表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
②シャリム外伝・潜竜談  作者: 芳沼芳
4/18

足下から鳥が立つ

 わたくしは仔鹿(バンビ)の手首を取って、その動脈の匂いを嗅いだ。暖かい体温と共に脈打つそこからは、ほのかに漂う生命の香りがした。


「嗚呼っ先輩、こんなのどうせ気紛れですよね。でも本当の本当ですか、お相手がわたくしなんかで本当に宜しいんですか」


 震えるその唇目掛けてやや強引に、でも触れる際は優しく、しっとりと口づけを交わした。袴キュロットのチャックを降ろし、着ている上衣との間に指を差し入れ、衣服の中に手を入れてから直接肌に触れると、仔鹿(バンビ)は一瞬身体を跳ねさせたが、そのまま全てを委ねてくれた。邪魔なシスターが駆け付けるまでは。


「貴方達、そこで何をしているのっ。今すぐ離れなさい、すぐにっ」



 花嫁学校と名高い玫瑰(まいかい)女学院に通う娘の醜聞が届いた時、母は泣いた。父は怒鳴り、責任の所在をもう一人の生徒に負わせようと試みたが、肝心の娘が学校全体の前で謝罪した後では、もう取り返しがつかなかった。こうしてわたくしは潔く退学処分を受け入れ、卒業間近の学校を去ることにした。


 屋敷の中は以前より更に冷え切って、父は成るべく早く親不孝者の娘を追い出す為、手当たり次第に社交の場へ連れ出した。しかし壁の花を決め込む娘は何の成果も求めようとせず、父は苛立ちのあまり帰りの車内で娘の白粉まみれの頬を張ると、途中で車を止めさせ別宅の愛人の元へ向かうのが常だった。母は母で泣き暮らす毎日を送り、現状を招いた責任を全て娘に帰すると、己が身の不幸を嘆いて罵り、それにも飽きると酒に溺れた。そんな折に、大伯母から1本の電話が入った。


「アリネです。何の御用でしょうか」


「貴方、縁談を探しているのでしょう。良いお話があるの」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ