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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
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採掘計画

「商会乗っ取りをどうするかねー?」

「買収?」

「んな金あったら今頃領地についてきた借金返済してる」

「そうじゃのぅ。……」


 軽々しく乗っ取ろうとか言ったけど、今更ながらかなりキツいな。とは言え一度言ったことを撤回するのはな……。ナーシェルの手前上よくないし、……


「不祥事やってるなら証拠掴んで別荘送りが一番だな」

「別荘送り、って何ですか?」

「ブタ箱っていった方が分かりやすいか?」

「あぁ、牢屋とか刑務所の隠語ことね。確か創の住んでた国、JAPANで使われてた隠語ね」

「──しかしブタ箱?ゴブリン箱じゃなくてか?」


 ティアの疑問から察するに、この世界では刑務所の隠語はゴブリン箱らしい。一ミリも要らない情報だな。しっかし、ブタといい、ゴブリンといい、犯罪者に人権はないのかよ。


 犯罪者でも社会権とか生存権は持てるようにしないとな。生存権の定義は「健康で文化的な最低限度の生活」だったか。一応、最低限度の中にエアコンも入るらしい。何か裁判してたから覚えてる。自由権は…なくていいか。


「さて、問題はどうやって証拠を掴むか、だな。現行犯逮捕するのが一番早いけど、流石にそんな簡単に尻尾は出さないだろうしな」

『いえ、案外いけるかもしれません。そこの子供の、ヒグ殿といいましたか、貴方は領主なのでしょう?』


 ん?それがどうし……いや、成る程、そういうことか。


 誘い込むんだな。利益をちらつかせて密談。暗に賄賂を要求し、ルーダロッソが深読みして、賄賂を渡してきた所で捕まえる。悪くない作戦だ。


「第一次案として国王と連携しながら証拠を探る。これはアンデットや悪魔の人脈?まぁ人手フル活用でいく。そして平行してルーダロッソに近づいて現場をつくるか」

『しかし、その姿では、……』


 まぁ、言いたいことは分かる。微妙そうな顔をしてるな。寝たきりの老人に言われたくないが……。八歳の子供と寝たきりの老人。少なくとも、どっちも信用得るには向かない姿だな。


「親父を使うか?」

『親父殿を?』

「あぁ、ベルレイズ公爵でいいんだったか?」

『んな⁉べ、ベルレイズ様⁉』


 あー、そういえば苗字言ってなかったな。ヒノキが勢いの余りベットから飛び上がってるし。あ、キツそうな表情してるな。おとなしく寝てろよ。


『ベルレイズ公爵、ですか……』


 苦々しげな顔。別に因縁があるとかそういうわけではなさそうだが、何か問題でもあるのか?別に、親父は性格には問題ないと思うんだが、……。


「ベルレイズ公爵と言えば親現王派であり、賄賂を受け取らない真面目な貴族ということで通っていますので……」


 マジか。こんなところで親父の律儀さと真面目さが裏目に出た。いや、賄賂受け取らない姿勢は正しいし誇らしいんだけども、今は不利益でしかねぇんだよな……


「主の姿を変えるのはどうかのう?自らの姿を変えている魔法を主に適用すれば、大人にすることも可能だと思うのだが、どうかのぅ?」

「それか、私が妖精の幻術で何とかするが、どうする?採用されるなら、完璧な幻術を披露しよう」

「もし見破られそうなら、我々悪魔から代役で賄賂好きの貴族っぽい見た目した奴を選出すればいい。今なら代替わりの告知は領民にすらしていない。国王に情報統制させれば誰も分からない筈だ」


 結局、国王のところ行くしかないが、時間がな。足りない。今からアポ取って、それから謁見ってなるとどれだけ時間がかかることだか分からない。もう面倒臭いし、手紙でもいいか。


「アイリス、この手紙、親父に渡して国王に渡すように頼んどいてくれ。早急に頼む」


 ちょっと前文に領地の借金に関する恨みの言葉や皮肉を混ぜながらも、本命は商会の合同調査のお誘いと情報操作のお願いにしておく。最後に、封筒に入れ、溶かした(ろう)を垂らし、その上に領地のシンボルが入った判子を押して封をする。


 この蝋で封をするのがやってみたら結構楽しくてハマっている。別に糊とか作ってもいいのだが、後回しにしている。


「一先ずこれで経過待ちだな。果報は寝て待て、だ」

「何だそれは?」

「いい報告は落ち着いてゆっくり待て、的な意味じゃなかったかしら」


 シャルル正解。地味にこいつ何でも知ってるよな。


「んじゃ、それまで生きてろよ、ヒノキさん」

『ホホホ、人間に心配されるほど弱ってはおりませぬ問題ありませんよ』



※※※※※※



「さて、次は何をするのかのぅ?」

「このヒグの笑み。何かやらかすときの笑みだ……。くッ、アイリスよ。早く戻ってこい」


 扇角とティアが覚悟を決めていた。親父に手紙届けたりしてるからアイリスは現在不在だ。というかちょっとニヤニヤしてた自覚はあるけども、そこまで責めなくていいだろう。


「製鉄だ。製鉄所を創る!」

「確かに、儲けられるわね。武器を作るにはもってこいだもの」

「儲けるって一点においては軍事産業は強いからな。でもまあ、俺も普通に造りたいものがかるから、ついでに儲けるって感じだな」


 大量の鉄があればやれることは広がる。そのためには鉄鉱石が必要なのだが、その目星はついている。既に地図に印を入れている。ボロボロで精度も少し怪しいが、ないよりはマシな地図を広げ、指を指す。


「ここだ。ここに錆び鉄が産出される鉱山があるらしい」

『あぁ、錆び取りスライムの棲みかか。近くに我の寝床もある。そこで宝物を回収しよう。約束の報奨だ』


 半ば忘れかけていたヒュドラ退治の報酬の話をグレアが掘り返す。


 この領地とベルレイズ公爵領はかなり距離が近い。特に、件の寝床はこの領地の範囲内だが、境界線に近く、中心都からの距離で言えば、ほぼベルレイズ公爵領と言っても過言ではない。


 ここから下って人間が多い場所を目指したなら、確かにベルレイズ公爵領中心都に着くだろう。その結果がこの間の魔獣大進行、か。


「というか、錆び取りスライムって何よ?創、あなたも突っ込みなさいよ。錆び取りスライムなんて、地球では聞いたことすらないわよ」

「んじゃ、グループ分けだ。採掘組と居残り組に分ける。俺に着いてきて採掘に付き添うメンバーが……」

「無・視・す・る・な」


 頬をつねるな、つねるな、つねるな。痛い千切れる止めろ。というか喋れん。あ、やっと解放された。でも完全に目が笑ってない。知ってる。これ起こってるときの奴だ。


「いや、何と言うかだな、そんな不思議意味不明生物は無視するに限ると思ってな。錆び取りスライムってなんだよ。もう錆びた剣そこに突っ込めばいいじゃねえか」


 そういやゲームで錆びた武器シリーズゲットして錆び取りするときにスライム素材使ったことあるけど。俺がしてたゲームだと何でもいいから魔獣素材を個数用意ってのがあったな。スライム素材とかゴブリン素材とかがアホほど余ってたから突っ込んだ記憶あるけど。


 もしかしたら錆び取りスライム養殖出来れば便利なんじゃないか?


「使えない錆び鉄鉱を取り込むことで普通の鉄に変えるスライムのことだな。悪魔族の中で養殖が試みられているが、蛮勇、と言ってもいいほどの狂暴なその性格故に難しいな」

『アレは我相手でも戦いを挑んできた。全く、何処に勝ち目があると思ったのか。そのせいで数は少ない。死体を使えば、と考えた人間がいたが死体では錆は取れない。錆び鉄鉱を鉄に換えて使うのは不可能で、その洞窟は珍しい魔獣も素材もない無用の長物、だな』


 おい、もしかしたら錆び取りスライム人工的に養殖出来るんじゃないかって思っていた俺の理想が一瞬にして砕け散ったぞ。というか種の保存的に考えて実力差がある相手に挑むなよ。絶対家畜化した方が安全に繁殖できるし、そうでなくとも強者に挑まなければもっと数はいるだろうに……。


「しっかし、錆び鉄鉱って言うんだな。鉄鉱石とかじゃねぇのか。というか俺からしたら宝なんだがな。要はお前らの言うところの錆び鉄鉱を鉄鋼に変えられればいいんだろ?出来るぞ」


 これが爆弾発言だったのか、物議を醸す。


「我々悪魔の努力は一体……。だが、そうだとすればあの鉄に溢れた世界に説明がつく」

「ククク、流石にそれは嘘臭いぞ?……え、本当にか?死霊魔法(ネクロマンシー)の視点で錆び取りスライムの死体加工に取り組んだ妾の研究は……?」

『そういえばそんな記憶があったような……』

「もう驚くのはなれたのう」

「右に同じ。ヒグのそれには慣れた。むしろ、突拍子もないことを突然言い出して、夢を現実にするのが我らが主人、ヒグの魅力とも言える。」

「常識壊されて驚く様って、見てて飽きないわよね。創、異世界で何してるのかと思ってたけど、随分楽しい生活を送ってたみたいね」


 皆さん驚いてらっしゃる。というかティアの感想は恥ずかしいし。顔が熱くなってるのが分かる。本人がいる前で語る内容じゃねぇ。せめて俺がいないところで……、いや、それはそれで恥ずかしいな。


 あと、シャルルだけ感想がおかしい。ゲラゲラと腹を抱えながら笑い転げてるけど、いってる内容がこっちの世界の住人に対するただの侮辱な件。確かに生活をなるべく楽しんでるし、楽しみたいと思ってるけど、必死っていうのが一番表現に合っていると思う。


「話は反れたが、チーム分けだ。採掘組は俺、グレア、シャルル、ティアかな。シャルルにはこっちに残って指導をしてもらいたいが、お前絶対に断るだろ?」

「よくわかってるわね。正解」


 可愛さ満点の笑みで微笑むシャルル。話の内容は全く微笑ましくないんだが、……。メリットを聞いて、乗り気になったと思ったところで、「だが断る!」って言ってくるのがシャルルのやり方だ。


 この世界では俺の血以外にシャルルが何かをするメリットがない。鉱石採掘となれば数日は領地を空けることになるが、その間は血を吸えないのをシャルルが黙って待つわけがない。意地でもついてくるだろうから最初からメンバーに組み込んだ方が効率的だ。


「んじゃ、それ以外のメンバーが居残り組だ。採掘も人手いるからナーシェルについてきてもらいたかったんだが、製鉄炉造りをナーシェルにはやってもらう。エドワードと扇角は内政をしといてくれ」

「自らもついていきたいのだがのう。そこな吸血鬼とティアが大切なものを盗ってきそうで怪しいのでのぅ」


 目を細め、シャルルとティアを睨む扇角。確固たる意思を感じる。その瞳が炎のようにギラギラと輝き、揺れている。妙なところで強情だよな、扇角って。


「んー、確かに馬車で腕輪蔵に入らなかった鉄鉱石を運ぶってのも効果的か。んじゃ、代わりにティアが居残り……

「イヤ」


 即答。まさかの問答無用で即答却下。言い終わってすらいないのに拒否された。


「ヒグに変な虫がつくのは我慢ならないから」

「密林じゃねえんだし、軍隊蟻なんていないと思いたいがな」


 ジャングル最強生物の軍隊蟻に襲われたらひとたまりもない。体躯の大きさが仇となって喰われて死ぬ。もちろん、言いたいのがそういう意味ではなく、恋愛的な意味と言うのは分かっているが、どう返していいか分からないから、気付いていないふりして茶を濁す。


「……そういう意味じゃないのに……」


 見たことないほど頬を真ん丸に膨らませて不貞腐れるティア。全く難しい。内政はエドワード一人でまわるとはとても思えない。どうするべきか……。


「悪魔を何匹か喚んで使うか?」

「お前自身の領地はいいのか?」

「もう、後を継がせようかと思っている。五百年も職務をこなせば、十分だろう。もちろん、資金はある」

「そこは安心しろ。お前にも給料は払う。領主よりは少ないかもだけどな」

「創、魔界の環境は劣悪だぞ?給料何てあればラッキー程度のものだ」


 なにその環境。ブラック企業すぎる。いや、今のこの領地も相当ブラックだな。帰れないしな。サービス残業だしな。週休一日だし。一週間に一日休めるとは言ってないからな。


 しかし、どうでもいいけど会社名にホワイトってついてるとブラック企業にしか聞こえない件。ほら、株式会社ホワイト・プリズンとか名付けてみたら完全に響きがブラック企業。


「んじゃ、領地は任せていいのか?」

「あぁ、任せたまえ。必ずや職務を全うしてご覧にいれよう」


 これで扇角もティアもどっちもこられる。一先ず、問題は解決だ。鉄鉱石の大量採掘をするんだから、人手はあった方がいいしな。


「採掘には、露天掘りを採用する。錆び取りスライム?どうでもいい。一応、保護区は作ろうかと思うが、俺たちは今回簒奪者だ。歯向かってくるなら気にするな」

「いや、そもそも露天掘りって……?」

『端的に言うと、自然破壊の極みのような掘り方だな』


 ティアの疑問にグレアが忌憚のない意見を答える。確かに、間違ってはいない意見だが、同時に、意味の取り方が極端な例だな。一応、絶滅対策に保護区を作る予定だが、狂暴な性格をどうしたらいいものか。


「お前が掘ってくれるなら別に露天掘りじゃなくてもいいぞ?」

『絶対無理だ。露天掘りの効率には及ばない。それに、あの辺りは荒野だ。まぁ、よかろう』


 荒野なのはありがたいな。わざわざ木を伐採する手間が省けた。


「んじゃ、明日朝出発だ。採掘組はよく寝とけよ。睡眠いらない奴も多いが、……居残り組もこれから仕事満載だ。体は休めておけ」

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