死と生の狭間・ガシャドクロ
「浮遊、全開。くっ、落として・・・なる・・か!」
ティアが必死に頑張るが、加速した落下は中々止まらず、段々と落ち続ける。目的の80層はとっくに超えてなお落ち続ける。
地面が見える。なんとか落ちても問題ないスピードになる。頭を抱えながら衝撃に備える。ッッッ!なんとかなったようだ。あちこちに痣や擦り傷は出来たものの、骨折などはない。
「さて、ここは何層だ?」
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ヒグ達が落ちていたその頃、牛頭とライムも死の危機に瀕していた。冒険者の中でもトップクラスの実力とそれ相応の装備を持つライムでも1体1だと負け6、勝ち4くらいの割合の相手。
四対、八本の骨の脚で地面を這う巨体。その虚ろな、どこか狂気を内包した様な目でただ生者を見つめるのは理性なき怪物、ガシャドクロだ。
ガシャドクロ系はアンデットの中でも相当な上位種。知能や魔力の扱いが優っていると言う理由で勝負になればリッチーに軍配が上がるが、単純な出力ならドラゴンアンデットをも抑えアンデット系最強だ。
今、二人の目の前にいるガシャドクロは低位アンデットを使役し、水の外装を纏っている。つまり最低でもキングクラス以上、属性魔力持ちということだ。正直ノーマルからアーク、ハイ、キングまでの差はそこまで大きくないからいいが、ロードになると一気にレベルが上がる。
キングの時点でも二人で倒す確立は3割くらい。ロードなら死は確実。さらに、このコロシアムタイプの性質は使役、統率種と最高の組み合わせだ。一か所に集まっているアンデットを壁にすれば相手は逃げられない。
「さて、牛頭。状況は分かっているな?」
「ヒュドラロードよりはましだろ」
「確かにな。キングでもロードでもあのヒュドラより上はあり得ないし、人数差を加味してもなおあのヒュドラ戦の方がきつかったが、それでも今かなりの絶望的状況に立たされている。それは理解してくれ。でだ、作戦はどうする?」
今回は神獣の助けなんてない。この状況に加勢してくれる冒険者なんているわけがない。むしろ今が好機とばかりに無視していくだろう。
「ライム、陽動してくれ。その隙に叩き込む」
「分かった。それじゃあやるか」
一瞬で行動し始めるあたりやはりライムはプロだ。感情を振り切り、ただなすべきことをするための切り替え能力。駆ける。翔ける。
「嵐脚!!」
即座にガシャドクロの眼前に移動し、斬りつける。双剣の残像がXの字を描き、ガシャドクロの頭を叩く。だが斬り伏せるには到底至らない。ただひたすらに硬い。
ヒュドラの場合は鱗さえ避ければいくら筋骨隆々とはいえ、その身体は肉で出来ていた。だがガシャドクロは違う。骨。ただの骨。だから剣は突き刺さらず、叩くのみに終わる。
「風跳壁」
風の力によりその壁を蹴ったものの推進力を増加させる壁。それにより、すぐに地面に降り立つ。そして脚の一本を斬りつける。が、表面を浅く砕き、流されてしまう。
肉の様に弾性や柔らかさが無いため、非常に滑りやすい。それゆえに受け流され、大きなダメージを与えるには至らない。しかし注目を集めるにはこれで十分。
その隙に牛頭が詰め寄る。いくら巨体で、八本の脚を持つ化け物とはいえ胴体と頭部は人間の形をしているし、心臓部も変わらない。
アンデットの核は通常、薄く、ほのかに光るのだが、ガシャドクロの核はドロドロと汚れた汚水の様な色をしている。死の迷宮の暗さだとそれが保護色になり、大変見えづらい。
灯りを照らせばバレるため、慎重に這い寄る。しかし核のある動体に人間サイズで攻撃を届かせるのは少しばかり無理がある。ではどうするか。
登る。視覚は生きているので灯りは灯せないが、骨の体のため、痛覚や暑さなどは少しも感じない。つまり登られていても気づかないのだ。例え骨の上で走ろうとも、他に気を取られていて気づけない程に鈍感なのだ。
心臓部の真上に行き、戦鎚を身体強化状態で叩きつける。ピキリという音がして、核に少しヒビが入り、中から魔力が漏れ出る。
これではっきりしたのはこいつはキング級。つまり勝てない相手では無い。続けて戦鎚で殴ろうとするが、怒り狂うガシャドクロに落とされるも何とか受け身を取り、大ダメージを免れる。
「牛頭、ヒビが入れば俺でもいける。下がっていろ」
「いやいや、流石に任せっきりっていうのは漢が廃るし、ヒグ様の配下としてどうかと」
「なら行こう。あのデカブツにトドメだ」
ガシャドクロが六本の脚で体を支え、二本の手を振るう。右手の横振を牛頭は戦鎚を盾の様に前に構えながら後ろにステップで避け、ライムは後ろにバク宙で華麗に避ける。
次に迫る左手の縦の振り落としを二人とも左右に横ステップで避け、その手に乗り、走る。素早いライムが先行する。振り落とされそうになるたびにジャンプで骨を乗り換える。
牛頭はというと、にしがみつき、隙間に戦鎚を差し込むという大変強引な方法で登っていく。だがそれを許すガシャドクロでは無い。
自分の身体に攻撃を叩きつける。ライムは避けるのでそれがガシャドクロのダメージになるが、牛頭は避けるのに適した登り方では無い。ならどうするか。ヒグのクイズや化学で鍛えられた頭は柔らかい。この程度で諦めるものではない。
身体強化を全開にし、骨を掴み、骨の後ろに回り込む事によってガシャドクロを盾にする。何度も強引なやり方だ。
自分の思い通りに行かず、ガシャドクロが更に怒り出す。もう手に負えない位に暴れる。だがそれをもろともせずにライムが近寄る。
同時に繰り出される二つの拳を後ろに避けると見せかけて前に突っ切るというフェイントをする事で二つ同時に避ける。
もうガシャドクロに牛頭を狙う余裕はなく、核に着実に進みよるライムをひたすらに潰そうとする。肋の骨を蹴り、核に突っ込む。
双剣を突き立て、無理矢理亀裂をこじ開けながら、そこに留まるそこに牛頭が何とか這い寄り、戦鎚を振る。
「「はあああああ!」」
裂帛の気合を持って核を破壊する。
ガタガタと音を立ててガシャドクロが崩れさる。だが残念な事に恐怖と危機は去っていない。ガシャドクロの使役していた低位アンデットの群れがいる。一匹一匹は大した事ないが数がいれば恐怖だ。
「意地でも逃げてやろうぜ」




