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4.新生活の探し方

この作品では、テンポと作者の書きたいことを書く、という点を重視していきます。

前者はともかく、後者は何故かって?…モチベの問題だよ。察しろ。

「ふんふふふーん♪ふふふふーん♪」



街を動きやすい服装で気分よさげに歩く彼は、そうは見えないが建国の英雄である。


その服装は先ほどまでのボロボロの外套ではない。店で買ったばかりの新品だ。

それだけではなく、両手には出店で買った串焼きが。先ほどまで一文無しであったとは思えない様だ。

ちなみに、数日前の『事件』のことは既に頭から抜け落ちている。



「まさか、ここまでうまくいくとはねぇ~」



彼の財布の中には金貨がパンパンに詰まっている。小銭入れには使いやすい銅貨も。

なぜそうなっているのかと言えば、彼の財産…もとい、520年前に作った拠点がそのまま残っていたからだ。


彼の拠点は、地中深くにある。

建材には『永久不変』の効果を付けていたため、老朽化で壊れることは無い。しかし、520年もの間人の目についていなかったとは思っていなかったのだ。

誰にも見つかっていなかったため、中に置いておいた宝石の類は全て無事。宝石の価値は時代によって変化することは少ないので、容易に換金出来たのだ。


そして、次には役所の人間に賄賂を送って身分証の偽造。

見た目が若すぎるので強引に金を毟り取ろうとしてきたが、力の差を見せつけた挙句にかなりの恐怖を与えてやったのでかなり従順になった。世の中、『金』と『暴力』で何とかなるな、と英雄にあるまじきことを思ったり思わなかったり。


―――つまりは、想定外にうまくいった、ということ。

悩みのタネだった『身分』と『金』を一気に解決できたのだ。気が大きくならない方がおかしいのだ。


当然、名前も変えた。

クロノ・クロック。それが、彼の新しい名だ。

『固有魔法』の申請については、その内容まで明記する必要は無いとのことだったので秘密に。

一応は『身体強化』ということにしておくが、状況によっては変えるつもりだった。






「そこの兄ちゃん、寄ってかない?」



声の方向を向けば、そこには如何にも、といった風体の定食屋があった。

その声の主は、その店の呼び込み担当だったらしい。

同年代ぐらいだろうが、その身長は高い方なのでいくらか年上に見える。


気付けばもう昼時。出店で小腹を満たしていたとはいえ、この成長期の体は腹が減る。

特に目的もなく街をうろついていた彼は、誘われるがままホイホイ定食屋へ案内されてしまうのだった。



「もしかして、学生さんですか?」



案内をしてくれた兄ちゃんはカウンター席に着いた俺に尋ねる。

注文の前に水を出してくれる辺り、この時代の文明の発展具合、平和の度合いが伺える。



「…学生、とは?」



その言葉には聞き覚えが無かった。

当然だ。彼、クロノには平和な時代の記憶というものが無いのだから。

彼が生きた時代は、その全てが魔物との戦いが激化する時代だった。



「あれ、知らないんですか?この王都には、『固有魔法』持ちだけが入れる学校があるんですよ。」



『学校』という単語には聞き覚えがあった。

クロノが生きた時代でも、最低限の筆記能力や算術を勉強するための場所があった。…まぁ、いわゆる青空学校というものだったのだが。



「…へぇ。ところで、なんで俺がそうだと思ったんだ?」



「お客さん、綺麗な服着ているでしょう?それなのに、付き人がいない。だから、身分は高くないけれど裕福な、『固有魔法』の給付金がある学生さんかな、と思ったんですよ。」



なるほど。俺の服装は庶民が着るものでは無かったのか。

しかし、いい情報を聴けた。

『学校』、か。なるほど、面白そうだ。『固有魔法』を持つ者が集う、というところも面白い。

それに、ただ単にこの時代の発達した知識を得る、というのも面白そうだ。

何しろ、平和な500年を経た街だ。どんな発展をしているのか、今から胸が躍る。



「…なるほど、いい情報を聞いた。ありがとな。」



俺は案内の兄ちゃんに銀貨を一枚握らせる。

ちなみに、この店のメニューはだいたい銅貨3枚程度。銅貨10枚で銀貨一枚と同価値になるので、かなり奮発した額を出したことになる。



「え!?こんなにいただけませんよ!」



案内の兄ちゃんは狼狽え、銀貨をこちらに握り返させようとする。

かなり、この兄ちゃんが善人である証拠だろう。…まぁ、案内が終わっても話を聞いてくれるぐらいだったし。

ともかく、こういうチップは相手のがめつさを測るアイテムにも為り得るのだった。



「いいのいいの。こういうのは、コッソリ懐に忍ばせておくのが一番得するんだから。それだけの価値ある情報も貰えたんだし、な?」



こちらに返そうとする銀貨を、更に押し返して強引に握らせる。

暫くの押し問答の後、ようやく彼は銀貨をしぶしぶと言った様子で受け取った。


ズボンに開いた穴の中に銀貨を放り込む。

なるほど、アレはズボンに収納機能を付けているのか。なかなか、機能美に溢れている。

新しいズボンを買ったものの、使い方が分からなかったのだ。

店員さんに聞くのも常識だろうから気が引けたので、こういう場面で自然に学べるのはありがたいことだ。



「ところで、学校の話についてなんだけど…」



がしっと、案内の兄ちゃんの腕を掴む。

ようやく、こちらの意図を理解したようだ。露骨にしてやられたという顔になった。


先程のチップは、情報の対価だ。それも、先払い(・・・)の。

あの情報に対して銀貨一枚というのは、明らかに高すぎる。それは普通に考えることだ。

ならば、受け取った側は『恩義』というか、『借り』というような後ろめたさを覚えるわけだ。それを、利用した。


つまり、『あれだけ払ったんだからもう少しくらいいいでしょう?』という意図を込めてあったのだ。

そして、彼はようやく気付いた。

『只より高い物はない』とは、よく言ったものである。











「…なるほど。ありがとな、オーウェン。」



「どういたしまして、クロノ。」



暫くの質問攻めの後、気付けば彼の方のシフトが終わっていたということで一緒に飯を食っていた。

そして、分かったこともある。


彼の名はオーウェン・ニアコット。この定食屋の息子であり、『固有魔法』の所持者でもある。

やけに学校…もとい、学園のことに詳しいと思ったら、もうすぐある受験に備えてのことだったらしい。

ちなみに、『固有魔法』の内容についてはまだ秘密らしい。


さて、その学園についてだが。

どうやら、受験が1か月後に控えているらしい。

『固有魔法』持ちの中でもエリートが集うこの学校では、受験を実施して不合格者を出さないと人数がオーバーしてしまうらしい。

今では噂が噂を呼び、この王国一のエリート校として熾烈な合格争いになっているのだとか。そして、この学校を狙うオーウェンは相当優秀ということになる。


ところで、俺はその受験を即決で受けることに決めた。

何しろ、面白そうだから。

この王国でもエリート中のエリートが集うのだ。その中での切磋琢磨など、面白そうな予感しかしない。



「2人とも合格できるといいね。」



「そうだな。」



俺たちはひっそりと拳を打ち合わせる。

ちなみに、俺が常識に疎いということは既に話してある。この定食屋で情報交換しよう、とも。


この定食屋はご飯のお代わりが自由になっており、腹が減る学生の強い味方、という体で営業している。

おかずもガッツリ食えるものが中心になっており、視覚だけでも胃もたれしそうな強者もいくらか混じっている。この体ならその『強者』すらも楽しめるだろうから、いつか挑戦してみたいものだ。



「ありがとうございました!またお越しください!」



お会計の担当をしていた少女は元気に声を張り上げる。

その顔は、どことなくオーウェンにも似ている気がした。多分、妹だろう。

暫く話し込んでいたということもあり、お会計もなかなかの金額になった。とはいえ、俺にとっては全く問題ない金額だが。




俺は大通りへと出る。

気付けば、空は既に朱くなっている。


今の天候は、春よりも冬に近い。陽が落ちるのもかなりの早さだなと、ふと思う。

街の喧騒は少し声を窄め、これより襲い来る冷え冷えとした夜に準備しているかのよう。



「ああ…いい街だ。」



俺は誰ともなく呟いた。

記憶に在る街のどれとも違う、争いに怯えない街。

初めて出会った『平和』な街だ。


俺はこの街が好きになった。

まだ戻って(・・・)から1週間ほどしか経っていないのに、そう感じたのは何故だろうか。


さて、帰ろうか。

あと1か月で、試験だ。それまでに一般常識を叩き込む必要がある。

オーウェン曰く、この街には王国最大の図書館があるのだとか。

図書館の概念を聞いたときは、そんな便利なものがあるのかとつい立ち上がりそうになってしまった。それ程に、魅力的だった。


この世界は、どうやら俺を飽きさせるつもりは無いらしい。

それならば、ようやく得た『平和』、存分に堪能させてもらおうじゃないか。


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