我が愛の理について
カフェのレジでそれぞれの支払いを終えた2人は現在、シャリムが宿泊しているホテルのツインルームに居た。
「あのさ、シャリム。お付きの人とかはどこに居るの」
「居ませんよ。たかが王位請求者如きにそんな贅沢な」
では何故わざわざ1人で、ベッドが2台もあるツインルームを取っているのか? シャハルはそこに、シャリムの絶対的自信を垣間見た。
「それではこれから、自分と貴方の今後について話し合いましょうか。まず初めに伝えておきますが、自分は非性愛者です。貴方に恋愛感情を抱いていますが、そこに性的な欲求はありません」
「それじゃ、僕は手も握らせなくていい訳だ。良いねー、気が楽で」
「流石にそれは、手はちゃんと握らせて下さいよ。自分だってまだ、何処まで行けるか判断がつかないんです。普段は百合で抜いてるので、まあ後継者問題は発生しないと思うんですけど」
「これって遊び? 君ってまだ婚約者とか居ないの?」
「遊びな訳無いでしょう! 婚約者はこれからです。でも、とにかく冷たい女じゃないと。下らない自己感情に支配されて、貴方に迷惑を掛けるような人間は願い下げです」
「だったらロミネ・ハルサナワに頼むと良いよ。あの人はとにかく顔が広くて、ついでに血も涙も無い人間だから……って、何脱いでんの?」
「とりあえず裸でベッドに寝れば、何かエロティックかなあと思って。あ、触ります?」
シャハルは深く溜息を吐き、服を着る様に言った。シャリムが残念がるのを放置して、あれこれ検索したシャハルは、シャリムに幾つか動画を見せた。
【Tea Consent】
https://m.youtube.com/watch?v=oQbei5JGiT8
【consent for kids】
https://m.youtube.com/watch?v=h3nhM9UlJjc
【Pubertet (1:8): Hvordan starter det? // Puberty: How does it start?】以下省略
https://m.youtube.com/watch?v=HyWRalwqq24&feature=emb_title&time_continue=54&has_verified=1
「何だかまどろっこしいなあ、自分が良いって言ってるんだから良いじゃないですか。ほら、来てくださいよ。自分、結構魅力的でしょう? 母譲りのこの顔立ちだって、幼い頃からどこ行ってもキャーキャー言われるくらいですから」
「あっそう。丁度溜まってたんだよね、ありがとう」
シャハルが肩に手を掛けると、シャリムは嬉しそうに微笑んだ。
「あー、でもやっぱどうしようかな」
しかしそう言って手を引っ込めると、シャリムは不満げな顔をした。
「ゴメン、やっぱいいや。んー、でもこんな機会なかなか無いしなあ……」
「貴方ねえ! 純潔からかって楽しいですか? それとも焦らしプレイを楽しんでるんですか?」
曖昧な態度に段々苛立ってきたシャリムは、シャハルを引き寄せてベッドに寝かせた。
「だって気が変わったんだから、しょうがないだろう。僕は君の期待に応える義務なんか無いし。それとも、無理やり飲ませてみる?」
シャリムはその言葉に目を見開いた。
シャリム=ヴィンラフの親族にして、旧王室でもあるヴィンラフ一族は、以前までは連邦病院の特別病棟を貸し切って生活の拠点としていた。しかし、約10年前にセーアン地方で終局を迎えた、あの一連の騒ぎ以降、旧王室の有用性を認めたシビル連邦政府が、彼等に厳重警備の邸宅を用意し、時折仕事も割り振るようになった。シャリムはシャハルを連れてそこに帰宅すると、真っ先に両親の元へ顔を出した。
邸宅の庭先で、シャリムの母、クレメンタイン=ステラ・マリスは爪を研ぎ、シャリムの父で元精神科医のネルガル=ヴィンラフは、副業である全国紙のお悩み相談コーナーの原稿を書いていた。
「ようやく口説き落としました。シャハルには後々、我が子の家庭教師にでもなって貰います」
「まだ産まれてすらいないじゃない。大体貴方、結婚相手は?」
「ご安心下さい、これからヨウゼン議員の義母殿に紹介していただきます。子供は神の思し召しですが、優秀な家庭教師は早めに予約しておかないと。他に持って行かれては困りますし。そうですよね、お父様?」
「あー、息子が大変すまない。だがちょうど離婚したんだろう? ついでだからここに住んだらいい。部屋が無駄に余って管理が行き届かないんだ……君は本業のドキュメンタリー制作で取材に行くから、実質的にはどこに住んでも構わないんだろう?」