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銀色のローゼンシア  作者: 鎮黒斎
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潜入

潜入


 ローゼンシア、アスカ、シャナガはハッカーの新米チームである。

 アスカが十三歳の時、ハッカーとしての腕前をシャナガに買われチームを組んだ。ローゼンシアもハッカー技術を初歩から手伝っていく内に、いつの間にか一人前のハッカーとしての素質が見え始め、今現在にいたる。


 この世界でのハッカーとは、仮想空間中であれば誰でも備わっているワイヤード制御を改造した者の事を言う。一般的にダメージを受けたり、ネットのルールに反する事をすると、ユーザーはワイヤード制御に保護されて強制ログアウトと言う制御機能が働く。ハッカーはワイヤード制御を改造した時点で、その恩恵を得られなくなるデメリットがある。強制ログアウトした場合、ログインした現実空間の所に戻る。


 ハッカーの仕事は主に他人様の探し物をしたり、貴重なデータを秘密裏に運送したりもする。たまには企業のデータベースからデータを盗み、そのデータを欲しい相手に売る事もある。背後に大物が絡んだりしたり、大手の企業ほど金額が凄まじく違う。またハッカー同士の請負でセキュリティーシステムを混乱させたり、“ソリッド・ファイヤーウォール”に穴を開ける作業もある……これが稼げる。しかし、年間1~3件くらいで落ち着かせないと政府が動き出し、ややこしい事になる事も多くあるので、活動期間は限られている。


“ソリッド・ファイヤーウォール”とは侵入者を寄せつけない企業のセキュリティーシステムの事で、それをネットの世界で可視化した物である。企業の周りに透明な壁が張ってあり、パスワードなど持つていないと侵入不可能のようにできている。ネット空間では頑強な金属の扉で表現されている。


ハッカー稼業はやろうと思えば一攫千金を狙える大きなチャンスとなる稼業だ。

だが、アスカはローゼンシアにハッカー稼業をさせたくなかった。自分の集めた金でローゼンシアに学校に行かせ、真っ当な道を歩んで欲しかったからだ……が、これも結構無理な話であった。

なぜなら、ハッカーは収入が安定しないのもあるが……アスカとローゼンシアの場合、二人には両親がいないからだ。父親は名立たるネットプログラマーであったが、病気で他界。

母親はアスカとローゼンシアを育てる為に悪戦苦闘し、真っ当な仕事には就けず過労で死んだ。

アスカは父親からネットプログラムの知識を多少学んでいたのと父親から小型のコンピューター端末を六歳の時に誕生日プレゼントに貰ったので、ネットで知り合った少年ハッカー達や時には実戦まがいなハッカーをやりながら独学で技術を磨いた。孤児院じゃハッカー技術を磨けないので、孤児院を出てローゼンシアと二人で暮らした事だってある。そんなある時、二人はシャナガと出会う事となる。

シャナガと出会って数十年間で、アスカは目覚しいハッカーとしての成長を果した。

語るには簡単だが、十数年でこの道を極めたのは、単に才能があったから……とかそう言うレベルではない。

……そうしないと生きていけなかったのだ。

こうして、アスカ兄妹、シャナガは生活の多くの収入を得ていた。

ハッカー稼業は時には危険であり、ヘマをすれば警察に捕まる事はもちろん、最悪の場合、死ぬ事もある。


…と言うのも、ネット内では法則があり“managesマナゲスの法則”と言うものがある。“manages”とは“司る・管理する”と言う意味合いが込められている。

これは現実で森羅万象に在り得る事象がプログラムされており、このプログラムを法則としてネット空間で活動する人間は生きている……と言うより、世界で在り得る事がこの空間でも在り得え、さらにネット空間特有のモノがプラスされる。……従っているとも言うが。マナゲスの法則とは、絶対無視できないネット世界のルールを言う。

……つまり、ここでの意味は、ワイヤード制御として本来の制御プログラムが働いてないハッカーであれば、ネット上で刺さて致命傷を受けたり、同様に撃たれて傷を負っても死ぬし、致死型プログラムウイルスの直撃を食らっても死ぬ。そして、3日間以上ネットに滞在し続けると自然消滅すると言う法則まである。が、メリットも多くある。ネット空間で活動するとワイヤード制御から逃れられ、パラメーターがグンと上がる。そして、プログラムが使える事だ。欲しい情報は即座に手に入るし、加工されたプログラムならダウンロードしてネット世界で活用する事もできる。それに一般ユーザーもハッカーも、座標位置が正確にわかれば短時間で好きな所にワープ歩行で移動も可能である。腕があれば起動時間はかかるが、空を飛ぶ事だって出来る……が、これは目立つので、非常事態でない限りハッカーとしてやらないのが常識だ。さらに、ハッカーには身を守るプログラムだって扱う事ができる。これはハッカー稼業で常識となっているので後に説明する事にしよう。


「……で、なんで普通にマイペースな仕事してんの? 俺ら?」

 現在夜中の2時、アスカ達一行は仮想空間でハッカー稼業の真っ最中だった。アスカは話が違うとばかりに不満をもらしながらも仕事を少しずつ済ませている。

仕事とは企業にある、データのコピーである。このデータを欲しがる人物がいるらしいので盗んで売る事にしたのだ。

ここは割と小さな企業のデータベース内。あたりには巨大な黒い石碑のような形をしたコンピュータ(汎用機)の“構造体”が4機あった。


“構造体”とは文字通り“構成されている物体”を指す。単に“物体”とか“存在する物”と言う意味で呼ばれる事が多い。ハッカー達の間ではこれら物体、あらゆる物を“構造体”と言う呼び方で言われている。正確には“情報が蓄積された物”の総称でもある。これは“意味が込められた情報が密集した物体”と言う事を指している。が、この意味で捉えている者は少ない。


「美味しい物は最後に食うのが通なんだよ」

 シャナガが意味ありげに楽しそうに言う。

「よし、これで全部……と、ありゃ?」

 シャナガははにかんだ気持ち悪い表情で「ウフ」とおぞましげな声を出し、次に偉い事を口にする。

「あ、セキュリティーシステム作動しちゃったみたいだ……つか、色々動いちゃったみたいよ、これ」

 シャナガはあっけらかんと言ってみせた。

「オイ! 手間が増えた……まぁいいや、いつも通り破壊するぞ、用意はいいかロゼ!」

ローゼンシアも待ってましたとばかりに頷いた。

 アスカとローゼンシアはプログラムを起動させた。自分達の周りの空間に画面のようなモノが投影され、ワイヤード制御に入り混じっているのがそれである。空間にあるキーボードを操作して二人は武器を何も無い空間から取り出した。

 アスカは長いハルバートのようなモノを空間から取り出す。名前を“ラングルード”と言う。

 ローゼンシアも三つの空間から直径10㎝程の雷の球体三個、ローゼンシアの周りの何も無い空間から召還する。名前を“ヘリオス・チェレスタ”と言う。


これら武器を“アクティブ・デバイス”と言い、ハッカー達が己の身を守る為のオフェンス(攻撃)プログラムがそれである。

 ネット活動が長い者で、鍛錬を積んだ者程この“アクディブ・デバイス”は成長し機能が増えていく要素を持っている。

 また、このアクティブ・デバイスと言うモノは、適正によって違い、自然にネット空間の法則に従い、自然に武器として持つ物が決められる。ハッカーになり、武器を練成した時点でアクディブ・デバイスが何であるか決められ、一生それを使わなければならなく、運が作用する“managesマナゲスの法則”に沿ったランダムデータソートによるモノである。


セキュリティーシステムが作動し、汎用機から敵と言える物体が姿を現す。

 リング状の浮遊する物体だ。

「“リバース”かよ……こいつら数多くて嫌なんだよな」

アスカはタメ口を言う。


この“リバース”と呼ばれるリングで構成されている物体、リングに縛られると拘置所へ転送されるプログラムでできた構造体である。小さな汎用機によって“リバース”はナンバリングして量産され、言うなれば、捕まるとアスカ達のいた現住所のIPアドレスを強制的に書き換える能力を持つ。小さな汎用機一つにつき最大千二十四量産される。現在、三機の汎用機が見える。汎用機とは、“マザーコンピューター”の処理を手助けする“マザー補助汎用機モノリス”の処理を手伝う端末の一つである。黒い小さな石碑の構造体で仮想空間では表現されている。


「ロゼ、ヘリオス・チェレスタで援護よろしく!」

 アスカはラングルードを使い、接近戦を試みた後、複数のリバースを破壊する。

「俺のラングルードは半端じゃないぜ!」

 ローゼンシアは周りにある10㎝ほどの雷の球体を三個、前方に向かって放ち、攻撃して後方支援していた。ローゼンシアのヘリオス・チェレスタは周りに浮遊しながら配置され、それが自分の前方だけ動く、固定された攻撃方法を持つアクティブ・デバイスなのである。

 シャナガは気楽に電子タバコを吸っていた。電子タバコは煙がピクセル状にモザイクがかかり煙の役割を果たしている、それが消耗していく嗜好品である。この世界での電子タバコとは、ネット内で気分をイメージ的に高揚させる為の只の消耗アイテムで、体になんの害もない魔法のようなアイテムでもある。

「あー、俺こー言うの専門じゃないのよね」

「誰に言ってる!」

 アスカのツッコミが入る。

「独り言だって……あ、ほら、どんどん来たぜ」

 リバースは絶え間なくやって来た。

 業を煮やしたアスカはなにやら、何かやらかすようにハルバートを回し、地面に突く。

 ハルバートは雷を纏っていた。

「爆砕陣!」

 呼び声と共に、ハルバートの矛先から無数の雷撃が轟音をあげ、飛びかった。

 リバースは全て粉砕され、アスカ達は逃走するの経路が出来た。

「いつも思うんだけどさぁ、兄さん。最初っからそれすればいいんでない?」

「手が痺れるんだよ……これ」

アスカは手をぶらぶらさせながら答えた。

「それよりデータきちんと獲れたんだろうな?」

「当然」

 シャナガはディスクを出し、データを吸い取った事をアピールした。

 三人は例の企業を出、逃げる準備は万端に整った。

「脱出成功! 帰る準備はいつでもOKだぜ」

「“ログアウト”の準備整ったわ。敷地外へ出たらいつでも現実空間に帰れるよ」

 ローゼンシアはそう言い、ウインクしながら親指をグッと立てた。


 “ログアウト”とは“ログイン”の反対の意味を言う。ネット世界から現実世界に戻る事の行為を言い、建物の敷地外へ出ないとこのログアウトと言う行為はできない。例外として、自分達が現実空間でログインした時のネットカフェ内などの建造物ではログアウトできる。要は、ログインし“ログアウト”認定の所に行かなければログアウトは不可能だと言う事だ。自分のIDが無い建物だとログアウトできないので、外だと大抵ログアウトできる。

例外として、個人が使う強力な陣形プログラムや巨大な結界プログラムもあり、捕まるとログアウトもワープもできない事がある。これは高度なトラップとして使われる事が多いが、このプログラムは高価であり、作成するにも手間がかかり、使うと消耗してしまう為、個人でわざわざ使う者はまずいないと言って良い。大手の企業ならハッカー対策として使用したりする場合があるが……。

三人は現実世界へとログアウトした。


時刻は昼間、三人は近所にあるカフェで、飲食をしていた。

「なぁ、話が違うんじゃないのか? どこがすげぇー情報なんだよ?」

 アスカは少し怒り気味にシャナガに言った。

「ほんと、いつも通りよねぇ……面白くない」

「……今日の夜中だ」

「ハ?」

シャナガの突然の発言に、アスカとローゼンシアは間の抜けた声を出してしまっていた。

「夜中の1時、ウェントールミリタリーインダストリーのセキュリティーが一時緩む」

「ネット内の軍の兵器工場かよ! しかも、ウェントールのだぞ!」

アスカは周りを気にし、押さえ気味の声で驚く。


 ウェントールとは、イオシスの南側に国境を持つ国家である。古くからの王政国家であるらしいが、その裏に王室と同等の組織を持つとも囁かれ、その組織が予想出来ない兵器実験をしているともっぱらの噂だ。裏で仕事をしている者にとっては結構有名な話だった。だが、それ以外は知る術が無く、個人ではもちろん国家間でも、それ以上の真偽の程を知る者は誰にもいない。


今回そういう国の軍施設の情報を狙おうと言うのだ。

 シャナガは続けて言った。

「あそこはどうもきな臭い情報がこの頃多く入ってくる。……成功したら一生遊んで暮らせるぜ?」

「楽しそう! この頃刺激が足りなかったのよね。私達少年少女だもん、殺される心配なんてないわ♪」

 ローゼンシアは半分冗談ぎみに気楽に言い放った。

「俺、三十二のおじさんだけど」

 シャナガが嫌な顔つきで言う。

「なら仕方ないね」

 ローゼンシアの無垢な笑みに、シャナガの表情はケバケバしていた。何がどう仕方ないのか聞く気でいたシャナガだが、バツの悪い返答が返ってきそうなので聞くのを止めた。

「気楽に言うな。あー言うきな臭い軍相手だからこそ殺される確率が高けぇんだよ……でも、このまま貧乏生活ってのも嫌だしなぁ……」

 アスカは返答に詰まる。

「ま、無理な返事はしなくていいって。無茶しない生き方をしてれば、無難には生きられる。ちと金が無くて辛い生活だろうがな」

「いや……やっぱその話、乗った」

 これはアスカとローゼンシアが幼少の頃、本当に貧乏な生活をしていたからこそ決めた決断だった。貧乏と言うだけでいじめられ、貧乏人は教育で教養を補強をする金は払えない。学校には行けなくなるし、教育が届かなくなり他人からは人間扱いされない……そんな体験があったからである。

 自宅の明かりは消され、次に借金で住んでいる家を売り払われ、別の住家では近所からは白い目でみられる……家なしの生活をし続けた二人だからこそ、アスカは決めた。ローゼンシアも当然その気でいた。二人ともハッカー稼業で常に“死んでもいい”とまで思っている。

「そうこなくちゃな、大丈夫……俺がいる!」

 シャナガは自信満々に胸に手を当てた。

「いや……あんたが一番役にたたない。」

 ローゼンシアとアスカは呆れながら同時に言い放つ。

「ロゼ、これに成功したら店でも持って生活するか。」

「うん!」

「シャナガも一緒にやろうぜ?」

「……」

 シャナガは少し間を置きを返答した。

「……ん、悪くないかもな。ハッカー生活なんて陰気な生活、引退したいし。その時はよろしくたのむわ」

 アスカとローゼンシアの夢が叶うかもしれない瞬間だった。


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