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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
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魔法を科学する

「さっきはすまなかったな。こちらも色々、やることが山積みだったものでな。考えることが多かったので、整理をつけるために一時的に席を外させていただいた。改めて、ヒグ・ベルレイズだ。よろしくな」


 先程の失態を取り繕うために、なるべく爽やかに微笑みかけ、握手を求めて、手袋を脱いで右手を差し出す。


「えっと、エミリアナ……です。あの、こちらこそよろしく……お願いします」


 エミリアナは、「よろしく」といいかけ、慌てて敬語を付け足すと、おずおずと、緊張した様子でゆっくりと手を差し出し、ヒグの手を握る。


「で、国王さんや。訪問するならアポイントメントをとっていただきたいんですがね」


 国王を睨みつけ、文句を垂れ流す。唐突なことで焦らされたことに対する八つ当たり的な感情が入っていることは認めるが、睨むくらいはしていいと思っている。


「ガキが何を大人みたいなことを言っておる」


 多分お前とそんなに年齢離れてないぞと思いながら程々に聞き流す。実際に、五歳くらいしか離れていない。


「はいはい。取り敢えず、大した持て成しは出来ないが、適当に寛いでくれ」

「なぁ、それなら取り敢えず初見の者たちを紹介してくれないか?」

「何だ?親父、いたのか」


 もちろん、気付いていたが少し嫌がらせをしてみる。これも八つ当たりだ。後悔はしていない。


「取り敢えず、この銀髪男がエドワード」

「よろしく頼む」

「それから、俺の中に同居している竜のグレア」

『右に同じく、よろしく頼む』


「同居とか、突っ込み処が多いのだが……」


 確かに息子に竜、ヒュドラが同居していると聞けば動揺するのが普通の父親というものだろう。ドラゴンと契約しているらしいからハードルは低いと思っていたのだが、流石に無理があるか。


「ナー……

「失礼」


 ナーシェルが口を塞ぐ。というか死体の筈なのに腐臭が全くしない。それどころか女性らしいバニラのような甘い香りが鼻の奥に流れ込む。


「ナーシェルでは少し外聞が悪い。シェルで頼む」


 耳元で囁かれる。耳に息がかかって妙に恥ずかしい。しかし言っていることはごもっともだ。冤罪とはいえ、国王陛下相手に、王国の裏切り者の名を堂々と晒すのはどうかとおもう。


「あー、こいつはシェルな。んで、シェル。グレアのこと、何とか出来ないか?」


「フム、つまりグレア殿が宿れるものがあればいいのだな。ならちょうどいいものがある。何の触媒にするにも含有魔力が多すぎて困っていたトカゲの死体、まぁ肉やら皮やらははがれた故に骨だけだが、ドラゴンもトカゲもにたようなものじゃろ。……これを使うか」


 完全にドラゴンに対する冒涜としかとれない言葉をグレアと親父の契約ドラゴンの二頭の前で堂々と放つナーシェル。こいつ大物だな。


 注釈※ヒグ含め、ナーシェル以外は知らないが、この骨、トカゲなどと軽々しく言っているが、かつて並みのドラゴンよりも強いと言って王国含め周辺国に恐れられ、無二斎ら太陽国含めた三か国連合軍によって討伐されたリザードマンの骨である。


『おい、これは……』

「ただのでかいトカゲの骨だ」


 有無を言わさずただのトカゲと言い張るナーシェル。しかし、この大きさ、そして眉間に生えた一本角を無視してただのトカゲと言い張るのは無理がある。


「いや、それは流石に無理があるのではないのかのう」


 扇角が俺の思考と全く同じことを口にする。というか、扇角に限定せずとも、大概の奴が同じ思考をするな。

 それに対するナーシェルの返答は……


「ただのトカゲの骨だ」

「あー、もうそれでいいわ。さっさとしろ」

「いや、よくないでしょ。流石に私でも分かるよ」


 エスタが突っ込んでくるが、話が進まないので聞こえていないフリをする。


 俺の胸の辺りから何かが抜けていくような感覚の後、プラズマか、リンを燃やして浮かしたかのような浮遊発光物体が現れ、頼りない軌道を描いてトカゲの骨に宿る。


 因みに、先程例えに出したプラズマとリンは墓場で魂やら幽霊やらを見たという証言を科学的に考えた結果、恐らくこれだろうと言われているものである。


 個人的には、墓場には骨があるので、骨からリンが抜け出し、夏の暑い日に自然発火したという説を支持していた。リンは30度とちょっとで自然発火するはず何だが、この世界に来て本物の幽霊を見せられてからは、幽霊はいると言わざるをえない。


 誠に遺憾だが。


 トカゲの骨がメキメキと音を立てて変型する。追加で二本?というか二頭か?生えてくる。元のヒュドラの形態に近い形に成ろうとしているのか?


 というか、グレアが立ったから分かるが、完全に二足歩行の動物の骨格だ。これ、リザードマンとかその辺の魔獣の骨じゃないか?絶対ただのトカゲじゃない。


 しかし亡霊女王とリザードマン?何処かで聞いた覚えがあるような気がする。


「む、何か障気のようなものが漂っておる気がするが……まぁ良いか。改めて、グレアだ。よろしく頼む」

「兄さんは何処からこの人?たち連れて来てるの」

「あー、……成り行き?」

「もういいわ」


 視線が痛いが完全に無視。親父は呆れ果てて諦めている。なんか親父の契約したドラゴンがグレア相手に平伏しているが……前にチラッと言っていたドラゴンの序列意識的なものか?


「取り敢えず、本題に入りたいんだが、いつまでいんの?というかそこ、お袋、王妃、こそっと入ってくるな。せめて堂々と入れ。息子の部屋だろ。いや、そもそも入室許可……もういいや」


 面倒になったので諦める。だってお袋の顔がどう考えても反省する気が無さそうだから。これ以上言っても時間のムダだな。


「いるなら勝手にいろ。さて、本題だ。つっても、ほぼ俺とエドワードがメインの会話だと思うが。……議題は魔法についてな。まず魔法を俺の得意分野の科学で解明出来ないかという話だが、魔法に科学法則を当てはめていくところから始める」


 黒板にチョークを走らせる。今のところ検証、確認されている法則を片っ端からリストアップしていく。


「えーと、先ずエネルギー保存の法則、質量保存法則は魔力を消費するからあると見ていいな。それから、火魔法、酸素が無いところでは使えないから普通の火と同じと考えていいな。逆に酸素が大量にあるところに入れたら活性化するし」


 石灰水は二酸化炭素に反応して白く濁る。その石灰水が白く濁ったことから、二酸化炭素が発生するのは確認済み。つまり、炭素を含む。イコール、有機物。


 魔力が燃えてる可能性がある、と。魔力可燃性気体説とでも名付けておくか。んで、次が、


「えっと、お、お義兄さん?何を……書いて?」

「あ、あー。まだいたのか。いや、魔法の正体を突き止めようとしているだけだ。気にすんな」


「おい、ラクルス」

「はっ、ここに」


 国王が呼ぶと、魔法使いらしき人物が現れ、膝をつく。グレアがそこに隠れていると言っていたから存在は予め知っていたが、急に現れられると驚くな。


「至急メモをとれ」

「畏まりました」


 おいおい、居座る気かよ。まぁいいか。気を取り直して、水魔法だが、水は電流を通し難かったし、水酸化ナトリウム入れて電気分解したらちゃんと水素と酸素に別れたから純粋な水とみていい。

 つまり、水素と酸素も含む。


 水酸化ナトリウム等のことを電解質といい、普通の状態では電流を通さないが、水に溶かすことで電流を通すようになる。


 純粋な水は電流を通し難い。硫酸や水酸化ナトリウム水溶液はは電気分解で水素と酸素を発生させるので、中学校の授業の水の電気分解をする際によく使われる。


「しれっと分からない単語を使っておるな。何?水酸化?」

「シェルさん、水酸化ナトリウムというのはですね、物を溶かす危険物です。死体を隠蔽するために溶かす時に使うとか言っていました」


 水酸化ナトリウムを知らないナーシェルにアイリスが補足説明を行っている。いや、間違いではないんだが……死体処理に使うものという認識はやめてほしい。


「あの右の棚の上段にある、NaOHと書かれた札がついている瓶に入っている白い粒のことだな」

「記憶を覗いたときに見たな。確か化学式というらしい」


 前者はエドワード。後者がグレアだ。エドワードに前世で会ったとき、今度会うときまでに科学の勉強をしておけと言ったが、本当にしているとは思わなかった。


 グレアは、……なに勝手に他人の記憶を覗いてるんだよ。あとそれを覗いた本人の前で堂々と言うな。せめてこっそり言え。


「他にも物を溶かすものに、硫酸、塩酸、混酸なんてものもあります」

「また危険なものばっかり……」

「おい、アイリスやめろ。バカ。エミリアナに引かれてるだろ」


 エミリーなのかどうなのかははっきりしない。俺もかなり前世と外見は似てると思うのだが、気付いた様子もない。エミリーだとしても記憶があるかも怪しい。


 でも、何となくだが嫌われたくない。……過去に恋心を抱いていた故だろうか。


 そんな俺の心境は知らないらしく、エミリアナはクスクスと笑っていた。


「何で笑ってんだ?」

「……あ、あの、ごめん。悪気は無くて。ただ、さっきまで結構大人っぽかったのに、急に焦ってるところ見ると私や弟、エスタさんと同年齢なんだなって。今更だけど思って」


 まぁ、見た目はな。中身はオッサンだぞ。自分でも落ち着きはないと思っているから子供っぽいのは否定しないが……。


「それにしても、凄いね。何にも無いところから、色んなもの作って」

「残念ながら科学は無から有を産み出せなくてな。何にも無いところから作るのは無理だ。そこにある何かを応用するのが科学だ」

「確かに」


 確かに?──こいつの前で科学実験も道具製作とか、一回もしてないよな。何で見てきたかのように?


「いや、あまりよくは知らないんだけど、お父様に植物を色々貰ってるって聞いたから」


 成る程。そういうことか。確かに結構融通して貰ってたな。特に竹はありがたい。


「それに、……将来夫になるかもしれない人だから」


 エミリアナが恥ずかしそうに頬を朱に染めて言う。そこで思い出す。懐かしい記憶を。


『You may be going to my husband.(貴方は将来、夫になるかもしれない)』


 そのとき、エミリーは頬を染め、イギリス人の本領発揮というべきか、超早口の英語でなんとか聞き取るのが精一杯だった。


 ───似てる。


 そう思うと、俺の顔も熱くなり、朱に塗り潰されていくのが分かる。照れていることを自分で自覚したときが一番恥ずかしいな。


(うぶ)よの~」


 年の功を持つもの故の余裕か。ナーシェルが煽ってくる。心なしか、グレアの骨の顔がにやけてる気がする。エドワード、アイリス、扇角、ティアは隠す気なくにやけている。


「外野、五月蝿い。関係あること以外は喋るな」


「なら関係あることを言おう。……妾が調べた情報では、神獣最強と言われる黄龍様が一週間近い準備をし、触媒として特別な物質を用意。その後数日寝込むというリスクを背負って放つ最強の攻撃は空気が無くとも燃え、その光は周囲にいる者を病に犯すというが……」


 ナーシェルが爆弾発言を落とす。空気が無くとも燃えて、光が周囲にいる者を病気にする……日本人なら誰でも知っている、広島と長崎に落ちた災厄。


「原爆……核じゃねぇか」


 思わず顔が青ざめる。


 あの神獣とかいう超生物に勝てるのは核くらいしか無いと思っていたんだが、まさかまさか、その核を神獣の内の一体が使えるとは。


 本当にふざけた生物だな。代償が有って良かったわ。流石に代償無しで放ってこられると最早手に負えない。


 ……適切な代償だとは思えないがな。科学的に核爆弾やらミサイルやらを作るのに何日掛かるのか知らんが、少なくとも一週間はない。


 特別な触媒ね。可能性として一番高いのは、ウラン鉱石とかプルトニウムとかそこらの核融合に使える物質か?


 魔力に核融合物質が含まれているとは思いたくはないが。


「なあ、触媒ってどんなのだ?」

「何でも、光魔法で青い光をあててやると光るらしい」


 ウランで確定だな。


 今のところ確認されているのが水素と酸素に炭素、っていうかセルロースだな。植物魔法もあるし。


 セルロースは炭水化物の一種で、植物の3分の1を締める自然界で一番多い炭水化物だ。化学式が確か(C6H10O5)n 《注釈※大文字の(オー)が酸素のこと。その前の10は水素原子が十個あることを表している》


 魔力の本質は植物に近いのか?

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