四話 ファミレスで流される
今日の私はウキウキ気分! 久しぶりにファミレスへとやって来たんだけど、ここのオムライスが凄く美味しいの! でもそれだけじゃない。いつもは苗木ちゃんと来るんだけど、今日はお友達と一緒だから余計なのです!
「目玉焼きハンバーグ、焼き加減は表面がこんがりに中はふっくらな感じで。あとはオムライス、卵はトロっととろける感じで中のご飯はパラパラ仕立てに。あ、食前に果汁感のあるイチゴジュースをもらうのと、食後には濃厚なバニラアイスきな粉添えを頼むです~」
引きつる顔の店員さんに凄い注文をしているのは私のお友達のシスターちゃん。
身長は私よりも小さくて、白い修道服に首から赤い十字型のネックレスをかけている女の子。
「シスターちゃんとここのファミレスに来るの初めてだよね。ほんとは最近出来た噂のケーキ屋さんとどっちにするか迷ったんだけど……ごめんね、ファミレスでも大丈夫だった?」
噂のケーキ屋さんはちょっとだけ遠かったからファミレスにしたんだけど、ここのオムライスは自分でケチャップをかけれるから好きな文字とか書けておもしろいんだよね。
「ほんとはケーキ屋さんが良かったです~。でも、お腹に入ればなんでも一緒かなって思ったら別にどっちでも良くなったです」
自然な顔で当たり前のように答えるシスターちゃん。なんでも素直に言っちゃうこういう子。
すると、隣の席の女子高生らしき二人組の声が耳に入って来た。
「ねぇねぇ、昨日の数学のテスト出来た? 私全然ダメだったぁ」
「勉強してなかったから私も全然だったよぉ~、難しかったよね」
「わかるわかる! 私もしてなかったから自信ないなぁ。テスト返ってくるのがこわい」
「ねー! キャハハ」
なにやらテストについてのお話のご様子。二人ともキャピキャピと笑いながら楽しそうにしている。
「あはははははははっ!」
え? いきなりシスターちゃんがお腹を抱えて笑い始めたんだけど。大丈夫でしょうか、色々な意味で。
「ホントは勉強しててそれなりに自信あるのに、二人でダメだったアピールして共感する友達思いはある意味尊敬するです~! いい点が取れたら内心笑うくせに、悪い点数だったら友達もダメだったって言ってたし~って、自分にとって都合のいい理由に友達を使うその偽善っぷり! ヘドが出るです~!」
足をバタバタとさせて、笑いながらとんでもないことを口にするシスターちゃん。この子はきっと大物です。彼女に幸あれ、アーメン。
その後女子高生の二人組は、なんだか凄い剣幕で放送禁止用語を吐きながら店内から姿を消していきました。私は何も言ってないのに、メチャクチャ気まずかったです。
でもそんな気持ちも吹き飛びました。ようやくお待ちかねのオムライスが登場したからです。
「わー! きたきた」
「これがワカメ子ちゃんおススメのオムライスですか! ふわふわ卵おいしそうです!」
シスターちゃんも目を輝かせて嬉しそうにしているし、私も嬉しい気持ちになってくる。
さ~て、何を書こうかなぁ! ハートとかもいいけど、犬とか猫も可愛いよね! 見た目も可愛くて味もおいしいだなんて、オムライスって素敵な食べ物だよね~!
私は一緒に運ばれてきたケチャップのボトルを手に持つと、目の前に座るシスターちゃんの行動に固まってしまった。
「ぶちまけてやるです~!」
シスターちゃんは笑顔でそう言いながら、オムライスに醤油をかけていたからです。繰り返します、醤油をかけていたからです。しかもたっぷりと。
え、え? 醤油!? 普通オムライスにはケチャップじゃないの!? 確かに醤油をかける人も世の中にはいるのかもしれないけど、私の中では絶対に有り得ないんですけど。ていうか、醤油じゃ文字かけないじゃん……。
シスターちゃんは、にこやかな表情で醤油オムライスをモグモグと食べている。
小さな女の子が笑顔で頬を膨らませながらモグモグする姿は可愛らしいのだけれど、今の私は不思議と殺意が沸いた。
「うまいです~! やっぱりオムライスには醤油が一番です~! 醤油以外有り得ないです~! オムライスに醤油をかけない奴は、神の裁きを受けてくたばっちまえばいいです~! ワカメ子ちゃんも、そう思うですよね!?」
……思わねーよ! てか、オムライスに醤油かけて怒る神様とか器が小さいよ!
そう心の中で叫ぶ私。けど、さっきの女子高生達じゃないけど、そんなことは言えないのです。
「……う、うん。そうだね」
オムライスの上に、静かに醤油をかける私。
一口食べてみた醤油オムライスは、驚くほどマズかった。
あぁ……私は今日も、流されてしまうのです。