ラストステージ
ラストステージ
ここはインテリゲンチアのマザー補助汎用機前。そこにはガークと四精霊帝士……そして、横たわっているローゼンシアがいた。
イオシスのセキュリティー部隊と国連の”ロザリオ”達は、アーティファクトの持つ敵の前では無力で、壊滅寸前まで殺されていた。
「ベルーガ、ラルベル、マーランド。奴等は必ずここへ現れる。先に待ち伏せするのだ」
ガークは言葉を発する。
「ハッ!」
四精霊帝士は返答し、三散した。
「ワシの悲願は達成される。アビスの崩壊と再生。ワシの世界をつくり上げ、この世を意のままにし、新しいアビスから支配する」
ガークはほくそ笑んで、そう言い放った。
「ミラードめ、そう簡単にマザーには近づけさせない気でいるか……だが無駄な事」
ガークはミラードの張っている、マザーコンピューターとマザー補助汎用機の間の狭間で強力なファイヤーウォールを剥がす作業に苦戦している。ガークは当然今すぐにはマザーコンピューターに到着する事ができない。
ガークはマザー補助汎用機を通じて、マザーコンピューターの間に侵入を計ろうと考えていたのだ。
『ガーク、貴様がネットで滞在し続けている時を待っていたぞ』
ガークは知っていたかのように、謎の言葉を発した方に向けて言う。
ワープ転送でやって来たのはエスメラルダだった。元W・M・I研究員のエスメラルダにとって、W・M・I内からのワープ転送するのは容易な事だった。
「エスメラルダ……貴様には感謝しているぞ」
ガークはエスメラルダの方に踵を返す。
「0と1が引き合う……まさか人間でそれが実現しようとは」
エスメラルダは声を落として言っていた。
「で、ワシになんの用だ?」
「……貴様には死んでもらう」
エスメラルダは二十数機もの湾曲した剣・ファルシオンを召還する。
「やれやれ、貴様もミラード同様。バカな奴よ」
エスメラルダとガークの戦いが始まった。
一方、イオシスとインテリゲンチアのセキュリティー部隊と”国連のセキュリティ部隊”ロザリオはW・M・Iのファイヤーウォールを突破し、中にいるウイルスの軍団やW・M・Iのセキュリティー部隊達を倒していた。
「やっぱ本命はマザーコンピューターに接続されている、このマザー汎用機って訳ね」
サイファはが宿敵を前に、ウズウズしている。
『四精霊帝士はステルスを使っています。私では発見する事が……申し訳ありません。反対にですが、敵が全くいない所を発見しました。突き当り右です……そこも広範囲で大雑把なのですが……』
ロザリーは自分が役に立っていない事を実感しているが、自分のできる事はしようと一生懸命だ。
「後は任せな、メガネのネーちゃん。奴の居場所なら検討がつく」
サイファは前もってミラードから指示を受けていた事を思い出す。
『ガークはマザーコンピューターを狙いに必ずインテリゲンチア内に瞬時に移動する方法を取ってくる。繋がっているとすれば、インテリゲンチアのマザー補助汎用機……奴はそこにいる。こっちも強力なファイヤーウォールでガークの突破用に対処してるが、5時間はもたせる。回線切断の用意もしているが、時間がかかりそうだ。その前にローゼンシアを救出するんだ!』
ミラードの言葉がサイファの脳裏に回想される。
「マザーコンピューターの影響が強いインテリゲンチアのマザー補助汎用機を目指そうぜ! 奴ら近くにいるぞ!」
サイファは一堂に激を飛ばした。
アブソリュートもアスカもそれは承知でいたので、互いに顔を見合わせ皆頷く。
一行は足を速めた……がやがて足が止まる。
一行の前に四精霊帝士が姿を現れたからだ。
「ここから先へは行かせん」
目の前のラルベルが言葉を発する。
「どうもイオシスのセキュリティー部隊がいないと思ったら……お前らとの戦いでやられてたからか」
アスカが物怖じせずに、威勢を張って喋る。
「ラルベルは俺がやるぜ」
アスカはそう言い、ラルベルの方へ向って突進していった。
「俺はベルーガだな。おい、アリューとやら。とっととマーランドを倒して先に行くんだ!」
サイファはアブソリュートにそう言う。
「危険だ! 相手が悪い!」
アブソリュートは激しく抗議する。
――……少しは息子を信頼しな。
そう心の中で言葉を付けたし、サイファはベルーガに向って走り出した。
だが、アブソリュートのもう一つの魂が何かを訴えているようにアブソリュートは感じていた。
――……心が二つあるかのようだ。
アブソリュートはそう思いながらも、そのもう一つの心の声に従う事にした。それはサイファの言う事に従わない事を意味する。それにアブソリュート自身、奴の実力を痛感しているからに他ならない。でも、自分の相手はちゃんと倒さないと……そして素早く処理せねば。
マーランドを撃破せねばならない。アブソリュートはマーランドに向って攻撃を開始する。
ラルベルとアスカの戦いは始まっていた。
お互い力量は互角かに見えた。
「良くぞここまで力をつけたものだ。敵ながら見事だ」
ラルベルが敵でありながらアスカを賞す。
「テメーと初めて戦ったのが運の尽きよ」
アスカはラルベルに向けて因果を吹っ掛け、見得を切って言葉を吐いた。
二人は激しくつばぜり合いをしている。
辺り一帯、風と雷が走り交差していた。
互いに激しい攻防の接近戦をしているが、勝負がつかない。
二人は一旦離れ、大技を放つ事で形勢逆転を狙う事にした。
「牙竜風神激!」
「新生・爆砕陣!」
巨大な渦を巻いた竜巻と、膨大な電気の大円舞が互いに張り合う形をとっていた。
爆煙がおき、互いに相殺し合う。それは長い時間競り合っていた。
結果……アスカは膝をつき傷を負っているようだった。
相殺戦で受けたダメージだ。
「……」
アスカは苦痛の表情を浮かべながらも、ラルベルの状況を確認しようとする。
ラルベルはそのまま立っていた。勝負はラルベルの勝利かに見えた。
が、ラルベルの様子がおかしい。
「……クッ、見事だ」
そう言い、ラルベルは倒れ霧散と消えた。
「……一瞬ビビッタぜ」
アスカも力を使い果したのか、そう言い残し倒れてしまっていた。
勝負はアスカの勝利で事を得た。
マーランドとアブソリュートの戦い。
絶対霧散のアブソリュートの剣、カオス・オブ・ドラグーンの前に、マーランドは手を焼いた。
水の防御壁もアブソリュートの一撃で一瞬で霧散する。まるで役に立たなかった。
水弾を四方八方に発射しながら、アブソリュートを牽制する。
だが、スピードもアブソリュートの方が勝っている。全弾交わしたり受け流したりして攻撃を防いでいた。
「……クッ!」
マーランドに苦汁の声が出る。
「……時間が無い、終わりだ!」
アブソリュートはマーランドを切り裂き撃破した。
勝負はアブソリュートの圧勝で終った。
アブソリュートはすかさず走りこみ、サイファを援護しようと向った。
ベルーガとサイファ戦。前の戦いの通り、スピードは同格を誇っていたサイファだが、攻撃が全く当たらず、業を煮やしている。
「ギャハハハ、まるで当たらねーYO!」
ベルーガは余裕の表情でサイファを嘲笑っていた。
その一瞬の隙をつき、アブソリュートがベルーガに向って必殺の剣を放つ。
ベルーガは一瞬怯んだが、ヒョイと交わされてしまった。
「最高に危なかったぜ05。塵ゴミになるのは御免だZE!」
「どうして、来た。先へ進め!」
サイファは詰り、言い放つ。
「ベルーガの実力くらい、僕だって痛いほど知っている……君だけじゃ勝てない」
サイファ一人で勝てないとキッパリ、アブソリュートはそう言った。
「チッ……そう言う融通の効かねー所はかわっちゃいねぇのな……」
サイファはボソボソと言葉を吐き捨てる。
サイファはアブソリュートと共に戦う事にした。
サイファのシルバーファングがベルーガに向けて放たれる。
例の如く、ベルーガは宙を舞い回転してそれを交わす。その滞空時間中にアブソリュートは攻撃を仕掛けた。
しかし、右手を押さえられ剣を振る事さえ許さない。
「クッ! これでもダメか!」
「ざんねーんでーしたー! ギャーハハハハ!」
アブソリュートの残念な表情を見て、ベルーガは嬉々としていた。
「本気だしちまうぞ、オイ。ギャハ、ギャハハ」
ベルーガは地面から巨大な先鋭とした構造体を幾重にも出して、それは猛烈な勢いでアブソリュートに向って突進してきた。
アブソリュートはドラグーンでそれらを消去する。
瞬間、ベルーガが即座に接近戦にやって来た。
一瞬の隙をつかれ、アブソリュートはベルーガの手から出ている結晶の刃を受ける。
……かのように見えた。
しかし、サイファがそれを右肩で受け止め庇っていた。
「……油断するんじゃねーよ」
サイファは苦悶の表情をを浮かべながらも、アブソリュートを叱咤した。
アブソリュートの魂がまた揺さぶられるのを、感じていた。魂が怒りに満ちているような感触……“この敵を絶対に許すな”、とアブソリュートに語りかけているように感じた。
サイファの犠牲を無駄にする訳にはいかない。
アブソリュートの剣はベルーガを捕える。
が、やはりベルーガは簡単に交わした。
しかし、状況が少し違う。
ベルーガの胴体は真っ二つに分かれていた。
「なにぃー……」
ドラグーンは空間を斬っていたのだ。
流石のベルーガも空間を斬る能力があるドラグーンを前には、避ける方法がない。
「俺様が、俺様が消えるぅー……」
ベルーガは霧散と消えた。
「なんて能力だ……ネット空間そのものを斬り裂いちまうとはよ」
サイファは驚いている。
「先を急ごう」
サイファはアスカを担ぎアブソリュートと共に先を急いだ。
マザーコンピューターの影響が強いマザー汎用機前。
アブソリュート達はついにそこに到着した。
直ぐ前にガークとぐったりした表情でガラス張りの構造体に閉じ込めらているローゼンシアがいる。
「エスメラルダめ、手を焼かせおって……まぁいい」
ガークは傷つき倒れているエスメラルダに言を吐き捨てた。そして、アブソリュートの前に踵を返す。
「一足遅かったな。マザーにはワシらが先に行く」
そう言い残し、ガーク達はワープ転送していった。
「クソ、遅かったか!」
アブソリュートは悔しそうに言う。
「いや、まだ終わっていない。俺達もマザーに行くんだ」
サイファはそう言い、エスメラルダの方を見る。そこには血反吐を吐いて、ヨロヨロと歩いてやってくるエスメラルダがいた。
「ハァハァ……私の出番……だね。私が君達の行き先を調整……しよう……マザーコンピュータを……死守する……んだ」
苦悶の表情を浮かべながらも、必死で訴えるエスメラルダ。
「だだ、今の私には……一人しか転送できない」
「チッ、使えなねぇ……しょうがねぇ。アスカのバカも担いでるし、負傷している俺も転送の手伝いをするか。ほら、お前ボサッとしてないで、さっさとそこに立て」
サイファはアブソリュートに、マザーコンピューターとの通り道、マザー補助汎用機の横で立つように指示する。
エスメラルダとサイファの調整で、アブソリュートはワープ転送に成功した。
………転送中、アブソリュートは蜃気楼みたいな儚い夢を見ていた。
ある人物と出会った気がした。
それは五十代を過ぎたくらいの赤毛、若さこそ違うがアブソリュートと良く似た人物だった。
彼はアブソリュートに色々心に訴える。
サイファが生まれた事。
フォレスタが生まれた事。
サイファがネットプログラムに興味を持ち教える事にした事。
幸せな家庭でみんなが笑顔で暮らしていた事。
自分がアークブレインに任命された事。
さまざまな思い出が走馬灯のように交差する。
そして……死。
それは語りかけた。
「フォレスタは私の魂だけを追いかけている哀れな存在となってしまった。フォレスタはもう死んだ。フォレスタを縛っているマザーコンピューターとの楔を断ち切ってくれ……フォレスタの魂を救えるのは君しかいない、もう一人の私よ」
そう語ったが、五十代の赤毛の男は首を横に振った。
「君は……君自身だ。アブソリュートと言う名の一つの個体。私なんかに囚われない一つの魂……それが君だ!」
「頼んだよ……」と付け足し、意思の強い声は薄れていった。そして、ワープ転送は終った。
目の前にはマザーコンピューターと倒れているミラード……全滅しかけているセキュリティー部隊、そして怯えているセキュリティー部隊達がいる。
ガークは五十本もの大剣を操るテレキネシス使いだった。ガークの回りに五十本もの大剣が宙を舞う。そして、既にマザーコンピューターの前にガークは到着していた。
「さぁ、器よ。魂を拾ってきてやったぞ。受け入れろ……下らなぬこのアビスを崩壊させるのだ! 世界がどうなるか楽しみだわい」
ガークはほくそ笑んでいる。
ガラス張りの構造体に入っているローゼンシアを宙に浮かせ、マザーコンピューターの核へと引き寄せていく。
瞬間、全てが銀色に輝いた。
マザーコンピューターとローゼンシアが融合したのだ。
巨大な地震がおき始めている、ネット空間が外部から崩壊している所為だ。
マザーコンピューターの核の色が赤くなっていた。
ガークはその核をまじかで見、満足そうに微笑んでいる。
マザーコンピューターが放っている光が銀色に輝きながら叫ぶ。
『キャ――――――――――――――ッ!』
ローゼンシアの叫び声が大音量で木霊する。
――ロゼが苦しんでいる。
アブソリュートは直ぐにマザーコンピューターに近づくが、見えない力で弾かれてしまった。
『……危ないの。パパ、来ないで!』
フォレスタの叫び声も木霊する。
アブソリュートはワープ転送中に見た回想を思いだす。
『フォレスタは私の魂だけを追いかけている哀れな存在となってしまった。フォレスタはもう死んだ。フォレスタを縛っているマザーコンピューターとの楔を断ち切ってくれ……フォレスタの魂を救えるのは君しかいない、もう一人も僕よ』
アブソリュートの覚悟は決まった。アブソリュートはドラグーンを構える。
「ガーク、お前の好きにはさせない!」
アブソリュートはマザーコンピューターのガークと隣にある核を睨みつける。
「アリュー、いけない! マザーコンピューターの核を破壊してしまっては、ネット空間は全て崩壊してしまう」
ミラードはそう叫んだ。
しかし、アブソリュートに躊躇いはない。
アブソリュートはマザーコンピューターの核を狙って、空間・時空を切り裂くドラグーンの一撃を放つ。
「甘いわ、ワシの練成した……」
核の前にいるガークは例のアブソリュートの剣を弾く構造体を練成していた。
しかし、今回それは切り裂かれた。ガークを分断している。
「バカな! マゲナスの法則を無視するとは……」
そう言い残し、ガークは霧散と消えた。
アブソリュートの渾身の一撃はマザーコンピューターの核にまで到達した。
瞬間、核は崩壊したかに見えた。
核から、黒い波動を放ちながら突風が吹きすさぶ。
核から、銀色に輝いているローゼンシアがゆっくりと宙を舞い、降りてきた。
アブソリュートはローゼンシアを抱え、事の終わりを告げる。
「……全て終ったよ」
アブソリュートは穏やかな声で、気を失っているローゼンシアに語りかけた。
アブソリュートはマザーコンピューターの核に融合していたローゼンシアだけを斬り離す事に成功したのだ。当然、核は無事だ。
覚醒したドラグーンが成した奇跡だった。




