それは当たり前の日常
「当たり前ってなんだっけ?」
「普通のことが普通に続いてるってことじゃないですかね」
紫煙を燻らせながら二人の男は言う。口に咥えていた煙草を指に挟んで、ぼんやりと空へ立ち上る煙を眺めた。
「じゃあ、普通は?」
「世間一般の平均値に合致してることとか、いつも通りのこととか」
「わかりやすく」
「んー、大勢の人がこうだろうって思うこと……かな?それがずっと続く日常が普通だと思いますよ」
「ふぅん」
年上らしい男は、自らの質問の答えにさほど興味が無さそうな声を出し、
「つまんねぇな」
と呟いた。
「そうですか?」
「予定調和じゃん、ただの」
「ええ、予定調和ですね。だからこそ平和なんですが。混沌だらけの日々なんて落ち着きませんよ」
いつも通りの日常を擁護し、やんわりと相手をたしなめる男に、もう一人の男は煙草を携帯灰皿に押し付けながら嘆息した。
「へいへい。お前は最後まで模範解答が得意だな。冗談も言えやしねぇ」
「自覚してますよ。先輩こそ、最後まで異端みたいなこと言ってますね」
互いに悪態をつきながら二人は笑う。そうして少し笑ってから、もう一度空を見上げた。
「当たり前ってなんだっけ」
先程と同じ問いは、血のように赤い空に吸い込まれていく。
「普通のことが普通に続いてるってことですよ」
先程と同じ答えは、終末のように崩壊した都市に広がっていく。
「じゃあさ、」
ぐおん、と重たい爆音が響いて、視界の先で炎が吹き上がった。凄まじい熱風とそれに飛ばされた瓦礫が、総じてこちらへやって来る。
「今、当たり前じゃないんだろうな」
「何言ってるんですか、当たり前ですよ。あれに呑まれたら死ぬっていう当たり前は達成できますから」
「あー、そっか。……やっぱり最期まで、予定調和だな」
直後に、熱風と瓦礫の嵐があった。




