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補習が入っているうちはまだ夏休みじゃない 5


 でも、「ねえ…」と言い淀んでしまう。

だってそんな事でお礼を言うのって結構恥ずかしい。しかもタダに。

「ん?」とタダ。

「さっき!…ヒロちゃんに…私が言えないでいた事言ってくれて…」

そこまで言った私をじっと見つめるタダ。どうしよう…本当に恥ずかしい。だって同情されたって事だもんね。私がヒロちゃんに振られた時には笑ってたタダさえ同情するって、結構可哀そうな立場じゃない?私って。


 「あの…ありがと。でもまあ大丈夫だから私。ヒロちゃん、ずっとあんな感じだから」

「『でもまあ大丈夫』って何だよそりゃ」

「いいの。もうそれは…」

そこへ開いたドアから黒猫がトタトタと部屋へ入って来た。

「ネコ!」と叫ぶ私。

 黒猫とタダがビクッとした。子猫ではないが、まだ大人になり切っていないくらいの大きさの猫だ。

「お~、」とタダが黒猫に言う。「キイ。こっち来い。こっちこっち」

立ち止まり、ちょっと小首をかしげてじっと手まねきするタダを見つめる黒猫。少しの間見つめ合うタダと黒猫だ。

 「キイ」と、タダがもう一度呼ぶと、「ニャワン」と答えて、黒猫はゆっくりとタダに寄って来た。


 

 今『ニャワン』て鳴いた。ネコなのに。

「ヒロちゃんちのネコ?」と聞く。「私ネコ飼ってるの知らなかった…」

 タダの足元に寄り、ふくらはぎに額をぐいっと押しつけてからじっとタダを見上げる黒猫。

 可愛い…なんでネコ飼ってる事教えてくれないんだろ…いや、でもヒロちゃんは小さい時からネコが苦手だったはず…

 よいしょ、という感じでタダが、「キイ、こんちは」と言いながら抱き上げ膝に乗せる。素直に膝に座る黒猫。

 可愛いな!キイ、って名前なのか。

「目ぇ見てみ?」とタダが言う。「黒目の周りが黄色いからキイってミスズさんが付けた」

ほんとだ黄色い。タダに指で額をゆっくりと撫でられて気持ちよさそうに目を細める。


 「なんでそんなに慣れてんの?」

「んん~~…わかんねえけど、ヒロトが相手にしないからじゃねえ?ここに来た時はオレがキイと遊ぶから」

「だよね?ヒロちゃんずっとネコ苦手だよね」

「すげえちっちゃい時にふざけて悪さしてメッチャ引っかかれたって話…」

「うん知ってる」

それにしても慣れた感じなので聞いてみる。「タダは犬とかも平気なの?なんか家で飼ってんの?」

「弟が父さんと川で捕まえて来たカメ」

「カメか~~。カメは抱っこしたりは出来ないね。なかなか」

「まあな」と言って笑うタダ。「たまに甲羅を洗ってやるけど」

「甲羅を洗うの!?」

「汚れるから。弟がまだよく世話まではできないからな」

「そっか、タダの弟ってまだちっちゃかったよね?」

タダが小6の時、こっちに越して来てから生まれた弟だ。ヒロちゃんや、その時のクラスの仲良かった子たちと一緒に、まだ生まれたてのタダの弟を見に行った事があった。

「カメの名前なに?」

「名前?名前は…ないかも。弟もカメって呼んでる。なあ、ちょっと、キイ触ってみ?」

「え、ちょっと怖いかも。だって…今日初めてだし」

「大丈夫。オレが捕まえとくから」

「ほんとに?」

ゆっくりと手を伸ばすと、キイは私をじっと見つめ返し「ニャワン!」と強めに鳴いた。ビクッと手を引っ込めてしまう。

 やっぱ『ニャワン』て鳴いてるし。

「大丈夫だってホラ、何ビビってんの?」と笑うタダ。

「ビビってない。絶対放さないでよ?」

「わかった放さないから」



 そこへヒロちゃんが戻ってきて怪訝な顔で私たちを見る。

「お~~…キイの話か…なんか『離さないで』って言ってっから、オレのいないとこでお前ら急に抱きしめ合ってんのかと思ったわ」

「「は!?」」とタダと私。

「何言ってんのヒロちゃん!?」ほんとバカなんじゃないの!?

「ヒロト、」とタダも言う。「お前、さっきのオレの注意、なんとも思ってねえだろ?」

「いや、そんな事はねえけどイズミとユズはなんかそうしてるとやっぱイイ感じだな」

「「は?」」とまた声を揃えてしまい、タダと一瞬顔を見合せるが、タダはぷいと向こうを向いてしまった。私をかばってくれたタダにまでそんな事言うとか…なんか今度は私がタダに対して悪いような気になってきたじゃん…ヒロちゃんのバカめ。

 …ていうかこれ、4回目振られた感じになってない?


 

 「あのな、」ヒロちゃんが照れながら言う。「電話したらユキが出なくて。でもすぐかかって来て、ユズが言ったとおりに言ったら、『そんなに言ってくれるなら行きたいけど』って。サンキュ、ユズ」

「…良かったじゃん」

「でもな、絶対ユズも一緒がいいって言ってんだけど。ユズが行かないなら行かないとか言ってて…やっぱ女子がいた方がユキもいいんかな…オレもまだ二人きりは恥ずかしいし、ユズも行くよな?」

「…」

 1回だけ、本当に1回だけでいいから、私はヒロちゃんと二人きりで夏祭り行きたいな…


 すぐに返事が出来ない私に代わってタダが言った。「普通に行く」

「なに、普通に行くって…」と私は聞くのだけれど、タダは笑っている。

 私が行かないなら行かないって言ってるユキちゃん、ちょっとヤだな。だって私が行くならユキちゃんも行くけど、ヒロちゃんが意識してんのはそのユキちゃんの方なのに。今だって二人きりはまだ恥ずかしいとか言って。二人きりだとどうなるって言うんだ?浴衣着たユキちゃんと二人きりになったら、もう何かしたくてたまらなくなるとかって感じなの?

 ウザッ!ヒロちゃんウザい。最悪ヒロちゃん。私にもそんな風になって欲しい。




 「じゃあまあ、そういう事で」とタダがちょっと腰を上げる。「そろそろ帰るわ。ほら大島、帰るぞ」

タダがキイを床に下ろしながらそう言うと、キイは名残惜しそうにタダを見上げた。

「イズミ、もう、キイお前にやるわ」と言うヒロちゃん。

「ハハ」とタダが笑う。「お前のネコじゃねえじゃん。懐かれてねえからってそんな事言うなキイの前で。お前ほんと心ねえわ」

「そんな事ねえわ。大事にしてくれるヤツの所にいるのがキイだっていいよな?」

ヒロちゃんが、な~~、って感じでキイに話しかけるが、キイはプイッと知らんぷりで尻尾を立ててリビングから出て行った。






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