表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
77/99

地獄の無限残業

「あなたも面倒なことになってるわね。異世界で子供になったのに延々と事務作業なんて」

「異世界転生なんて、冗談にしても質が悪すぎるわ」


 本当に、質の悪い話だ。こいつ、シャルル曰く、向こうでももう数年は経ってるらしい。向こうに戻るかと言われたが、今更戻っても、とは思う。


「実は意地の悪い夢魔の見せた夢幻であったりしてな」

「夢オチって。どんな三流小説でも、このご時世、流石に余程の理由がない限り夢オチはないわ」

「あら、事実は小説より奇なりって言うじゃない。まぁ、私も流石に夢オチは三流もいいところだと思うけど……」


 ハハッ。夢オチなんて笑えない話だ。そもそもこんな長い夢があってたまるか。ハハはハハ……


 ───ドゴォ‼


 何だこの轟音⁉って、ティラノサウルスとUFO⁉は?


「原生民に告グ。ココハこれヨリ植民地。邪魔は排除ス」



※※※※※※



 ……夢か。流石に、ティラノサウルスとUFOが一緒になって攻めてくるとか、どう考えても現実のことじゃないな。


 デスクで寝てたのか。……資料が一杯。まさか戻ってきた?いや、本当に夢オチか?


 って、これコピー用紙じゃない。大きさもかなりばらつきがあるし丈夫じゃない。全部領地の支出とかの紙だ。そう言えば、途中で眠気に襲われてたな。子供の体はこれだから不便だ。


 昨日はほぼ一日、デスクワークで終わったからな。全員寝落ち。で、今に至ると。ぼんやりと夜の闇に光がさして日が登り始めているのが分かる。


 清少納言は春は曙、と枕草子に記したが、確かに、春の早朝はいいもだ。窓を開けると入り込む気持ちいい空気。幻想的なぼんやりとした光の当たる感覚。何より、


 ───花粉症が無い‼


 日本で俺がどれだけ花粉に苦汁を嘗めさせられてきたことか。目が、鼻が、毎年春と秋に襲ってきた。だがこの世界では関係ない。


 元々花粉症とは、人間が起こした失敗だ。日本人は第二次世界大戦直後、復興のために木材が大量に必要だったので手当たり次第に植えた。


 その結果として、杉がアホみたく増え、伐採する人も、木材など外国産の木材が安いから日本産はあまり売れないのでいない。だから放置された杉は増えまくって花粉飛ばしまくってる。それが現状。


 と、まぁ、これが現代人に花粉症の人間が増えている理由である。しかし、この世界はそんなことはしていない。


 ───去らばだ杉、(ひのき)、ブタクサ‼


 とまぁ、どうでもいいことを考えて目を覚まそう。……ん?足音か。ヒールのカツカツとした音だが、この時代ってそもそもヒール、有ったか?


「何だ、お前か。シャルル。起きてたのか?」

「ええ。私には特に睡眠とか食事とか必要ないの。百年に一回寝れたら後は少しの魔力で賄えるわ他は、アンデット勢とあのエドワードとか言う弱小悪魔は資料保管室で元気に肉体的疲労より精神的疲労が辛いという顔して死にかけで働いてるわ。あら、もう死んでいるのもいたわね」


 流石チート生物。百年に一回で十分って言ってるが、何時間くらい寝るんだこいつ。そういや、こいつの寝顔、拝んだこと無かったな。いっつも俺が先に寝て後に起きてると思ってたが、そもそも寝てなかったのか。


 しかしエドワードを弱小呼ばわりね。本当に底が見えない強さだな。


「って、ちょっと待て。食事とか要らないって言うことは、俺から血を吸う必要って無いんじゃね⁉」

「嗜好品。煙草とか酒とか珈琲とかと同じ、必要不可欠ではない、趣味の品よ。というか貴方、目の(くま)、凄いわ。顔を洗ってくればどう?まぁ、疲れた顔の貴方も好みではあるけれどね」


 成る程。嗜好品ね。しかしその後。余計なお世話だ。昔から、前世でも今世でも徹夜したら直ぐに隈が出来るんだよな。流石にお偉いさんに会うときは化粧で誤魔化すとかしてたけど。


「隈に関してはほっとけ。というかお前は隈出来なくていいな。その美貌も年齢でも疲労でも全く損なわれない。女にとっては夢のようだな」

「あら。誉めても何も出ないわよ。それから、とりあえず電卓、大量に買い込んできたわ。ダ■ソーで」


 ダイ■ーかよ。日本じゃん。というか、もろ100円均一店じゃねえか。まぁ安いけど。関西人の性みたいなもんで安ければ安いほどいいとは思うけど。というかよくそんなに在庫あったな。


「在庫について不思議に思ってる顔してるわね。何店舗か回ったのよ。……というわけで、血を頂戴♪」


 しょうがない。今回は頑張ってもらったからそれに応えるべきか。……しかし、危うく死にかけた恨みは忘れんぞ。


「程々に、俺が死なない程度にな」


 あぁ、クソ。ボタンが中々外れない。地味に着け外しが難しいんだよな。このワイシャツ。やっぱり地球産と比べると劣るか。


「じゃあ、頂きます」


 って早ッ‼でも、人外の化け物からしたら、このスピードも大したことないんだろうな……。笑えない。


 ───ガチャ


「「あ。」」


 間抜けな声だと自分でも思う。目が合う。それはもうバッチリと。ピッタリと。シンクロしたかのように。誰とかって?入ってきた一般職員Aだ。


 名前も知らない、だけどこっちが名前を一方的に知られている相手。あーあ。この光景って、他人から見たらどう思われるんだろう。少なくとも悪印象であることは確かだな。


「し、し、し、失礼ひまふぃた‼」


 無茶苦茶噛んでるけど大丈夫か?というか絶対良からぬ誤解されたな。どうしようか。評判が地に落ちる音がしてるぞこれ……。



【追伸:一般職員Aは後でシャルルが記憶を改竄しました】



※※※※※※



 シャルルが俺の血を吸った後。この領地に来て三日目の朝を迎え、この世界では貴重な紙が山積みのデスクにへばりついて仕事を片付ける。


 重厚で高級感溢れるデスクはいいのだが、子供の伸長だと椅子の上に正座しなきゃいけないのが地味に辛い。


「俺は政治家に成りたい訳じゃないんだがな」

「貴族って言わないのが日本人らしいわね」


 こっちでは逆に『政治家』という言葉がないので『役人』と『貴族』を合わせた単語を俺が勝手に作って政治家と呼称している。


「ヒグ様、こっちの書類、お願いします。あと、借金の返済がヤバイです」

「……ヤバイですか」

「はい。……ヤバイです」


 深刻な顔で渋々と伝えるアイリス。魔獣と隣の帝国。二つの脅威に挟まれたこの地では戦争が必然的に多くなるため、借金が膨らんでいる。それはもう膨大に。……本当にどうしよ。(絶望)


 因みに額は、……利子合わせるとだいたい、地球の世界トップレベルの会社を買収できるんじゃねってくらい。泣きそう。


 俺も色々、魔獣討伐や科学で作ったグッズで商売したりでかなり稼いでいるんだが、圧倒的に足りない。ヒュドラ討伐の億を優に越える大量の賞金があるにも関わらず、だ。


「魔界から金塊でも持ち出そうか?私にも領地があってそこを運営しているのでな、人材も派遣出来る筈だ」

「出来ればそれには頼りたくないな。一度頼ると泥沼化する危険性がある。というか、お前の領地はいいのか?こっちの仕事やり過ぎて地元を疎かにするなよ」

「まぁ、時たま帰らせて頂こうか。それよりも現在はこちらの方が緊急だろう」


 ぐうの音も出ない正論とは正にこの事。というか国王。全ての現況。借金がある領地なんて押し付けるなよ。くれるならもっとマシなのくれよ。せめて。アイツ、面倒な領地ただただ押し付けただけじゃねぇか。何が褒美だよ。


「他領と国から借りてるのか。あぁー、成程。民間からはプライドが邪魔して借りなかったのね。……だが知らん‼銀行作って国債を発行する。民間人から金借りるぞ。銀行は原型があるからそれを応用。それからこの土地の土倉……高利貸しっていった方が分かりやすいか?そいつら全員買い取って銀行員にする」


 ノウハウがある奴等何て、元々営んでいた奴等しかいない。だが、問題点があるとすれば……


「ククク。もう考えているという顔をしているがあえて聞こう。悪どい商売をしている者はどうするつもりだ?あ奴等はやっかいじゃぞ?」


 ナーシェルがにやにやと笑いながら、横からやってくる。確かに、それは懸念していた点だ。まぁ、発破をかけてきたのはナーシェルなのだから、ナーシェルにやってもらおう。


 土方歳三を。


「ほれ、これ見ろ」

 紙を丸めたものを投げる。パシッ、と気持ちいい音を鳴らしながらキャッチするナーシェル。


「局中法度?」


 背いたものは切腹することで有名な局中法度。壬生浪士組、またの名を新撰組、が使っていた隊内での規律。鬼の副長土方歳三によってこの局中法度がつくられ、元々浪士の集団だった新撰組を纏め上げた規律だ。


 最終的には、その規律で、沢山の仲間を殺してしまうことになるのだが……。

 そうならないように、改編するところは改編している。


「ククク。甘い奴だと思っていたが、妾の主は存外厳しいのだな」

「本家本元よりはマシだ。その局中法度の本家本元さんは違反したら全部切腹、腹切って死ねっていう規律だったぞ」

「ハラキリね♪日本の武士の伝統文化の」


「「「「ナニソレコワイ」」」」

「違うからな‼というかわざわざ誤解招く言い方すんなよシャルル!」


 アイリス、扇角、ティア、ナーシェルの視線が突き刺さって痛い。ドン引きしてる。まぁ、自殺が伝統文化とか言われたらそうなるか。シャルルめ。恨むぞ。


「はい、はい‼この話止め!とりあえず、そういうことだからナーシェル。監視と引き締め頼んだ‼切腹はさせなくていいからな⁉そこのところ本当によろしくな⁉」


 切腹されたら俺が困るわ。主に評判的に。議会開こうとしてるのに恐怖させると議員が全く集まらないし、戦々恐々とされながら政治進めるのは嫌だ。というか独裁者と勘違いされそう。


 独裁者と言われて多くの人が思い浮かべるであろうナチ党の、ユダヤ人虐殺で有名な第二次世界大戦を引き起こした張本人、アドルフ・ヒトラー。


 ヒトラーの政治技術は、今でもスピーチや政策でヒトラーのやったことを勉強して真似する政治家もいるほどに優秀だったけど……。そこは模倣させていただくつもりだが、流石に負の面、虐殺とか独裁まで模倣する気は更々無い。


「ティアはアイリスについていけ。まぁ、アイリスの魔力とアンデットの腕力、それに例の力が有れば問題ないと思うが、念のための護衛だ。アイリス、別に無理に買収する必要はない。民間の金融企業が有っても別にいいしな。これ、計画書だ。説明する時に使うだろ。持ってけ」

「分かりました。では行ってきます」

「任された。私が妖精だとバレても別に特に問題はないが、アンデットは嫌悪対象だ。アイリスの正体が判明しないようにサポートするとしよう」


 信頼できる二人だ。先ず任せておいて問題ないだろう。さて、役割分担だが……。


「選挙についてのチラシの配付はエドワード。頼んだ。速攻で済ませて帰ってこい。各家庭に配ることになるが、どれくらいかかる?」

「創にしては珍しく失念しているな。この世界に郵便受けは無いし、一般人は皆が皆文字を読み書きできるわけでは無いぞ?」


「あ、……」


 そういやそうだったな。全く意識したことないからてっきり地球と同じで各家に郵便受けあると思ってたわ。そら、郵便局がなくて飛脚すら少ない。


 そもそも義務教育が十分に行き届いていない国の端。そもそも義務教育と銘打っているが、学費が払えず通えない家庭も多い。読み書きできる者という条件をクリアしたとしても、民間人が郵便を頼むことなどほとんど無い。文書のやり取りなんての大商人とか企業、貴族がやるもの。


「あぁ、クソッ‼また問題出てきたじゃねえか。エドワード。取り合えず、官営郵便局の設立。郵便受けの無償配付、……あと必要なのは代筆屋雇いか。頼んだ。でも結局読むことができなかったら意味無いんだよなー」

「了解だが、……結局、立憲民主制への移り変わりとそれに伴う選挙の告知はどうする」

「不本意だが、少し予定を延期。……いっそのこと真空管でも作ってスピーカー設置しまくるか?フィラメント用のタングステンは無いが魔法金属の類いを使えば耐熱性に問題はない。十分に耐えうる筈だ。でも作るのにどれだけ時間がかかるかも分からねぇし……」


 駄目だ。問題が山積み過ぎる。親父や国王ははこの量を、いやもしかしたらもっと多くの政務をこなしてるのか?


 ……いや、よく考えたら改革一気にやり過ぎてるだけだな。


「しかし、手際がいいな。貴様の記憶を覗いた限りでは政治家を志したことなど一度も無かったが、一体何故だ?」


 その見た目故に今まで姿を潜めていたグレアが問いかけてくる。というかよく見ると不気味で普通に怖いなこいつ。


「科学をするのに必要なのは何か分かるか?」

「情熱、とかかのう?」


 扇角の答えはあながち間違ってはいないが、残念ながらそんな精神論根性論を語るようでは及第点すらあげられない。


「それは前提条件だ。あるのは当然。その上でだ、現実的なこと言うと、金と道具。それを得るための人脈、コネ、交渉術、心理学。ほら、全部政治に応用出来るだろ?」


 実際のところ、発明や科学実験をするにあたって一番大きな壁は資金だ。結局、資金援助がなければ何もできない。チャールズ・バベッジもそれで躓いたほどだ。


「夢が無い話だな。だが、発明には往々にして金がかかるというのはよく分かる。ククク。懐かしきかな。妾も昔、魔道具発明にかなりの金を持っていかれた」


 やっぱりそこがネックだよな。魔道具の発明も同じか。既存に無いものを作るのだから、簡単に出来るわけがないよな。


「成程、興味深い話だった。おっと、人が来たな。そろそろ我は隠れるとしよう。いくつか仕事を我宛に斡旋しておいてくれ」

「了解。んじゃ、後で扇角に届けさせるわ」


 グレアには特例で部屋を与えてある。表向きには倉庫になっている。


「領主様、こちらの書類の確認、お願いします」


 本当に人来たな。気配感知能力ってすげえ。


「分かった。そっちはどうだ?何か困ったことは無いか?」

「いえいえ、領主様やそのお連れの皆様が大変優秀なので助かっております。……一部、領主様の年齢にとやかく言う者も居ますが、地獄の無限残業から解放されると、皆歓喜しております」


 地獄の無限残業って、大丈夫か?よく見ればこいつも、もう昼なのに深夜テンションでハイ状態で目が虚ろ。どこからどう見てもおかしくなってるし……。


 人を雇おうにもその金が無い状態。畜生。後で絶対、国王の寝室にゴキ■リばらまいてやる。


 その後日、王城内でゴキ■リが大量に発生し、騎士、魔導師総出で討伐に当たったのは別の話である。


 ゴキ■リホイホイを作ったヒグが法外な値段を吹っ掛けて売ったのも別の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ