寝ぼすけサンタのプレゼント
「初めまして。今年からあなたの補佐をさせて頂くことになった天使のエルカナと申します。よろしくお願い致します。」
「初めまして…サンタ番号7777…だっけ…?のライトです………とりあえず眠いのでもう寝て良いっすか…?」
僕とサンタの出会いは去年でした。
僕は、その前の年で怪我をした天使の代わりとして、サンタであるライトさんの補佐をすることになった…まではよかったのになぁ…
というのも、ライトさんは以前から子供へのリサーチやプレゼントの生成など、サンタとしてのほぼ全ての業務を補佐役に押し付けていたらしく、僕も当然のようにその業務をやらされた挙げ句当日にライトさんが寝坊して配達までやらされる羽目に…
流石に配達はもうしたくないので、今年は夕方にライトさんを起こすことにしました。
「起きてください…起きてください!もう24日の夕方ですよ!早く!」
「んん…エルカナさん早いよ…まだ夕方じゃん…配達は夜でしょ…」
「ちゃんと準備しないと間に合わないって去年身をもって学んだでしょうが!ほら早く!」
「ったく…うるさいな…準備すればいいんだろ…」
嫌々ながらも準備を進めるライトさんを見張りつつ、僕も自分の準備を進めました。そして、
「プレゼント袋よし、トナカイよし、衣装よし、…心配でしたが、準備はしっかりできてますね。」
「だから夜まで寝かせろって言ったじゃん…」
「それは去年の例がある以上駄目です。ウダウダ言ってないで早く出発しましょう。」
「うぃ…」
何とか時間通りに出発し、プレゼントを配っていきました。ライトさんは
「メリークリスマス。サンタさんだよ。プレゼント、大切に使ってくれよな…」
と、人が変わったように真面目に配っていて正直驚きました。
そうしてプレゼント全体の3分の1程を配り終え、次の家へ向かう途中、僕は気になってこう質問しました。
「…ライトさん。」
「何…?」
「ライトさんはなんでサンタになろうと思ったんですか?」
「それは…人間の子供が好きで、人間の大人が苦手だから…かな」
「大人が苦手?」
「ああ…子供は元々は純真無垢で、かわいくて…でも大人は【現実】を突きつけて子供を汚すんだ。勿論、それは子供が生きていくために仕方のないことだって分かってるさ…でも苦手なんだ。どうしようもなく…」
「ライトさん…」
「子供が【現実】で満たされる前に何とか少しでも【夢】を与えたい。だから俺はサンタになったんだ。
…去年寝過ごしたのは本当に反省してる…」
理由を聞いて思いました。この人、すごい不器用だけど他のどのサンタよりも優しいんだなと。
そして、こういう気持ちはナルシストみたいで僕はあまり好きじゃないんですが、この人は自分がいないとダメなんだなと。
こんなに優しいのに、それを表に出せないのは悲しすぎます。
「そういう気持ちがあるなら、来年からはトナカイの手配くらいはお願いします。一緒に頑張りましょうよ。」
「…ああ」
その後も配達を続け、配達先もいよいよ残り500軒程になった時、事件は起こりました。
次の子へのプレゼントを確認しようと袋を開けたライトさんの顔色がおかしい。
「…?ライトさん、顔色悪いけどどうしたんです?」
「…無い」
「えっ?」
「プレゼントが無い…というか袋の底が破れて無くなってる…」
「えっと…それはつまり…?」
「…約500軒分のプレゼントがどこかに落ちた」
「ヤバイですね。」
「ああ…ヤバイな。」
「…って言ってる場合じゃないですよ!どうするんですかライトさん!」
「んなもん探すしかねえだろ…さっきの家まではプレゼントはあったんだから、落ちた場所はある程度は特定できるはずだぜ…」
「ですよね…」
範囲も広くなく、空から探せるとはいえ今は夜。30分程探し回ったものの、僕とライトさん2人の目だけでは流石に限界でした。
「見つかりませんね…」
「…なぁ」
「何ですか?」
「…今から天界戻ってプレゼント生成した方が早くないか…?」
「今3時で、5時までに配達しなきゃなんですよね…天使より速いトナカイの足でもここから天界まで片道30分往復1時間、プレゼント生成に50分、さらにそこから配達で30分…ちょっとキツくないですか?」
「俺だったら片道15分で行ける…」
「え…?ってちょっとライトさん待って!」
という僕の言葉はとんでもない速さで飛んでいったライトさんの耳には届かず、僕は信じて待つことしかできませんでした。
そして彼が戻って来たのは、配達終了40分前の午前4時20分。閃光のように舞い戻って来たときの姿がいつもと違いすぎて誰だコイツってなりました。
僕らはそこから急いで配達をし、何とか時間通りに配達を終わらせることが出来ました。
トナカイに引かれてソリで天界へ戻る途中、こんな話をしました。
「ライトさん、あんな速く飛べたんですね…」
「ん…?ああ、あれか…元々俺は戦闘天使になろうとしてたからな…」
「あれ?でも戦闘天使って人間を護る仕事ですよね…?大人が苦手なのに何故…?」
「それは話すと長くなるから、また時間のある時にしようぜ…それよりもう限界だ…寝るぞ…」
「えっ寝るって…ちょっと!ソリの上で寝たらベッドまで誰が運ぶんですか!もう少し我慢してください!お~い!
…まぁ今日くらいは…いいか。」
今日はクリスマス。サンタによって多くの子供達が笑顔になることを願っています。
サンタ補佐役 天使エルカナ
お読み頂きありがとうございました。本作は連載化も検討しておりますので、ご意見をお寄せ頂けると幸いです。