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転生してヒロインポジションな彼女は夢なら覚めたい

作者: 月宮 たろ吉

 この話を始めるに当たり私の自己紹介をしよう。

 私はいろいろあって転生してまた日本で前世の記憶を残したまま一般市民として生まれた転生者だ。

 いろいろは短編なので話す尺がないから好きに想像して欲しい。とにかくいろいろだ。


 転生する直前に私は天使のような純白の翼を生やした、会ったこともない知らないお爺ちゃんに真っ白な空間の中で会い「これから君を乙女ゲームの世界に落としてやるよん☆もち君がヒロインね」と言われた。ノリが寒かった。



 そして私に有無を言わせる暇もないまま、私はこの世界に生まれ落ちた。



 乙女ゲームとは言われていたけど。私はただのどこにでもいる一般市民。

 なのである程度は普通に生きてきた。

 それに如何せんあの事は現実味のないことだったので、ただの夢だった可能性は高い。嫌に記憶に残っているけど。きっと夢だ。

 そう思って生きてきた。



 そうして私は高校生になった。

 高校生になった私は一般市民でありながら裕福な家のご息女やご子息が通う私立の白櫻はくおう学園に入学した。しかも学費0の特待生だ。


 一応前世の記憶もあったし、今世ではもっと上手く生きようと努力して勉強したのだ。

 白櫻学園は小中高一貫で外部から入学するのは難しい。この地域では最高ランクの高校である。

 合格と知ったときはもう感無量だった。



 こうして勝ち取った白櫻学園の入学式。はじめての登校の日。


 彼との出会いは衝撃的なものだった。



 広すぎるほど広い煌びやかな玄関ホールを私が歩いていると、いきなり女生徒たちの黄色い声が上がった。

 私はそれに何事かと驚いて声援の送られる場所を見た。


 そこにはこれ以上格好いい人は見たことがないと言い切れるほどの美形な青年がいた。

 黒くサラサラな少し長めの髪に、白い肌、スラリとした体躯。服装は学校指定のブレザーで高名なデザイナーが作ったというその制服をよく着こなしていた。

 彼自身はどこを取っても素敵な人だ。


 そんな彼は乗り物に乗って玄関ホールを悠々と横断していた。


 …乗り物、そう“ぞう”に乗って。


 象とはもちろん生き物の、鼻が長い象のことだ。

 金色の派手な装飾を身につけたとても立派な象だった。

 でも見るために見上げなければならない。


 そしてその周りをお供の女性たちがともに横断していた。

 とても美しい華やかな衣装であるサンバ服姿の人たちに。

 背中にある孔雀のように広がる羽根飾りが暇なく揺れている。


 その光景を見る女生徒たちの悲鳴はすごい。


「キングーー!」

「ああ。本日のキングも見目麗しいですわ」

「見て、今こちらを見て微笑んでくださいました」

「巨大財閥のご子息でありこの学園で一番の地位保持者で見目も最上級であるキングをこうして見ることができるだなんて、それだけでこの学園にいて良かったです」


 …。


 彼女たちが言うにはどうやら彼はキングという名前らしい。

 見た目は日本人だけど不思議だね。

 思わず現実逃避をしてしまった。

 もちろん呼称だろうってことは分かっている。


 それにしても最後の人。やけに説明口調だったな。


 というかこれを誰もおかしいとは思わないのだろうか。

 もしかしてこれは壮大なドッキリなのか。

 象やサンバ隊まで借りてわざわざ私を騙すために?そんな馬鹿な。



 思わずじろじろとキングによる盛大なパレードを眺めていると、ちらりとキングはこちらを見て、彼の黒曜石のように真っ黒な瞳と目が合った。

 象に乗っていようとサンバしていようとイケメンはイケメンだ。キラキラしている。目が合って思わずドキッとしてしまった。

 すると、キングは私を見て少しだけ目を見開いた。


「カトリーヌ」


 キングははじめて涼やかな声を発した。

 カトリーヌ?

 それは象の名前だったようでカトリーヌはその場に伏せをすると鼻を伸ばし、キングが降り立つのを補助した。


 キングが降りたことで一際大きな「キャーー」という叫び声が上がる。すごい人気だ。


 けれどキングはそれに気を止めずに姿勢良くこちらに歩いてきた。



「はじめまして」

「え?はじめまして」


 私の周りにもたくさん人がいたので、まさか私ではあるまいと思っていたのに。キングが話しかけてきたのは私だった。

 それに女生徒が「なに、あの子」とざわめく。


「君は外部からの新入生かな?」

「はい。そうです」

「なら俺と同じ学年だ。クラスも同じだといいね」

「え、はい。そうですね」


 少しつっかえながらも返事を返すと、キングは優しくニコリと微笑んだ。

 笑顔も美しい。



「ところで、君。俺と結婚しないかい?」



 …。


「は………?」

「俺と結婚しよう」


 

 キングは笑顔のまま今日の夜ご飯はゴーヤチャンプルーですよと言うように、自然な流れで宣ったので私は固まった。

 そんな私に優しいキングはもう一度繰り返してくれた。


 結婚?

 えっ?何言っているんだこのお方は。


「あの、え?」

「君と目が会ってすぐに君しかいないと確信したんだ。俺は一生君だけを大切にする。だから結婚しないか」



 …展開早すぎじゃないか。


 いきなりキングと呼ばれるような人が求婚してくるなんて。

 こんなの馬鹿でもドッキリだと気がつく。カメラはどこだ。



「ちょっと待て!!」


 私がカメラを探していると鋭い声が私たちの周りにいる群衆の中から聞こえ一つの影が現れた。


 その影はバク宙をまるで体操選手のように三度して、胸に両手を当て捻りながら華麗に着地という派手な登場をして私たちの前へと躍り出た。

 現れた影はキングほどではないもののイケメンだった。


「彼女は俺のものだ。お前になど渡さない」


 彼は人差し指をキングへ突き刺すようにビシッと差すとそう高らかに宣言した。


 こんな彼を私は知っている。私の幼稚園から現在まで学校が一緒で隣人である幼なじみだ。

 彼は校則ですぐに引っかかりそうな荒波のように跳ねている焦げ茶色の茶髪で同じ色合いの瞳を持つ。

 肌は中学生のときは運動部を掛け持ちしていたので程よく日に焼けた肌をしている。

 彼は運動神経がかなり良く、おまけに彼もまた外部で受かるくらい頭もいい。


 そんな彼はその恵まれた運動神経を生かしてよく私の部屋のベランダに不法侵入してはきれいな花を置いていっていた。

 さきほど“ある程度”は普通と言葉を濁したのはほぼ彼のせいだ。

 これで彼がイケメンでいい子でなければ確実に警察に届け出ていただろう。


 彼は昔は体が弱く女の子みたいで、よくいじめられていたのを守ってあげていたら「僕は強くなって、君を守るんだ」と努力してまさかの“神に愛された天才”や騎士という意味で“ナイト”と呼ばれるほど運動関係が特出するようになった。

 そんな過去を知っているから、犯罪的なことをしても少しくらいは大目に見ていたのだけど。


「君は誰だ?」

「俺は彼女の幼なじみで、最終的には同じ墓に入ることになる者だ」

「ふうん、面白いことを言うね」


 本当ですね。

 思わず心の中で同意してしまった。


「プリンセス、彼の言うことは本当なのか?」


 キングは私へと視線を移して尋ねる。

 はじめプリンセスが誰か分からなかったけど、話の流れから私のことっぽいから私は首を横に振った。


「いえ、彼はただの友達ですけど」

「だってさ、残念だったね」


 私の言葉を受けてキングはナイトを鼻で笑う。

 そんなキングだけど、あなたはただの他人だからね。


「くっ、だが彼女のことは譲らない」

「そう。なら彼女に決めて貰おうか」


 キングは私へ向き直るとひざまずいてまるで王子様のように私の手を取った。

 まるで絵画の中のそれにギャラリーから悲鳴が上がる。


「どうか、俺を選んでくださいませんか。生涯貴女だけを愛すると誓います。俺のプリンセス」


 キングは綺麗なご尊顔を少し上げて上目づかい気味に私を見て懇願するので私の頬は熱くなった。


 すると、キングの隣にいてその様子を不機嫌そうに眉を寄せて見ていたナイトもその場に跪いき、もう片方の私の手を取った。


「ずっと貴女だけを好きだった。俺を選んでくれ。俺のただ一人の女神」


 ナイトはそんな色気があったのかと思うくらい甘く私に言った。


 二人のイケメンに求愛されて私はふと死後に乙女ゲームのヒロインになると言ったあの翼の生えたお爺ちゃんを思い出した。

 けど、すぐに頭から振り払う。


 どちらかと言えばドッキリの方がありえる。ナイトはまだ信用できるが特にキング。




「ごめんなさい」


 なので私は恥をかく前に二人の求愛を断った。





 それから相変わらずラクダなど特殊な動物に乗り求婚してくるキングや、ベランダに不法侵入してくるナイト。

 さらに後々現れるキングと肩を並べる財閥の美麗な御曹司クイーン先輩に壁ドンをしたり。小学生がいると思わされるくらい童顔のルークにパンをくわえたまま事あるごとに激突されたり。顔がイケメンということ以外は普通な図書室の妖精ビショップ先輩と仲良くなったりと普通とはかけ離れた生活をすることになる。



 確かにイケメンがいっぱいでまるで乙女ゲームだ。

 けど、ちょっと特殊すぎはしないだろうか。私の知っている乙女ゲームと少し違う。



 これが夢なら覚めたい。

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