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第6話 別れと想い


 色々悩みながらも、ユリクアさんの笑顔に癒され過ごしていたある日の事だ。


 ユリクアさんは、ゼフォリアさんと用事があると言って、昼から海中に潜ってしまった。今は私1人で、内職中だ。

 プレゼントを渡した数日後、ユリクアさんが、私のためにアクセサリー作りに必要な物を持ってきてくれた。私はそれで、色々なアクセサリーを作っている。私はこういった細かい作業が小さい頃から好きで、中学の時はビーズアクセサリーの本を読んだりしていた。今では、かなりの腕になっている。

 こうやって暇つぶしに私が作った物を、ユリクアさんが持って行って、国の雑貨屋さんで売ってくれているらしい。結構人気が出てきて、発注書までくるようになった。溜まったお金は、私が欲しいと言えばいつでもくれると言われた。

 どうやら、将来について悩んでいた私のために、ユリクアさんが少しでも助けになるように、考えてくれたようだ。本当、彼には助けてもらってばかりだ。


「 はぁ、材料費は売り上げから引いて欲しいって言っても、笑って誤魔化してたし、きっと引いてないんだろうな⋯⋯ 」


 独り言を呟きながらも、手は動く。一つひとつ、どんな人が手に取るんだろうとか、プレゼントだったら喜ばれると良いなとか、考えながら楽しく作る。


 早く、ユリクアさん帰って来ないかな。ユリクアさんの国の話を聞くのが、すごく好きなんだから。ペットの、猫みたいな海中の生き物の話とか、人魚のミスコンテストの話とか面白かった。

 海中のミスコンテストは、鱗の輝きや、泳ぎ方の優雅さなどが競われるらしい。私も見てみたいと素直に思った。


「 ふぅー、ネックレス1つ完成! えっと次は、この赤色玉を主体にした指輪ね。サイズは⋯⋯ 」


 ──バッシャーン


 近くで、大きな水の音がした。ユリクアさん達が帰って来た音にしては、大き過ぎる。


 家から顔を出して確認すると、沖に大きな船が見える。しかも、そこから来たであろう小舟が島に上がっていた。周りには、何人かの人が見える。豚顔でも魚顔でもなく、人間だ。

 飾りの多い、昔の西洋の貴族服みたいな格好の人が1人と、騎士服みたいな格好の人が何人かいる。

 貴族服の人がこちらを向いた、私は慌てて顔を家の中に引っ込めた。


「 さぁ、私の花嫁よ! 姿を現すんだ。私が世界で一番幸せにしてやろう!! 」


 日本語を話している。こちらの世界では女神語と言われる言語だ。話せるという事は、どこかの国の王族か貴族という事だろうか。よりによって、ユリクアさんがいない時に来るなんてどうしよう。また売られたりしたら大変だ。


「 花嫁よ、恥ずかしがらなくて良い。あの船には、君の友達が乗っている。魚共に酷い目にあったのだろう。だが、もう大丈夫だ。私が来たからには、君が泣く事はもうない。⋯⋯いや、感動の涙は流すかもな。ハハハハハっ 」


 今なんて言った⋯⋯?

 君の友達が乗っている⋯⋯。誰の事だろう? もしかしてユリクアさんがいるの?

 そもそも、なんで私の事を花嫁とか言ってるんだろう。誰かと間違えてるのかな。


「 さぁ、一緒に行こう!! 」

「 ひゃっ!! 」


 気がつくと、家の中まで貴族服の男が入って来ていた。金髪ロングヘアーの気取った感じの男だ。整った綺麗な顔だが、目が怖い。野心が漏れ出ているような、ギラギラした目だ。

 私が驚いて後ずさると、男が腕を掴んできた。


「 君は、私の花嫁になる。そういう運命なんだ。魚共が、君を私から奪った。私は、取り返しに来たんだ。怖がらないで⋯⋯ 」

「 ⋯⋯つっ!! 」


 掴まれた腕が痛い。怖がるなという方が無理だ。男は、私を家から引っ張り出して、小舟まで連れて行こうとする。抵抗するが、力が違いすぎて全く歯が立たない。


「 アイを離せっ!! 」


 海の中から怒りに顔を染めたユリクアさんが上がってくる。見た事がない人魚達を引き連れている。人魚達は、先が三本に分かれた槍を持っている。三叉槍(トライデント)というものだろう。どうやら戦士のようだ。後方にゼフォリアさんもいる。


「 ユリクアさん!! 」

「 アイっ!! 今助ける 」


 ユリクアさんが私の方に近づいてくる。だが、男は私を無理矢理仲間の騎士達に渡して、前に出た。


「 南の海の王子よ。私は、自分の花嫁を取り返しに来ただけだ 」

「 風の大地に住む王子。彼女は、お前の花嫁ではない。海の民だ!! 」

「 陸から奪ったくせに、よく言えたものだな。下等な蛮族に連れ去られたが、彼女は元々我が国に舞い降りたのだ。それに海で助けた人間は、元の国に返す決まりだろう。お前達は決まりを破った。決まりを破れば罰が下される 」


 そう言った男は、片手を振り上げユリクアさんに向けた。目には見えないが、鋭い風の音がする。

 すると、ユリクアさんや後ろの人魚達が身をよじる。人魚達の周りを赤い血が舞う。体のいたるところに切り傷ができ、悲痛の叫びをあげた。

 ユリクアさんの体も沢山の傷ができて、白い肌を赤く染めていた。だが、真っ直ぐ立ち上がり、男を睨みつける。


「 それが、お前達のやり方かっ!! 」

「 ふんっ、今の攻撃が避けられないようでは駄目だな。それにお前からはあまり魔力を感じない。人型を保つのには、かなりの魔力がいると聞く。大方、私の花嫁に嫌われないように、人型を保っており、魔力不足なのだろう。ふはは、笑えるな。やはり、お前は彼女に相応しくない 」


 男は、騎士から私を受け取ると、ユリクアさんを見た。


「 追ってくるな。船に乗ったあと、人魚を見たら、その度に彼女の指を切り落とす。逃げられないようにするには、丁度いいだろう? 」

「 何てことを⋯⋯!! 」


 私は、小舟に乗せられ、連れていかれる。


「 ユリクアさんっ!! 」

「 アイっ!! 絶対助けるからっ、君を取り戻すからっ!! 」


 小島から離れていく。ユリクアさんから離れていく。

 私は役立たずだ。何も出来ない。ただ見ている事しか出来ない。私は、遠ざかるユリクアを一心に見つめた。

 嫌だ、離れたくない。一緒にいたい。あんなに傷だらけのユリクアさんを放って行きたくない。だって、だって私は⋯⋯。ユリクアさんが⋯⋯。ユリクアさんの事が⋯⋯。



お読みいただきありがとうございます。

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