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三話 マッドサイエンティストに流される

 今日は天気もいいのでお散歩することにしたのです。


 晴れ渡る青い空を眺めながらほんわか気分で歩いていると、曲がり角を曲がったところで誰かとぶつかっちゃいました。


「ぐはぁっ」


 男の人の声。どうやら不運の相手は男性のようです。


 尻もちを付いてる私は、おでこを擦りながらその人へ視線を移した。



 少しだけ長い黒髪に、ちょっと釣り気味な目。白衣を纏ってるけどその上にはなぜか、一本の赤いラインが入った黒のローブを羽織っている。頭を軽く擦ってしかめ面をしているその顔は――凄いイケメンだった。



 どうしよう! イケメンと曲がり角でぶつかるっていう乙女フラグが立っちゃった。私にはお兄様がいるっていうのに、何を期待しているのワカメ子! ダメよダメダメ、私は純粋な女の子。まずは謝るのが先よ。



「ごめんなさい! お怪我はないですか?」

「あぁ……だいじょう……んん!?」


 イケメンさんは何かに驚いて言葉を詰まらせた。

 すると、勢いよく立ち上がっては、凄いスピードで急接近してきた。


 息がかかるくらいお互いの顔が近い。初対面なのに強引なイケメンさんに、私は顔を赤く染めてしまいます。


「これは、ふむ……そうか」


 なにやら私の周りをグルグルと回っては呟くイケメンさん。



「やっと見つけたぞ! 俺の求めていたものが!」


 

 私を……求めているっ!? あぁ……なんてずるい人なの。初対面なのに、イケメンで、そんな熱く迫られたら、私……。



「おいワカメ少女、お前の髪をよこせ」


 

 ナニヲイッテイルノ。髪? 何?



「えーと、なんでですかね? というかあなたはどちら様でしょうか」


 ちょっと危ない感じがするから一応聞いてみよう。



「俺か? 俺はただのマッドサイエンティストだ」

「は?」



 あーこの人関わっちゃいけない系の人だ。マッドサイエンティストとかヤバイこと言ってるのに、ただのって付けることでいかにもその辺に普通にいますよ的な感じを表現してる辺りがヤバイ。

 例えば街角で偶然久しぶりの友達に合って、そういえば仕事なにしてるのって聞いたときに、いやぁただのマッドサイエンティストだよ~お前は? って返事に、俺もただのマッドサイエンティストだよアハハって、ただのサラリーマンです的なニュアンスの会話が飛び交ってたらそれはもはやカオスの世界です。


 というわけで、イケメンなのに残念な人認定することにしました。



「俺はある究極の発明品の最後の材料を探していたんだ」

「究極の発明品?」

「そうだ。あとワカメさえあればタイムマシンが完成する」


 

 わお! 時を超えるワカメ。一体ワカメのどんな要素がタイムマシンに関係あるのか気になるけど、こんな危ない人に髪を渡すなんて気持ち悪いし断固拒否なのです。



「お断りします! ではさようなら」

「ま、待て! なぜだ?」

「知らない人に声をかけられても、髪を渡しちゃいけませんって小学校の頃に習ったので」

「クソ! これでは発明がっ……いや、待てよ」



――ククク。



 え、なんか急にマッドサイエンティストさんが不気味な笑いを零し始めたんですけど。



「ならばこの究極の発明品第一号を使ってお前のワカメを手に入れてやる!」


 そう言うと、マッドサイエンティストさんはローブの中から一つの輪っかのようなものを取り出した。

 それは全体的に茶色で、少し焦げ目もある。どこからどう見てもドーナツにしか見えなかった。



「ククク、これは『完全支配ドーナツ』。これを食べた者は、なんでも言うことを聞きたくなってしまうのだ!」


 そう叫ぶなりマッドサイエンティストさんは片足を上げ、片手に持つドーナツを目に当てると、変なポーズを取りながらドーナツの真ん中の空洞から私を見ている。



「さぁ、ワカメをよこせ!」



 え? そうやって使うの? 食べさせるんじゃないの? 何この人、いちいち怖い。



「む? なぜだ! なぜ反応しない! 壊れたのか!?」



 なんか知らないけど壊れてたっぽい。これ以上付き合っても危ないし、早めに立ち去るが吉ですね。


「ではさようなら」

「……待て」

「なんですか? あんまりしつこいと警察呼びますよ?」

「いいやそれは違うな、警察を呼ぶのは俺の方だ。俺の大事な発明品を、お前が壊したのだからな!」

「え!?」


 私が壊した? 初対面なのに何を言ってるのこの人。



「私がいつ壊したって言うんですか!」

「曲がり角でぶつかった時だ。身に覚えがあるだろう? その時に壊れたんだ、そうだ……そうに違いない! そうしておこう!」

「なっ――!」

「人の所有物を壊したことでお前を訴えてやる! いや待て、ぶつかった際にどうやら怪我をしたようだ。傷害罪も重なるだろうなぁ! そして逃げればもっと罪は重くなる。ククク、果たして生きてる間に独房から戻ってこれるかな?」

「そ、そんな……」



 なんで……どうしてこんなことにっ――。薄暗い牢屋に入れられたら毎日臭いご飯を食べさせられるって聞いた……。臭いご飯はきっと納豆のことだわ……そんなの毎日食べられない! ど、どうにかしないと!



「それだけはイヤです! どうすれば許してもらえますか?」

「ククク、簡単だ。お前の髪を少しよこせばそれでいい」



 髪を渡すなんて気持ち悪いけど、それで許してもらえるなら……。


 

 そして私はワカメの髪を数本引き抜いた。



 あぁ……私は今日も、流されてしまうのです。

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