妖精
「止まれ」
目の前には一人の人間?っぽいのがいた。パーカーのフードを深く被っていてどの種族かは分からんし、魔獣の可能性もある。
ヒュン
音を鳴らして到底、細腕で投げたなどとは思えない速度で、剣が飛んできた。だがしかし、車の装甲に弾かれる。
「チッ、敵だ。面倒な。応戦するぞ。アイリス、扇角、牛頭。行けッ」
「剛力」
「風針・三」
「嵐突撃槍」
「ぶっ飛べッ!」
ドパッ
さっきの間に強化が完了した拳銃。長い事使っていたから、劣化部品とかもあった。劣化部品と一部構造をいじくってさらに威力を高めた一品となった。
ついでに、何気に愛着があるので名前もつけた。アルとフレッド。威力重視の点から、ダイナマイトを作ったアルフレッド・ノーベルからとった。
……そんなこと言っても、この世界の人にはまず間違いなく、伝わらないがな。
銃弾と魔法が数発当たったが、相手はなかなか素早く、牛頭の攻撃が当たらない。こっちも手一杯だ。何せ相手の剣や槍を浮かせて飛ばしてくる魔法が厄介だ。攻撃にも防御にも使われる。
某英雄王とか無銘の英霊が思い浮かぶ。最悪の敵じゃねえか。偶然の遭遇イベントがあっていい敵じゃない。
といっても、ここはゲームでもなんでもねぇ。現実はいつも無慈悲でどうしようもない。だからこそ、精々抗うのが人間のやり方だ。
「たしか妖精の魔法に浮遊魔法という固有魔法画あったが、……まさかのう。いやしかし、妖精にしては羽がないの。ならば違うか」
妖精なんかいたんだ。初耳だわ。いや、エルフがいるなら妖精もいておかしくないし、絵本でも出てきた。案外絵本の大半が実は実話だったりしてな。
……我ながらしょうもない駄洒落だ。
「牛頭、避けろ!」
剣が飛んでくる。その後の硬直の隙にアサルトライフルをフルオートでぶち込んでやる。
そこに牛頭の大槌による一撃が決まり、アイリスと扇角もここぞとばかりに大技を打ち込む。カウンターが上手いこと決まった。
「拘束しとけ」
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さて、楽しい楽しい尋問タイムだ。
まずはパーカーのフードをまくって顔を晒してやる男かと思っていたが、女だった。
「クッ、殺せ」
どこの女騎士だよ。思わず、俺の種族が人間であってオークじゃないことを確認するレベルだ。
「その前に色々聞きたい事があるんだが」
「何を聞いても無駄だ。さっさと殺せ」
「おっと、魔獣の世界は勝者に絶対服従。違うか、妖精よ」
「知ったかぶりを」
否定しなかった。つまりこいつは妖精で間違いがない。その割には、やけに弱い気もするが、こんなものなのか?
「と言われても、自らはユニコーンなのだがのう。といっても信じぬか。ふむ、これでどうかのう」
扇角が擬態を解く。すると、白い毛並みに薄緑の輝きが混じった、美麗な白馬のユニコーンが姿を現す。
病気に犯されてた以前に比べて、飯もちゃんと喰ってる。痩せ干そっていたのが、大分マシな体つきになったな。脚がしっかりとしている。
「まさか本当にとは。グッ、まぁいい。質問とはなんだ。答えれる範囲で答えよう」
「ぁ〜、取り敢えずお前妖精でいいんだよな。なんで俺たちを襲ったんだ?」
「羽はないが妖精だ。襲った理由だが、里を追われて羽を毟られ、生きていく術がなかったからだ。腹も減ってな。体力がなくて意識も朦朧としている。今はなんとか耐えているがな」
「そうか、取り敢えず食え。話はそれからだ。後々聞く」
飯を与えたら貪り出した。因みに、カツ丼だ。由緒正しい尋問のお伴だな。というか、既視感が半端ない。さっきもあったよな。ハハハ。
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「父親が罪を犯した。それで母は自殺し、私は追放された。ただそれだけだ。フフフ、笑えばよい。所詮どうしようもない不幸自慢だ。本当に、自分でな言っててどうしようもないくらいに泣けてくる」
妖精の目から涙が溢れる。だんだんとその量は多くなり、次第には声を上げて泣き出した。
一頻り泣いた後、疲れたのか眠ってしまった。可哀想だが、俺たちに何かが出来る訳でもない。妖精における犯罪行為を裁くのは妖精の法で。
出来ることと言えば、憐憫を抱くことだけ。どうしようもない。
俺たちはギルドに盗賊たちを渡して報酬を貰ったあと、馬車小屋に行って車をとめた。ちらっと手配書を見ると、謎の人物として妖精も指名手配犯の賞金首になっていた。
だが、どうもギルドに引き渡すつもりにはなれない。
妖精が起き、俺は今後について本格的な話を切り出した。




