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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
85/99

夜の王と悲劇の怪物

恐らく過去最多文章量。

「さて、では先ずこれは先日、商会の支店設立に辺り、その地区含む一帯の領主の下へと話し合い(・・・・)に行ったときの金の動きです」


 敬語とか久しぶりに使うな。この世界はまだ日本語よりも敬語の……変形、というか活用か?何せ種類が少ないのが有り難い。日本語みたいに尊敬語と謙譲語とかあったら覚えるのに面倒臭い。


 英、仏、中、独。そしてこの世界。俺が覚えてきたどの言語と比べても、日本語は異色を放ってる。端的に言うと変だ。まぁ、別にソレが悪いとは言わねぇが。


 しかし、この俺の拙い敬語がライブ配信されてると考えると……。


 この事は考えないようにするか。しかしライブ配信ねぇ。インターネットは無いし有線でも無さそうだから小規模、狭い範囲で電波みたいなのを飛ばしてるのか?確か、魔術でも似たようなこと、出来るんだったな。



※※※※※※



 昼夜無用の労働生活を送っていた頃。


『ヒグ様。少し早いですけど、夕食にしましょう。昼は時間がなくて抜いておられるので、流石に何か食べないと成長に悪影響です。30分後に部屋に食事を持っていきますから、机の上は片付けておいて下さい』


 念話の魔術で連絡が入る。アイリスからだ。校長室みたいな部屋の重厚なカーテンを開けると、夕日が差し込む。目に日光が直接入り、眩しさに思わず呻く。っていうか眩しッ。


 薄明かりだけでカーテン閉めきって作業してたら目が悪くなるな。気を付けよう。眼鏡って着けてるだけで結構鬱陶しいし。


「というか、思ったんだが、念話ってどういうシステムなんだ?正直、頭に直接声を叩き込むってちょっと怖い」

「あら、未知を怖がるというのは無知な愚者のすることよ。向こうの世界でもそうだったでしょう?」


 シャルルの言うことは最もだ。地球でも無知故の恐怖から、間違った情報で世間が騒ぐということがよくあった。


 例えば、石油危機(オイル・ショック)の時に「紙がもうすぐなくなるかも。だからトイレットペーパーが高騰するんじゃないか」っていうデマでひたすらトイレットペーパーの買い占めが起こったな。


 因みに中国語でトイレットペーパーのことは《手紙》って書くらしい。だがら中国人に手紙って文字を見せるとトイレットペーパーと勘違いされる。


「無知は罪。だから正しい情報を知るべきだってんだろ。そりゃ、言いたいことは分かるが、その正しい情報をどこで仕入れるんだっていう話だ」


 この世界の人間は何で分からない物をさも当然のように受け入れられるんだ?経験則で安全と理解しているのか、他に危険なモノが多くて感覚が麻痺してるのか。


「ナーシェル。グレア。お前ら、念話の魔術使えたよな。あれってどうやってるんだ?」


 シャルルに聞くのは癪に触る。ということで他方面に問いかける。


「どうやるも何も、念話など初歩の初歩。意志を魔力に載せて飛ばすだけの簡単なものだ」

「グレア殿。我らが主殿は、その初歩が分からぬのでは?」 


 何かナーシェルに馬鹿にされたような気がする。というか確実に馬鹿にしてるなこいつ。


「ククク。とはいえ、念話なぞ人間でも魔導を志す者は最初の方に習うもの。あと半年程して王都公立第一学院に通うならそこで習うであろう?別に今は知らずともよかろうて」


 魔獣限定とかじゃなくて人間でも初歩的なモノなんだな。……って、領主になったばかりで忘れてたが、もうすぐ学校生活か。全く、何を考えて国王は俺にこの領地を持たせたのか。


「いや、習える内容が果たして何処まで正確なのだか分からんしな。魔導書の類い読んでみたが、あれって半分ぐらい感性というか、フィーリングってかんじだろ?」


「確かに凡百魔術師が書いたものはそうだが、妾の執筆した書は正確性と有用性を兼ね備えた書物ばかり。妾の時代であればかなり有名だった故、まだ残っておると思うが?確か、念話関連であれば伝える側と受け取り手に発生する意味の齟齬について論文を書いたな」


 ま、八百年なら多少の抜けや破れがあっても残ってる場合がある。有名、著名な書物であれば昔の手書き人海戦術の写し方でも、何冊か刷られているだろう。


 が、ナーシェルは重要なことを忘れている。


「いや、お前って大罪人だし、死霊、ネクロマンシーの類いは知ること自体をを禁止されてるぞ。とっくにお前の本は焚書されてるだろ」

「……あぁ。そうか。それもそう、だな」


 物憂げに窓の外の夕日を眺めるナーシェル。色白の肌が夕日で黄昏色に染まる。あ、これ地雷踏んだ。


「い、一応、今度会ったら国王に聞いてみるわ。王立図書館の国営禁書庫ならもしかしたらあるかもしれないしな」

「……禁書。禁書、か。重要資料という意味であればよいが……。大きな魔力の込められた『魔導書(スペルブック)』の類いは焚すると爆発する危険もある。封印指定になっているかもしれないな」


 地雷の爆発で誘爆されて、またもや地雷。なにやってるんだ俺。


 『魔導書(スペルブック)』っていうのはアイリス復活させるときに輝いてたアレか?閃亜鉛鉱の塗料ってわけでもなさそうだったし、魔術的な何かで光らせたのか。


「話、ずれてるわよ。もうすぐ夕食なんだし、さっさと話をまとめなさい」

「ごもっともで」


 自虐は後回しでいい。グレアの話だと「魔力に意志を載せる」だったか。魔力を飛ばすと電波を飛ばすが似たような現象であれば……。


 いや、その場合、脳はどうやって信号を受け取ってるんだ?脳波は外に漏れ出るが、脳が電波を受け取れるなんて、俺が無知なだけかもしれないが聞いたことがない。少なくとも一般的な話ではない。


「一人で悩んでないで、取り合えず見解を述べてみなさい。黙りこむ時間が長いのは悪い癖よ?」


 シャルルが顔を覗いてくる。美人。じゃなくて、急に覗きこまれると心臓に悪いんだが。とはいえ、今回は俺が全面的に悪いわな。


「いや、もしかしたら電波と似たようなものかと思ってたが、人間の頭にアンテナが付いてるわけでもない。それに言語の壁を越えられる理由が分からなくてな。電波じゃなきゃいったい何なんだって話だが……

「殆ど正解よ」

「え、マジで?」


 シャルルが念話と電波は同じだと言い出した。魔力版電波であって特に相違はないと。ならば、ミスリルや金、銀のような魔力をよく伝導する素材でアンテナを作ってやれば……


「ヒ・グ・様。私は机の上は片付けておくようにと言いましたよね!」

「げっ!?」


 説教の構え。……絶対長くなるやつだ。よし。逃亡しよう。三十六計逃げるに如かず。王の早逃げ八手の得!


「ナーシェルさん。逃げ道を塞いでください」

「了解した」


 即座に、立ちはだかる死体の山。ドアと窓を塞がれる。これでは逃げられない。壁を破壊などしようものなら費用が嵩む。そして今の借金地獄領地を抱える俺にそんな金を支払える甲斐性はない!


「裏切り者!」

「ククク。八百年前の無知な民どもから向けられた一方的な憎悪に比べれば比べればそんな言葉、軽い軽い」


 しかし、アイリスはどうやってこんな奴を従えたんだ?こんなに従順に命令を聞くやつではないと思うが。


「ヒグ様には悪いですが。買収させていただきました」

「以外と単純だった!?」


「取り合えず、夕食。ここに置いておくぞ」


 ティアの言葉は誰にも聞かれず、空虚に部屋内で木霊した。



※※※※※※



 後日


「取り合えず、有り合わせの銀でアンテナと送電線ならぬ送魔線?作ってみた。完成!」


 見た目は……筆舌しがたい。配線はぐちゃぐちゃ基盤はボロボロ。適当な素材を取っ替えひっかえキメラ混成大合体させた結果だ。やべぇ。どう考えても壊れた機械にしか見えねぇ。


「流石にこの見た目は……

「気にするなッ!」

「いや、でも……

「気にするなッ!」

「それは無理が……

「気にするなッ!使えたらいいんだよ。どうせ、使い終わったら銀はまた融かして固めるし」


 反対意見や文句の悉くを潰す。だってしょうがないだろ?時間がなかったから設計図一切描かずに適当に作ったんだから。


「まぁ、念話、取り合えず放ってみてくれ」

「……はぁ。了解した」


 さてさて、果たして反応は……っと。


「ところで、どうやって検査するの?銀の配線はともかく、何か魔力波に反応する計測器でもあるの?」

「ふっ。嘗めるな!そこら辺は抜かりない」


 ポケットから魔石式ライトを取り出す。この世界の富裕層が使っているものだ。魔石さえあれば使い回せる。ただ寿命が割と短いんだよな。


 大量生産ラインも出来てないから俺からしたら、ただただ費用が嵩む骨董品やお飾りと変わらん。


「これをちょっと改造して配線に繋いだら光るようにした。原始的だが、悪くないだろ?単純で分かりやすい」

「念話の微弱な魔力で光るかしら?」


「え、念話ってそんなに魔力微弱なのか?」

「ええ」

「そうだな。いかに少ない魔力で、いかに遠くまで飛ばせるかでその者の技量が知れるというものだ。魔界では数百キロ単位全方位にその意を轟かせる猛者もいた」

「───ッ。それ先に言ってくれよ!」


 さて、どうするか。検流計とか使えれば便利なんだが……魔力には流石に反応しないと思うしな。……銅線に魔力が流れてくれるならもしかしたらいけるか?


「魔力を電気に変えられたら便利なんだがな」

「出来ると思うぞ。それとも、我が間違っているのか?」

「ん!?マジで?」

「いえ。グレア様の考えていらっしゃる方法でで恐らくは可能かと。誰でも、……ヒグ様でも出来ますよ?」


 え。俺以外全員分かってる?誰でもできる、ねぇ?やけにアイリスが俺でもって強調してたが……。


「まさか、本当に分かってないのかのう?」

「何か気分がよくなるな。いつも驚かされてばかりだったから」


 何か扇角とティアにマウントとられるのは嫌だな。理由は説明できない。強いて言うならただの見栄だが。


「ククク。アハハハハ!」

「フフフフ。まさかね」


 ナーシェルとシャルルは、……もうどうでもいいわ。こいつらに関しては諦めた。


「単純に雷系統の魔術を使えばよろしいかと……」

「……あ。そうか。いやそうだ!」


 あれって冷静に考えれば魔力を使って電気を発生させている。つまり魔力を電気に変えている可能性がある。


 いや、魔力が直接変化したものでなくとも。例えばあの雷が、魔力が変化したものではなく、魔力原子同士の摩擦で発生するものでも、電気が流れればそれは魔力が通っていたということになる。


「微弱でも電気に変えられるなら増幅だって可能だ」


 いや、盲点だったわ。そういや、蓄電池が無かったときは電気を逐一魔術で起こしてもらってたじゃねぇか。


 《魔術=よく分からないもの》っていう固定観念があったから気付かなかったな。その点、ありうべからざるモノが超常の存在によってありふれたものに変わるこの世界の者は子供並みに柔軟な発想を持ってたりする。


 この世界だと不可思議な事が起こっても、最初は流石に反発されるがその内、「まぁ、そういうこともあるだろ」で済ませるからな。


「えっと、え?これが魔術陣か。難解すぎんか?分からん」

「いや、ヒグ様の横に転がってる滅茶苦茶電気回路よりはマシかと思われます」

「ククク。なぜそれが把握できてこの方陣が理解できないのかが、妾には分からないな」


 四角と丸、楕円、星、六角形がひたすらに羅列されている。


「……二進法で表現してくれ」


 何となく魔術関連ということが分かる魔術陣よりも、0と1の羅列だけで表現される二進法の方が一般人には理解しがたいのだが、コンピューターに慣れ親しんだものからすれば魔術陣よりも余程分かりやすい。


「とはいえ、これは見たことないタイプですね」

「精緻だけど、これを一瞬では流石に初心者には無理があるんじゃないかな」


 よし。いいぞティア。その調子だ。もっとだ。もっとやれ。もっと文句言ってやれ。ブーイングだ!


「一応、向こうだと一般認知されているものだけれど?」

「技術差があるのう。しかし、これは……」


 扇角がグレアの方を見る。


「我ら竜や悪魔、天使の使うものにも近いな」

「あぁ、生来魔術を使える種族が用いる天然タイプの合理的な部分は近づけつつ、されど人間に扱いやすくされている。流石だな」


 小さな筆跡を食い入るようにして覗きこむグレアとエドワード。何やら解説をしてくれるが、全く頭に入ってこない。


「これを水銀で描くと。この式に何の意味があるんだか」

「それこそ、さっき言ってた二進数とかコンピューター言語と同じよ。それぞれに意味があって魔力に対する命令(コマンド)なの」


 取り合えず回路にわ水銀で描写した魔術陣の両端を繋げてやる。グレアに検証開始の指令を出す。


「お、検流計の針ちょっと振れたな」


 これは、良い兆候では?おぉ。右に左に振れ出した。右にも左にも振れるってことは交流、つまり周波数があるわけだ。念話ラジオとか作れるんじゃないか?


「スピーカーに繋いでみるか。厚紙の即席メガホンにロッシェル塩着けるだけでいいよな。このままだったらちょっと電流微弱すぎるか?」


 真空管でもあればいいんだが。まぁ、極限まで耳を近付けたらいけるだろ。多分。……なら、別にメガホンじゃなくてもサランラップの芯みたいな奴で充分か。


『ザザザ、ザ……ザ……ピー───ッガーンぐばれつc@Tm#*284☆■♪/─々』


 流れてくるのは雑音。いや。音という単語を使うことすら烏滸がましいほどの聴覚への暴力だった。これ、何デシベルか測定すりゃ確実に、絶対に120デシベルいくだろだろ。


 《聴覚に異常をきたす恐れあり》の範囲、飛行機の離着陸とかそういうレベル。これ以上聞いてられねぇ。聞くに耐えない。


「なにこれ」


 本当になんだこれ。というかそれ以外の言葉が思い付かない。


「ちゃんと波形とかはあるっぽいが到底生物の言語とは思えないな。……いや、たしかキリマンジャロとかその辺りの秘境にに125デシベルの声出す怪鳥がいたか」


 こっちの世界にもいるかどうかは分からないがな。この世界自体が前人未到、未知の秘境みたいなもんだからもしかしたら存在するかもな。知らんけど。


「怪鳥の叫ぶ音波とは中々言い比喩だのぅ」


 扇角が耳を近付けて、一瞬にして遠ざける。まことに残念なことに知らなくていい音を不幸にも聞いてしまった瞬間、暴力的音波に耳を犯されたな。聞いちゃいけない音だ。アレは。


 エドワードが手際よく片付けをしてくれる。感謝。何か耳栓らしきものを突っ込んで電源引っこ抜いてるが。流石の悪魔もあの音らしきナニカは嫌なんだな。


「結局グレアさんは何て伝えようとしたの?」

「ただ単純に『こんにちは』つまり挨拶だ。貴様も念話傍受していた筈だ。分かっていたことだろう」

「グレア殿。妖精(ティア)の問いの意味は即ち、念話偽装(カモフラージュ)を施していたのではないかという意味だろう」

「無論、していない。そもそもアレはヒトの編んだ術。我には使い方すら分からぬよ」

「あれは変態術式だからな」


 グレア、ナーシェル、エドワード何か聞き捨てならない言葉が出てるなぁおい。ま、念話、馬鹿正直に放ってたら軍事的なやり取りの時とか傍受されて終わりだな。だったら聞かせないどころか手間はかかるが情報偽装して敵を罠に嵌める。人間らしいいい手だ。


「というか、お前らは聞かれて不味い話なかったのか?」

「ん?悪魔や竜の場合はな。そもそも聞かれて不味いことが少ない。それから態々偽装までして念話なんてしなくても直接会えばいいだけだ」


 悪事よりも更に速く千里を駆け抜ける化け物集団にかかればそのくらい余裕だな。


 しかし、この念話。波形はある。電波と同じ。但し機械機構では傍受できない。厄介な謎。端的に言って意味わかんねぇ。


「念話は発信側と受信側とで意味に齟齬が生まれるという話を聞いたことはあるか?」

「……そういや、ナーシェルがそんな事言ってた気もするな」


 エドワードの問に答える。確かナーシェルがそれを題材にして論文を書いたとか何とか。


「ククク。さて、いつの事だったか。かなり昔じゃが、確かに書いたな」

「ならば存じているだろう。念話のメカニズムを」


 中指に長大な漆黒の鉤爪のような鋭い刃を出す。暗器として扱われる虎の爪(バグ・ナウ)という武器の刃よりも更に長い片手剣のサイズ。それでいて二次元の存在かのようにその刃は薄い。直ぐに折れそうなそれを徐に地面に突き立て、絵を描く。


 白虎ならぬ黒虎の爪ってとこか?直ぐ様真っ二つになると思ったんだが、丈夫だな。どういう仕組みなんだか。


 全く、魔術の正体ににじり寄ろうとしているのに更に謎が深まるとは一体どういうことか。謎が謎を呼ぶ。これだから研究は延々と続くんだろうな。


「ヒトの頭、ですか?」

「ほぅ。地味に上手い。土の上に書いているというのに」

「芸術に長けた妖精にそう言ってもらえると世辞でもやはり嬉しいものだな」


 ヒトの頭を二つ描くと、次にエドワードは狼の頭部を幾つか描きはじめた。おぉ。こいつ絵心もあるんだな。


 俺は……一応スケッチしなきゃいけないこともあったからそこそこ描ける、と思うが、基本理科のスケッチは影と二重線禁止だから絵画描くには向かない。(言い訳)


  ※

 ※※※※


 みたいな配置で狼を描いていく。上の一匹が一際豪華に、王冠までつけられて描写されている。群れの長の象徴か。分かりやすいのは嫌いじゃないな。それに何か愛嬌がある狼だ。


「念話は言葉や文章。理路整然とした論理を伝えているのではない。発信者なら分かると思うが、大体何となく、感性で心象を相手に受け渡ししている」


 一つの頭部からもう一方へ、曲線の矢印を描き、そこにイメージという文字を付け足す。


「つまり全く言葉になっていない、という訳だな」


 ナーシェルがその言葉の後を継ぐ。こういう相槌というか、助手的な役割が上手い。テレビとかラジオ作った際にはMCとして活躍してくれること間違いなしだな。本人がやるかどうかは知らないが。


「その通り。伝えたいことを制御のあまり作用しない深層意識で産み出し、それを伝えているからな」

「それに対して我々が普段話している言葉は、一部無意識下で深層意識から漏れでる言葉を除けば、基本的には制御のしやすい表層意識で産み出され、言語化されたもの。この差は一目瞭然よなぁ」


 深層意識に表層意識。心理学どころか、ちょっとオカルト宗教臭すらする言葉だな。


「つまり、理性の利かない場所で生成された枝先の整っていない情報塊を直接相手に渡していると?」

「ふむ。言葉として聞こえていたが、自らの側で勝手に要約されていたのかのぅ?」


 フィルターでろ過しているような絵を描いてることからして、大雑把な情報を受け取り手が勝手に整理整頓して自分流に書き換えてるという解釈で間違っていない筈だ。


「……ということは、受信側が発信者の事をあまり知らないと通じない場合があるというのは……」

「上手く情報を整理できないからじゃな。無論、念話が言葉の通じない相手と会話するための最有力手段として目されていることからも分かる通り、その確率は低いが」


 ティアが出した例は余程のレアケースらしい。が、そういうこともあり得る。そして受信側の解釈の次第によっては意味に齟齬が出る。


「余談だが、最近の悪魔の魔術学研究者の間では、念話と獣の咆哮は同じようなシステムだと言われている」

「……だから狼の頭部か。でも狼の遠吠えは音で互いの位置を確かめるのが目的じゃなかったか?」


 エドワードの図説をグレアが説明する。


「アレも深層意識の意思を載せているのだ。我々竜も同様の手法を使用する」



※※※※※※



 確かそうだったか。ただ、映像ならば念話の深層意識からの汲み取りよりも精度の高い情報の筈だ。たぶん、魔力電波(仮)で他の末端機器に飛ばしてるんだろうな。


「旅費、食費は高価とはいえ、それなりの箔を着けなければ貴族に相手にされないと考えれば、仕方ないでしょう。……問題はこの土産代です」


 敬語が怪しく、余計な考え事をしていた俺に代わって、ナーシェルが説明する。って、えっ⁉高ッ!超一流ホテルといったところか。こんな金あれば……。あー、でもそうか。貴族とか大商会の社長とかが、安価なボロ宿に宿泊してたら格下に見られるか。


 で、土産代。宿賃に比べれば少し霞むが……土産の菓子類にしては高いな。予行演習だと流し見だったから見逃してる所も結構あるわ。


「えー、っと。何々。王都有名菓子店の「ル・メゾン・レェ」の新作とこれは……献上用の薬か。それにしては結構な値段」

「賄賂を疑うか?そうだとも!あぁ。で、どうかしたか?」


 は?……こうも簡単に認めるか。しかも悪びれもせず、先程の「証拠をだせ」と言った奴よりも冷静。さも当然のように堂々としている。


 資料に全部目を通して誤魔化すのは不可能と察したか?それにしても、異様なほど後ろめたさの感情の欠片もない。


 ナーシェルの毛が逆立つ。怒髪天を突くとは正にこの事。やべぇ。こいつ放置してたらこの一帯を死者の森にするぞ。なにやってくれてんだこの小太り社長!?


『ククク。悪いな。どうやら、感情制御の限界がきた。下がっておれ。……こやつはここで、殺す!』

『待て待て。落ち着け。どうどうどう!下がってろって何だ!?ここで大爆発でも起こす気か。そんなことしたらヒノキ達の陣営の奴も巻き込まれるわ!』


 命の危険を感じた。真剣に。即座にナーシェルの首根っこを掴む。冷たい肌の感触に背筋が震える。体温がないのは相変わらずだが、それでもいつもよりも冷たく感じるのはきっと気のせいではないだろう。


「先程の言葉と矛盾してるぞ。初代様も喜ぶ、とか言ってなかったか?初代の理念では不正は厳禁だろ」

「綺麗事だけでは世の中ら回らない。当然だとも」


 一拍おいて更に、小太り社長は言葉を続ける。正論だけどこいつの口から出ると滅茶苦茶な論法にしか聞こえないから不思議だ。


 その目は……腐っているというのが適切な表現か。前に中南米の紛争地帯で市民相手に無料奉仕の治療活動してたときに見かけた薬物中毒者みたいだな。薬屋の社長が薬物中毒状態とか、洒落(シャレ)にならない。


「この世は成果主義。成果とは即ち、儲けなのだ!」

「それ、全部生配信されてるぞ」

「フンッ。その程度の事、対策は考えてある。それは映像を伝える魔道具だが、それが本物の映像である必要はあるまい」


 偽の映像を流せるのかよ。だとしたら、このライブ配信によって保たれる幹部実績の可視化と公正化って一体何なんだって話だが。


 よく見たらさっきまで小男の後ろに立ってた奴が立方体の魔道具に触れてこそこそやってるわ。動画の編集加工って大変なんじゃないのか?某大手動画サイトの動画投稿者たちは編集が一番大変と言っていたが。


「あ……」

「ククク……ハハハハハ」


 方や天才の漏らしたマヌケな声

 方や聞く者を魅了する妖艶な嘲笑。


「……よもや、遠隔操作などという方法を樹立しているとは。恐れ入ります」

「我が主殿が言うにはハッキングというらしいぞ?貴様が魔術行使を始めた際にカウンターで仕掛けておいた」


 実際のハッキングとはかなり異なるがな。念話の隠蔽を解除すれば相手にバレるかもしれないが、ちょっと細工するくらいなら出来るかもと思って考えといた。


 まさかこんな場面で使うことになるとは。何て俺は悠長に驚嘆できるが、小太り野郎は……うわー。明らかに怒ってらっしゃる。


 手はわなわなと震え、顔は耳まで真っ赤。これが漫画とかアニメだったら怒りのマークが顔に大量に貼り付けられてるだろうな。


 魔術師の方は案外落ち着いているな。達観しているというか、目線が一歩上。一応敬語使ってるけど、雇い主さえ侮っているようにすら見える。それでいて、不足の事態を愉快そうに観測してる感じ。


 あー、何か見覚えあるな。この愉悦に浸ってる顔。俺が見慣れてるってのもあるが、ここまで条件揃えたらホームズさんも金田一さんも見た目は子供頭脳は大人な人もいらねぇな。


 探偵の出る幕なんかじゃない。一般人でも何となく分かる。


「……なぁ、ナーシェルあいつってもしかして……お前らの同類?」


 言外に人間以外かという意味合いを持たせる。もし、人外の超聴力で聞かれてても抽象的で別に何を暗示してるのか分からないだろうしな。


「正解だ。ククク。恐らく、向こうも私が屍ということに気づいているぞ?妾は奴が魔術行使した際に気付いたが、それは奴も同じだろう。認めるは誠に遺憾だが、力量的には妾より少し上、エドワード殿より少し下といった所だ」

「マジか。じゃあ別に言い回しを変える必要もなかったか」


 直感的な奴かね。俺は表情とか態度とかが分からずただ街道を歩いているだけだったら絶対に気付かないな。


 しかし、リッチー、アンデットの最高峰の、更に普通の魔物の中では最高峰クラスの帝王(ロード)級。魔術師としても生前から絶大な力を誇るナーシェルの上となると……ヤバくね?下手したら俺ら死ぬぞ。


 あー。クッソ。エドワード連れてくるんだったよ畜生!


「奴も屍は屍だが、妾やアイリスのような死体人形(アンデット)の自由意思が強いバージョンではない」

「というと?」

「生者でありながら死を捩じ伏せた化物。規格外の竜や悪魔よりも余程人に恐れられているであろう、ガシャドクロ等を除いた知恵ある屍の一族のリッチーに並ぶ最高峰」


 嫌な予感がするな。というか続きが聞きたくない。厄介事の予感。何で最近俺はこんなにアンデットがらみの案件が多いんだよ。


「シャルル殿の同類、と言えば分かりやすいか?戯曲や小説で使い古されて久しい言い回しだが、妾を亡霊女王とするならさしずめ、『夜の王』といった所か」


 こっちでもその表現あるんだな。別惑星の者であろうとも所詮はヒト。ホモサピエンスかどうかは知らんが、考えることは皆同じか。


「……吸血鬼、か」

「その中でもトップクラス。シャルル殿と比べれば些か劣り、大したことないと思うかもしれんが、アレでもこの世界の中では二十位の実力を持つ。国を中枢から腐敗させる、悪名名高き吸血鬼だ」


 どうやらナーシェルは奴の事を知っているらしい。二十番目ね。神獣が確か十体やそこら。それよりも上位のエドワード。アイツすげぇな。


 賭けに出て、この場で正体を喧伝するか?いや、それは得策とは言えないな。


 最悪、言い掛かりだと否定された挙げ句ナーシェルこそがかの有名な亡霊女王だと論破される可能性すらある。


 いや、希望的観測が過ぎた。もっと最悪なのはこの場で一瞬で全員虐殺されることだ。ナーシェルとアイリスが連携したならば一矢報いることくらいは……。その前に俺は確実に死ぬだろうけど。


 となると取れる手段が味方すら見捨てて俺たちだけ逃亡するか、向こうも暗黙の了解で黙っておいてくれることに賭けるか。さて、どうしたものか。


「き、き、貴様らぁ!何をコソコソ話している!」


 ガキッ。


 最早原色の赤、所謂マゼンダ色まで顔を染めた小太り野郎が、怒りのあまり、ライブ配信用のカメラ?を叩き割る。あーぁ。絶対ソレ高いだろ。値段。


「ええい!使えぬ奴め。仕方ない。貴様の付き人も戦闘できるのだろう?我が親衛隊と共にあやつらを殺せ!……いや、女は殺すな。精々私が有効活用してやるとしよう」

「……女も殺しておいた方がいいと思いますけどねぇ」


 親衛隊とやらが誰かは知らんが、あの男やその付き人となると逆に俺たちが殺される。不味いぞコレ。


「ヒノキ!お得意のアレだ。今でも使えるか!?ヒグはガスマスクをせい」

「御意に。ナ……シェル様」


 いや、ほぼ名前言ってるじゃねぇか。取り合えずガスマスク着けるけどさ。毒ガスでも散布する気かこいつら。


 親衛隊と呼ばれた連中が入ってきた端からバタバタと倒れる。それだけじゃない。この会議室にいた者も順に倒れていく。拳銃構えるだけ無駄だったか。


「残ったのはワタシだけですか。ふむ。クァッドブラットからの連絡が途絶えた……?」

「ククク。貴様のお仲間の四人組は処理させていただいたぞ?」

「よもや、デスエルフなどという絶滅危惧種がここにいるとは。あまりの個体の少なさに人間がつけた魔物の番付にすら載っていない種族ではないですか」


 デスエルフ?……アイリスか。でもアイツ、吸血鬼四体を仕留められるほど強かったか?


「さて。残るは貴様だけだな。最早貴様が奴に尽くす義理はあるまい。退散するのが得策だぞ?」

「彼我の実力を見誤らない方がよろしいですぞ?それに……クァッドブラットの敵討ち。最もらしい理由ではないでしょうか?」


 一触即発。微動だに出来ない。というか行動した瞬間殺される可能性すらある。撃鉄は起こした。引き金を引くスピードとアイツが俺を殺すスピード。どっちが早いか。


 先手必勝?一応銀の弾丸込めておいたが、これで殺せなかったら不味い。大怪我でもしてくれればいいが、軽傷なら直ぐに反撃される。


 え、動いても動かずとも死ぬぞコレ。


「まぁいいでしょう。見覚えない匂い、異世界の吸血鬼と見ました。ワタシやあの御方よりも強大な真祖とは」


 シャルルのことか。というか、アイツがあの御方とか言ってる奴がいるってことはアイツより更に強い吸血鬼がいるって事だよな。え、何で上位四種の中に吸血鬼が入ってないの?


「他人の獲物には手を出さない。匂いの目印を着けているあたり、吸血鬼の鉄則は異世界でも同じことでしょう。報復されても怖い怖い。今日のところは、見逃すといたしましょう」


 シャルル、サンキュー愛してる!自分がその場にいなければ守れないとか言ってたけど、きっちり守ってもらったな。


「ククク。それは助かる。……一つ、いいか?」

「何ですかな?かの高名な亡霊女王ナーシェル・エレナバス殿の頼みとあれば、答えぬ訳にもいきますまい」

「──ッ⁉……まさかウルラドラ殿、貴方ほどの吸血鬼に知っていただいているとは。何、質問自体は至極簡単。何故、このような事を?吸血目的なら、他の方法もあったでしょう?」


 血色のない色白な顔を少し蒼くしながらも問うナーシェル。確かに。吸血目的なら、あまりに方法がまどろっこしいというか、些か遊興じみてる感じがする。


「ならば答えも至極簡単!単純明快!遊びですよ。あ・そ・び」 


 朗々と謳い上げ、続きを述べる。


「人間。何たる面白き種族でございましょうか。小鬼(ゴブリン)よりも余程知恵あり、大鬼(オーガ)めよりも余程強欲」


 まるでオペラ歌手。山のこだまのように会議室中にその美しくも穢らわしい声が響き渡る。


「少し手を加えただけで創造以上に踊る踊る‼愉快ではないですか。愉悦快悦誠に滑稽!そこがよいのです。ただの下等種?血袋?なれば同族の目は節穴!腐り落ちていることでしょう!あの御方ですらそれを認めない。何たる損失か!」


 醜悪。愉悦に浸された表情はそう例えるしかない。


「えぇ。えぇ。だからこそ。少し麻薬を差し上げ、ほんの少し進言するだけで、大商会は腐り落ち、貴族にすらその腐蝕を広げんとする!このまま国が腐り果てるまであと少し。というところでしたのに。残念にございます」


 国の腐敗が目的なのか?いや、単純に人間が巻き起こす政争や動乱を楽しんで、まるで映画のように観賞しているだけだな。こいつは。


「さて、次はどこへ行きましょう。帝国はあの皇帝にもう警戒されておりますからなぁ。侵入が些か面倒でございますが、二千年王国、太陽国など、誠に愉しそうにございます」

「ッ⁉待て!」


 もう奴は消えていた。というか、予想外に大事じゃねぇか。


「畜生めがッ!」

「落ち着け!って力強ッ⁉」


 今にも虐殺を開始しそうなナーシェルを後ろから羽交い締めにする。が、今にも強引に振りほどかれそうだ。こうも簡単に振り回されると男としてのプライドが瀕死なのだが。


「これが落ち着いていられるか!あのような奴に我が友の財産を駆逐され、あまつさえこの国が呑まれかけたのだぞ!」


 何かとこの国のこと好きだよな。こいつ。裏切られても心の底では愛しているというか。


「その上、次は太陽国だと!?あんな奴に無二斉の故郷まで───ッ」

「それでも落ち着け!お前の気持ちも理解したつもりだ!でも、今無策に突っ込んでも意味ないだろ。一蹴されてお仕舞いだ。太陽国への侵入が困難的なこと言ってたろ。アイツをどうにかするにしても先ず準備を整えろ」


 沈黙するナーシェル。ゆっくりと、口を開くのを待つ。何分経っただろうか。気持ちに区切りがついたみたいだ。


「すまぬ。冷静さを欠いておった」

「あぁ。許す。……何せ俺は懐の広い上司だからな!何なら惚れてもいいぞ?」


 ちょっとでもこの沈黙に包まれた空間を明るく花咲かせたい。だから出来る限りおどけてみせる。俺程度が道化を演じるだけで何とかなるなら幾らでも馬鹿にされてやる。


「ククク。我が主殿は誠、女誑しよなぁ。そんなことではユニコーンと妖精に嫌われるぞ?」

「おっと。そりゃぁ怖い」

「正妻はあの国王の娘。ユニコーンと妖精が(めかけ)。シャルル殿はどうだか。さしずめ(わらわ)は愛人か欲望の捌け口か?」

「言い方!おい!?それじゃ俺が最低の男みたいじゃねぇか……」


 冗談の言い合い。これでいい。このくらいでいい。ゆっくりとこいつの心を暖められたのなら、それで。物語の主人公みたいに特殊能力もなけりゃ料理も人並み。


 だから道化くらいでいい。そもそもこの時代からすれば科学者がそもそも詐欺師みたいなものじゃねぇか。


「ホホホ。ナーシェル殿が夫を始めて見つけたようで誠に宜しゅうございます。太陽国流にいくなら、今宵は赤飯ですかな?」


 あ、ヒノキのこと完全に忘れてた。何か急に恥ずかしくなってきたんですけどぉ!?


「後はお若い、もといお熱い二人にお任せするとして、ナーシェル殿。最後に老爺の戯れ言を聞いてくれませんかな?」

「な、なんだ?」


 ナーシェルも少し恥ずかしいんだろう。色白の肌が、きのせいかもしれないがほんのり赤く見える。死体に体温の変化なんてあるわけないのにな。


「先程、ナーシェル殿はこの商会が潰れたかのように仰りましたが、それは違います。……ゴホッゴホッ」


 立っていたところを、ゆっくりと座らせる。


「失礼。この通り、瀕死の体ですが、この老爺めが、我々が残っています。なれば火種は消えておりません。……そして、ナーシェル殿たちが再構築してくれるのでしょう?ならば、あの方の遺産は消えていないかと」


 ナーシェルの目からは涙など流れない。でも、その表情を見るまでもなく、彼女が救われたというのは分かる。契約越しに犇々と伝わってくる。


「あぁ。あぁ」


 ただソレだけ漏らして。窓の外の風景を見た。いつのまにやら日は沈み、満天の星空が輝いていた。



※※※※※※



「ヒグ様。この吸血鬼たちはどうしましょう?」


 外に出ると、刀を肩に掛け、血化粧を体に着けたアイリスがいた。その足元には屍が。


「……お前、そんなキャラだったか?まぁいい。んー。死体はそりゃ有効活用出来るんだろうが、下手に黄泉返られても怖いしな。焼くか」


 クァッドブラットだったか。彼ら彼女らを入念に焼き払い、これにて一件落着。あとは七面倒臭い事後処理だけだ。



※※※※※※



 数時間後、深夜 満月が南中した頃 ゴミ捨て場


「起きなさい。クァッドブラット。ワタシのために精々働くのです」


 ウルラドラの袖口から撒かれた灰がヒトの形を成す。その目は虚空を見ている。我ここにあらず、といった風に。


 生きながら生を捩じ伏せた者としての不死者(アンデット)である吸血鬼。


 それを麻薬によってさながら死体人形(アンデット)かのように自由意思を奪い、更に強靭な肉体を持つ吸血鬼を作り出す外法の業によって産み出されし悲劇の怪物(クァッドブラット)


「あのような方々がいらっしゃるとは。だからこそ!げにこの世は面白いのです」


 夜の王は宵闇の中を悠然と歩く。ふと振り返ると、腰を抜かした哀れな人間(オモチャ)が一個。


 灰がヒトの形を成す光景に驚き、声もでなく、ただ危機を感じて気配を殺していた一般市民だ。


「はて、先程の儀を見ておりましたか。……アナタは、秘密を守れますね?」


 何をとは言わない。精悍な男が女性の顎を持ち上げ、微笑み掛けている、一目惚れしそうな程の光景。が、実際には恐怖が重力と化して女性に襲いかかっている。


 ブンブンと首を縦に振る女性。


「そうですか。それは良かった」


 女性に背を向けて歩き出す。助かったと思った女性はすぐに走り去ろうとする。


「では、死んでください」


 グギッ


 鳴ってはいけない音が鳴った。


 ゴギャッ


 顎の骨を継起に、全身の骨が砕け散る。


 バキボキギャリッ


 あらぬ方向に体が曲がり、血を撒き散らす。


「食事ですよ?」


 その血にハイエナのように群がり、()を屈辱すら感じずに舐める悲劇の怪物(クァッドブラット)


「フハハハハハ。ハハハハハハハハ!」


 誰もいなくなった満月の夜。満天の星空に男は嗤った。

念話の話が思ったより長くなってしまった。

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