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プロローグ



 その日、私はいつもは通らない道を歩いていた。


 高校からの帰り道。いつもの道が工事で交通止めになっていたからだ。野良猫を見かけたり、庭の花が綺麗な家があったり、たまには違う道も良いと、気分はあがっていた。

 


 私、合田(あいだ)あいは、高校三年生になったばかりの女子高生だ。小学校の時はアイアイというあだ名で呼ばれ、中学校ではアイーダと呼ばれた。今は普通に合田さんと呼ばせている。うん、呼ばせている。


 部活動は写真部、自然を主に撮るのが好きだ。クラスでは目立たない。いや、目立たないようにしている。出る釘は打たれるからだ。

 中学校の時にある女子に目をつけられ、酷い目にあった。高校はその女子とは違うので平和だ。


 と、そんな事を考えていたからだろうか。問題の女子が前方に見える。ここは一本道。引くしか道はない。私は来た道を戻ろうとした。遠回りになるが、あの子に絡まれるよりましだ。だか、思惑通りに上手くはいかなかった。


「 アイーダじゃない。さっき私の事睨んでなかった? 」


 面倒くさいやつに絡まれてしまった。私は鞄を抱きしめながらゆっくり振り返る。


「 花見坂さん⋯⋯。こんにちは 」

「 睨んでなかったか、聞いてんの⋯⋯ 」


 睨んでいるのは 、そっちだと思う。花見坂(はなみざか)可憐(かれん)がこちらに近づいてくる。その目は獲物を狩る目だ。


「 睨んでない、睨んでない。⋯⋯ってあれっ!! 」


 ぶんぶんと首を振る私の体が光りだす。


「 何よ、これ⋯⋯ 」


 私の前の花見坂さんも体が光っている。

 私達が、為す術なく焦っている間に周りの景色は白い光にのみ込まれた。







────────────⋯⋯⋯⋯








 どうして、こうなった。どうしてこうなってしまったんだ。

 私は今、荷馬車のような乗り物に乗せられている。ようなというのは、引いているのが馬ではなく、大きなトカゲというか、小さなドラゴンというか、そんな生き物だからだ。ちなみに、その生き物を手綱で操っているのは、豚顔人間。比喩ではない豚の顔をした、体は人間の化け物だ。


 私は、周りを見る。私と同じように手枷足枷をされた人間達。主に女性や子供。そう、私は手足に枷をはめられ、口には布が巻かれ塞がれている。これは、完全に売られるやつだ。人身売買だ。いや、あんな化け物なら人間を食べるかもしれない。怖すぎる。



 花見坂、許せない。

 私達は体が光った後、気がつくと知らない森の、石の祭壇の上にいた。周りは木々や崩れた石の建物しかなく、仕方ないので遠くに見えた町に歩いて向かう事になった。だが、その途中にこの荷馬車と遭遇し、1人の豚顔人間に追いかけられた。何かを叫んでいたが、全く理解できず、奇妙な鳴き声にしか聞こえなかった。とにかく逃げなければと、私達は走った。

 すると、隣で走っていた花見坂が転けた。私はすぐに助け起こしてあげた。だが、花見坂はあろう事か私の右足を本気で蹴りつけた。私が突然の痛みに崩れたところを尻目に走り去って行く花見坂。そして追いついて来る豚顔人間。



 はい、捕まりました。手枷足枷をはめられ、今の状況です。物語のようにかっこいい王子様が現れる事もなく捕まりました。ブヒブヒ言われながら乱暴に荷馬車に乗せられました。



 豚顔人間は、花見坂の後は追わなかった。これ以上は、荷馬車に乗せられないと判断されたのかもしれない。或いは、面倒くさかっただけだった可能性もある。まあ、あんな奴の事は今はいいのだ。今は何とかして自分が逃げなければ命が危うい。


 荷馬車は布に覆われており、ここからは外の景色がわからない。だが、先程から嫌な予感がするのだ。鼻をくすぐる潮の香り。海が近い。奴隷、海、船、運ばれる、逃げられない。お先真っ暗である。


 周りの人達は何も喋らないし、情報が一つもない。そもそも、日本語が通じるとは、思えない。日本人にも外国人にも見えない。彼女達の髪色や瞳の色は、カラフルすぎるが、染めているようにもカラコンにも見えないのだ。緑色や黄色や橙色。黒髪の私が浮いている。


 荷馬車が止まり、私達は乱暴に降ろされる。足が痛い、腫れている。これは花見坂に蹴られたせいだ。

 どこかの港のような所に降ろされたようだ。木でできた粗末な家が何軒か建っており、豚顔人間が道に座って酒らしきものを飲んでいたりしている。生肉が吊るされている家もある。潮の匂いと混じり合い、酷い悪臭がする。

 私は恐怖で抵抗する事も出来ず、繋がれた紐を引っ張られるままに歩くしかない。


 港には、海賊船のような船が何隻か止まっており、近くには魚のような顔をした人間がいる。私達を連れて来た豚顔人間が、その魚人達に私達を引き渡す。そのまま、魚人達の乗る船に乗せられた。

 魚人が何十人もいて、こちらを見ている。私はあまりの恐怖に足が上がらず、躓いてしまった。


 ──ベシンッ


 魚人の1人に鞭のようなもので叩かれた。痛い、痛すぎる。私は腫れた足と、鞭で打たれた部分の痛みに耐えながら必死に歩いた。

 そして、私達は船内の一室に閉じ込められた。悪臭のする狭い部屋だ。まともな灯りも無く、光源はドアから微かに漏れる光だけ。


 私は、こんな理不尽な世界で生きていける自信がない。奴隷か、食料か、もしかしたら何かの餌か。先の見えない不安と焦り。体の痛み。全てが私の精神を貪っていく。


 私は、とんでもなく夢の無い世界に来てしまったのではないだろうか。


 

お読みいただきありがとうございます。

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