I love you, but I should leave you.
シャハルは庭先のテラスで涙ながらに話を盛って、アリネに不満と愚痴を零した。
「あの腕白ぼうやはとんでもない奴なんです」
僕の最愛の娘には自立を促し、僕とは良き友人でもあった妻には彼女に横恋慕してたバイト先の客をけしかけ、最終的にはやけに明るい家庭崩壊まで追い込んだ挙げ句、僕とは幼い頃から付き合いのある子供の前で、僕の信仰を否定した。
その上で従わなければ監禁も辞さないとしつこく迫り、僕が断ると帰国したと見せかけて旅行先まで押しかけて来て、僕にかつて受けた被害告白までさせておきながら、それを否定して無理やりホテルまで連れ込んで、最終的には根負けした僕を家族ぐるみで監視して、仕事にも行かせてくれないんです。
アリネは強い義憤に駆られ、床板をドンと1回叩いた後、口調だけは努めて冷静に思いを語った。
「なんて酷い極悪人、よくもそんなことを。人間のしていい所業じゃない、太子は鬼か悪魔じゃないの。シャハル、貴方の辛い気持ち…察するに余りある」
「でも、もう良いんです。腕白ぼうやは腕白だけど、非性愛者だから迫って来ても襲われる心配はまず無いし、ある意味ではこれも一種の信仰生活なのかも知れない。僕より太子妃はどうなんですか、誰からとは言いませんが、辛い恋をされていると伺いました」
そこへ1台の黒塗りの車が走ってきて停まった。降りてきた小柄な運転手は、アリネ達の前に立つと深く被っていた帽子を取って、にっこりと笑った。
「運転手のサナ・ランバルツです。先輩、お元気でしたか」
「ゴメン、恋叶ったわ」
アリネの恋人である仔鹿ことサナから、にわかには信じ難いシャリムの企てを暴露されたシャハルは、アリネに後押しされて半信半疑のまま車に乗った。そこには先客達も待たされていた。
「あれっ、アイシュア妃、アイネイア帝女にアイカナ帝女まで。どこかへお出かけですか」
「あーたは何言いよっと、ナルメに帰るとに決まっとるたい。あーひとには、ほんなこつ呆れた。もともと好かんとたい、爺だけん」
シャハルとは同じセーアン地方の、ナルメ太守を勤めるサペリ家出身である、アイシュア妃が話したナルメのお国言葉の内容は、隣接するスミド産まれのシャハルにも良く理解できた。
お前は、何言ってんの。ナルメへ帰るに決まってるじゃん。
アイツには、本当に呆れた。それに元々嫌いだしね、ジジイ(年の離れた夫)だから。




