帰省
休み時間、小学三年になるけんじは、友人のたかしと夏休みの予定を話していた。
「今度の夏休み、お父さんの故郷に行くんだ…」
そう話すけんじの表情は何故か浮かない。まるで行きたくないといった様子である。たかしが言った。
「へえ、そうなんだ。でもなんか楽しみじゃなさそうだね」
「楽しみなわけないよ」
「そうなの? 故郷に行くなんて羨ましいのにな。山で虫を捕まえたり、川や海で泳いだり…」
「それは理想で、隣の芝生は青く見えるってやつさ」
「難しい言葉知ってるんだね。なんだかよくわからないけど、そういうものなのかな…」
「そういうものだよ…」
と、けんじは深いため息をついた。
南極が日本の領土となって百年余が経った現在、父の故郷である南極に、寒さの苦手なけんじはどうしても行きたくないのだった。