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②シャリム外伝・潜竜談  作者: 芳沼芳
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極彩色の中で息絶える

 ヴィンラフ一族が住まう厳重警備の邸宅へ、シャハルが滞在したのはたった3日のことだった。というのも、突如仕事仲間からの救援要請が入り、高山病で倒れたスタッフの代打を頼まれたからだった。


「という訳で。しばらく連絡も取れないし、帰ってくるのはいつになるか分からないから、腕白ぼうやには宜しく言っといて。二人共」


 クレメンタインは果物ナイフでスターカットした林檎を咀嚼しながらそれに頷き、ネルガルも、寝っ転がったソファからヒラヒラと手を振って了解の意を示した。その後、仕事の打ち合わせから帰宅したシャリムは、両親からシャハルの不在を知らされて酷く動揺した。そして近くにあったテーブルの果物ナイフを手に取ると、躊躇なく腹部に突き刺した。


『シャリム!?』


 驚愕しつつも息の合った両親に応急手当てされ、シャリムは急遽連邦病院に搬送された。緊急手術が施され、何針か縫ったものの命に別状は無く、表向きは盲腸手術として報道された。


「今すぐ帰国しろって? 盲腸って聞いたけど。とにかく安静にして、大人しく待っててよ。お土産にチョコ買って来てあげるからさ」


 中継国のハブ空港に居たシャハルは患者本人からの電話を受け、そのあまりのしつこさに根負けして仕事を断ると、渋々祖国にとんぼ帰りした。シャハルが連邦病院の特別病棟にある個室へ見舞いに訪れると、そこにはシビル連邦国内に居るヴィンラフ一族が勢揃いしていた。


 シャリムの便宜上の養父である廃帝ダリク、その妻でサペリ家出身のアイシュア妃、

その間に産まれたアイネイア帝女、アイカナ帝女の2人。


それからシャリムの祖父であり、ダリクの実弟でもあるクリシュ、

そして最後はシャリムの両親であるネルガルとクレメンタイン夫妻だった。


 彼らに挨拶しつつ入ってきたシャハルを見て、シャリムはベッドの側まで来て手を繋ぐよう要求した。その希望が叶うと、シャリムは相手の手の甲に唇を当て、わざとらしく口でリップ音を鳴らすと、シャハルの虹彩を覗き込んで言った。


「このシビル連邦には、制度上同性婚はありません。ただし養子縁組での代替は可能です。この幅は広く、親族関係に恵まれない著名な芸術家が、財産分与の為に実質的な妻と養子縁組した例もあります。ですが自分は、曲がりなりにも王位請求者たる太子です。だからこの手段には差し障りがある」


「ふーん。じゃあいっそ、君も亡命してみる? びっくりするくらいロマンチックな動機だね、僕の時とは大違いだ」


「真剣なお話です。もう交際では満足できない。自分と内縁関係を結んで下さい。これで断わられたら死ぬしか無い」


 ヴィンラフ一族は、この一族最年少者の我儘発言に全員がドン引きした。


「良いよ。指輪も交換しようか?」


 シャハルはそう言って繋いだ手を解くと、シャリムの右親指の第一関節に噛み付いて跡を残した。そしてシャリムの口元に自身の左親指を差し出した。


「はい。あーんして」


 心を狂喜乱舞させながら、シャリムはそれを噛み返した。




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