体験入部3
消しゴムというゲームが行われている体験入部。
そして先輩の本気とは…?
秋元先輩に誘われて、香乃含めた一年はおずおずとながら腰を上げた。椅子を傍らにどかして、その場で棒立ちになってお互いに顔をみあわせる。どうすればいいかさっぱりわからない、という表情だ。
「誰鬼やるの~?」
ゆり先輩が間延びした声で訊ねる。
「あっ、じゃあさやかやる~!」
ぴょこぴょことさやか先輩が右手を上げて言った。ゆり先輩の高身長と比べると、多分香乃より少し高い位の身長が微笑ましいく思えるくらいに可愛く見えてしまう。動作も幼く見えて余計にだ。そんなさやか先輩の頭をぽんぽん、と叩いてゆり先輩が笑った。
「さやかは1年生にバ~カ。って言われたいだけでしょ?」
「ななななな、何のこと?そそ、そんなこと、無いよ!」
わざとらしく動揺した風な台詞に空気が弛緩した。笑い声が教室に響く。
「じゃあそっちに並んで~!」
さやか先輩に指示されて一年三人プラス二年三人プラス三年生一人が教室の後ろ半分ドア側に一列に並んだ。さすがに七人が横に並ぶと少しきつい、というか並べない。しょうが無いから、と4、3に別れて並んだのを確認すると、さやか先輩が反対側窓側の方まで走って行った。「いいよ~!」と鈴の鳴るような声でさやか先輩が返事をする。
「「「はじめのい~っぽ!!!」」」
全員がそれぞれの歩幅で踏み出したところで、あっ、と秋元先輩が言った。
「消しゴムどこに置きます?」
「う~ん、あっじゃあさやか、窓のとこにでもおいといて。」
ゆり先輩がぞんざいに窓サッシを指さす。それを聞いてさやか先輩もぞんざいに窓サッシに消しゴムをおいた。
窓の外をさぁっと風が吹き抜ける。教室の中では誰一人と動いていなかった。
「だるまさんが、」 バタバタバタ、パタッ「転んだ!」バッ、
さやか先輩が、くるりと振り向くとおのおの好きな格好で止まった。一年生はまぁ常識的というかどうしていいかわからない、みたいな、つまりまぁ普通に歩き途中のままストップモーションしたみたいな状態で止まってる。二年生三年生のみなさんはさっきのデモンストレーション同様、かなり遊んでいた。
中二病ポーズに始まり、筋トレみたいな格好で止まっていたり、二人でポーズとってたり、あげくブリッジになりかけの体勢のまま止まってる先輩までいた。なんだか手がぷるぷるしていてかわいそうだ。
「ゆり動いた~!」
スマホを確認していたゆり先輩に速攻で指名が入る。それを聞くとなぜか指名がうれしい、とでも言うかのようにゆり先輩は笑った。望むかのようにさやか先輩と手を繫ぐ。
「よし、これで消しゴムが誰が持ってるのか探すさやかと、隠そうとする後輩を見守れる!!!」
完全に台詞が新しすぎた。だるまさんが転んだを見守るとはいったい、は?は?と疑問が香乃の中に浮かぶ。目だけで、他の一年を確認するとやはり一様に顔に疑問が浮かんでいた。
「じゃあ続き始めるよ~。」
さやか先輩が再び、窓に顔を伏せた。その瞬間、体の動きを無理矢理止めていた反動で身体中が弛緩する。先輩方はそれが特に顕著だ。
「だるまさんが~、転んだ!!!!」
二、三年生がそろってさやか先輩を様々なポーズで囲む。下からのぞき込んだり、壁ドン(?)したり、肩に手を置いたり、ほかの人に寄りかかったりほんと相変わらず自由奔放だ。先輩方がとれる範囲にある消しゴムを一向に取らないのは、多分きっとこうやって楽しんでるからだろうな、と少し思った。
それをみて、ちょっとだけ仲間入りしてみたくなるのが人間ってやつである。
「だるまさんが、転んだ!」
先輩方がすっと移動してきて、消しゴムへと手を伸ばす。同じく、香乃も手を伸ばしたところで、…みな消しゴムに触れるか触れないかの距離で手を止めた。先輩方は半分くらい中腰で、数人はもう床にぺったりと座っていた。
「なに、取った?」
さやか先輩が手元をのぞき込む。それに百合先輩が取ってな~い、と答えた。
「だ~るまさんが、転んだ!!!」
ポーズや位置は若干変わっているものの、やはり誰も消しゴムに手を触れさせてはいない。一つの場所に四方八方からみんなの手が集まってると、まるでなんかの儀式みたいだ。
「どうしよう一年生が儀式に参加してくれてる…」
剣持先輩が感銘を受けたかのようにつぶやいた。手は消しゴムに伸ばされたままだったが。
「ていうかいい加減にとってよ!」
若干さやか先輩が半ギレ気味に言った。
それを聞いた秋元先輩が、「じゃあ次、取りますね。」と言い返していた。それはこのゲーム的に言っちゃって良いんだろうか…と香乃が悩んでいると案の定剣持先輩が「いや秋元、それ言っちゃいけないやつでしょ。」と突っこんだ。
「はい、じゃあだるまさんが、転んだ!!!」
びしっと顔を伏せて、張りのある声でだるまさんが転んだの声が響く。そういえば先輩方の声、張ってないのによく聞こえるな、とぼんやり思った。
そんなことを考えていたせいか、わずか10文字の言葉の間に指の先を数センチも動かすことができなかった。やはり消しゴムは取られていない。
さやか先輩が無言で顔を伏せる。「だ~る~ま~さ~ん~が~、転んだ!!」
やけに長く伸ばしながら言われる。いいや、やってしまえと思って香乃は消しゴムに手を伸ばした。ぎゅっと手の中に握りこむ。いたずらをたくらむ子供みたいに楽しそうに笑ったゆり先輩と目が合った。
目がきゅっと細められ、振り向いたさやか先輩にゆり先輩が「取った~!!」と宣言する。
それを聞いてさやか先輩がはじかれたように振り向いた。顔の片鱗にやっとか、という感じが出ているのは気のせいではないだろう。周りをくるくると歩いて、だれが持ってるか真面目探している。
「どうしよう…一年生にバーカって言ってほしい…。」
…真面目に探しているわけではなかった。今この状況で当てられたらバーカっていえないんだがそういう時はどうすればいいんだろうか。ルール説明でされていないことを思い至り、少しだけ迷う。まぁばれなきゃいいか、と思い直して、顔に出ないようにひきつったほほを少しだけ緩めた。その間にさやか先輩は決めていたらしい。
「じゃあね…のりちゃん!!」
眼だけ動かして確認すると結構挙動不審だった、さやか先輩にのぞき込まれて、ちゃいますちゃいますと連呼するくらいには。
「言っちゃって良いんだよ一年生。」
秋元先輩がのりこちゃんにサクッと追い打ちをかける。さやか先輩と秋元先輩を二度見、三度見してようやく決意を固めたのか、のりこちゃんはさやか先輩のほうをしっかり向いた。両手をパーにして、「ば、ばーか…?」という。
「「「か、かわいい。」」」
言い方はそれぞれなれど、先輩方は見事に一緒にそう言った。はぁ~、とため息ついたり壁に手をついたりリアクションが様々だ。
「よし、次!誰にしよう!」「いや、さやか一回戻らないとダメだから。」「え~。ゆりも聞きたいでしょ一年生の~。」「聞きたいけど、いいから早く戻りなって。」
かわいい、といった後のリアクションから復帰したさやか先輩が速攻で次を指名しようとする。ゆり先輩がそれを止めて、え~と反論していた。すごく速いテンポで会話が交わされていて、さすが三年生だな…と思ったり。また窓際まで戻ったさやか先輩が顔を伏せる。
「だ~る~ま~さ~ん~が~、」
先輩方と目が合って、手にしていた消しゴムをなんとなくのりこちゃんに渡した。さすがに二回連続は指名しない…だろうし。
「転んだ!!!」
一斉にピタリと止まって、フェイクのために手をキュッと握った。
「えっとね、小雪ちゃん!」
さやか先輩から迷わずに指名が入る。もう絶対だれが持ってるとか考えてないんじゃないかって思ったことなんて気のせいだ。
指名を受けて小雪ちゃんは一瞬不思議そうな顔をした後、にっと笑っていった。
「先輩、バーカ。です。」
「えっ、ちょっとまっ、かわいいかよ。」
剣持先輩が口を押さえて言う。真正面から被害を食らったさやか先輩なんてもう口を押えて「は、何この子…天使…小悪魔…。」とまで言っている始末だ。ほかの先輩方の皆さんもそろって撃沈している。
「もう無理…死んでもいい…。」
「さやか…死んじゃだめだ…」
三年生の先輩方がナチュラルにすごい会話を繰り広げている。先輩に対して殺傷能力高いな…と思いながら小雪さんのことを見てみた。当の本人はすまし顔ある。
「よし、次やろう。」
そういってさやか先輩が壁際に戻った。とはいえもともと狭い教室だ、次のターンできっとゲーム終了だろう。
思った通り、のりこちゃんが壁にタッチしてゲームは終了となった。それと同時に、四時半を告げるチャイムが鳴る。
「ありゃ、一年生の体験入部って何時までだっけ…?」
剣持先輩が首をかしげる。
「確か…四時半だったと思う。」
秋元先輩が答える。もう終わりか、昨日の軽音もだったけど、今日は時間が過ぎるのがやけに早い。
「えっと…、どうしようか。今日これで体験入部は終わりだけど、この後春大の練習するから見るんだったら五時まで見てっていいよ。」
ゆり先輩がそう言い放った。春大っていうのは多分きっと演劇の大会か何かだろう。
「時間やばそうだったら帰っちゃっても大丈夫だからね…?」
秋元先輩が恐る恐る言う。
「え…じゃあ、見ていってもいいですか…?」
せっかくだから見ていきたいという思って、そう申告してみた。小雪ちゃんものりこちゃんも見たいです、という。
「ほんと、じゃあ台本貸すね?」
さやか先輩がそう言って、それを皮切りに先輩方がリュックから台本を取り出した。A4サイズの台本が渡された。蛍光ペンで色が引かれていてたくさんのことが書き込まれている。『ここ明るく』とか『怒ってる感じ?』とか、セリフを直したであろう跡もある。
「どこからやりますか?」
安楽先輩がゆり先輩に尋ねた。
「ん~、よし、じゃあせっかくだからswitchがでてくるところからやろう。」
「わかった~。」「OKです。」「了解です。」各々が返事を返す。
秋元先輩が黒板の橋と端にそれぞれ上手、下手と書いて、先輩方は教室の後ろ、廊下側と窓際へと別れた。
ゆり先輩が、下手側に胡坐をかいて座り込んだ。
雰囲気の変わる音がした。
本気とは…?で切りましたぁ!!ごめんなさい!
すぐ投稿します。次話以降もよろしくおねがいしますう




