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銀色のローゼンシア  作者: 鎮黒斎
10/21

再びネット世界へ

再びネット世界へ


 アスカは部屋に閉じこもっていた。シャナガの事を根に持っていたからだ。

 自分をここまで成長させてくれたのはシャナガだった。だが、今回ローゼンシアを巻き込んだのは許せなかった。

 アスカはシャナガと出会う昔を思い出す。

 それはシェルターの天井が開き、寒い思いをしていた頃だった。アスカとローゼンシアの服はボロボロで上着など無い。スラム街の町外れの壁の隙間で、二人とも寒さを凌いでいる頃だった。

「なんだお前達? ちっこいのに、二人で生きてく心構え……逞しいな」

 アスカとローゼンシアは孤児院を出て、二人でハッカーとして生きて行こうと思った……そんな時だった。

 その時シャナガが現れたのだ。


 「孤児院を出たのか、家無しって訳だ。そりゃ寂しいなぁ」


 「俺の家もサッパリ何もねーが、温かいコーヒーくらいはあるぜ……来るか?」


 「あ~、でも子供にコーヒーなんて飲ませても嬉しかねぇよなぁ」

シャナガの昔言った数々の優しい言葉が木霊する。

 あの時は、胡散臭い奴っぽかったけど、悪い人間に捕まらなかった事は、今思えば幸運だと思えた。シャナガはいい人間だ。本当になによりも感謝している……筈なのに、今は怒りに満ちている。


 「シャナガのバカ野郎! 俺はともかく、ロゼを巻き込む事ぁねーだろ……金で俺達を釣りやがって、簡便ならねぇ!」


 アスカはベットにあった枕をドアに投げつけた。



 シャナガは例の高層ビルの頂上にあるミラードの部屋に前にいた。ミラードに呼ばれたからである。


 「キースと呼ぶべきかい? シャナガの方がいいかな?」


 「シャナガの方がしっくりきます。シャナガで頼みますよ。ミラード最高責任者」


 シャナガは一礼し改まって言っていた。


 「あっと、そんなに畏まらなくてもいいよ。僕はそう言うの気にしないから。名前もミラードと気軽に呼んでくれ。こちらも気楽に呼ばせてもらうけどね」


 ミラードは微笑んで言っていた。


 「了解しましたよ、ミラード」


 シャナガもそれに答えた。

 ミラードは素早く次の件に話を切り替える。


 「今回アブソリュート君の事で来てもらった。シャナガ、君はどこまで知っている?」


 ウェントールミリタリーインダストリーがエレメンタルレイドを投入してき、アブソリュートを奪還の為、狙いを定めて来た。

 ウェントールミリタリーインダストリーの陰謀……それは何を意味するのか。


ミラードはシャナガに尋ねてきた。


 「……」


 シャナガは黙っている。

――話していいものだろうか?

 仮にもここはインテリゲンチア……今、最も安全な場所と言える。

 しかし、話すにはシャナガの過去にも触れる事になり、なかなか口を開く事ができない。


 「言えないか……。でも、こちらの情報網の方が広い。悪いと思うけど多分、僕の方が知っていると思うよ」

――そうだよな、そっちは情報のスペシャリストの集団でもある……話す方が得策か。


 「お願いがあります。そちらに入ってくる情報を常に俺達に教えてはくれないでしょうか? その代わり、俺の情報も教える事にします。多分、あなた方が知らない情報もある」


 アスカやローゼンシアもいつかこの情報を聞きたがると予想したシャナガの配慮も含まれてあった。あいつらはそう言う人間だ。凹んでも絶対ただじゃ起きあがって来ない上、逞しいのだ。シャナガはそう条件を付け加えて、ミラードに言う。


 「連れの奴らがこのまま黙ってる性格じゃないんですよ。このまま何も知らないで放置し続けるとインテリゲンチアを引っ掻き回す事にもなりかねませんし」


 冗談交じりな事を言い、シャナガはミラードの返答を待つ。


 「……いいだろう。情報は常に君達に開示するよ」

 ミラードはそう約束した。


 「じゃ、まず僕の知っている情報から言うよ」

 ミラードは情報開示をする。


 「ウェントールミリタリーインダストリーは裏で一人の科学者の取得に成功した。名をガーク=ゾロス。……申し訳ない事に、こいつは元インテリゲンチアにいた人間で、抹殺する予定だった人間だ。でも失敗し、追放と言う形になってしまったんだ」


 「奴の思考が常に危険なモノだったからですね」


 シャナガは口を開いていた。


 「そう。奴の考え方は実に危険だ。科学の力を兵器として使う事になんの抵抗もない。人体実験も苦ともしない狂った思考の持ち主だ……いや、むしろ兵器開発をする事に喜び感じている。インテリゲンチアにいてはいけない人間だったんだ」


 ミラードは続けて言う。


 「ウェントールミリタリーインダストリーの目的はどうもネット世界の掌握にあるように思える……これは僕の推測だ」


 「その通りですよ。奴らの計画は半分以上は完成している」


 「なんだって!」


 ミラードは驚いた。推測したものが既に半分以上完成していたからだ。ミラードはそこまでは予想してはいなかった。

 シャナガはハッキリといった。


 「ウェントールミリタリーインダストリーのネット世界掌握計画。マザーコンピューターに“ある魂”を吹き込んだらしい……その意味はわかりませんが、そう言う情報は手に入ってます」


 するとミラードは手で制して言う。


 「待って。マザーコンピューターはインテリゲンチアで管理している物だ。メンテナンスにも異常は見えないように思えるけど」


 「すいません。俺の専門外なんでわかりません。ただ、“魂を吹き込んだ”と言う事がどう言う意味なのか……ここが鍵となるでしょう」


 「調べてみる必要がありそうだね」


 ミラードは顎に手を当て考え色々考えこんでいた。


 「……そして、アブソリュートの完成。五回もの人体実験の後、数百年かかってようやく完成させた貴重な存在。これらが、ウェントールミリタリーインダストリーの計画の半分以上完成していると言う理由です」


 シャナガは過去を思い出しながら、淡々と語っていた。

 シャナガは一息置いて、続けて言う。


 「アブソリュートのその力……目覚めれば“アーティファクト”なんてものと比較にならない程の力を有すると言われています」


 続けてミラードは知っている事を網羅する。


 「あらゆる“存在する構造体”を抹消する能力。開発者の間では“”アーク“ファクト”と呼ばれているらしいね」

 だが、ミラードは一つ疑問に感じていた。


 「でも、彼がどのように使おうと考えているのか、私にはわからない。シャナガ、君は知っているのか?」


 「俺にもわかりません」


 シャナガは過去、パリスを失った事を思い出して語る。自分の腕の中で、息絶えるパリスの姿を。シャナガの表情は苦渋していた。だが、今はそんな禍根で黙っている訳にはいかない。インテリゲンチアに情報公開するのが先決だ。


 「ただ、パリスは死ぬ間際、片言で“完成されたアブソリュートとマザーポゼッションに選ばれた者は引き合う……マザーポゼッションを”防いで”と言っていました。ネットの話をしていた途中でしたからネット関係の話なのでしょうが、全然予想がつかない」


 ――マザー・ポゼッション? 机上の空論とまで語られてしまっている理論がどうしてそこで出てくる?

 ミラードは思案していたが、これ以上考えてもわからないので話しを続ける事にした。


 「ウェントールミリタリーインダストリーの研究員、パリス=レイナード。……ウェントールミリタリーインダストリーから脱走に失敗し、君もろとも抹消された筈だった……」 


 ミラードは申し訳なさそうな表情をし、更に話を続ける。


 「その情報は私に入ってきているよ。不謹慎だが許してほしい、我々には一刻も早い情報が必要なんだ」

――そこまで知っているのか。

インテリゲンチアの情報網は自分が思っていたより巨大である事を再確認する。


 「流石の情報網……恐れ入りますよ。俺はあの事件で死にかけた。パリスを失い、全ての気力が喪失している頃だった」

 シャナガは過去の失踪劇を回想する。パリスと一緒にウェントールミリタリーインダストリーを脱走しようとし、失敗した事。軍が動きだし囲まれ、撃たれて息絶えたパリスを置き去りにしたまま、谷に落ちてしまった事。それで生還していた事……我ながら良く生きていたなと思っている。


 「俺は人気の無い川の流域で死にかけていたんですよ。その時ある科学者に命を救われたんです。“君を探していた”と言ってね。色々縁があって、そいつは俺の事を探していたらしいですよ。軍より先に見つけれるなんて……正直信じられませんが、軍の情報網を勝手に使って俺のいる位置を予測したらしいです」

 シャナガは淡々と語る。


 「話の通り、ウェントールミリタリーインダストリーの人間なんです。俺を治療してくれ、匿い、逃がしてくれました。名をエスメラルダ=ラビュー=レミング」

「先日まで、“Absolute-0(絶対-ゼロ)開発計画”の現責任者だった人じゃないか!」


 ミラードはまたもや驚いた。“Absolut-0 開発計画”……言わば、アブソリュート(Absolute)の生みの親である彼がどうしてシャナガを助けたのかわからなかった。


 “Absolut-0 開発計画”とは、ある確率で構造体に超高密度な情報を伝達させると構造体はゼロへと棄却する……と言う、ネット上の机上の空論とされる理論だ。情報はゼロとなり、無となる。

ミラードが当初空想していたイメージで、理論を成立させるにはネット界の全てをコピーして複製する必要がある……ゼロへと棄却する事はネット界全ての事象に影響するからだ。データが膨大になり制御が効かないと言うデメリットが発生する為、現在の所検証には至っていない。謎が深い。今回、このミラード発案のモノが検証も無く、失敗は付き物だと開き直り、最短距離で利用されたとみられる。



 「奴はウェントールミリタリーインダストリーの人体実験に嫌気をさしていたんですよ。色々思うところもあったんでしょう。“正気の沙汰じゃない”と言ってね。だが、ウェントールミリタリーインダストリーは巨大だ。ウェントール国の出資・権威も預かっている。到底一人で太刀打ちできる相手ではない」


 「……なるほど」


 ミラードにはこの先が予測できた。


 「で、アブソリュートを俺に盗ませ、彼に自由を教えて欲しいと言っていました」


 ミラードが口を挟む。


 「……段取りをした訳だ」


 シャナガはコクリと頷いた。


 「“約束の日時と時間以内に必ずアブソリュートは完成される事になる。だから、その約束の日時と時間にウェントールミリタリーインダストリーに侵入を計ってくれ。”……奴はそう言いました。ウェントールミリタリーインダストリーのソリッド・ファイヤーウォールとその他のセキュリティーシステムの妨害を介入しやすいようにも計ってくれましたよ。この計画を進めるのに十年くらい待った……長かったですよ。ただ、最新鋭のロボットの構造体にはそれが効かなかったらしい」


 「アブソリュート君の取得に成功して。現在にいたる……か」


 ミラードは考え更けていた。

シャナガは冷静な口調で話を変えた。


 「危うく最後の希望のカードまで失う所でしたよ。俺、通信を送ったのに全然信用してくれないんですもんね、インテリゲンチアは」


 「済まない……君の連絡は常に来ていたんだけどね。最初は悪戯扱いされて、途中で破棄されたんだよ」


 「そんなような事だとは思っていましたがね、こちらも必死なものでして。通信を止める訳にはいかなかったもんでしてねぇ……」

 シャナガは話の内容とは正反対に呆気らかんと言ってみせた。この事は解決したので、もう気にしていないようだった。


 「それでも連続で来るから内容を聞いたら……とんでもない内容だった。悪戯でもこれは放置できない問題だと議会に持ち込まれたんだけど、どうにも議会で可決するのにも、中身を見ても悪戯扱いされてて、時間がかかりそうだったので、僕自身が調べて確かめる事にしたんだよ。お忍びでね」


「まさか、エレメンタルレイド二人が来るとは。俺も正直、もうダメかな……とか思いましたよ。でも助かりました。独断専行ありがとうございます」


 「うん、直前で危なかった……本当に僕が行って良かったよ」


 ミラードの話はこれで終った。次はアスカ達と話そうと思ったのだが、どうだろうか考えている。


 「君の連れとも話しがしたい……今いいかな?」

 ミラードは尋ねてきた。


 「どうも仲違いしてしまいましてね。俺からは声を掛け辛い状況なんですよ、参りましたねぇ……」


 「そうなんだ……インテリゲンチアが介入する事が遅れたのにも原因があるのだろうね。済まないね」

 ミラードは申し訳なさそうに言う。


 「彼らは僕から呼ぶようにするよ。ありがとうシャナガ」


 「いえ、こちらこそ色々配慮してもらってありがとうございます、ミラード」


 シャナガが部屋を出る直前だった。自動ドアが開いた時、ミラードは一つ聞いてきた。


 「一つ聞いていいかな?」


 ミラードは、シャナガの返答を待たずに尋ねた。


「君がそこまでする理由は……復讐か?」


「……」


 シャナガは図星を突かれた。が、これ以上はこの件で語りたくなかったので部屋を出た。


 「……復讐。それは君の身を滅ぼす結果にならないだろうか? 君の大切だった人が、それを望んでいるとは……思えない」


 ミラード踵を返し、部屋の窓から景色を見、独り言を呟くのだった。


 ローゼンシアはインテリゲンチア内を探索していた。ローゼンシアが探索中、案内人の人と出会ったので、案内人の女性に見物人用のパンフレットみたいな説明書きが配られた。

 千五百階まではどうやら従業員用の仕事部屋の階らしい。それから上はなにやらセキュリティールームやデータを蓄積する汎用機、泊まれる部屋……ログインシステムのルームなど多様な階に分かれていた。

 全部の残りの階を見回るのは不可能なので、ローゼンシアは馴染み深い、ログインシステムの間まで行く事にした。千六百階以上の階がログインシステムがある所だ。

 ログインシステムの間は、米印のように真ん中のエレベーターから通路で別れていた。

 警備員の一人がエレベータ近くにいる。ローゼンシアは構わずログインシステムの自動ドアを開けようとしたが、警備員に阻まれた。


 「IDカード持ってないでしょ。部外者以外、使用禁止なの」


 「なんでよ、ケチッ!」


 ローゼンシアは機嫌を損ねた。

 どのログインシステムがある階に行って警備員はいた。ローゼンシアは更に不機嫌になった。

 ――このまま“保護”なんて形は嫌。私はネットの世界に戻るんだから!

 ローゼンシアはそう決意していた。

 ――やっぱりいつも通りのメンバーが必要よね。

 とりあえずこの場を去り、ローゼンシアはアスカの元へと行こうと考えた。アスカが加わればネット活動はとりあえず出来る。私達の世界……ネットの世界が待っている。


 いきなり、ローゼンシアはアスカの部屋に入って来た。


 「兄さん! いつまでウジウジしてんのよ!」


 ローゼンシアは檄を飛ばす。


 「シャナガの事は置いて考えましょうよ。私、このまま保護されるなんて嫌! 何もしないでずっと待ってるなんてつまらないわ」

 ローゼンシアは勝手に“保護”と言う形をとられた事にひどくご立腹のようだ。


 「……ロゼ。お前は逞しくなったな」


 アスカはローゼンシアを見上げた。


 「そうだな。シャナガの事は許せねぇが、こんなの後だ。俺達はこんまま黙ってる訳にはいかねぇんだよな!」


 アスカのハッカーとしての意地が表された言葉である。アスカはこのまま引き下がるのは、やってきたローゼンシアにも申し訳ないと感じていた。

 アスカの部屋の自動ドア開き、しっかりした声が聞こえた。


 「僕も混ぜてほしい」


 声の主はアブソリュートだった。


 「僕は記憶が欲しい。ウェントールミリタリーインダストリーに僕の記憶が保存されているかもしれない。……あ、これは僕一人でやるからログインするまで仲間にいれてほしいんだ」


 アブソリュートはそう懇願する。


 「乗りかかった船、お前も仲間だ。全部手伝ってやるよ!」


 「流石。兄さん!」


 「ロゼ、正直お前を巻き込みたくなかったが、もうそんな事話してる時じゃ無くなった。とことん付き合ってもらうぜ二人とも!」


 「……ありがとう」


 アブソリュートは嬉しくて涙が出そうだった。

 二人の好意に感謝する。


 「千六百回以上の階がログインシステム。ネットの世界へ行こう!」


 「狙いはウェントールミリタリーインダストリーのデータベースだな。データを回収するくらいならアブソリュートがいれば簡単だ……ただ問題はエレメンタルレイドの存在だ。奴らに遭えばアウトだ」

 

アスカは少し考えを巡らせていた。どう考えてもウェントールミリタリーインダストリーの侵入は危険すぎる。エレメンタルレイドなんてとんでもない存在もいる。

「後先なんて考えてもしょうがないじゃない! 目標があるならそれを目指すべきだわ!」

 ――その通りなんだが……後先の事を考えても仕方ないのかもしれない。


 「やってみるか」


 アスカはそう決意した。


 ここはログインシステムを管理する階。

 ローゼンシアが先に前に出、ログインシステムの前に行くと、やはり警備員が来た。


 「また君か。何回来てもだめだぞ!」


 「そんな事言わないで……ね?」

 ローゼンシアは可愛らしく体をくねらせウインクし、色仕掛けを仕掛ける。


 「だ、だめだ。だめ!」

 警備員は危うく、色仕掛けに負ける所だった。


 「あ、スカートにゴミがついてる。」

 ローゼンシアは短いスカートを少し持ち上げ、上太股が露になる。

 警備員はローゼンシアの太股に魅入っていた。

――チャンス!

 壁側に隠れていたアブソリュートとアスカは急速に走り出し、アブソリュートは警備員の鳩尾に強烈な一撃を浴びせ、アスカは置いてあった消火器で警備員の後頭部を殴りつける。


 「ぐはっ!」


 警備員は気絶した。


 「死んでないよね……?」


 「頭蓋骨は陥没してないし……手加減したから大丈夫……だとは思うぞ」

ローゼンシアは「……ごめんねぇ」と手を合わせ、警備員に合掌する。

しかし、ログインシステムに入る為にはID確認のいる機械の扉がある。

 アスカはハックする小型の機械を、ポケットがいっぱいあるズボンから取り出し、ケーブルを引っ張り、扉にあるメンテナンスのプラグジャックに差し込んだ。


 「チッ! やってみるか、俺のハックで抉じ開ける」

アスカは伊達にただハッカーをしていた訳じゃなかった。腕前がこの場で証明された……扉が開いたのだ。

三人はログインシステムの一室に入った。


 「よし、さっそくログインだ!」


 機械を全て起動させ、システムを動かすのには時間がかかる。アスカはその起動時間が来るまで待っていた。


 「そこまで!」

 声の主はミラードだった。シャナガもいる。


 「まさか、警備員を倒してまでやるとは思わなかったけど……シャナガの話では、このまま黙ってそうな性格でもなさそうだったしね」


 ミラードは少し呆れ気味に言っていた。


 「部屋にいないと思えば……だからお前らはバカなんだよ。三人で何ができるってんだ!」


 シャナガは怒りで噴気している。


 「アンタには関係ねぇ!」


 アスカは怒鳴って言い返す。


 「大有りだ、俺はお前らを大事に思ってるんだからな!」


 「よくもそんな事を!」


 二人の怒気の間にミラードは割って入り話の方向を完全に変える。


 「君達が“保護”と言う形を嫌う事が良くわかったよ。このまま勝手な事をされるのも色々迷惑だから、僕なりに考えたんだ」


 ミラードは勿体つけて言う。


 「君達をインテリゲンチアのセキュリティー部隊に入隊させる。ただ、僕直属の指揮下に入ってもらうからね。もちろん、給料は払うよ」


 「なんだって!」


 ミラードの提案に、アスカとローゼンシア……シャナガすら驚いていた。


 「僕も関わってしまったからね、このままにはしておけないし……完全に僕の独断専行って事で今からそう決まったから、ただ他のセキュリティー部隊の人達と一緒にチームを組ませたら不満が出ると思うから、完全に僕の私物にするよ」


 ――“今から決めたって”とか“私物”って……それって許される事なのだろうか?

 三人はミラードの無茶ぶりに呆けていた。

 ――流石はアークブレイン……と言った所なのかもしれない。

「ただ軍律は守ってもらうけどね。ハッカー稼業の時と違い、好き勝手に動く事は許されない。……うん、これが一番安全だと思うよ。じゃ、決まり!」

 ミラードは言う。

 ――勝手に動けないのは癪だが、インテリゲンチア公認でネット活動できるなら、これは最良の選択ではないだろうか。

 アスカはそう考えた果てに結果を出した。


「わかりました。その提案乗ります。ロゼもアリューもいいだろ?」


「うわー、これって公務員になったって事でない? 凄いよねぇ、私達公務員だよ!」


 ローゼンシアは全く違う所に着眼点があるようだ。


「僕も参加していいんですか? 本当に狙われているのは僕なのに」


 アブソリュートは恭しく言う。

――エレメンタルレイド、確かラルベルと言ったか……あの男は僕を連れて行こうとした。ウェントールミリタリーインダストリーにとって僕は絶対必要な存在なのではないだろうか?

「君は囮になってもらう。ウェントールミリタリーインダストリーの陰謀を知るには、君がネットで活動する事が必要だ。取り返しのつかない事になりかねない事だってあるかもしれない。……だが、時間が無い」

 ミラードは躊躇わず言った。


「その代わり、君達は僕が責任もって鍛えるよ。エレメンタルレイドに匹敵するよう、君達にはアーティファクトを持ってもらう」


 ミラードは“アーティファクト”と言う言葉をつかって意味有りげな事を言った。


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