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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
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税金

「帰ってきました懐かしの執務室。あー疲れた」


 接客用のソファーに飛び込み、寝転ぶ。あー。このまま寝たい。ゲームしたい。トニカクツカレタ。


「お疲れ様です」

「で、そこに主に悪報、仕事が溜まっとるのぅ」

「何か手伝えることがあったら何でも言って」

「じゃあティア、寝かせてくれ。せめて一時間でも」

「「「それは無理」」」


 きっぱり断られた。……無念。まぁ仕方ない。無茶苦茶体キツいけどやるしかないか。だるい。


「取り合えずプロパガンダ流してくれ。王国軍、ガナラチア領軍、ベルレイズ領軍合同で帝国殲滅を目論んでいるって内容で頼む」

「プロパガンダ?」

「元々は多分、誇大広告とかそんな意味だったはずだ。まぁ、情報操作だな。嘘ではないけどかなり盛ってる。あるいは完全に嘘だったりする」


 言ったら消されそうだから明確に何処とは言わないけど、まぁいろんな国がやってたりする。


「物価、インフレ率の調査書が完成したから持ってきたぞ」


 エドワード、グレア、ナーシェルは疲れを全く感じずに今も元気に仕事中。化け物かよ。いや、魔獣だけどもさ。少なくとも人間の貧弱お子様ボディだと到底無理な芸当だな。


 この間、供給量が需要量に比較して少ないわりに物価が安いなと思って、この街、想像以上にデフレなのではないかと思った。


 あれだけインフレとデフレについてご高説しておきながら、所詮王国基準だと思っていたのがそもそもの間違いだった。


 日本は地域ごとの差が少ない。地方分権一括法とかあった筈だけど、地域による差が江戸時代の幕藩体制の時ほどは出ていない。三権分立はあれど東京に重要施設が集まってたからな。


 これって中央集権って言うのだろうか……?


 そんなことはどうでもいい。つまるところ、地域ごとにそんなに景気の差が出てなかった。まぁ、多少の差はあっただろうけど、国全体で不景気って感じだった。


 他国のことは知らんが。未だに日本の常識が消えてなかった訳だ。今まで政治とか物価について考える機会が無かったしな。


「インフレ率って言ったが、まぁ物価の高騰率?そんな感じだ。通常時、今回の場合は王都の平均を0%として、確か2%越えたら金融引き締め必須、4%越えたらハイパーインフレってところだ」

「偉く曖昧な言い方だのぅ。で、何%なのかの?」

「……マイナス0.7%」

「……マイナス、ですか」


 頷く。無気力に。


「言い換えれば、お金を作れるということでいいのかな?」

「その通りだ。勿論、無計画には刷れないが、まだまだ余裕で刷れる余地はある」


 指をならしてティアに告げてみたが、何故か疑問符を頭に浮かべている。


「刷る?」

「あ、そういや紙幣無かったな。この世界」


 カルチャーショック。直訳すると、文化の衝撃。



※※※※※※



「三国会談の手紙が来ましたよ」

「……今かよ。タイミング悪ぃ」

「でも交渉準備は出来ているでしょ?それとも怖い?」


 直接的に煽ってくるなシャルル。ま、こいつなりの気遣いだと思うことにしよう。……え、気遣いだよな?本気でただただ煽ってるだけじゃないよな?


「ま、相手がバトルジャンキーだったら交渉不可能だが、テーブルについたってことは為政者としての脳はあるってことだ。なら、なんとかなる」

「殺されないようにしてくださいね。昔帝国が協定の使者を殺してそのまま国を制圧したと聞きました」


 ……何それ怖い。


「だけど、もうこれ科学者じゃなくて政治家ね。職業詐称」

「警察詐称でもしない限り犯罪にはならない!……あと心は科学者だ」


 いや、分かってるんだよ。最近やってる内容が理科じゃなくて社会科ってことは。前にも言ったような気もするけど!


「兼業ということでここは一つ」

「知ってる?日本において公務員は宗教関連や仕事や一部例外を除いて兼業は禁止よ?」

「ここ惑星からして違うからいいんだよ。貴族の副業を禁じる法律はないし」


 というか、シャルルの下らない遊興に付き合ってる暇はない。時間的余裕がある内に仕事を片付けないと。


 今、とりわけ重要なのは楽市楽座の整備だな。市を開くのに税金による制限をなくし、商業組合を組むのも自由。国内に本拠地を置く商人に限り関税免除。


 でもその代わりに所得税の整備、特に農民は作物じゃなくて貨幣で納めさせるようにする。累進課税も勿論する。


 それから消費税。これは税の幸福の平等化とかの観点から考えると、裕福なものに有利で貧しいものに不利という特性がある故に矛盾している。


 が、税収が景気によって変動しにくい。安定している。と言うわけで採用。先ずは2%からだな。


 それから法人税。日本のような子会社を創ることによる抜け穴を潰しつつ、でも税はそこまで重くはないようにする。


 目指すはアメリカのような小さな政府。大きな政府は税が重い代わりに社会福祉がしっかりしている。日本のタイプだ。


 小さな政府は逆に税は少ないが自由。でも救急車で金取られたりする。だから一概にどっちがいいとは言えない。


 ハイブリッドがいいのかもしれないが、どちらかというとアメリカに習って経済の自由化を進めたい。


「社会主義は最初から無しなのね」

「今回仲介依頼したお隣の宗教国家様は社会主義らしいけどな」


 あれって平等を謳っておきながら上に立てたらいい目を見れるけど、下に立つと別にいいことあんまりないんだよな。あと努力してもサボっても評価が一緒っていうのも、俺的には納得いかない。


 個人の感想だがな。困窮した人とか、視点とか立場が変わればまた見え方が変わるだろ。


「法改正は、現段階だとまだ議会作れてないから、俺の一存で出来るから楽だな。通知が一番面倒くさいんだよなぁ」


 そこらはここの人たちに丸投げする。手っ取り早く面倒な仕事をなくすにはやっぱり丸投げに限る。


「いささか、無責任ではないですか?」

「相手が出来ることしか丸投げしないからいいんだよ」


 自分しか出来ないこと、地球の現代知識が必要なことは自分でやるが、それ以外のことは他人にさせる。正しい仕事の在り方だ。


 分業、何て素晴らしい。いずれは国際分業を!……実際、飛行機とか大型船舶を造るなら分業は必須だろうな。


「まぁ、通知は丸投げでいいとして……」

「会談ね。また体の大きさ弄る?」

「頼んだ」


 筋肉が多少つきにくくなるとはいえ、短時間であればノーリスク。ならばやってもらわないという手はねぇ。


「じゃないと嘗められる……というか、相手が嘗めてんのか!って怒ってくるから仕方ないよ」

「ん?ティアか。どうした?」

「……追加の、仕事」


 Oh no.マジか。何なの。殺したいの?どこぞの賢王バージョンの金ぴかよろしく過労死王にでもしたいの?


 鉄道引く資金と場所か。駅はこの街の城壁の横に新たに建設するとして、資金は何とか捻出……魔獣対策費?


「魔獣対策費って……」

「魔獣対策で手勢の軍を使うとか、冒険者を雇う費用ですね」

「攻められて鉄道破壊、ダイヤ遅延何てことになるかと思って。組み込むのが妥当だと思う」


 流石異世界。そんなのいるのか。でも、動物対策のフェンスと似たようなのでよくない?電気柵とかもアリ。


 ってあれか。この世界そもそもフェンスって文化がないのか。いや、フェンスくらいなら越えられるし、電気柵なんてもろともしない化け物揃いだから無意味か。


「地下鉄にするか?」

「ワーム、モグラ系の魔獣がどこからくるやも知れないので、むしろ地上の方が防衛は楽ですね」

「どうしたらいいんだよ。エドワードの糞尿でも撒いとくか?」

「絶対拒否されるのが目に見えてるから止めておいたら。あぁ、私も嫌よ?」


 シャルルとか現状最強戦力だから使えると思ったんだが。……いやあれだ。強い生物の糞尿撒いてたら本能的に近寄ってこないかなって思っただけだ。


 徹夜の気の迷いだな。忘れよう。


 でもそうなると本格的に人力で守るしかないか。何メートルかごとに砲台をおいて、んで巡回兵を使って……金額は……


「そうだ。もう国に張り巡らさせて資金も国営にしてやろう!」

「「押し付けた!?」」

「あ、あとティア。明後日の会談、護衛役にお前と扇角に来てもらうから」

「軽い……あと急……。でも、承ったよ。傷一つつかせないから」


 フンスッ、って感じで意気込むティア。何か可愛いな。こう、庇護欲をそそられる可愛さだ。



※※※※※※



「で、何で会談にシャルルまで来てるんだよ」

「面白そうだったから。つい♪」

「ついじゃねぇよ!」


 こいつはもうキレるだけ労力の無駄だと分かってる。分かっているのだが、……それでも苛つくものは苛つく。


「そもそも何故、自らとティアの二人だったのかのぅ?」

「教会的に悪魔は絶対アウト。アンデットも悪魔ほど絶対ぶっ殺すって信条はないが、それでも避けた方がいい。じゃあ消去法で扇角とティアだ」

「種族が偏りすぎてるからね。でも教会的には吸血鬼もアウトだったような……」

「隠蔽するから大丈夫大丈夫♪」


 本当だろうな。こいつの場合面白半分で正体を明かしかねん。まぁ、俺たちに止める手だてはないんだけど。


「取り合えず、入るか」


 コンコンコン  ガチャ


「伏せて」

「想定通りッ」


 扉を開いた瞬間、直ぐにしゃがむ。首を過たず狙って投擲された剣が、シャルルに人差し指と中指で片手真剣白刃取りされている。


「いや、白刃取りする必要あった?」

「実力差を無謀なニンゲンに分からせようと思ってね」

「まぁ、やっぱり仕掛けてきたが、見ての通り暗殺は無理だから諦めてくれ。ハレスペル・サイレム」


 皇帝に銃を突き付けて言ってやる。


「見事なモンだゼ。予見してたかよ」

「前に追い詰められた帝国がやった手段だからな。トップ殺してその隙にってのは。無理攻め感はあるけど、実行できるなら悪くない手だ」


 互いにニヤリと笑う。仲介役の教国の連中は……戸惑ってるのが二人、冷静な奴が一、二、三って、あれは天使か?何にせよ、五人も寄越すとは豪華なことで。それだけ帝国が警戒されてるんだろうな。


「試験は合格、交渉してやんよ」

「寧ろ戦局はお前らの方が追い詰められてるって分かって言ってんのか?それともただの馬鹿か?」

「あ゛ぁ?レザナリアの要請で交渉のテーブルについてんだよ。どうせテメェの根回しだろうがな。徹底抗戦するって選択肢もあんだぞ?」

「それが資源食い潰すだけで不毛だから終戦しようって言ってるこっちの好意を無視するのか?」


 睨み合う。ハレスペルの狼獣人もかくやの鋭い犬歯が光る。さてさて、どうするかね。要求と話の流れの持って行き方は決めてるが……この調子だと乗ってくるか怪しいな。


「……クハハハハ。やっぱこの程度だと引かネェか」

「それもまた試験とやらか?」

「あぁ。いいゼ。終戦、してやるよ。条件の擦り合わせと行こうか!」

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