赤髪の少年
赤髪の少年
夜中の1時、三人はネット世界のW・M・I近くの目立たない影の茂みにいる。
「ほんとだ、ソリッド・ファイヤーウォールが緩い、なんでかしら?」
ローゼンシアは現場に来て初めてビックリしていた。ソリッド・ファイヤーウォールを簡単なプログラム操作でこじ開け、穴を開ける事に成功したからである。
「どっから手にいれたんだよ、こんなデッカイ情報」
アスカも半信半疑だった所為もあり、現場を見て驚く。
「俺の知り合いにいるんだよ、こー言うのに鼻が利く奴が……ちなみに他の奴らにはこの情報は握られていない。俺達だけの情報だ」
「……」
アスカは沈黙し、少し考えていた。このシャナガと言う男、幼少の時からチームを組んでいるが核心的な素性を飄々と隠すような人間で謎が多い。そう思う事はいくつもあったが、訳有りの人生だったのだろうと問い詰めはしなかった……が、今回の事でその謎は再び浮上した。
しかし、考えていても仕方がない。少なくともシャナガは孤児から拾ってもらい、育ててもらった信頼するしかないパートナーだ。アスカは最初からヤル気でいた。
ローゼンシアがソリッド・ファイヤーウォールをこじ開けた穴の中をくぐり、“ワープゲート”と言う黒い楕円形のゲートを発生させる。このワープゲート“、場所の位置座標を知っていれば簡単にワープ移動できるゲートである。上位の技能として”ワープ転送“と言うのもある。これは、位置座標を特定できれば自分自身の個体ごと移動可能な手法である。
「防犯カメラも全部ジャミングしたぜ、俺の手にかかればチョロイもんだ。軍でも基本的には同じだよな」
シャナガはその手の裏工作には相当自信を持っていた。
「よし、突入だ!」
三人はワープゲートに入り、W・M・I内部へ侵入した。
なかは薄暗い研究施設のように見えた。
「カフェで言った俺の位置座標でワープしたよな?」
シャナガは再確認する。
「ええ、でもここって……?」
ローゼンシアにも研究施設みたいなところだと言うのはわかっていたみたいだった。あたりには実験器具やら、ネット内で使用する医療器具が並んでいる。ただとんでもなく広い。何をする実験施設なのだろうか。そして、シャナガはなぜここへ送り込んだのか疑問に思っていた。
「研究施設……おい、相当ヤバイ“情報”じゃないだろうなそれって!」
アスカは少し蒼ざめて言っていた。
「軍施設のネタなんて研究施設以外ないでしょうが」
シャナガはサラリと言う。
「大手の……ましてやW・M・Iのセキュリティーシステム……作動したら俺達なんかじゃ突破できないぞ……使ってる金が違う!」
「腕で補いなさい、自信を持っていい。君達は相当分の価値の腕を持っている」
シャナガは自信在りげに言い、続ける。
「……と思うよ」
「オ・イ!」
アスカはシャナガのそのいい加減ぶりに怒気を放った。
そうしている間にも、結構歩いただろうか。研究施設の中腹部まで来ていた。
「……誰?」
聞きなれない声が聞こえた。
三人は即座に身構え、声の正体を確かめる。
……真っ赤な赤長髪の少年が鉄格子の中に囚われているのを、三人は確認した。良く見ると精鍛な顔立ちだ。
ローゼンシアは呆れた声で言った。
「なにやってるのあなた……トラップに引っかかったの?」
ローゼンシアは同じハッカー(同業者)が単にトラップ引っかかった程度のように見ていた。
しかし、アスカとシャナガは違う考えだった。
――おかしい。
“マナゲスの法則”では三日以上ネット内で生活すると、自分自身の存在は自然消滅する。
普段普通にネット生活している者にとっては制御システムが働き強制的に現実空間に戻されるのだが、ハッカーの場合は違う。一般人はワイヤード制御のプログラム制約を受け、一定のパラメーターや最小の能力しか持つ事ができない。ハッカーはそれを嫌い、自身に付加されたワイヤード制御のプログラムを外す。もちろん、ワイヤード制御プログラムを外すのは常人ではできない。高度な専門知識が必要となる。ハッカーにとってはそのワイヤード制御から解放される変わりに、一般人が持つネットでのパラメーターの数値やあらゆる能力以上のモノを手に入れられる……パラメーターだけでも、ワイヤード制御時と比べ、千倍は違う。
つまり、二人が考えてるのは、ここに侵入できるのはハッカーであり、強制的に現実空間に戻るシステムを使用する事はできないので、自己消滅……と言う結論になるのである。
どの道、三日間以上はネット生活で滞在できないのだ。鉄格子の中にいる少年を見ながら、どうしてこんな形で囚われて、未だここにいるのだろう?
一日もあれば、ハッカーであれば警察に突きつけられている処だ。
……だが、この少年は囚われている……一体何日……?
「この子も助けてあげましょうよ。……うわ、何この鉄格子……特殊なプログラム? ……っぽいわねぇ……ふむふむ」
ローゼンシアは空間に表示されているプログラムウインドウの画面を見て鉄格子のプログラムを見ていた。
「あらら、中からじゃ絶対壊せない構造になってる。逃げられない訳よねぇ」
アスカも鉄格子を見る。どうやら鉄格子は特殊な構造体で構成され、尚且つ特殊な陣形プログラムの2重張りで固めているようだった。
……だが、外側からの刺激には脆そうだ。
「いや……なんかこれ、普通の構造体と違う作りだぞ。なんだこれ初めて見るな、どんな方法で練成されてんだ?」
アスカは呟くが、無駄に考えても仕方がない。
――とりあえず、助けるか。
アスカもシャナガもローゼンシアに賛同し、自分達のプログラムウインドウを開き、鉄格子を外す作業に入った。
鉄格子を外し終え、少年に色々聞いてみた。
なぜW・M・Iにいるのか、ハッキングに失敗したのか、何が目的できたのか。
しかし、少年に色々聞いてみたが埒があかなかった。
少年はそこら辺の一般常識以外全て記憶になく、さらには自分の名しか記憶にない……そして、今の社会体制やらニュースがどーたらなんて話は全く知らないようだった。
「僕の名前はアブソリュート……それ以外わからないんだ……」
赤長髪の少年はそう答えた。
年齢もわからない……が、ローゼンシアと同い年かそこら辺だろう。そんな少し幼い感じの風体をしている。
そんな色々聞いている時だった。W・M・Iのセキュリティーシステムが発動し警報音が鳴った。
「何故だ! なんかしたか?」
アスカは慌てて言った、少し冷静に考えてみた。
――まさか、あの鉄格子を破壊した時に……?
鉄格子にそこまでする理由はわからないが、今はそれしか考えれなかった。
シャナガは激を飛ばす。
「急いだ方がいい! ……チッ、外へワープできない! ワープできないようにプロテクトをかけられた! とりあえずここを離れる……」
と言いかけた瞬間だった。
アスカは前方を見た。何かの物体がキャタピラ音を鳴らしてやって来る。
それはW・M・IのAIプログラムを持ったロボット姿をした兵器だった。
下はキャタピラ、それに上半身が付いており、胸部は頑強な構造体に見える。頭部には長いゴーグルのようなカメラがついていた。右手にはガトリングガン、左にはアイスピックのような三m程ある尖った物が付いていた。
大きさは一階建ての家一個分くらいの大きさをしている。
「アスカ、アイツの相手を頼む! 移動できない以上、俺がプロテクトをこじ開けてやる」
こう言う作業にはシャナガが一番向いていたのでローゼンシアもアスカも完全に任せる事にした。
「何分いる? 出来るか?」
「ロゼ、アスカを全力でサポートしてくれ。軍のセキュリティーロボットは、そこら企業のセキュリティーロボットやらリバースなんてヤツと比較にならない。格が違うぞ。気をつけろ!」