二話 電車で流される
「苗木ちゃん、ひまぁぁぁ」
私はリビングのテーブルに上半身を預け、ひまを持て余した某パンダのように垂れていた。
苗木ちゃんはいつもようにソファーに座ってテレビを見ている。
「ヒマならこれ買って来て」
私は顔を上げて、苗木ちゃんの見ているテレビへと視線を移した。そこに映し出されていたのは苗木ちゃんの好物、桃の天然水だった。宣伝用の番組みたいで、どうやら隣町のデパートで半額セールをやっているらしい。
でも、隣町へは電車に乗らなきゃいけないし、何よりめんどくさい。
「……ちょっと遠いからめんどくさいかも」
「あんたヒマって言ってたでしょ。気分転換にもなると思うわよ」
「苗木ちゃん、自分で行きなよぉ」
「いやよ! この間、電車の中でひどい目にあったんだから! 混んでたからしょうがなく吊り輪に掴まってぶら下がってたんだけど……電車の揺れる反動でブラブラ揺れちゃうから、周りの乗客の頭にぶつかり放題だったのよ。まったく! 植木鉢が壊れなかっただけ良かったわ」
「あ、問題そこなんだ」
吊り輪から宙にぶら下がる植木鉢。想像するとかなりシュールだけど、私の想像よりも周りの乗客のみなさんのほうが大変だったと思う。込み合う電車の中で他の人に気を遣いながらも、自分の身を守るためにブラブラと揺れる植木鉢の動きにも注意しないといけないのだから。そんな集中トレインじゃ余計に目が回ってしまいそう。
「分かった、買ってくるよぉ……」
あんまり電車には乗ったことがないのもあって気乗りしないけど、しょうがないから行くことにしたのでした。
駅のホームでお目当ての電車が来るのを待つ私。一応おでかけ用の白いワンピースを着ている。丈が少し短いのが恥ずかしいけど、可愛いから今日はこれを着ておでかけすることにしたのです。
電車が到着すると、窓ガラスから見える中の光景はすでに満員な様子だった。
座るとこなさそう……やだなぁ。
中に入ると案の定の満員御礼状態。変な熱気と汗臭さを感じる。
一緒に乗り込んできた人達に押されながら私は人混みのど真ん中に取り残された。唯一救いだったのは、私が掴める分の吊り輪があったこと。どうせ座れないんだし、吊り輪に掴まれるだけありがたいと言い聞かせながらゴトゴトと揺られ始めた。
少し経ったころだろうか、ふとお尻のほうに違和感を覚えてきた。そしてそれは、徐々に確信へと変わっていった。
スリスリ、スリスリと私のお尻を後ろにいる誰かが触っていたのだ。
どどど、どうしよう! これって、いわゆるアレだよね!? 怖くて後ろは見れないし、こんなときどうすればいいんだっけ!?
突然のことでパニくった私は、目だけを動かしてキョロキョロと周りを見渡した。もしかしたら誰かが気付いて助けてくれるかもしれない。
すると、私は驚きの光景を目にした。
なんと! 私の他にもお尻を触られている女の子がいたのです。
眼鏡をかけたおとなしそうな子だからか、下を向いたまま固まっています。
私のお尻をスリスリする手は、今度は太ももへとターゲットを移したようです。
優しく撫でるように、時には強く揉むように。
柔と豪を兼ね備えたベテランの凄腕テクニックに、私は自然と体の力が抜けてきちゃいました。
あの子のことが気になったので視線を移してみると、なんとその子は後ろ手で男性の”ズギューン”に手を添えているではないですか。
えぇぇぇぇ! もしかして、こ、これがこの電車という世界の常識なの!? あの子は表情を変えてないし、むしろ変えてるのは男性のほうだし……。私がおかしいのかしら……。そう、私は未知なる世界に飛び込んでしまった迷える子羊なのね。
太ももをスリスリしている手は、ついにスカートの中へと滑り込んできた。
あぁ……私は今日も、流されていくのです。