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第5話 この世界で生きる



 ある日のことだ。私は、島で拾った貝殻で簡単な首飾りを作っていた。子供っぽいかもしれないが、ユリクアさんにプレゼントしたいと思っからだ。


 島での暮らしはゼフォリアさんの協力もあって、かなり快適な空間になった。トイレや水回りの設備は、魔法の石により、水が異空間(?)に流れるようになっていて、清潔だ。仕組みはさっぱりだが⋯⋯。

 貴重な石なのではと心配したが、海の国の特産品らしい。深海でしか取れず、地上の国に輸出しているそうだ。地上にも海にも、いくつも国があり、同盟して交易していたり、いがみ合い戦争していたりするらしい。この海は、ユリクアさんの支配下で安全だと教えてもらった。

 そう、支配下とはこの島の事ではなく、ここら一帯の海の事らしい。この間ゼフォリアさんが───


───「 ユリクア様は次期アクリーン国王になられるお方ですから、アイ殿が結婚したら王妃になれますぞ 」


 と、真剣な表情で言ってきて、驚いた。二重にも三重にも驚いた。ユリクアさんが王子様というところも、私に自然に結婚を進めてくるところにも驚いた。その時は笑いながら誤魔化したが、ユリクアさんがその場にいなかった事が救いだ。聞かれていたら恥ずかしすぎる。


 ユリクアさんと言えば、最近、目が覚めると至近距離にいる。最初は1メートルくらい離れて寝ていたはずが、徐々に近くなっている。だが、特に何かしてくる事もなく、気持ち良さそうに熟睡している。

 ある意味ショックだ。やっぱり私は子供扱いされている気がする。まあ、実際にこのままでは庇護されるだけの子供みたいなものだが。

 こちらで生きていくと決めたからには、先の事を少しは考えないといけない。

 ゼフォリアさんが言うには、この世界に来た女神が元の世界に帰った話はないらしい。一方通行のようだ。

 母の再婚相手の家で、1人だけ肩身が狭い思いをしていた私は、高校卒業後は、元々すぐに家を出るつもりだった。まさか別世界に来るとは思っていなかったが、今は前より自由を感じている。状況的には自由ではないが、心理的には自由だ。

 といっても、いつまでもユリクアさん達のお世話になるわけにはいかない。こちらの世界で生きる術を学ばなくてはいけない。


「 ですから、この世界の常識などを教えてください 」

「 わかった。一緒に、勉強しよう。ユリクアが教える 」


 最近ユリクアさんは、ゼフォリアさんに女神語(私からすると日本語)を頭に叩き込んでもらっているらしく、上手くなった。

 まだ、たどたどしさはあるが、私はそれが気に入っているので、ユリクアさんには悪いがこのままが良い。


「 ユリクアの国、自然いっぱい、みんな仲良し。でも悪い奴とは戦う。海にも陸にも悪い奴いっぱいいる。人を攫い、売る。⋯⋯遊びで殺したり、食べる。ユリクアそんな奴ら許さない、絶対倒す。助けた人、陸に帰す決まり。陸の国との約束 」

「 ⋯⋯つまり、陸で悪い奴に攫われた人は、元の国に帰してあげるんですね。でもそれって、私は⋯⋯ 」


 すると、ユリクアさんが悲しそうな顔をした後に、打って変わって笑いだす。


「 ユリクア、アイ、海で助けた。船の上じゃない。アイは、海の民。だから大丈夫。ずっと一緒 」


 ユリクアさんは、私の両手を取り、ぶらぶら揺らす。


「 ふあっ!! は、恥ずかしいです。ユリクアさん 」

「 アイ、海の民。アクリーンの民。ユリクアが守る。安心して欲しい 」

「 ⋯⋯ありがとうございます。でも、私も何か役に立ちたいです。女神の兆候なんて一切現れないし、今はただの役立たずです 」


 私は、下を向いてしまう。この世界でも暗い性格は

そう簡単に変わりはしない。


「 知らない世界、来て、アイ大変。無理だめ。大丈夫、焦るのだめ 」

「 ⋯⋯ユリクアさん、ありがとうございます。私、ゆっくり考えてみます。私にこの世界で出来る事 」

「 ゆっくり、ゆっくり。約束、考えすぎ良くない 」

「 はい、あっそうだ。私、ユリクアさんに渡したい物があるんです 」


 私は、恥ずかしさを感じつつも、手作りの貝殻の首飾りをポケットから取り出した。


「 子供っぽいけど、これくらいしか思いつかなくて、何かをユリクアさんに送りたかったんです。ありがとうって伝えたくて⋯⋯ 」

「 ⋯⋯ふ 」


 ユリクアさんは、しばらく反応がなく黙っている。やっぱり迷惑だったかと彼を良く見ると、彼の体が震え出し、首飾りを手に取り息が荒くなっているのがわかる。


「 ふぉ⋯⋯⋯⋯ふぉぉぉおおおお!! 嬉しい、嬉しい。ありがとう、アイ!! ちゅっちゅっ 」


 興奮した様子のユリクアさんが私のほっぺにキスをしてくる。顔が熱くなる。やばい、これは恥ずかしすぎる。


「 ふああぁぁああ!! ユリクアさん、いきなりは駄目ですよ。ほっぺとはいえ、心の準備が必要なんです 」

「 ごめん、アイ。でも、嬉しいから、仕方ない。ありがとう、ありがとう。ちゅっちゅっ 」

「 ひゃゃゃあああ!! 恥ずかしい、恥ずかしいです。顔が熱いよー !!」


 大声で叫ぶ私達に向かって、海からゼフォリアさんが歩いてくる。


「 2人共、元気でよろしいですな。わっはは! 」


 笑ってないで、止めてください。





お読みいただきありがとうございます。

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