カウント・ゼロ
カウント・ゼロ
半年が経った。ここ半年でマザーの補助汎用機の破壊された機数は四十台以上にも上る。
ミラードは困り果てていた。
「敵の襲撃の勢いが衰えない。全く、殊勝な事だよ」
アスカが育ちの悪い言葉使いで言う。
「W・M・Iに直接殴りこみした方が早くね?」
ミラードはその言葉使いを気にしてはいなかった。
「そうしたいのは山々なんだけど、名目がないんだ。国権的権威って言うか……言わば、攻撃できるだけの名義だね」
敵は正体不明のテロリストとして、今だ謎のままである。直接関連性が無い以上、N・M・Iを攻撃する訳にはいかない。
「敵の目的はわかっていないけど、中でも一つ謎が浮上しているんだよ。」
ミラードは話を続ける。
「奴ら的にもW・M・Iにもマザーの補助汎用機があるんだよ。特別巨大なヤツが。どうして奴らは真っ先に自分達の補助汎用機破壊しないのか?」
「後で自分達が困るからじゃねぇの? ほら、自分達のネット空間の機能が死んだらなんもできないじゃん」
「それはあるんだけど、何か引っかかってねぇ……」
「マザーの補助汎用機っていくつ存在するんですか?」
シャナガが話しに参加する。
「イオシスの国には数千台ほどかな。十パーセントも補助汎用機が機能停止すると、マザーにダメージがくる事になる。」
「それって結構ヤバイんじゃないっすか?」
「補助汎用機の生産も急ピッチで進めてるんだけどねぇ、これが予算も期間もかかりすぎて期待できないし」
「今は守るしかない訳ですね」
ロザリーも割って話に参加した。
「そう、それが一番ベストと言うか。八方塞がり…それしか方法がないんだよ……今のところ」
ミラードは頼りなげに言った。
「四精霊帝士の誰か一人でも潰せば、敵の勢いも衰えるんだけどねぇ。ほんと簡便ならないわよね。ぶっ潰してやりたいわ、ほんと」
ローゼンシアは両手を胸の辺りに持って行き、拳を握って語る。
――あ、そう言えば。
アブソリュートは思い出したかのように語ってきた。
マザーコンピューターに十二、十三歳くらいの少女がいましたよ。ミラード、何か知りませんか?
「少女? IDでチェックしてる筈だし、侵入は不可能なのに……いたの? そんな子が?」
「いましたよ。アリューの事“パパ”とか抜かしやがるんですよ、その子!」
ローゼンシアは憤然して言っている。
シャナガとアスカは端で爆笑している。
「ロゼさん、焼き餅ですか?」
「ちがーう!」
ローゼンシアはロザリーの眉間を両手の拳でグリグリしてやった。
「痛い痛い。冗談です、冗談!」
ローゼンシアは羽交い絞めにしていたロザリーがギブアップしたので直ぐに攻撃を止めた。
ミラードは少し考えていた。
――……少女がいた? バカな。
「みんな見たの? その少女」
「はい」
ロザリー以外、一堂は返事をした。
「……結構気にする事ではあるよね。後で調べてみるよ。この頃、妙に引っかかる事ばかりだね……忙しい忙しい」
「……ミラード、お疲れ様っす」
アスカはミラードの働きを労った。
「ねぇ、みんな。例の少女探しに行かない? ミラードの手間も少しは省けるだろうし。今日もひょっこり現れるかもよ? 注意しなきゃ!」
と、ローゼンシアは発言してみる。
「おう、ネット内で彷徨ってても困るしなぁ、探してやろうぜ。インテリゲンリアの関係者っぽいし、少しは叱ってやろう」
シャナガも賛成している。
「みんな、ログインしよう」
アブソリュートは言う。
「了解!」
一堂はインテリゲンチアの敷地内にあるマザー周辺の補助汎用機の探索の為ログインした。
ここはインテリゲンチアの敷地内にあるマザーの汎用機前。
『どこでしょうねぇ、センサーには反応が無いのですが……』
ロザリーはそう答えた後、
『あ……なんですかこれ…通信が……ガガァァ―――ッ!』
通信が途絶えた。
「何やってんだロザリーの奴。まぁ、いいや。少女相手ならバラバラに行動しようぜ」
アスカの言葉に全員賛成した。
アスカは敷地内を探索していた。
――俺のカンが敵はそっちだと言っている。
そう訳のわからない思考で動いていたのだ。
だが、そのカンも当てになっていたようだ。
アスカは敷地内を探索中、不穏な影を見つける。
――見つけたぞ、お遊びのお嬢ちゃん!
アスカはすぐさま追いかける事にした。
広場に出る。そこで一人の謎の人物の姿を発見した。
「いけね。俺とした事が初めて発見されちまったぜ。流石インテリゲンチアのセキュリティー部隊と言ったところか?」
彼はハッカーだった。見つかったのに、やけに冷静だ。
「こりゃー“カウント・ワン”って事になっちまうのか?」
ハッカーである男は、なにやら戯言を言っている。
その姿は誰かを思わせる。赤髪だった。
ただ、短髪ではあるが。
アスカはその不穏な影に少女の姿を見なかった。男……ハッカーか!?
「お前、やけに余裕な態度じゃねーの。どこのハッカーだよ」
興味本位にアスカは聞いて見た。
「あ、俺か? 聞きたい?」
ハッカーは嬉しそうに勿体つけて言う。
「世間では“カウント・ゼロ”と呼ばれてるな」
「なんだって!」
“カウント・ゼロ”……正体不明のハッカーとして超有名なハッカーの名だ。
発見した者は未だいなく、セキュリティーシステムのジャミングやサポートシステムの混乱を駆使し、レーダーで捕まえる事を許さないステルス機能を完備した、凄腕のハッカーである。
「アンタがあの“カウント・ゼロ”?」
「インテリゲンチア内ってのもあるが、実に運がいいぞ、小僧。ハッキリ言って俺を探し当てたのはお前の運だけだ。誇っていいぞ。」
カウント・ゼロは余裕綽々と語る。
「ご褒美に俺の名前を教えてやろう。俺の名はサイファ=ミロード。世界中のネットワークシステムから名前も無いが、レアだぜアンタ」
サイファは勝手に自分の事を語っていた。
「インテリゲンチアに何の用だよ!」
「お前さんが知る必要はなかろうよ、俺ハッカーだもん?」
「んだと!」
アスカは怒り、雷を帯びたラングルードを召還する。
「ほう、フォース・アーティファクト持ちか。ちと遊んでやるか」
ハッカー相手と高を括って、アスカは甘い攻撃でサイファに向かって斬りつけた。
が、サイファは思いの他素早く、颯爽と間合いの距離をおく。その間合いの取り方が素早すぎた。しかも、手にサブマシンガンのような物を召還し、ゼロ距離で撃ってくる。
アスカはプログラムのシールドを練成するが敵のアクティブ・デバイスの威力が凄まじく高く、今のアスカのシールド練成能力でも防御力が追いついていない。ラングルードで防ぐ形となってしまった。防戦一方……接近戦型のアスカにとって辛い戦局となった。
「このサブマシンガンの名は“スカイリッパー”って言うんだ」
「聞いてねぇ!」
アスカはアクティブデバイスの説明をしているサイファに怒りを混ぜながら言う。
「で、この両腕から出るジャバラの鎖が“シルバーファング”な。俺のフォース・アーティファクトだ。中距離戦用アタックプログラム。オリジナルのプログラムもこれ経由で流せて使い勝手がいいし、攻撃にもつかえる上等な代物だ」
と言い、サイファは両腕のシルバーファングを使い、中距離からアスカに攻撃を仕掛ける。
アスカはダッシュし転がりこんで、その攻撃をなんとか交わした。
――こいつ、相当の腕前だ。四精霊帝士以上じゃねーか、ひょっとして?
少なくともアクティブ・デバイスの威力はかなり高い……しかも、複数使用している。これは相当手強い相手になる……そう感じた。
「新・爆砕陣」
アスカは本気を出す事にした。
ラングルードを振るい、図太い稲妻の刃がサイファに放たれる。
「なんのこれしき」
ジャバラの“シルバーファング”で身を包み、アスカの攻撃は簡単に弾かれてしまった。
「なに!」
――もうちょっとは苦労して受け止めろよ、俺の新必殺技だぞ!
アスカは憤慨しながら思っていた。
「お前、完全に接近戦型だな。お望み通り接近してやろうか?」
サイファは物凄いスピードでアスカに接近してきた。
「舐めんな!」
ラルベルとの戦いで多少、アスカはスピードに馴れていた。サイファを捉える事に成功する。
……かのように見えた。しかし、サイファの身につけている黒いマフラーのような物が伸び、サイファを包み込む。すると姿を消してしまっていた。
――どこへ行った!
アスカは見の周りをキョロキョロと見回る。
サイファはアスカの背後捕っていた。
「この黒いマフラーみたいなヤツが俺独特のアーティファクト“シャドーエッジ”。ステルス機能をもった、攻撃にも使える便利なアクティブ・デバイスさ」
背後でサイファは余裕の笑みで説明していた。
――こいつの実力は並みじゃない。
アスカは冷や汗をかいた。
と同時に、突発的な事を思いつく。
「アンタ……俺を弟子にしてくれないか?」
「なんだそりゃ?」
サイファは唐突にそんな事を言うアスカに呆気に取られている。
「インテリゲンチアのセキュリティー部隊はもう辞めた。俺の真の相手は四精霊帝士ってんだ。俺を鍛えてくれ!」
アスカは懇願する。
――四精霊帝士……やっぱ奴らも動いてやがるのか。
サイファは色々思う所があるようだった。
「カスみたいな奴だったらお断りだったが、アーティファクト持ちなら俺の役にも立つだろう。目標も同じようなもんだしな。同志って所か?」
「なら!」
「OK! 俺と一緒に来な」
サイファは親指を立て、OKサインを出した。
「データの回収も終ったしな。ログアウト先、俺が変更してやるよ。コツさえ掴めば簡単なんだなこれが。近場ならの話だけど」
――説明的な奴だ。
「アスカ! どこに行くの!?」
偶然居合わせたローゼンシアが言う。
「わりぃ、ロゼ。俺コイツに付いてくわ」
そう思いながら、アスカはサイファに付いてく形になり、ログアウトして姿を消した。
そして、例の少女は見つからなかった。
現実世界、インテリゲンチア内のミラード部屋では大騒ぎをしていた。
「行方不明? ……簡便してください」
ミラードは頭を抱えていた。
「お兄ちゃんのバカ! 何考えてんのよ!」
ローゼンシアの怒りは絶頂に来ている。
「謎のハッカーに付いていくなんてな……完璧なバカだな、あいつは」
シャナガもローゼンシアと同意見だった。
「あのーですね、あの時サポートが妨害されていたんです。セキュリティーシステムもジャミングされていました。敵の位置も確認させてくれません。多分高性能なステルス機能を持った相手かと……相手は凄腕のハッカーです」
ロザリーが話しに割って入る。
「あれ、待てよ。セキュリティー攪乱にサポート妨害、ステルス機能だって? ……その手口、どこかで聞いた事あるような……」
シャナガが一生懸命思いだそうとする。
そう、ステルス機能なんてものは本来簡単にできるモノではないのだ。ステルスの機能を十分に理解した上で、何年も手掛けてプログラムして、それでも出来るか出来ないかのプログラムなのである。しかも、高性能なら尚の事。
それをやってのけて見せる人物……
「“カウント・ゼロ”の手口だ!」
「カウント……ゼロ?」
ローゼンシアは「なにそれ」と言うような面持ちで言っている。
「バカ! ハッカーなら超有名だろうが。カウント・ゼロ。正体不明のハッカー。いるかいないかさえわからない、存在さえ確認されていないハッカーの事だよ。現実にいたんだな。アスカの野郎、遭ったのか……」
「そんなのまだ、カウントなんとかってのと決まった訳じゃないじゃない」
ローゼンシアは呆れて言う。
「まさかアイツ! 四精霊帝士と互角に戦えないもんだから、そのハッカーに付いていったのか」
シャナガハッとした困った形相から一瞬、表情を変えし、憤然とした表情に変えた。
「……それならまだいいんですけどね。本来なら軍法会議ものですよ……軍じゃないですけど、インテリゲンチアは」
ミラードはどう反応していいかわからず、とりあえず言える事だけ言ってみる。
「アスカなら絶対戻ってきますよ。処分はその時決めましょう」
反面、アブソリュートは意外に冷静だった。
――アスカは強くなろうとして、そのハッカーについて行ったんだろう。アスカが選んだんだ、多分凄腕のハッカー。僕も強くなるぞ!
そう言う心持だったからである。
ここはサイファ邸。といっても、昔のアスカ達のアジトだった所とあまり変わりない、ログインシステムだけが目立つガランとした部屋作りだった。
「やっぱ、ハッカーの部屋ってみんな同じなのな」
アスカは言う。
ただ、部屋の隅に物凄い数のプログラムの本が置かれてある。
「あ、それ親父から勝手に貰ったもんなんだ」
「あんたの親父さんも、ネットプログラマーだったのか?」
――しかし、何か違う。
パラパラと本をめくってみたが、内容がかなり高度な事に気がつく。
「……そんなようなモンだ」
サイファは少しいい加減気味に答えた。
「悪いと思うが……両親は?」
自分と同じ臭いがするこのサイファに、アスカは親近感を抱いていた。
「死んだんだろうな。親父のシャドーエッジまで俺に受け継がれてるって事は」
「なんだそりゃ?」
アスカはなんの事かわかっていない。
「シャドーエッジは継承型アーティファクト。
死んだ時点で自分の思い描いた人物にそれが継承されるシステムになっている」
「現実世界で死んだのか? ネット世界で継承できる物なのか?」
「ネット空間で死んだんだろうな……今のところそれしかわからん」
「……なるほどね、ハッカーってのは必ず親が死んでるよなぁ。俺の身の回りじゃ」
「んだな。生き残るのも一苦労だ」
「あんた、俺が四精霊帝士の名を出したから連れて行く気になったんだろ? W・M・Iに恨みでもあるのか」
アスカは本題に入る。
「大有りだ」
「理由は?」
「教えない。ただ、インテリゲンチアか国連が動くまで待っていた。……気が遠くなるほど待ったぜ」
W・M・Iに恨みがあるならインテリゲンチアかどっかの国の介入は必須だろう。「だろうな」とアスカは付け加えてさらに質問する。
「期間って何年くらいだ、待った期間?」
「十年は待ったかな」
「十年だって!」
アスカは驚いた。十年もW・M・Iに恨みを持っているとなれば、相当の執念が必要だ。サイファはいまだW・M・Iに執着しているのがその証拠だ。
「あんた何歳だ?」
「二十八だ」
「俺よりジジーだな」
「放っとけ!」
なんの変哲もない会話が続いた。
「さて寝るか。明日は忙しいぞ。なんとW・M・Iのデータベース狙いだ」
「ワオ、お前スゲー。……と言いたい所だが、四精霊帝士がいる無理だ」
「実力は知っている。地のベルーガだけが俺の天敵かもしれない。他は雑魚だ」
――雑魚って、こいつはよっぽどの自信家か?
アスカは付いていく相手を間違えたかと後から後悔する。
が、実力は十分すぎる程あるのは確かだ。
明日のW・M・Iデータベース狙いには付いて行こう。
アスカはそう決め、眠りについた。
翌日。
「おい、サイファ=ミロード」
「フルネームで呼ぶな」
サイファはフルネームで自分を呼ぶアスカを制した。
「で、なんで普通に仕事してんの、俺ら?」
ここは大手企業データベースの汎用機の構造体前。
アスカは、呆れて言う。
「生きるには金がかかるだろうが。ログインシステムのメンテナンスとか、食う事とかよ。食わなかったら、腹減って死ぬじゃねーか」
「……まぁ、確かに」
「それに楽しみは後で食うのが通なんだよ」
シャナガみたいな事を言う奴だな、とアスカは思った。
「あ~、ワザとセキュリティーを発動しといたからな。リバースだ。破壊しないで全部避けろよ」
「なんだって!」
サイファはとんでもない事を言い出した。そして、とんでもない事を要求するサイファにアスカは憤慨した。
「ネット世界で動きを鍛えるには、リバースは最適なんだよ。大丈夫だ、脳の処理がネット世界に適合してきてくれば、動きは見違える程速くなる」
そうサイファは言う。
――そんな事言ったって。
リバースに捕まったら、警察に捕まるのは常識。アスカの心は煮え切らない。
「できなきゃ、俺の弟子失格だ。どこへでも行っちまえ」
「……わかったよ!」
アスカは覚悟を決めた。
リバースはとにかく数が多い、リバースの嵐をアスカは避けるのに専念していた。
「そうそう、やればできるじゃねーか」
サイファは簡単にリバースを交わしながらアスカを激励する。
次第にアスカもコツが掴めてきた。リバースの嵐を避けるのも苦にしないような体さばきになってきたのだ。インテリゲンチアでの訓練がモノを言っていたに違いない。
――馴れれば簡単かもしれねぇな。
アスカは交わすのが少し楽しくなってきた。
しかし、アスカの背後にリバースが襲ってきているのをアスカは知らない。
サイファはスカイリッパーを即座に召還し、リバースを射ち落とす。
「油断は禁物だ。危ない野郎だな」
「……悪かったな」
そんなこんなしている内に、敷地外を出る。 ファイヤーウォールはサイファが既に破ってある。しかも、実に簡単に剥いでしまっていた。まるでアブソリュートのドラグーン並みの早さだ。インテリゲンチアに入って知った事だが、ファイヤーウォールはどんな攻撃も受け付けないらしい。つまり、アクティブ・デバイスの攻撃は一切通用しない。それが例え、アーティファクトでもだ。アブソリュートのドラグーンは例外と言える。
「ネタも取ったし。帰るか」
「ネット空間出たら多分、相当疲れてんな……俺」
アスカはリバースを交わし続けて、体を酷使した事を考えていた。ネット世界を出たらその反動がくる。
「考えてみりゃW・M・Iの潜入は今日は辞めだな。予算の調達が間に合ってない。ま、その内やるから今日はゆっくり休め」
――こいつは無計画だ。
アスカはそのいい加減ぶりに呆れて物が言えない。とにかく休みは貰えたので少し安心する。今日は体をゆっくり休めようとアスカは思った。
――俺のめぼし通りだ。才能あるぜ、お前。
サイファはなんだかウキウキしていた。逸材を拾って喜んでいるのだ。アスカはそれほど才能を持っているかもしれない人間だった。サイファはワザとW・M・Iの侵入日を変更していたのだ。無論、アスカを鍛える為だ。
現実世界のサイファのアジトに到着する。
やはりアスカの疲れの反動が強い。体のあちらこちらから筋肉痛やら腰が痛いやらで、身動きをとるのがやっとだった。そんなアスカだが、ふと思った事があったので口にする。
「サイファ、あんた何の為にハッカーやってんだ?」
アスカは突然質問をした。
「……生きる為に決まってるだろ? ハッカーの初歩だ初歩」
サイファははぐらかしたかのように言う。
だが、今度のアスカは騙す事はできない。アスカは真剣に質問していたのだ。
あれほど高度なプログラム知識を持ち、なお“カウント・ゼロ”と噂されるまでに至った経緯は長い歴史があるように思える。
しかも、W・M・Iに十年もの間、恨みを持っていると前に言った。ここまで漕ぎ着けるには相当な苦労があった筈だ。きっとかなりの訳がある。アスカはそう確信していたのだ。
アスカのその真剣さに負け、サイファは口を開く。
「……妹の魂を探す為だ」




