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銀色のローゼンシア  作者: 鎮黒斎
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新たな仲間

新たな仲間


 ここはネット世界、アスカ達が独自に作り出したチャットハウスでアスカ、ローゼンシア、シャナガのアジトと言うべき場所だ。アジトはスラム街の瓦礫が多い古びたビルの中にある。

 現実空間でもそこがアスカ達の住処だ。


ネット世界は現実世界と地形や環境が全く同じと言っていい……忠実に現実空間と同じ世界を表現している。

地理、建物、国……その他もろもろの、特に無機物が全く同じで、ネット世界の初心者なら現実空間にいるのかネット空間にいるのか見分けが付かないほどだ。ただし、現実で起きた事はネット空間で逐次再計算される。例えるなら、今ビルが建っているのが会社の解体された。その場合はネット空間で新たに再現される事となる。


 ただ、前にも言った通り利便性がかなり違う。移動方法が多く、代表的なのでワープゲートやワープ転送などで可能だし、欲しい情報は空間のウインドウを開いて検索すれば割と簡単に手に入る。反面、飲み食いなどはネット世界ではできない。だが、物体の持ち帰りは出来る。やろうと思えば、国境を越え現実世界の他国のログインシステムに移動可能だが、パスポートやら色々手続きも大変で、しかも何かと融通の利かない物だから自前でプログラムを組むんで用意すると大変時間がかかる。自国内でならプログラム作成だけに専念すればできない事はないが、それでも至難の業なのである。

また、ダイブした時の状態のまま身体状態は維持され活動する事になるが、ネット空間では圧倒的な疲労をした場合だけのみ“倒れる”といった動作をする。だが、ネット活動している間はそうとう体を酷使しない限り疲れる事もないし、腹もすかない。ただ、ログアウトした時に一気に疲れが来る事にはなるが……。


 国境間でなければ、好き勝手に色んな場所に行く事だって可能だ。通常のネット世界で生活している人と違い、移動手段が多いハッカー達にとっては自由に活動できる無法地帯と言ってもいい。ネットで生活していた方が、現実空間よりかなり有意義なのである。が、誰が決めたのか3日間の滞在期限がある。ハッカーにとっては死活問題だ。

“現実空間で主に活動しなさい”と言う、政府間かどっかで勝手に決めた法律なのだろうか。アスカ達はニュースとか政治と言う話しには全く疎く、何が本当なのか知ってはいない。


 アブソリュートを加え、四人はアジトのチャットハウスでたむろしていた。

 現実空間と違い、ネット空間でのアスカ達のアジトは裕福に見える。現実空間で金銭に切迫しているからだろう。ネット空間だけでも、少しは豪勢に生活をしたいと言う心の表われで、チャットハウスに色々工夫がこらしてあるのだ。

その通り、チャットハウスも個人が普通に持つモノとしては違いが大きくあり、豪勢に作られていた。座り心地のよさそうなソファー、室内の端には観葉植物、いる必要もないのだが、そんじょそこらの侵入者が入れないように強力なプログラムも施してある。アスカ達がいかに苦労して作成したかが良く伺える作りとなっていた。

 

「……は? 奴を仲間チームに?」


 アスカは素っ頓狂な声をあげた。


 ローゼンシアがアブソリュートと言う少年を自分達のチームに引き入れようと言う話になったのだ。


 「だから、あのウェントールミリタリーインダストリーで大枚稼げる情報は掴めなかったけど、強力な助っ人は手に入ったじゃない」


 「でも、奴は……」


――得体がしれない。

 アスカは声には出さず、ソファーに座っているアブソリュートと言う少年を見ていた。

 アブソリュートもその気配を察したのだろう、居心地が悪そうだった。


 「俺は賛成だぜ、仲間は多い方がいい」


 シャナガはアスカが全く当てにしていないような事を言いながら電子タバコをふかしている。 

困った時は多数決制で物事を決める。これはアスカ達チームのルールとなっている。

リーダーではあるが、少々アスカの状況は悪くなったかに見えた。


 「だって、あの硬い構造体のロボットを一撃よ! 天才ハッカーだわ。仲間に入れないで記憶の一切無い彼をどこかに捨てようって言うの?」


――だからなんだよ!

 アスカはお気楽なローゼンシアを細い目で見た。


 「しかし、“アーティファクト”を持ってるなんてな」

 シャナガは興味の方向をずらす為、話を変えた。シャナガにとって、既に賛成意見なのでその先の話はどうでも良かったようだ。


 「確かに……あの剣の威力、噂で聞く“アーティファクト”ってヤツなのか?」

 「すごい、私初めてみた!」


 “アーティファクト”とは“アクディブ・デバイス”の進化系、特殊な機能を付加させたハッカー専用の武器を言う。

 しかし、それを持つものは希少でネット世界に本当に適合できない者でなければ到底得られる事はできない代物である。対外はこう言う意味で使われている。


「“アーティファクト”?」


 赤毛の少年は不思議そうに言った。


「……本当に何も知らないんだな、自分自身の事もよ」


 シャナガは少し哀れんで言った。


 「ねぇ、本当にウチのチームにいれようよ。絶対私達の助けになるってば」


 ローゼンシアは子犬を拾った少女のような目でアスカを見た。


 「僕からもお願いします、ここから先…どうすればいいのかわからない……ですから」


 アブソリュートもオドオドしながら懇願する。


 「……そうだな。そのままどっかに捨てる訳にもいかねぇーし!」


 「流石、兄さん! 話がわかるぅ♪」


 「こんな時だけ兄妹風を吹かすな!」


 ローゼンシアはアブソリュートを見て言う。


 「そうと決まれば!あだ名よ、あだ名! アブソリュートってさ、スンゴイ呼びずらいからあだ名をつけましょう。」


 シャナガが続けて言う。


 「ローゼンシアがロゼだから、アブソリュートは“アリュート”って感じか?」


 「まだ長い! “アリュー”で決定!」


 「……一方的だな」


 シャナガが不満を漏らす。


 

「あなたのあだ名はアリュー。これからよろしくねアリュー♪ 私達の生活にも貢献してもらうからね!」


 ローゼンシアは逞しく幼少時代を生きたおかげでどこか卑しい発想を持っている。それが現れたような言葉が出ていた。


 「うん、僕の方こそよろしく。」


 

「私はローゼンシア=アリー。ロゼでいいわ」


「よろしく、ロゼ」


 赤長髪の少年は何も不満も無く承諾した。


「こっちはアスカ=アリー、私の兄。こっちのおじさんがシャナガ=エドって言うの」

 ローゼンシアはそれぞれの人物を手で紹介し、アブソリュートに説明した。


「……お兄さんと呼びなさい。」


 シャナガはおじさん呼ばわりされて癪に障ったらしい。


 アブソリュートの働きは目覚しいものがあった。

 今回の仕事は同業者の請負で、ソリッド・ファイヤーウォールをこじ開ける作業の委託だ。どこのハッカーチームもこじ開ける事ができなく、こちらに依頼が回ってきたのだ。

シャナガがいるおかげか、セキュリティー破りの得意なチームとしてハッカー達の間では少々有名らしい。

が、これがなかなか強固なソリッド・ファイヤーウォールで侵入を図るのに相当手間取り、三人係りで作業に当たっていた。

 アブソリュートはそんな三人を見ながら


 「何やってるの?」

 と聞いてきた。


 「ソリッド・ファイヤーウォールに穴あけるのに決まってるでしょうが!」


 ローゼンシアは強固なソリッド・ファイヤーウォールに手を焼き機嫌が悪い。


 「穴ならあけられるよ」

と言い、黒い剣を取り出し、剣でソリッド・ファイヤーウォールを円形に切り裂き、ソリッド・ファイヤーウォールをこじ開けてしまったのだ。

――ありえない。

 三人ともあっけにとられた。

ソリッド・ファイヤーウォールを物理的にこじ開けるなんて話はいままで一度も聞いたことすらなかった。なぜなら、ソリッド・ファイヤーウォールは完全なプログラムで構成されており、プログラムで流す情報以外受け付けない。鍵が合わないドアの原理で考えると、偽造の鍵をプログラムで作って開ける……のが従来のハッキング方法であり、アブソリュートのしている事はドアを電動ノコギリでこじ開けたような行為に近いのだ。が、現にアブソリュートはやってのけている。この行為はまさに鍵が無いならドアを破壊しよう……と言う行為に近い。これがアーティファクトの力なのか? アーティファクトでこんな事が可能なのか? アスカは少し羨ましそうに思っていた。

 だが、驚く事はそれだけではなかった。

ソリッド・ファイヤーウォールをこじ開けのも苦にしない作業は先でやったが、次の仕事ではアスカが捕獲型陣形プログラムにハマり、プログラム解除に苦戦している所を、アブソリュートは例の黒い剣で簡単に破壊した。

 それだけではない。あまりにリバースが多く逃走に苦戦しているところ、アブソリュートは後ろで退路を絶たれている大理石で出来た構造体の壁を、バラバラに霧散させて逃走経路を無理矢理作った。

 通常、ワープゲートを使ってワープする方法は今回は使えない。なぜなら座標位置を正確に知らなければ使えないからだ。と言うより、これが普通のハッカー達がとる手段であり、地道に企業内を歩き回ってデータを収集するのが主流なのである。

おかげで逃走が偉く楽になったのは言うまでもない。

――こいつに斬れないモノなんて無いんじゃないか……?

……と思わせる。


「……おまえ何者?」


 ためしにアスカのラングルードをアブソリュートの持っている黒い剣に当ててみた。が、霧散しない。

 それも当然なのである。アクティブ・デバイスはマナゲスの法則に守られた世界最強の硬度をもつ構造体だからだ。人が作るプログラムでは絶対作成できない構造体なのである。いや、構造体の概念を通り越して何か別のマナゲスの法則に乗っ取った手法で練成されているのかもしれない……が、そんなのはアスカ達には知る由もなかった。

アブソリュートの働きにはアスカ、ローゼンシア、シャナガの三人は驚きの連続だった。


 仕事の連続で、2日間ネット生活をしていたせいか、現実空間に戻るのを忘れていた。空間に表示されているウインドウ画面のタイマーが鳴る。


 「現実空間に戻るか」

四人は承諾した。

だが、やっぱりアスカには不思議に思っていた事があった。

――2日間俺達は仕事をしていた。にも関わらずアリューのウインドウのタイマーは鳴らないし、存在も消滅していない。おまけに記憶が無いと言っている。惚けている風にはみえないし

 こんな事が在り得るのだろうか。幽霊にでも合ったかのような胸につっかえるよう不信感を覚える。


 「じゃ、お前ともここでお別れだな。お前の現実空間での居場所を教えろ、今後の行動に必要になる」


 アスカはアブソリュートに言う。


 「あ、僕も付いていっていいですか?」

 アブソリュートは当然のように言ってのけた。


 「え、こっちこれるの?」

 ローゼンシア、ビックリした口調で言う……が、ローゼンシアだけでなく皆が驚いているようだった。

――ログアウトして、俺達のいるアジトに実体を現せられるのか?

 彼らが驚くのも無理はない。なぜなら、ログアウトする際、ログインシステムの場所を変えるには、専用のプログラムと公的施設と専用の汎用機を使わない限り、不可能と思われていたからだ。

アスカは何か釈然としない心持だった。

――現実空間に戻ればわかるさ。

 四人は、本来住むべき現実の住まいへとログアウトした。


 ここはアスカ達の現実空間でのアジトの中。ネット世界とは違いガラリと何も無いどこか寂しい空間であった。

 目立つ物と言えば、ネット空間にログインする為の巨大なガラス張りの円柱があり、それに繋がれているケーブルや色んな機器だけが存在している。

 アスカ達にお金が無いのも、これら機材にお金を投入しているからだ。メンテナンスする金額は莫大なのである。


 なら、なぜネットカフェにある物で使わないのか。大した用も無い時はネットカフェのログインシステムを使用しているのだが、これらネットカフェなどにあるログインシステムは警察などに所在がばれる確率が高い。ネットカフェなどの公的な汎用機付きのログインシステムにはID番号が入っており、誰がどこでログインしたのかが、調べようと思えば直ぐにわかってしまうからだ。ハッキングしてデータを奪取し、ログアウトして現実空間にあるネットカフェに戻っても、目の前に警察がいたのでは話にならない。ログアウト場所を変えるプログラムが存在すると言う噂だが、知る者はここにはいない。

アスカ、ローゼンシア、シャナガはハッキングする際はいつも自宅のログインシステムを使用している。


四人はガラス張りの円柱に姿を現していた。

アスカは驚き、アブソリュートを見る。

 アブソリュートに実体があったからである。

 ――シャナガは俺達にしかウェントールミリタリーインダストリーの情報を握っていないと言ったが、こいつも握っていたのだろう。そして、強力な陣形プログラムにハマり、その強力な作用かなんかで一時的に記憶を無くした。

 アスカは色々試行錯誤しながら、そう結論した。

――ログアウト先を簡単に変更できるなんて、こいつはとんでもないハッカーだ。

と、同時に思った。

 何はともあれ、アブソリュートの大まかな推測は立った。

――記憶が戻る確率は高い。

 そうアスカは確信した。


 四人は睡眠を十分に取り、アジトを出て街に出かけた。イオシスの首都リミアと言う所だ。

アブソリュートには何もかも新鮮だったようだ。なんでも物珍しそうに見る。

ある時、アブソリュートは上空を見上げ、感動しているような表情で辺りを眺めていた。

アジトを出た時の空は曇っていたが、今はシェルターが全開されていて、空が見える。快晴だ。


 「なに? 晴れた空がそんなに珍しい?」


 ローゼンシアがアブソリュートを見て言う。

 「“空”ってこうなんだ…青く澄んでいて綺麗だなぁ、初めてみた。さっきも見たけど、あの白くてふわふわしたのが雲?」

 「おいおい、記憶を無くしたからって空や雲くらい知ってるだろう。そこまで脳にくるようなダメージを受けたのかよ……よく生きてたな、お前」


 アスカはシレっと言った。

 ローゼンシアは色々感動しているアブソリュートを見ていて楽しい気分になってきた。アブソリュートの手を引き、広場に行く。


 「私、アリューに色々教えてくる」

ローゼンシアは子供に物事を教える母親のような気分だった。


 「いいのかよ、デートに見えるぜ」


 シャナガは冷やかし気味にアスカに言った。


 「勝手な行動はするな!」


 アスカの呼び声は既に遠くにいるローゼンシアには聞こえはていなかった。


「あーもう! あいつと来たら考え付く事なんでも実行しやがるんだから……あいつを育てたのは俺だぞ! 俺の言うことを聞けってーの!」

「なんか娘をもった父親のような発言だな……オヤジ臭ェー」

「アンタに言われたくないわ!」


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