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剣と魔法と科学の世界  作者: インドア猫
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暗闇の中で

敵を強くしすぎて後で後悔。(常習犯)

「なんだ、崩落。ガシャドクロかデスドラゴンあたりがやらかしたか?不幸にも落ちたものは哀れよのう。・・・・ふむ、生きてる。なんだ、・・・・ほぅ。おもしろい。実におもしろい。あれほどまでに甘美で、美しく、歪な魂があるとは」


「どうされましたか」


「いや、なに。おもしろい魂を見つけてな。妾の長き人生でもあのような存在は初めて見た。・・・・そういえばもう死んでいたな。・・・・ンンッ。まぁ久しぶりの客人になるやも知れんな。準備だけは、・・・言うまでもないか」


地下の地下。迷宮の最奥にて佇む、その場には似合わぬ豪奢なドレスを纏った美女と、鎧は着けず、ただの和装ながらも圧倒的な強者と感じさせる男。


彼ら彼女らの、停滞し、ただ時間を浪費するだけの人生、否、死人生とでも言うべき時間に大きな一つの変化が産み出された瞬間である。



…ーーーー



「扇角、ティア!無事か」

「あぁ、ティアのおかげでの」

「羽使ったのが何年ぶりか。主が無事ならそれでいいが」


「ありがとな。・・・・さて、まずここが何層かだが、これだけでかい音立ててるのに何も寄ってこない。そしてこの見覚えある一本道」


この一本道。間違いない。落ちる前にいたコロシアムの入り口。80層は越えている。だとすれば残る可能性は一つにして、最悪の可能性。


「90層か」


行くも地獄。帰るも地獄。コロシアムが二つ連続で続く。製作者の底意地の悪さしか感じられない層。通称、選別の層。


死の迷宮には三つコロシアム形式の層があるのだが、上にある二つの層とは一線を画する程の敵の強さの敵がこの層では出現するらしい。


らしいと言うのは、この階層やその先に行って帰ってきた者の数があまりにも少ないから信憑性に欠けるのだ。ただ、この地に来れるような強者でも厳しいというのだから、相当厳しいのだろう。


そして最悪なことはもう一つ。同じような形状のコロシアムが並ぶのでどちらに抜ければいいのか分からない絶賛迷子状態でもある。


「絶望的、だな。脱出しようにも前と後ろ、どちらに抜けていいのか分からない。運に頼るくらいしか方法がない。こればっかりは考えてても分からねぇからな」


「上に抜け・・・・って嘘だろおいおい」

上に抜けるか?と提案しようとしたが、それよりも早く壁が再生していた。まさかの現象に最早開いた口が塞がらない。


「ステッキでも倒してみるか?」


ティアが軽口を言うが、実際にそれくらいしか道を決める方法がないのも事実だ。だがここで無限にあーだこーだ言っていても時間の無駄使いでしかない。


「コイントスで決めるか。表なら前に裏側なら後ろに行くってことで。ホイッ」


コインが軽快な音を立てて飛び、くるくると宙を舞う。三人が一様にコインに注目する。コインはある程度まで飛ぶと空中で静止し、重力に従って一気に落ちる。


そのまま地面へと叩きつけられ、コインが跳ねる。三回跳ねた後に地面で揺れ、その表面を露にする。出たのは裏側。


「んじゃ、後ろに行くか」

「作戦はどうするかの?」

「あのレベルの強さだと大概の作戦は正面から力でねじ伏せられるぞ」


「取り敢えず覗いてみるか」


一行は音を立てないように歩き、コロシアムの入り口から中の様子を伺う。だが見えるのは絶望。楽観視など誰ができようか。圧倒的絶望が理不尽な形としてそこに存在した。


まず目を引くのが何と言ってもガシャドクロの巨体。それが二匹もいるこれだけなら問題ないが、


小柄だが、その身体から尋常ならざる魔力を惜しげもなく発し、そこに君臨し、ガシャドクロ以外アンデットですら近寄らないリッチー。


リッチーごときが相手ならティアがいれば1対1でも普通に勝利を修めることができるだろう。上位精霊とはこの世の生命体の中でもトップクラスに強い。


だがそこにガシャドクロが加わり、数の暴力が介在すれば話しは別だ。魔法によって一騎当千が可能なこの世界でも数の暴力という物は存在する。


そして痛みを感じず、部位欠損しようとも動くアンデットという特性上、銃にできることと言えば弱点を狙撃することくらいしかない。


リッチーとガシャドクロ一匹なら何とかなったが、ガシャドクロが二匹というのが痛い。それに雑魚がわんさかこられたらさすがに無理だ。


なるべく温存しておきたかったがこうなった以上仕方がない。出し惜しみ=死だ。問題はここを抜けたとしても、89層も十分にヤバいこと。


そして最悪の結果だが、もし後ろに抜けた結果たどり着いた先は91層でしたというパターン。これについては最早考えたくもないまでだ。


「仕方ない。ロケットランチャー、もしそれでも無理なら大砲を使うしかないな」


「しかし、それをしてしまうとここを抜けた後が地獄になる気がするのだがのう。そこはどうするのかの?」


さっき考えていたことと同じ疑念を扇角が口にする。だがここでいくら考えていてもより良い方法なんて思い浮かばない。だからこそ、科学者らしくない言葉を堂々と口にする。


「そんときは未来の自分に丸投げだ‼」


扇角とティアが口を大きく開けて沈黙する。こいつアホかとでも言いたげな視線がガンガン突き刺さるがそれをあえて無視して無理矢理話を続ける。


「正直ここでひったすら考えていても拉致があかないしこれ以上いい方法何てそう思い付くもんでもない。なら取り敢えず目的をこの層を抜けることに絞って全力投球するべきだ。別に全部使う気もないし、オーバーキルするつもりも死体蹴りするつもりもない。ただそんぐらいしねぇとここを抜けられないってだけの話だよ」


「いや、まぁ・・・・」

「言っていることは正論なんだがのう」


「勿論、お前らが懸念してることも全部分かった上での話だ。89層も、最悪91層でも地図に従って最短ルートで突貫すれば消耗は少なくて済む。95層以降でもない限りここよりキツイ場所はまずない」


実際に91から94層はその複雑さが難点なだけで地図と方向感覚さえあれば何とかなる。問題点は寝床くらいだが、迷路内にある小部屋や砦を制圧できたら解消される。


トラップに関してはティアが大体見破れる。ティアにはかなりの負担を強いることになるが現状俺達が知る限り、ヒュドラの次に強いのがティアだ。神獣は別だ。何事にも例外はある。


「まぁ確かにその通りだな」

「それに二分の一だしの、89層に出る確率もそう多くない。そちらに賭けてもいいと思うしのう」

「おい、ちょっと待てフラグ立てんな」


そんな軽口を叩きながら綿密な作戦をたてる。ロケット弾の数は少ない。作るのにコストと時間がかかるが故にあまり多くは作れないのだ。


「まぁ見ておけ。私一人でもリッチーとガシャドクロごとき倒してみせる」


ティアがそういって胸を張ると、扇角が冗談じみた声で少しバカにする。


「そんなない胸を張ってどうする気か楽しみだのう」

「平均はある‼平均は‼というかお前のそれは身体を変質させてるから胸があるだけだ‼」


気を使われているなと察する。自然な流れの会話だったようでどこか違和感を感じる会話。普段二人がこんな会話をしているところを見たことがないからだろうとヒグは考える。


きっと場を和ませるために念話か何かを魔法でして、打ち合わせでもしているからこんなに淀みないのだろうと。だが当の本人たちは大真面目でこのやり取りをしていたりするがそれはまた別の話。


「取り敢えず先にガシャドクロ一匹を仕留めて、それからリッチーとガシャドクロを両方相手取るのでいいか?」

「ならば求められるのはなるべく迅速な行動だの。ロケット弾で怯ませてそこの隙を突く戦法。自らとティアが全力で倒すが、その間主は一人になるが大丈夫かのう?」

「そんぐらい問題ねぇよ。それに思いっきり暴れてるお前らの方にどうしても矛先は向くからな。俺なんかついでだろ」


あとはガシャドクロが一匹のみここに近い所まで来るのを待つのみ。まだだ、もう少し、もう少し。


「今だッ‼」


扇角が戦車を率いて躍り出る。それに反応して、こちらを向くガシャドクロ。その骨の顔面に向けてロケットランチャーの引き金を引く。


ヒュー   ドカーン‼


ガシャドクロの顔面から少しずれた肩あたりにロケット弾が着弾し、爆発する。顔の横で爆発が起きたことに怯み、ガシャドクロに隙ができる。


指揮でもしたのだろう。ガシャドクロを守るようにわらわらと集まるゾンビ立ち。しかしティアが魔法で剣を飛ばし、頭を潰していく。


そこを戦車を外した扇角が骨の上を四本足で器用に駆け上がり、弱点の核の部分まで到達。魔法を放ち、踏みにじり、滅多打ちにする。


だが計算が甘かった。ガシャドクロの核は大きく、思ったより壊すのに時間がかかる。その間、他のアンデットたちが黙って見ているだけの筈がない。

リッチーの魔法が扇角を襲う。


「扇角‼」


叫ぶ。精一杯の声でこの危機を伝えようと思いっきり叫ぶ。だが気付いたときには遅く、今から回避をすることは不可能。扇角はせめて頭を守ろうとする。


そんな扇角に思わぬ方向から重力が襲う。だがこの程度の過重など苦ではない。引っ張った者の正体はティアだった。剣や槍を飛ばすときに使う浮遊魔法で無理矢理扇角を引っ張った。


扇角に当たるはずだった魔法は扇角がいた所。つまりガシャドクロの核に当たる。それが決定打となってガシャドクロの核が壊れる。少しリッチーに感謝する。


だがリッチーだけではない。もう一体のガシャドクロがいる。ティアに向かって腕を振り上げる。扇角を下ろすのに必死でティアは気付いていない。


自分よりもはるかに大きい大砲を腕輪蔵の中からだす。こちらの所作に気付いたスケルトンがガシャドクロを守ろうとするが大砲の威力の前にただの骨など無いに等しい紙の防御。


大砲が轟音をたてる。打ち出された大きな金属塊が骨の壁を穿ち、ガシャドクロに到達する。頭に当たったそれはガシャドクロを倒すことはできない。


だがティア程の実力があれば頭を叩いた際にできる隙があればガシャドクロの始末など容易。リッチーが阻害しようとするが、扇角が踏み潰す。


ティアの攻撃を受けて弱っていたリッチーはそれを最後に倒れた。

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