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②シャリム外伝・潜竜談  作者: 芳沼芳
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永遠の夕焼けに火を焚べよ

 シャハルの娘でもあるイズミルは、希望通り海外の大学へと進学する為に家を出た。同じ日にイオニアとシャハルは円満離婚し、イオニアはそのまま再々婚相手とのハネムーンへと旅立った。


 民族料理店ザキントスは、当分の間は休業中で、留守を預かっているシャハルと、近所に住む中学生のボリス、シャハルの口利きでボリスの家にホームステイ中の留学生シャリムの3人が、店内の1テーブルを食卓として朝食を囲っていた。


 シャハルは陶製のバターベル容器から、常温保存で柔らかくなったバターを掬い取って、横一文字に切れ込みを入れたバケットの中に塗ると、適当にサラダとベーコンを挟み、胡椒を振りかけて豪快にかぶり付いた。他の2人、ボリスとシャリムも思い思いにスクランブルエッグやらチーズを挟んでケチャップをぶっ掛け、噛み千切っては床とテーブルにパンくずを撒き散らした。


 朝食後、食器を洗って片付けたり軽く床に掃除機を掛けてから、シャハルは2人をそれぞれの学校まで送り届ける為に車に乗せた。

 車内では会話も無く、ボリスは後部座席でゲームに勤しみ、シャリムは高校へ到着するまでは助手席で仮眠を取るのが常だったが、その日は違った。シャリムは運転席のシャハルの方を直視して堂々と話し掛けた。


「初めて貴方を知った時からずっと、貴方を追い求めて来ました。自分は人生も結婚相手すらも、どうせ自由にはならない。ならせめて、本当に好きな相手くらい、一生側に置いたって良いはずだ」


「は?  何急に。病院行く?」


「シャハル、恋を治せる医者がいますか? 口説いてるんですよ。覚悟しろ、貴方にリヤサを着せるつもりは毛頭無い」


 シャハルは今すぐこの浮かれ太子を引きずり降ろして道端に捨てて行きたいと思ったが、たかが子供の一挙一動に振り回されるのも馬鹿馬鹿しいと思い直して止めた。


「そっちかよ! てっきりイズミルが目当てだと思ってたのに」


 ついでに後部座席のボリスにまで聞かれていたことに頭を抱えたくなった。その後は終始無言を貫き、2人を送り届けた後にシャリムの父であるネルガルに連絡を取り、可及的速やかに人を寄越し、シャリムを回収するよう依頼した。



 その日からシャハルに全会話を拒否され、父からの帰国命令も下ったシャリムは、ホームステイ先のボリスの家で作戦を練っていた。


「うーん、少し嫌われたかな」


「だいぶの間違いだろ。ま、残念だったな。俺は今度サワと旅行に行くけど」


「あーなるほど。早速両親に掛け合って、旅費を工面しよう。最後の思い出作りと泣き付けば……まあ何とかなるさ」


「けっ、お坊ちゃんが。赤の広場でこっ酷く振られればいいんだ」


 やがて学校が長期休みに入ると、シャリムは留学を切り上げて出国し、まだ中学生のボリスは、外国に住む祖母に会いに行く目的で、付き添いのシャハルと国境を越え、鉄道旅行へと繰り出した。

 ボリスを祖母宅まで送り届け、日が沈まない白夜期間中であることもあって、広場まで寺院を眺めに行ったシャハルは、適当なカフェに入った。


「ここ、座ってもいいですか」


 返事も訊かずに向かいの席に腰掛けたのは、案の定シャリムだった。もう面倒になったシャハルは、そのまま手慰みにペーパーナプキンを千切りながら母国語で話し始めた。


 最初はまるで、ただの悪ふざけの様だった。


そこから始まって、それこそまだ精通もしていない頃から、あいつは毎夜の如く忍んで来た。

唇に銜えられ、僕はバレバレの寝た振りをしながら、未知の快楽に身を委ねたのが失敗だった。


初精も奴の口の中で迎えた。

その次からは死ぬ程恥ずかしい準備をされて、痛くて苦しい行為も加わった。なのに、


回数を重ねるうちに、自分の声が心を裏切る。あの絶望は今でも忘れられない。毎回人に見られるのが恥ずかしかったから、準備も進んで自分から覚えて、全部一人で済ませてからあいつの部屋に行った。僕の大概の初めては全部あいつだ。


こんな事は誰にも言えない。

言ったが最後、誰も哀れみはしないだろう。


「さよならシャリム。むず痒い青春ごっこなら他所でおやりよ、この腕白ぼうや」


 シャハルは席を立ち、小間切れにしたペーパーナプキンを、シャリムの頭に振りかけて立ち去った。しばらく呆然としていたシャリムだったが、我に返るとレジまで走り、会計中のシャハルの肩を掴んで母国語で言った。


「そもそも、世の中にはファンタジーが多過ぎるんじゃないでしょうか」


 濡れたら感じてる? 朝勃つのは欲情してるから? 膣分泌液は粘膜が傷付くから、乾燥防止で勝手に分泌される。夜間勃起は、レム睡眠中の生理現象。乳首(にゅうしゅ)は寒さとか、些細な刺激で簡単に縮こまるけど、実際そんくらいでムラムラするか?


「そもそも快楽だって、感覚神経の集合体を刺激した結果に過ぎませんからね。ただの電気信号です。所詮それでヒトを釣って、面倒極まりない子孫繁栄をさせてるだけですよ。なのにそれを利用したチャイルド・マレスターが、貴方を未だに洗脳し、共犯者だと思い込ませている」






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