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補習が入っているうちはまだ夏休みじゃない 1

 『夏休み』に突入したその土日開けの月曜日、さっそく補習が始まった。50分授業が3時間。午前中で終わるが、それでも31日までの補習がある間は完全な夏休みでない。

 土曜日にタダと海に行ったので、登校したとたん、待ち構えていた女子に囲まれる。

「イズミ君の半裸の写真ちょうだい」、「出来たらイズミ君の友達だって言ってるワイルド系の子の写真もちょうだい」、「ねえ、寝顔とかないの?」と急かされる。

 が、何にしろうちの高校はスマホの校内での使用が厳禁。使用が見つかったら即校長室で謹慎。校長の前で反省文を書かされ、そしてそれを繰り返し朗読させられ、保護者も呼ばれて保護者も反省文を書かされるのだ。



 タダと言うのは多田和泉。タダイズミは私が小学生の時から好きな伊藤裕人の親友だ。そのイトウヒロト、私はずっとヒロちゃんと呼んでいるのだが、ヒロちゃんとヒロちゃんに告ってきた女の子のユキちゃん、タダと私の4人で一昨日海へ行ったのだった。

 私とタダが同じ高校の同じクラス。小、中、と私がずっと好きだったヒロちゃんは別の高校で、ユキちゃんはヒロちゃんの同校の隣のクラスの女の子だ。


 タダはまだ登校してきていない。

「ごめん、私、タダの写真は撮ってないや」

一応申し訳ない感を出しながら女子の皆さんに言う。

「「「「「「「「マジで!?」」」」」」」」と騒ぐ女子の皆さん。「「「「「「「「なんで?何やってんの?意味ないじゃん!ユズちゃん、一緒に行った意味、全然っ、ないじゃん!!!」」」」」」」」


 私の名前は大島ユズル。高校に入学当初は大島さんと呼んでいた女子の皆さんも、今はユズちゃんと呼んでくれる人が増えて来て嬉しい…

 でもまあ…それはタダが私に話しかけて来る事が前より増えて来たから、私を通して、なんとかタダと近付きたい、という女子の皆さんの心の内もあっての事だと思ってしまう。

 それに意味はあったよね。ヒロちゃんの連れて来た女の子…まだ付き合ってはいないみたいだけど、ヒロちゃんも結構意識しててほぼ付き合うだろう女の子がとても良い子で、もう本当、私なんか2回も振られているしと思ったのだけれど、やっぱりまだヒロちゃんを諦めきれないし頑張ろうと決意出来た海行きだったのだ。



 「うそでしょそれ」と囲んだ女子の中でも、いつもタダに一番絡みたがるハタナカさんが言った。「イズミ君に止められてるかなにかで写真回せないの」

「いや、まじに撮ってないゴメン」

「うそでしょ?」ともう一度ハタナカさん。「独り占めしたいの?イズミ君の事」

ぶんぶんと首を振る私だ。

 ハタナカさん…『独り占め』とか、言ってて恥ずかしくないのかな。

 良かった。この学校スマホの使用厳禁で。そうじゃなかったらとっくにスマホを奪われて勝手に操作されていたかもしれない。



 写真はたくさん撮ってんだけどね。ほぼヒロちゃんと、オレンジ色のビキニを着た女子プロレスラーのように巨体の双子しか撮ってない。

 海の家でタダがオレンジビキニを着た、やたらガタイの良いツインテールの双子にナンパされ、誘われてヒロちゃんと2対2でビーチバレーの本気の試合をしたのだ。激しい戦いだったよね…ヒロちゃんのハンドボールで鍛え上げられた肉体が躍動的で夏の眩しい太陽の下キラキラ輝いて…

 昨日も家で、暇さえあればヒロちゃんの半裸の写真を眺める私だった。

 あ~~…あのたくましい体でぎゅうっと抱き締められたりしたら…こう、後ろからぎゅうっと。「やっぱユズの事がいっちゃん好きかも」とか言われながら…


 手さえちゃんと繋いだ事ないけどね!腕掴まれて、「ほら、早くしろ転ぶなよ」とか、肩掴まれて、「こっちだつったろ、ユズどんくせえな」とか小学の時に言われてた事はあったけどさ。



 「ずるいよね」と、まだ食い下がるハタナカさん。「大島さんだけずるいよイズミ君と仲良いとか」

「…別にタダと仲良いわけじゃないよ?」

「はあ!?」

ハタナカさんに威嚇されちょっとひるむが私は続ける。「私が小学からずっと一緒だった子とタダが仲良いから一緒に行っただけだし」

 「あ、イズミ君来た!」と誰かが言い、周りの女子のみなさんの注意が私からそっちへ速攻移ったので私は自分の席に着いた。




 はあ…と小さくため息をつく。

 一昨日、海に行って、まだ付き合うまでに至っていないユキちゃんを前にやたら意識しているヒロちゃんを見て、私は始終モヤモヤし、結局最後、ずっとヒロちゃんの事を好きだった事を、結構嫌な感じでユキちゃんに伝えてしまったのだ。実際私はもう10年くらいもヒロちゃんの事が好きだし、グラビアアイドルみたいな巨乳で大人っぽい子が好きなはずのヒロちゃんが、私と同じくらい貧乳のユキちゃんを意識しているの間の辺りに見て、それはそれはむなしい気持ちになってしまったのだ。

 今までに2回ヒロちゃんに告って振られているのだけれど、その1回目の理由は『ユズはおっぱいちっちゃいから』だったのに。ユキちゃんのおっぱいなんか私のおっぱいとほぼ変わらないのに。


 そして貧乳は貧乳だけど、健康的で明るくて、性格も良さそうなユキちゃんは帰りのバスの中で私にラインをくれた。ずっとヒロちゃんの事を好きだった事を伝えた私に、『ごめんね』ってユキちゃんはくれた。そして、『ユズちゃん、ずっとヒロトと仲良かったんだよね。ユズちゃん絶対ヒロトと二人で来たかったはずなのに、ごめんね』って。

 前の座席に座っているユキちゃんに、返事を何て書こうか、でも書きたくない、と迷っているうちに私は眠ってしまい、ユキちゃんは自宅に近いバス停で降りて、先に帰ってしまっていたのだ。

 そして私がさんざん迷い、考え、夜になってやっとユキちゃんに送ったラインは、『せっかく一緒に遊びに行ったのに、私の方こそ嫌な言い方をしてごめんなさい。私はヒロちゃんにもう振られているから、ユキちゃんと仲良くしているヒロちゃんを見て悔しくなったんだよ。ごめんね!』

ごめんね!って明るく言い切った感を自分では出してみた気でいるんだけど、これを呼んだユキちゃんは、それをちゃんと感じてくれただろうか。余計私の事を嫌に思ったんじゃないだろうか。でもそれ以上は書けなかった。ユキちゃんからの返事は『ありがとう。私も本当にごめんね』だけ。

 また『ごめん』て言われたし。なのに私が確実に負けてる気がするし。



 なんか…私ってすごく嫌な感じだよね。まぁ、ユキちゃんに言っちゃった時も嫌な感じだなって充分自覚しながら言ったから。…イライラしてモヤモヤして、自分の方がヒロちゃんと長く一緒にいるし、私が一番、私が誰よりもヒロちゃんを好きなんだってユキちゃんにどうしても言いたかったのだ。目の前のヒロちゃんが、ユキちゃんを意識していたのがすごくすごく悔しかったから。





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