルトアランデ、ここに」
聖王が虚空に向かって呼びかける。なんという適当な召集の仕方。聖王が全天使と繋がっている、というか、契約状態にあるのだろうか?契約魔獣を呼び出す魔術の応用か何かだろうな。
パッと光とともに現れたのは妙齢の女性の天使。翼は二対。だが、翼がほかの天使に比べてしおれているように見える。
なんというか、天使は基本的に穏やかながらも若々しい印象があったのだが、どこか所作や表情に老齢さを感じる。そんな妙な天使だ。
失礼ってのを承知で物おじせずにいうのならば……、なんかおばあちゃんって感覚だ。別に悪い意味じゃあない。物腰穏やかさが極まったような感覚だ。
「何でしょうか聖王様。わたしなぞを呼び出して」
「貴様、確か悪魔との融和派だったな」
「そんな、たいそうなものじゃありませんよ。わたしは、わたし達はただ、疲れてしまっただけで」
声色に陰りが入る。燃え尽き症候群というやつがあるが、そうなった人間の表情にとてもよく似ている。疲労に諦観と退屈が混じっりあった、悲しい顔だ。
「あー、ちょっといいか?」
「何かな、ぼうや。こんな老婆になにか用?」
見た目でいえば30代中盤といった雰囲気。あくまで人間の尺度で考えるならまだまだ現役の働き盛り。とても老人を名乗るような年齢には見えない。
「疲れたって言ってたが、何に疲れたんだ?」
「憎しみにもないというのに戦うことと、不特定多数に対して嘘を吐き続けることに、かな」
自嘲気味に嗤ってみせる天使、エルトアランデ。そりゃまぁ、周りを欺きとおすために戦争を続けるなんて常人の神経なら到底できないだろう。俺も途中であきらめる自信があるわ。
それを続けている聖王と地獄王の精神力はどうなっているのだろうか。案外、もうとっくに心が狂って破綻しているのかもしれないな。
「ならいい。こっちに来れば週休二日制、給料応相談。仕事は融和演説活動と懺悔室お悩み相談。布教なんかは下っ端に任せておけばいい。アットホームで愉快な職場だ」
大仰な身振り手振りに一輪の真紅のバラを添えてかしづく。まるでプロポーズだ。最も、言ってること自体はただの……。
「フフッ。それ、誘い文句が思いっきりブラック企業じゃないの」
「のぅ、主よ、頭を打ったか?
うるせぇ、黙れシャルル。今いいところだったんだぞ。いや、確かに自分でも自覚はあったけどな、それを今、直接的に、当のエルトアランデ本人の前で言うか。
確かに、アットホームって言葉ほど信用できないものはないよな。アットホームで愉快な職場って謎だな。そんなところがあるなら、是非ともお目にかかりたいものだ。うちの領地は超絶ブラックだしな。主に俺に対して‼
あと扇角とティアは本気で心配しなくてもいいから。というか地味に失礼だなおい。
「聖王様、これは……」
「我が意向を聞けば汝らは無理をしてでも従うだろう。故に朕は口出しはせぬ。汝が決めよ」
チッ。なんだよ。ちょっとくらいこっちの肩を持ってくれてもいいじゃねぇかよ。本気で償う気があるのだかないのだか。多分、向こうとしては、機会は与えたからあとは自分の手でつかみ取れってスタンスなんだろうな。
「まぁ、お前にどんな事情があるかは知らないし、聞かれたくないなら聞かない。だが、一つ約束しよう。…非常識で面白い光景を見せてやる。気分転換がてら働いてみないか?」
どうも、ただつまらない生を毎日送っいてそうな、まるで機械のように同じ動作をするだけの退屈な世界を生きていそうな、そんな雰囲気を感じた。
ナーシェル、あいつの顔に似ていたんだ。疲れとか諦めとか退屈とか。気に食わない顔だ。全く、バカみたいに塞ぎ込んで無意味な時間を浪費していたあの暗黒期を思い出して嫌になる。
別に今あっただけの全くの他人で、一切関係のないはずなんだ。でも、目の前にこうも辛気臭い顔があることがどうも我慢ならない。
「世界ってのは見える範囲よりも謎が多くてさ、面白いんだぜ?」
「それは…勧誘なのですか?」
「あぁ。お前が生きることに退屈してるように見えたからな。違うか?」
「———っ。……否定は、しません」
まだ見た目的には若いというのに自分のことを老婆呼びとか、思い当たる節はエルトアランデにもいくつかあったのだろう。言葉が詰まっている。
(だけど、この見透かされているような、分析されているような悪寒は……。魔術の気配は一切ない。でも、心の奥を覗かれている……)
眼差しには、天使にあるまじき若干の脅えが混じっている。またシャルル先生がなんかやってんのか?どうもさっきの皇帝たちにも威圧的なことをしていたっぽいし。
(フフッ。全くの見当はずれ。本当に怯えられているのは貴方なのだけど。この天使、皇帝ほどは愚鈍じゃないから、彼の妙な思考に気付いているわよね。…今は内緒でいい)
シャルルは顎に手当ててるけど、何考えてるのかわかんない顔だな。いつも通りニヤニヤしてるから、どうせロクでもないことを考えてるのは確定だろうがな。
「いいでしょう。協力します。わたしが何か役に立つのなら。ただし、条件があります」
「条件?」
「戦争に疲れた天使は私以外にもいます。彼ら彼女らもともに引き取ること」
人件費がッ!天使の平均時給ってどのくらいだ?現状、平和的解決を望むなら、条件は飲むしかないけどな。レザナリアを敵に回すのはキツイ。
打算込み……って顔じゃねえな。純粋な奴だ。そういう奴が、所謂大人の世界だと面倒で扱いにくかったりするんだがな。
「しゃあねぇ。けどまぁ、それなら高給は保証しかねる」
「生きていければ結構です。趣味も娯楽も、私たちには無縁のものですから」
「趣味はあった方がいいぞ。特にお前らは寿命が長いんだから、打ち込めるものがないと退屈じゃねえか?俺は娯楽や福祉関連の整備はしっかりするつもりだ。趣味の一つや二つくらい、直ぐに作れる」
エルトアランデはきょとんと首を傾げている。聖王たちも同じくだ。もしかしてこいつら、全員趣味がないのか?だとしたら、天使や神獣ってのは、寂しい生き方してるんだな。
手始めにボードゲームとかTRPG、仲間内で和気藹々とやれる類のゲーム、作るか。といっても、アイデアは地球産のものから借りパクするけど。著作権?ハハハ。何のことだか知らないなぁ!
「これで終わりか?」
「……、これは良ければなんだが、貿易しねぇか?」
※※※※※※
「へェ、あの後そんなことがあったのか。是非ウチの国もッていいテェところだが……」
「厳しいだろうな。今回の場合はあくまで利害が一致したからこその話だ」
「……チッ。世界初の快挙は搔っ攫われたか」
レザナリアは長年、食料や物品を輸入していない。名目上は、ということわりは付くが。例えば机に使われていた榧。輸入品と言っていたが、公的な記録では献上品となっている。
この献上や寄付を行い、それに対してレザナリアが返礼を行う。これによって実質的な貿易のシステムが成立していた。地球でいうと、明、昔の中国で行われていた朝貢だな。
だからこそ、レザナリアと表立って貿易を開始するということは大きな意味を持つ。それはつまり、神獣に認められるということに等しいからだ。
ただまぁ、今回それが成立したのは融和派、正式名称は非戦不干渉派閥の支援という名目があったからだ。仲悪くて離反されました、だと印象が悪いからな。本家と融和派は仲良しですよってポーズを対外的に示すためっていう理由を用意して、取引成立に何とか漕ぎ着けた。
「というか……、何でいるんだよ、ハレスペル」
「いいじゃねネェか。コレ、苦いけど旨かったぞ。追加を」
目の前で堂々と来客用のソファーに寝転がってくつろいでる皇帝様。いやいや、おかしいだろ。というかくつろぎすぎだろ。珈琲のおかわりとか厚かましいわ‼
「珈琲って名前の、熱帯地方原産の実を焙煎して濾した飲み物だ。それにミルクを入れてる。で、何で来たんだ」
珈琲の実を食べる文化は、エルフの里や一部地方に存在したが……。どうやら帝国広しといえど、温帯から亜寒帯、寒帯と、寒い位置に属するためか、珈琲を知らないらしい。
「ダチの家に遊びに行くってヤツ、やってみたかったンだよ」
「それでも、一国の主がそうホイホイと国境渡るなよ!」
「と、いいつつも、機嫌がいいな、創」
「エドワード、てめぇ」
何、ついにこいつまで俺に優しくしてくれなくなったの?てっきり、唯一無二の理解者だと思ってたのに、このウラギリモノ!
ほら、またシャルルとナーシェルがニヤニヤと……。もう慣れたな、コレ。それでもまぁ、鬱陶しいものは鬱陶しい。
何とかならないものか。あぁ、紅茶がうまい。こういう時は現実逃避に限る。
「そういえば、テメェ、ウチの娘を娶る気はネェか?」
―――ブフォッ!
ごほっ、ごほっ。気管に茶が入ったじゃねぇか。……こいつ、正気か?今、娶るって言ったよな、俺に、娘、つまり帝国の皇女様を?
あまりの爆弾発言に、扇角とティアが咄嗟に前に出て臨戦態勢になってる。刃に一面囲まれて余裕綽綽としているとは。流石皇帝だな。胆力が違う。
「扇角、ティア、一旦落ち着け……。今殺すのは不味い」
「後で殺すかのようなセリフだな。友にそんなことを言われるとは、悲しいゼ」
「娘との政略結婚を持ち掛ける友人がどこの世界にいるんだよ!」
エミリアナの時みたいに、友人の息子、娘同士なら兎も角なぁ。いくら某名探偵みたいに、見た目は子供でも、友人に直接は流石にアウトだろ。
というか皇帝、息子の話は聞くが、娘の話は聞かねぇな。いたんだ。……まぁ、息子は弱肉強食の帝国で、皇位継承のために必死に頑張るからな。そりゃ、話題にもなるか。
「禿爺、連れてこい」
―――ブフォッ!
本日二回目。書類は……クソッ。ちょっと濡れてるじゃねえか。このくらいなら乾かせばいいが、紅茶の匂いが紙に付きそうだな。
禿爺って、あれだよな。帝国魔導士団長のマッチョハゲジジイ!皇帝にも禿爺って呼ばれてるのかよ。確かに、第一印象が猛烈に衝撃的で強烈だが。
「カカカッ。友人関係とは言え、些か気を抜き過ぎじゃぞ。爺ちゃん心配になるわ」
あれ、こいつしゃべり方までこんな強烈なキャラしてたか?前はフォーマルな場だから気を使ってたのかもな。
……しかし、相変わらずげぇ筋肉。
その筋肉ダル……マッチョハゲジジイが持ってきてのは台車に乗った、デカい箱。前後の文脈からして、何か嫌な予感が……。いやいや、流石に父親だし、そこまではしないよな。
―――ドゴォッ!
嫌な予感ほどよく当たる、とはよく言ったものだ。箱が蹴破られ、蓋が天井まで跳んだ。白い脚が天高く掲げられる。
「父上ッ。いつまでわれをこんな薄汚い箱に押し込めておく気なのじゃ!」
のじゃっ子!?絶滅危惧種、いや、もはや幻想種だろ。まさか実在するとは。流石は異世界、空恐ろしきかな。
「やめなさい、はしたない。でも、流石に私も抗議しますわ、お父様」
これはまた、絵に描いたかのような御令嬢だな。何、これが娘?帝国は絶滅危惧種の詰め合わせセットなの?こんなのが溢れてたら毎日お祭りだな。
「見合いだ見合い。全く、悲しいモンだな。ヴァルヴァベートもルクナリエも、父親に対して口が悪い娘だゼ」
視線の移動方向からして、のじゃっ子がヴァルヴァベート、御令嬢の方がルクナリエか。
「いや、行先告げずに問答無用で箱に押し込んだら誰でも文句言うだろ……」
「ハッ!時代を切り開くには、破天荒なくらいで丁度いいンだよ」
鼻で笑ってきたぞ。しかも完全に開き直ってやがる。言葉が弁明になっていない。ここまでくるといっそ清々しいな、おい。時代の開拓者にでもなるつもりか?
のじゃっ子、ヴァルヴァベートはその白い肌を焦がさんばかりの、燃えるような赤髪に輝くの金色の瞳。見るからに活発で勝気だ。
対する姉貴らしき御令嬢、ルクナリエは、ゴスロリ衣装に、白人ってレベルじゃねぇな。メラニン色素の不足……アルビノか?肌、髪共に真っ白だというのに、瞳だけは金色だ。
というか、今更だが……。
「しれっと密入国すんなよ!皇族だろ」
「皇族だから、だな。息を吸うだけで命を狙われるから、示威行為以外なら行動を隠すべき。ククク。いつの世も変わらぬ法則だ。違うか?」
「あってンよ。魔術師の婦人、テメェ、ナニモンだ?」
ちょ、ナーシェルに向かって、婦人?未婚歴800年の行き遅れ……ちょ、痛い痛い痛い痛い!本気のパワーでつねってるだろ。爪刺さって血出てるし。
というか何故バレた。ってあれか。こいつら人の心読めるんだったな。これじゃあ、脳の片隅ですら失言できねぇじゃねぇか。窮屈だ。
「今は、ただの魔導士団長に過ぎぬよ」
実はお伽噺に謳われる災厄の魔女、亡霊女王さまですけどね。王国だと禁呪だけど、帝国では死霊魔術師の地位はどうなんだろうな。
案外、帝国からしたら、亡霊女王なんて他国の有名人くらいの感覚何だろうか?いや、そういえばナーシェル、帝国とバリバリ戦争してたな。
「わたくしたちが置いてけぼりなのですけど……。お父様、説明願います」
「言ッたろ。婚約者だッてテメェらもそろそろ決めネェとな」
「フンッ。われやルク姉上に見合う男がいないのが悪いのじゃ!」
「そう言ってテメェは暴力で相手をフッ飛ばして、ルクナリエは相手を言い包めて論破するしで、全然婚約がきまンネェじゃネェか」
怖!おぅ、皇帝さん、売れ残りの不良物件を押し付けようとしてないか?というかヴァルヴァベートの目が喧嘩が深まるにつれてバーサーカーみを帯びてるし。
皇帝は皇帝で好戦的な表情。血のつながりを感じる狂戦士感。対照的にルクナリエは静か。いや、静寂なる炎と形容すべきか。青く、静かに、されど熱く燃えている。
端的に言うと。うん、全員、十分すぎるくらいに好戦的だわ。
「親子喧嘩は犬も喰わねぇよ。他所でやれ!」
「……スマン。これがウチのバカ娘だ」
バカ娘って言っちゃったよ。
※※※※※※
「で、この男がお父様と和平交渉を結んだという……。わたくしは兎も角、ヴァルヴァベートの婚約には年上過ぎます」
「あ゛ぁ。元の姿に戻ってやッてくれ」
シャルルが指を鳴らす。普段はないポンッ、というわざとらしい演出とともに、子供形態へと姿が戻る。
ルクナリエの表情がピクリと僅かに動く。ヴァルヴァベートは驚愕と興味を隠し切れない様子で机に身を乗り出す。
「創・桜田、改め、ヒグ・フォン・ベルレイズだ。よろしくな」




