入部理由。
入部理由。それは
「ただいまー…土曜日に学校あるっておかしくねー?しかも今日本番あるのに……」
うつむきながらゆり先輩が言う。机替わりだろう段ボールの上にはデスクトップ型のパソコンが置かれていた。学校帰り、という設定なのだろうか。リュックを床に投げ出して、段ボール前にどかりと座り込む。そして、投げ下ろしたリュックから何かの機械をとりだした。四角い画面に赤色と青色のコントローラーのついたそれは、つい最近発売されたばっかのswitchというゲーム機だ。
「ゲームが恋人のイケメン実況者、その名も和くん!それじゃあ実況始めるぜ!いや~、今実況とってるの昼なんだけどさ~……」
さっきの学校がどうとかぼやいているトーンとは一転、やけに明るいから元気みたいなトーンで話始める。今更ながら、実況者(YOUTUVER)の話かと分かった。積極的に人気のものを取り上げてくスタイルらしい。
「数時間後にぺーぱーぷれいんあるんだよねー。イベント前に実況取んなってはなしなんだけど、まあやってくか!新実況!」
ぺーぱーぷれいん?一年総出で首をかしげる。紙、飛行機?
「これ発売されたばっかのゲーム?格ゲーなんだけど、なかなかぶっ飛んでるって有名らしくて~、ストーリー的には、敵を倒して天下取ろうぜ!的な感じか?とりあえず、ゲームスタート!!」
ぽんぽん、滑るようにセリフが出てくる。ずっと一人で話してるのに違和感が全然ないから不思議な感じだ。じっきょゆ動画取ってる設定だからある意味正解なんだろうけど、それとは違う、違和感が出ていない。
舞台の上手側に二年生の先輩方が一列に並んだ。それぞれポーズらしきものをとっている。
「えーっと、キャラクターセレクトか?まず……勇者!」
「俺の聖剣エクスカリバーに敵うヤツはいねぇ!!!」
横からぴょこんと飛び出してきて剣を構えるポージングの秋元先輩、ピタリと停止する。
「おぉ…ボイス付きか。いきなり勇者選べるのか~。って下ネタかよ…w。次は、え~っと…魔法使い!」
秋元先輩がくるりと後ろに回り込んで再び引っ込む、その代わりに前に剣持先輩が出てきた。ゲームのキャラを入れ替える時の、キャラが回転して(?)登場してくる感じが出ていて面白い。
「私の下僕として一生買い殺してあげましょうか?」
魔法使い…のはずなんだがすごく色気が強い。どっちかっていうと魔性の女って感じだ。
「…かわいい顔してめっちゃ怖いこと言うな!!!次は…ん…?大工。?」
「このカナヅチでお前の頭カチ割ってやろうかぁ?あぁ?」
くるりと後ろに下がっていった剣持先輩の代わりに、ずいっと安楽先輩がでてくる。右手を肩に充てて全力ですごんでくる。一瞬だけ、鳥肌が立ったのが分かった。
「ケーキ屋さん。」
「クリームの中で窒息させてあげますっ♪」
手を顔の前で組んで剣持先輩がにこっと微笑む。さっきからキャラが一周回って狂気気味なのは気のせいだろうか。
「弁護士」
「異議あり!!」
これってどっかで見たことある気が…ちょっとだけ首をかしげてすぐに思い出した。逆転さいb…。随分と懐かしいところからネタを引っ張り出してきたみたいだった。びしっと虚空を指さしたまま秋元先輩が止まっている。
「別ゲーじゃねえか!!てか顔グラ使いまわしかよ…?しかもなんだ?次のお掃除屋さんって。」
ゆり先輩(和くん?)が盛大なツッコミを入れた。顔グラ…は多分きっと顔グラフィックのことだろうな…と香乃はぼんやり思う。再び、というか三度目の剣持先輩がでてきた。
「あなたの存在をお掃除いたします。」
「いやこえーよ!…芸人!」
「なんでやねん!」
右手でべしっとゆり先輩のほうを叩く。一般的な芸人の感じだ。さっきの大工の面影はかけらも残っていない。
「まだまともか……。は?芸人2?」
「なんでやねん!」
秋元先輩がどこからかピコピコハンマーを出してきてまたパコンと空中を叩く。
「なんで芸人だけ二人いるんだよ!…まぁとりあえず芸人2…でいいか。」
その言葉を聞いて秋元先輩がクルリ、と体の向きを反転させた何かと向かい合うようなポーズをとる。
「じゃあいろいろ設定して…ファイト!!!」
そこで、安楽先輩と剣持先輩が秋元先輩の周りを大きくぐるぐると回り始めた。口で「NowLoading.NowLoading.」と言っている。
二周ほど回ったところで先輩二人がひっこんだ…と思ったら即行で剣持先輩が出てきた。大股でずかずかと秋元先輩の前まで進む。
「よくここまで来たな…。我が名はイモータリティ・ケルヴィム。貴様の挑戦、受けてやろう。」
さっきまでの声とは段違いなほどに高い、悪役のようなしゃべり方で言った。いかにも女王様(?)みたいな感じだ。
「待て!?いきなり最終決戦かよ!よ、よし。行け!!ピコピコハンマー!ピコピコハンマー!」
声に合わせて、軽くピコピコハンマーが剣持先輩に振り下ろされる。
「ふっ……ザコめ。」
その攻撃をまるで痛くもかゆくもないように受け止めて、代わりに剣持先輩は「ハァッ!!!」と片腕を突き出した。
「え、ワンパン!?」
「ぐわぁぁぁ!!」
ゆり先輩が悲鳴を上げたところで、芸人2は悲鳴を上げて倒れこんだ。それを見て剣持先輩はすっと、上手側へと去っていった。
「…芸人2、ザッコいな…。」
ゆり先輩がつぶやいたそのホンの数瞬後、先輩の肩がびくり、と跳ねた。
「うわ、停電?マジかよ、データ全部吹っ飛んだな…ブレーカー…。」
どうやら停電したらしい。ゆらり、とゆり先輩が立ち上がる。
「…てかいきなり停電ってホラゲ展開かよー。」とか言いながら一度上手側に引っ込んでいった。同時に秋元先輩も下手側へ引っ込む。
舞台に誰もいなくなったところで、さやか先輩が上手側から舞台中央へと出てきた。足をぷらぷらさせたりして、なんだか退屈している子供みたいだ。
「……え…?」
再び戻ってきたゆり先輩が疑問符を浮かべた。
「こんにちは~、和翔さん!」
さやか先輩が無邪気にゆり先輩にあいさつする。さやか先輩のことをしっかり認識したらしいゆり先輩は全力で身を引いた。
「いやムリムリムリ!え、あの、うち何もないんで帰ってください!けいさ…」
「いやあのぅ…。」
「はっ!!スイッチがない!お…俺のスイッチ返せ!!!!」
全力でコミュ障を発揮していたゆり先輩(和くん)がスイッチがないことに気が付いて、突如現れたさやか先輩にそう言った。さやか先輩が完全に困り顔をする。
「目を合わせていってくださいよ……。そ~れ~に!私がスイッチです~!」
「…は?…あっちょっとまって。」
ゆり先輩が手ぶりでセリフを切る。セリフではないようだから何かあったのだろうか。
「ゆり、どうかしたの?」
さやか先輩が首をかしげて聞くと、ゆり先輩はいや、そのさぁと言った。
「衣装赤と青にするけど、それだけだとスイッチってわからないくない?って思ってさぁ。」
あぁ~、とさやか先輩はうなずいた。ほかの二年生の先輩方もうなずいている。
「どうする、いっそのこと超説明文入れちゃう?」
「どういう風に?」
「例えば…えっとちょっと待って。」
ゆり先輩がスマホをいじる。説明文、というとゲームの仕組みとか…だろうか。ぼんやりと眺めているとゆり先輩が、あったぁ、と言った。
「2017年3月3日に発売、外に持ち出しても家でも遊べる画期的なシステムで人気を集めたとか…あとマイニンテンドーストアで改造したの入れたい。」
「やってみる?」「やってみよう。」
少し前から再び始まる。「こんにちは~、和翔さん。」「いやムリムリムリ!…」…
目の前で台本が書き換えられて、みんなでどんどん新しく作り替えていくのを見るとなんだか感動に近いものを覚える。誕生の瞬間に立ち会った感じがして、たくさんの書き込みで埋まっている台本に目を落とした。多分きっと大会ぎりぎりまでこの書き込みは増え続けていくのだろう。
よし、入ろう。香乃はそう決意した。この空間で何かを一緒に作り上げていってみたい。そう思っただけで動機は十分だ。
五時を告げる鐘が廊下から聞こえた———。
先輩方の演技って魅力的なところがありますよね。一生懸命やっているスイッチのはいった姿はどんな部活であろうとかっこいいものですね。




