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23.模擬戦 風vs軌道制御

ウィルロード(風の能力)vsリッタリア(軌道制御)

「いやぁ、いい勝負だったねぇ。眼福眼福。興奮醒めやまぬうちに次の勝負、いってみよう。次は……ウィルロード君と、リッタリアさんだね。前に出てきて。」



どこから取り出したのか、コーヒーを注いだカップを揺らしながらマリー先生は言った。

どうやら、この姿こそがこの先生の本性らしい。

丁寧な口調、柔らかい物腰などは所詮表の顔。

本来は、職務に託けてコーヒーを飲みながら試合を観戦するようないい性格(・・・・)なのだった。






「リッタ。早々に降参(リタイア)するのであれば、無様な敗北を晒すことは無い。そうしたら俺の女にしてやろう。好条件だろう?」



「いらない。もっと魅力的な男になってから出直しなさい。」



「………クッ」



早速火花を散らす2人。

ウィルロードはやはり男尊女卑を煮出して懲り固めたような性格をしており、早速女性陣から生暖かい視線を受けていた。

顔はなかなかのもので、これまでは順風満帆の人生を送っていたのだろうと思われる。

いや、もしや自分よりも上の爵位の女を落としたことがあったのかもしれない。


しかし、リッタは全く動じない。

素で無口だということもあるが、その無関心な様子はなんともウィルロードの癇に障ったようだ。

ギリッ、と音がしそうなほどの顔で、リッタを睨みつけた。



「こりゃあまり勿体ぶるのは良くないね。さっさと始めようか。―――では、始め。」



流石にこの無言で火花が散る現状は拙いと思ったのか、急いで開始の合図を出す。

―――その瞬間、暴風がリッタに向かって吹き荒れた。


ゴウッ、という音と共に放たれたその風。

あのような言動をしようとも、Sクラスに入ったその実力はホンモノだ。

きっちり、その風の中には殺傷力(・・・)をいくらか紛れ込ませている。

強風により動きが鈍ったところを、その風の刃を以て勝負を付ける。

それが彼の、必勝の戦術。

どんな対策を講じようとも、広範囲に展開された風が相手では意味を為さない。

―――そのはずだった。



「…………避けて。」



ぽつり、と呟かれたその一言。

しかし、その言葉一つで風はその軌道を変える。


ぶわり。

風は中心から裂け、只リッタの髪を揺らすのみ。

その殺傷力も何もかも、リッタの『軌道制御』の管理下に置かれたのだ。



「―――なっ!?」



「今度はこっちの番。」



懐からナイフをそれぞれの手に3本、纏めて取り出す。

そして、その全てを前方へとばら撒いた(・・・・・)

狙いなど付けていない。

しかし、それらは明確な意思を持ってウィルロードへと襲い掛かる。


正面にナイフが2。

刃は潰されているとはいえ、この速度で当たればかなりの威力だ。

そのため、ウィルロードは風の刃でナイフを迎撃しようとする。


しかし、その瞬間には既に他の4本は側面に回り込んでいる!

リッタの『軌道制御』。

それは、自ら放ったナイフに応用した場合には圧倒的な追尾性能に変わる。


直接リッタが操作しているため、本体(リッタ)との同時攻撃などは出来ない。

しかし、どんな障害物も避ける、もしくは避けさせる(・・・・・)その攻撃は、在り体に言ってしまえば『不可避』なのだ。



「クッ!?」



リッタの攻撃を凌ぐ手段は近接武器のみ。

しかし、小手先だけの技術で防げるのなら第三席に座ってなどいない。


ウィルロードは初手の動きから察せられるとおり、遠隔攻撃の方が得意だ。

なので、近接攻撃はそれ程得意ではない。

リッタのナイフによる被弾は秒を追うごとに増えていく。

必死に後退しつつ捌くが、反撃の糸口が見えていない状況では攻撃のみを考えられるリッタが勝つのは当たり前だ。


少ししてからそのことに気付いたウィルロード。

体力もかなり消耗してしまっている。

しかし、これは模擬戦だ。

有効打を与えさえすればそれで勝負はつく。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



雄叫びを上げながら、ウィルロードはリッタへと突撃する。

元よりリッタの『固有魔法』は突撃に対する防衛を得意としない。

そのため、ウィルロードは易々とリッタの懐へと侵入を果たした。



「もらったッ!!!」



――しかし、一つ誤算があった。



――――ギィン!



いつの間にか取り出されていたナイフに、その一撃の軌道を逸らされたのだ。

『固有魔法』の力ではない。

それは、純粋にリッタの技量。

ぐらり、と斬撃をいなされたウィルロードは困惑の色を浮かべた。



「―――十全の(・・・)私を相手にするなら、足りない。」



いつの間にか側面へと回り込んでいたナイフの群れ。

同時に攻撃することは出来ないが、1度きりの罠を張ることならば容易い。

何しろ、命令(・・)は1度で済むのだから。

即ち、『突撃』と。



「――ぐぁっ!?」



側面より襲い掛かったナイフの群れ。

そのうちの1つも外すことなく無防備な腕、脇腹、脚に衝突した。

刃は潰してある。

そうは言えど、この攻撃をまともに受けては内出血は避けられない。


そして、この攻撃でウィルロードは理解した。

『勝てない』と。

がっくりと膝をつき、敗北の意思を示す。

―――心が折れたのだ。



「私の勝ち。」



それだけを告げ、リッタは歩き出した。

もはや、振り返りはしない。

ウィルロードにとってのその態度は、『取るに足らない男』という評価だった。




リッタは確かに『会計など数字を扱う仕事が得意』だと言った。

確かに、それは事実だ。

しかし、彼女は実技の(・・・)得点により第三席に駆け上がったのだ。

筆記もできる。

しかし、それ以上に戦闘は得意なのだ。

細かい事情はあるのだが、この際それは置いておこう。

とにかく、今の彼女は万全の(・・・)火力を振るえる状態なのだ。

ウィルロードに勝ち目は無かったのだ。



「はい、勝負あり! いやぁ、なかなか参考になる戦いだったね。冷静な判断の大切がよくわかる戦いだったと思うな。うん。ずぞぞー。(コーヒーを飲む音)さて、次は…おっ、楽しそうな対面だ。オーウェン君、フレイア君。前に出てきて。」



緊張感の欠片もないその態度。

模擬戦が進むにつれ、だんだんと酷くなっている。


しかし、模擬戦の内容は進むにつれて高まっていく。

『固有魔法』という超常の力。

それらが、難なく振るわれる場所。

それが、このSクラス。


順位5位、4位はどちらも『炎』の使い手。

この場のボルテージは、否応なしに高まっていく。


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