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4月18日 『魔剣暴走』

「おっす、スクード!刀は完成したのかよ」

「ああ、かなりの自信作がな」


刀鍛冶世界大会結果発表の日。

前日に完成した刀を、スクードは既に大会本部に届けてある。後は結果を待つだけだという時に、彼はラグナとユーリに声を掛けられた。


「あれ、エリィちゃんが居ないじゃない」

「体調を崩したらしくてな。今は家で寝ている」

「あらま、そうなんだ」


いつもならスクードの隣に居る筈のエリィが居ない。それはラグナも気になっていたようで。


「おいおいスクード、エリィちゃんになんかしたんじゃないのかぁ?」

「別にしてないが・・・」

「なんかお前も元気ないよな、今日は」

「そうか?」

「確かに。落ち込んでるの?」


と、何も知らない二人から見ても落ち込んでいるように見えるスクード。実際彼はかなり落ち込んでいた。


ギルドに行った時にエリィを怒らせてしまったからだ。何がいけなかったのだろう、もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。そんな事を考える度にぼーっとしてしまい、作業中に何度槌で指を叩いたか分からない。


「まあ、後で話す」

「そうか、とりあえず頑張ってこいよ」

「ああ・・・」


応援してるからなーという声を聞きながら、スクードは円形闘技場の中へと足を踏み入れる。別にここで戦闘が行われる訳ではないが、人が集まるのに丁度いい大きさなのだ。


「よう、スクード」

「・・・アイゼンか」


周囲を見渡せば、観客席には既に多くの人々が着席している。そんな場所でスクードに声を掛けたのは、魔族という事を隠しながら大会に出場しているアイゼンだ。


「楽しみだな。正直他の連中はどうでもいいけど、お前の実力は見てみたかったんだ」

「それは俺もだ」

「っと、そろそろ何か始まるみたいだぜ」


そうアイゼンが言った直後、司会の楽しげな声が闘技場に響き渡った。


『さあ、本日はお集まりいただきありがとうございます!いよいよ世界最高の刀が決まる日がやってまいりました!』

「「「おおおおッ!!!」」」

『我々運営は寝る間を惜しんで全ての刀を審査し、その中でも非常に優秀な刀を五本この場に持ってきています!残念ながら、その中に含まれていない刀を打った人は脱落となります!』


それを聞き、アイゼンが疑わしいものを見るかのような目で司会を見つめる。


「運営・・・ねぇ。本当に刀を見る目がある奴らなのかね」

「世界でも有名な鑑定士が数人居るらしい」

『それでは早速お見せしましょう、これが世界でトップを争う事になる五つの刀です!!』


光が闘技場を照らす。

そして数秒後、司会の前に五つの刀が出現した。恐らく何らかの魔法で見えないようにしていたのだろう。


「あ、俺のあるじゃん。当然だけどなー」

「ふむ、どうやら俺の刀もあるらしい」


やはりというべきか、その中には二人の刀も含まれていた。


『それでは、一つ目から紹介していきましょう。グレイ・アールさん、前にお越しください!』


司会に呼ばれた男が前に出る。残った五つの刀を一つづつ紹介するようだ。それは左にある刀から紹介されていくようで、順番通りに進むとスクードは最後に紹介される事になる。


「へへっ、どうやら俺とお前で一位争いをする事になりそうだ」

「随分自信があるんだな」

「当たり前だろ?そう言うお前も、自分が負けるなんて微塵も思ってない顔をしてるじゃねーかよ」


などと二人が会話している間にも大会は進み、やがて四番目にアイゼンが呼ばれた。


「人間よりも魔族の方が素晴らしい刀を打てる・・・それを世界に知らしめてやるよ、スクード」

「・・・上等だ」


楽しげに笑い、アイゼンが司会の隣に歩いていく。


『えー、アイゼンさん。この刀にはどんな気持ちを込めたんですか?』

「ん?まあ、どんな相手でも捩じ伏せる・・・そんな気持ちかね」

『おお、凄いですね!』


アイゼンが自分の刀を手に取り、向こうで自分を見つめるスクードに切っ先を向けた。


「あいつの刀を今目の前で見て確信した。やはり、俺のライバルに相応しいのはあいつだけだぜ」

『あ、あいつとは?』

「そりゃあ勿論スク─────」


それは、あまりにも突然の出来事であった。

突然太陽の光が黒い雲に遮られ、アイゼンが持つ刀が黒い輝きを放ち始める。


「なっ・・・!?」


驚いたアイゼンは手に持つ刀を離そうとするが、何故か握りしめた手を開く事が出来ない。


「アイゼン、刀を離せ!!」

「は、離せないんだよ!!」

「この魔力は・・・!」


スクードは気付いた。黒く発光するアイゼンの刀から感じる魔力が、かつて世界を脅かしたあの存在の魔力に酷似しているという事に。


「ぐ、うあああああ!!!」

「まさか、強制的に魔剣契約を行わされたのか!」


咄嗟に観客席に顔を向け、この光景を見ているであろうラグナとユーリを捜す。しかし、彼らを見つけ出す前に凄まじい速度で眼前に刀の切っ先が迫ってくるのが見えた。


「ちっ・・・!」


障壁を展開し、刀による強襲を防ぐ。そんなスクードの前では、獰猛な笑みを浮かべるアイゼンが刀を振りかぶっている。


「おい司会、今すぐ全ての人を退避させろ!」

『え、え・・・?』

「早くしろ!!」


凄まじい衝撃が闘技場を揺らす。振り下ろされたアイゼンの刀がスクードの障壁に傷をつけることはなかったが、このままでは観客達を巻き込んでしまうかもしれない。


『み、皆さん、速やかに避難してください!!』


司会の声が響き渡ったのとほぼ同時、観客席に座っていた人々が悲鳴を上げながらその場から逃げ始めた。それを見たスクードは、ようやく周りを気にせずに魔法を使えるようになって身体の力を抜く。


「よっと、何事だこりゃあ」

「懐かしい魔力を感じるけど・・・」

「む、お前達か。丁度いい、こいつを取り押さえるのを手伝ってくれ」


そんなスクードの両隣にラグナとユーリが降り立つ。恐らく観客席からここまで跳んできたのだろう。


「くっ、クックックッ。この俺がァ、全員殺してやるゥ・・・」

「何言ってんだこいつ」

「強制魔剣契約だ。今のこいつは魔剣と化した刀に精神を乗っ取られている」

「魔剣だって?」

「ああ。恐らくだが、何者かがアイゼンの刀を魔剣化させたのだろう」

「・・・んな事が出来るっていやぁ」

「奴ぐらいだろうな」


スクードが空に向かって魔法を放った。燃え盛る火球は猛スピードで上へと昇っていくが、突然何かに衝突して爆発する。


「・・・現れたか」


空間が歪む。

紫電が空を駆け巡り、空に開いた黒い穴から見覚えのある男が姿を現した。その男を見た途端、ラグナとユーリの表情が強ばる。


「久し振りに会えたというのに、最初の挨拶が炎魔法とはな。ククッ、元気そうで何よりだ」


凄まじい魔力をその身から解き放ちながら、その男はアイゼンの隣へと降り立つ。もうその男が何者なのかをスクード達は理解していた。


「復活したというのは本当だったか、魔王ベルゼー・・・!」

「数年ぶりか、勇者一行よ」


魔王ベルゼー。

かつて世界を恐怖のどん底に叩き落とした、魔族の頂点に君臨していた闇の王。そんな男が復活し、再び人類の前に現れたのだ。


「優秀な人間のおかげでこうして蘇る事が出来た。お前に復讐する為だ、スクードよ」

「ふん、魔王に名前を覚えられていたとはな」


スクードが魔力を纏い、ベルゼーを睨み付ける。


「何故此処に現れた」

「鍛治職人達が集まっているというのを知ってな。我ら魔王軍の武器を作らせる為、わざわざ我自ら来てやったというのに・・・お前達に邪魔されるとは」


ベルゼーが放った魔法がスクードを呑み込み、そのまま観客席へと吹っ飛ばす。あまりの速さにラグナとユーリは反応出来なかった。


「スクードよ、お前が最も大切にしているものを我は見つけたぞ?」


そう言ってベルゼーが魔法を唱える。すると、空に映像が浮かび上がった。起き上がりながらそれを見たスクードの顔色が変わる。


「エリィ・・・」

「ククッ、妹が居たとはな」


空に映っているのは椅子に縛り付けられているエリィ。どうやら気を失っているようで、顔色もかなり悪いように見える。


「エリィに何をした・・・!」

「言っただろう?我はお前に復讐する為に蘇ったのだ。ただ痛めつけるだけでは足りん。大切にしているもの全てを我が奪ってくれる」

「貴様ッ!!」


観客席に居たスクードの姿が消えた。

そう思った時には既にベルゼーの目の前にスクードが姿を現し、両手に爆炎を纏わせて魔法発動の体勢に入っている。


「まず一つ目は、大事な妹の命だ」


スクードが魔法を放つ前に、魔王ベルゼーはこの場から姿を消した。一瞬攻撃が間に合わなかったスクードの顔から血の気が引く。このままでは自分が最も恐れていた事が起こる・・・そう思ったからだ。


「・・・なるほどね、そこの魔剣契約者にスクードの足止めをさせようって魂胆か」

「相変わらずクズ野郎だな、魔王のヤツ」


魔王の魔力を流し込まれたアイゼンが魔剣と化した刀を構える。それに対してラグナとユーリは戦闘態勢に入ったが、スクードは呆然と自分の手を見つめていた。


「おらっ、何をぼーっとしてんだ馬鹿!」


そんな彼の頭をラグナが叩く。


「エリィちゃんはお前の大事な妹なんだろ?今すぐに迎えに行ってやらなきゃどうすんだよ!」

「それは・・・」

「魔力探知得意だっただろおめーはよ!あの魔剣野郎の相手は俺達に任せときな」


そう言ってラグナが肌身離さず持ち歩いていた剣を抜き放った。何度敵を斬ったか分からない。それでも傷一つ付いておらず、美し過ぎる程の輝きを放っている・・・それがラグナが振るう『聖剣』だ。


「そうねぇ。多分四天王クラスだと思うけど、ここはあたしらだけで大丈夫よ」

「カッコイイとこ、エリィちゃんに見せてこいよ」

「ラグナ、ユーリ・・・」


かつて共に戦った戦友二人。これ程までに頼もしい仲間達が他に居るだろうか。彼らに背中を押されたスクードは、魔力を纏い直して空を睨んだ。


「あいつは馬鹿だ。最初に現れた時にわざわざ空間転移魔法を使ったからな。まだ空中に残っている空間の裂け目から、俺が奴の魔力を追えるというのに・・・」

「はは、暴れ過ぎんなよ」


そう言って笑うラグナと拳を合わせたスクードは、ベルゼーと同じように転移魔法を唱え、二人の前から姿を消した。


「うし、行ったか」

「あらま、律儀に待っててくれたのかしら?」

「ググ・・・、殺す殺す殺す!!」


アイゼンが放った魔力が暴れ狂う。しかし、ラグナもユーリも怯むどころか楽しげに笑ってみせる。


「本気で戦うのっていつぶりだろうな」

「うーん、魔王戦以来じゃない?」

「はっはっは、足引っ張んなよ」

「こっちの台詞よド変態」


そして、アイゼンが魔剣を振りかぶった瞬間に二人は同時に動き出し、本気の戦闘が始まった。

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